Vol.38

RMS-106 [HIGH-ZACK] ハイザック

RMS-106 ハイザックは、ジオン独立戦争後、地球連邦軍が接収したザクⅡを元に自軍の技術や資材を投入し開発した機体である。先行量産型がT3部隊で運用実験され、そこで得られたデータがこの正式量産機に反映されている。全天周囲モニターとリニアシートを採用したほか、新素材の導入などにより操縦性の向上と機体の軽量化に成功。推進剤の搭載量の増加と機体各所のスラスターによって極めて高度な機動性を発揮した。複数のビーム兵器の同時使用ができないといった問題もあったが、グリプス戦役におけるティターンズの地球連邦軍の主力の一角を占めた。生産性も高く、短期間での大量配備が可能であったハイザックだが、「ザク」を用いたことにはある理由があった。TR計画のひとつとして検証されたその内容とは、MSの外観が敵味方双方の組織に与える心理効果の実証である。「地球連邦軍がザクを使う」という事実は、それだけでジオン残党の士気に大きな影響を与えた。また、T3部隊での試験時には、ガンダムが与える心理的影響と合わせて実証実験が行われ、成果を上げたとされる。ガンダムに率いられるザクⅡ——その光景はまさにジオンの敗北を示す一例と言えた。しかし、ジオン残党勢力の中には、戦いに敗れながらも戦場に身を置くザクⅡに、雌伏の時を過ごす自らを重ね、戦いの意志を強固なものにする者もあった。TR計画による実証で、こうした機動兵器の外観への積極的なアプローチ、敵味方への心理効果を考慮した意匠の導入という概念が確立した。以後の歴史上、ガンダムタイプは連邦組織におけるフラッグシップ機として継承され、同様にザクⅡもまたジオンを名乗る組織の象徴として、宇宙世紀に拡散していくこととなる。

RMZ-106HZ [HIGH-ZACK] ハイザック(レジオン鹵獲仕様)

グリプス戦役後、火星に落ち延びたティターンズの装備をレジオンが鹵獲し、それを元に機体のカラーリング変更のほか、各部に改修を加えたタイプ。総帥アリシア・ザビによるレジオン建国に際して、旧ジオン体制ひいては旧ジオン兵器を一掃する方策のひとつとして、「連邦製の新型ザク」であるハイザックが主力機として配備・運用された。ザクは元来ジオンの象徴であり、本来の持ち主が取り戻した形として、レジオン軍将兵には好意的に受け入れられた。これにより、かつて狩られる側であったジオンがティターンズ兵器を使用し、狩る側であったティターンズが自らの兵器に狩られるという(レジオン側からの作為的皮肉の込められた)逆転現象が生じることとなった。ティターンズから鹵獲し、改装した機体以外に、火星アルカディアプラントで新たに生産された機体も多く運用されている。現在では、火星で建造されたタイプの方が多いとされる。設計は基本的にティターンズ仕様と同一だが、内部構造のアップデートや、ジェネレータの不備を解消しビーム兵器の複数使用を可能にする等の近代化改修が行われている。レジオン軍での運用は、フルドドⅡやグランユニット等のTR強化パーツ群(装着により機体性能を底上げする強化装備)との同時使用が前提のため、機体の基本性能はハイザック程度で十分と考えられている。ザク的外観のほか、生産性の高さ、操縦性の良さからも軍内でも高い評価を得ている。通常型と軽装型の2種が主に運用されており、両者はバックパック及び両脚の推進器の有無という違いで分けられるほか、運用環境も異なっている。通常型は戦艦や基地など前線に配備され、ビーム兵器やトライブレードといった実戦向け装備。対して軽装型は都市や施設などの警護用として後衛に配備され、自軍への過剰な被害防止のために実弾系を装備している。また現在、レジオン軍独自の後継機開発も行われている。

ザク――ジオンの象徴

MSの開発と実用化は、兵器体系の変革に大きな影響を与えた。宇宙世紀に勃興した多くの勢力によって様々なMSが生み出されたが、U.C.0079にジオン独立戦争を引き起こしたジオン公国が開発したMS-06 ザクⅡは、独立戦争緒戦の圧倒的な勝利をジオン公国にもたらす原動力となった。そして、その高度な汎用性はMSという兵器体系を生み出す契機ともなったのである。このため、ザクⅡはMSの代名詞と言っても過言ではない機体として、MS開発史上において重要な位置を占めている。ジオン独立戦争後、地球連邦軍はジオン公国軍からMSやその技術を接収。戦力不足を補う意味もあってザクⅡに自軍の技術を投入してRMS-106 ハイザックを開発した。U.C.0085に制式採用されたハイザックは、ジオン残党狩り組織であるティターンズを中心に配備された。ザク系の導入には敗者への心理効果を狙った側面も含まれていたが、連邦軍がジオンの象徴であるザクを使うことに対するジオン残党の憤りは、自らこそが正当なザクの後継者だという自負をも呼び起こすこととなった。戦後、各地に潜伏していたジオン残党勢力の中でも、主だった組織はこぞって「ザク」を模した機体を独自に開発・配備している。特に第一次ネオ・ジオン戦争時にネオ・ジオンが運用したAMX-011 ザクⅢとAMX-011S ザクⅢ改は、ハイザックを否定し、ザクⅡの正当な発展型を意図して開発された機体である。そしてU.C.0093のシャアの反乱でシャア・アズナブルが率いたネオ・ジオンの主力機であるAMS-119 ギラ・ドーガとその後に続く改良後継機も、高い拡張性や主力を担ったという意味に加え、その装備や外観からもザクの設計・運用思想を引き継いだ機体と言える。また、U.C.0122、火星独立ジオン軍が運用したOMS-06RF RFザクは極めてザクⅡに近い外観を有している。性能こそ格段に向上しているが、外観を似せることで組織のシンボルとしていることは間違いない。しかし、ザク系の機体の増加は、ジオン系組織同士の衝突があった場合、戦場においてザクvsザクという奇妙な構図が発生することを意味していた。古くギレン・ザビとキシリアの内部衝突に始まり、デラーズフリート内でのデラーズとシーマ配下との衝突、アクシズ内でのハマーンとグレミー派による後継争い、火星でのジオンマーズとレジオンの戦い……ジオン組織内部での、こうした内ゲバと称される争いは後を絶たない。では、ザクⅡの真の後継機と言えるのは、いずれの組織が開発した機体なのか。ザクをザク足らしめているとは何か? それは誰がザクの、ひいてはジオンの魂の真の後継者なのか?という問いにも通ずる。