Vol.44

RMS-106CS [HI-ZACK CUSTOM] ハイザック・カスタム

隠れハイザックの異名を持つ、ビーム・ランチャーを装備した狙撃仕様の機体。ハイザックの欠点であるジェネレーターの強化や推力の向上により、高機動機としての側面も持つ。推力向上型バックパックの交換以外に、センサー類を改良、全身各部の外装の材質や形状も変更されており、コクピット部や肩部、太腿部等の装甲形状、腕部動力パイプの非露出、背中や脚の主推進器部の整流板の排除など、先行量産型のものと共通した形状を持つ。これはハイザックの生産が本格化した際、生産性を上げるため先行量産型からオミットされた部分を、性能向上のため再び差し戻した形となる。また、ハイザックからのカスタム化以外にも、先行量産型を直接カスタム化した例も存在した。MSの運用上、単独もしくは少数でