TR-1からTR-5までで培った各種新技術を盛り込んで開発された小型MS。TR計画における汎用素体の完成体であり、TR-1[ヘイズル]で実験された「万能化換装システム」をより洗練することで、極めて高性能な機体として完成した。このシステムに支えられたTR強化パーツの換装によってTR-6は、既存のMSの機種統合から最終兵器(=インレ)にまで変化する。いわば強化パーツの集合体がTR-6であり、本機の合体分離機構もシステムの一部を構成するものと言える。
──胴体部強化パーツの実験:TR-1の胸部ラッチを用いた増加装甲の装着実験は、TR-6の胸部増加装甲の取り付け方式の確立に生かされた。また、胴体そのものは、後に脱出システムとしても機能するモビルポッド形式へと換装されるなど、大幅な改良が加えられた。これは、TR-6に採用されたプリムローズⅡ──様々な形態でコクピットブロックとして機能する──に繋がっている。一方で、TR-1の腕部は大きな改良は行われておらず、肩部の外装パーツがラッチ内蔵式に変更された程度である(この肩部ラッチ構造はそのままTR-6に継承されている)。これはベースとなったRGM-79Q ジム・クゥエルの時点で、腕部にはガンダムMk-Ⅱへと繋がる前進となるようなムーバブル・フレーム機構が既に採用されており、強化の必然性が発生しなかったからであろう。
──頭部強化パーツの実験:フラッグシップ機が「ガンダム」である必要性とは一体何か? その答えのひとつが、外観が敵味方に与える心理的効果にある。それを実証するためにガンダムタイプのセンサーユニットへの換装と実験が行われた。さらに遠距離用ゴーグルや外付けバルカン・ポッド・システムの装着実験等と合わせてTR-6の頭部の完成に生かされている。この結果、TR-6の頭部はセンサー・アンテナやオプション武装などの換装システムを備え、これを使用することで能力が変化する。
──バックパックの実験:TR-1のバックパックは、「ブーストポッド」と呼ばれる可動式の推進ユニットを備える。内部には地上と宇宙の双方で使用可能なTR式新型ジェネレーターを搭載(このジェネレーターは、TR計画機──TR-1からTR-6まで共通している。特にTR-6に至っては胴体と大腿部に複数基を搭載する)。また、開閉式のハッチが外見的な特徴となっている。ブーストポッドは、バックパック内のフレームで強固に支えられている。また、ブーストポッド上面に備えたラッチに強化パーツを装着することで、作動肢としても機能する。ここに装着する装備としてシールドブースター以外に、代表的な装備ではGパーツ[フルドド]を装着することで、総合的な能力向上を果たす(フルドドを装着した形態は「●●・ラー」と呼ばれる)。この強化構造は、TR-6における超重装備のハブジョイントとして機能する重要システム「フルドドⅡ」として完成した。
──武装の実験:シールドにブースターの機能を付与した「シールドブースター」は、それ自体が偏向推進器としても機能する。この機構は後のORX-005 ギャプランやORX-013 ガンダムMk-V等にも見られることから、TR-1で培われた技術が継承されていることが窺える。シールドブースターもTR計画において発展し、TR-5ではウインチユニットの機構を付加。さらにTR-6では、ロング・ブレード・ライフルの機能を一体化し、コンンポジット・シールドとして完成した。本兵装は、万能化が求められるTR-6ならではの装備と言える。
U.C.0084にスタートし、U.C.0088のグリプス戦役終結において一応の結末を迎えたTR計画。この遠大なMS開発計画において、終始一貫して重要な地位を占めた機体がガンダムTR-1[ヘイズル]である。本機は5年にわたる開発計画において、強化パーツの開発と共に、素体自体も改良を繰り返し進化していった。それはTR計画の進展とも極めて密接に関係していたのである。
ヘイズルの母体となった機体は、RGM-79Q [ジム・クゥエル]である。RGM-79N [ジム・カスタム]のティターンズ仕様機とも言える本機は、当時の組織内での最新型、かつプレーンな性能を持つ為、強化パーツの実験母体に相応しいとして選ばれた。これをベースに出力系を大幅に強化し、ガンダムとして分類登録され生まれたのが初代[ヘイズル]である。T3部隊に配備されたヘイズルは、実験中に会敵したジオン残党との戦闘で大破。改修を期にさらなる強化パーツの実験母体として、機体各所にマルチウェポンラッチを設置、全天周モニターへの換装などインターフェイスの更新、さらにベース機であるジム・クゥエルからの流用パーツであった部品もヘイズル専用に調整、チューンされたものに変更されるなどの性能向上を施された。これが[ヘイズル改]である。そしてこの[ヘイズル改]が備える全身各所のラッチに、フルドドと呼ばれる強化パーツを装着した形態が、[ヘイズル・ラー]である。TR強化パーツが既存MSを次世代級にパワーアップ可能なことを示す代表的な強化形態であり、「巡航形態」と呼称されるMA状の形態へと変化が可能、その性能は第三世代MSクラスにまで引き上げられた。TR計画の「パーツの換装による万能化」という開発思想を体現した形態である。
この優れた拡張性によってヘイズルの次世代量産機化計画が立案され、限定的に量産化される。[ヘイズル・アウスラ]と名付けられた本機は、胴体部を脱出ポッド(ブリムローズ)に交換し、フレーム以外の主要機関の全てを換装した状態であり、当初の[ヘイズル]とは全く異なる機体へと変貌している。この[アウスラ]により汎用MSの開発実験は一通り完了。そこから得られたデータを元に再設計された機体が、RX-123 ガンダムTR-S[ヘイズル・フレア]である。ジム・クゥエルの転用ではなく、RX-178 ガンダムMk-2をベースとした新規のムーバブル・フレームを取り入れることで、TR計画の汎用素体となるはずだったヘイズル・フレアだが、「機種統合計画」の立案に伴い既存機とのパーツ換装が可能なTR-6の開発へとTR計画はシフトしていくこととなる。こうして生産がストップしたヘイズル・フレアだが、後にはエゥーゴの手に渡り、MSA-0012 [AOZガンダム]となった。
そしてTR-6完成までの繋ぎとして、能力を限定したTR計画下の簡易生産機がRMS-154 [バーザム]である。本機はTR計画が生んだ代表的なスピンオフと言えるだろう。また、前述のガンダムMk-2は、コンペイトウとは別の拠点で開発された初の本格的フルムーバブレームフレーム機である。この時代、組織のフラッグシップ機として各地の開発拠点でガンダムの開発は行われた。建前上独立した開発部ではあるが、その実、技術者間では、各拠点での開発データはTR計画を通じてあらゆる形で共有され、相互に影響を及ぼしたと言われる。
以上がヘイズルの開発と発展の概略である。しかしこのMSのどこまでがジムで、どこからがガンダムなのかという分類は、今日でも諸説ある。連邦への登録を期に。全パーツがTR系に置き換わった[アウスラ]をもって。再設計機である[ヘイズル・フレア]をもって。そして、ジム・クゥエルからの流用パーツが無くなったこの[ヘイズル改]形態をもって、など。ガンダムの証明──、ヘイズルはその活躍によって、己が何者であるかを証明したのではないだろうか。
──腰部強化パーツの実験:股間部のラッチに増加装甲を兼ねた折り畳み式サブアームが装着されている。これを使用することで、マニピュレーターを使用することなく強化パーツの換装が可能となった。TR-1のデータがフィードバックされたTR-6やRMS-154 バーザム、RGM-89 ジェガンなどでは、任務に応じて増加装甲を装着することを前提として、スカートを廃止する方向へと発展していった。なお、サブアームの折り畳み機構はTR-6での腕部の折り畳み機構に反映されているほか、腰部の強化は大きな負荷がかかる股間部の関節の強化にも役立っている。
地球連邦軍の全ての将兵にとって特別な意味を持つ「ガンダム」。それは一年戦争において伝説的な活躍を見せたMSに冠された名である。戦争後に発足したティターンズは組織の象徴として新たなガンダムを欲し、これがTR計画の基となった。TR計画とは「汎用MSと運用パーツ換装による万能化と機種の統合、その集大成としての決戦兵器の開発」であり、その最終完成体がガンダムTR-6 [ウーンドウォート]である。このTR計画内における「万能化換装」システム開発のため、各種強化パーツとそれを管制するMSの開発の役割を担った機体が、ガンダムTR-1[ヘイズル]である。本機を主として、他のTRシリーズと併せて生み出されたTR強化パーツの実験の成果がTR-6に反映されている。高い性能と実戦での活躍からTR計画を代表する機体と混同されることも多いTR-1[ヘイズル]だが、実際にはTR-6開発のための一要素でしかない。だがこの機体がガンダムタイプであったが故に、開発計画の象徴として扱われ、ティターンズの終焉まで戦い続ける道を歩むこととなった。
──脚部強化パーツの実験:TR-1では推進機構の強化に加え、ヒザ、足首部分の関節強化の役割も兼ね、脹脛部への大型スラスターの追加改造が行われた。これは脱着可能な他の部位とは異なり、脱着不可能な組み込みパーツとなっている。MSの脚部は重力下において自重を支え、かつ歩行のための重要部位でありながら、宇宙空間における高機動戦闘ではデッドウェイトともなりえる矛盾を孕んでいる。TR-6での換装システムでは、脚部パーツ自体を換装式とすることで万能性を維持。必要に合わせて各種脚部パーツを装着する方式だが、通常はTR-1のデータを元に完成したバーザム・タイプの脚部を使用する。脹脛部機構の他、ハイヒール状のソールパーツなども共通の構造となっている。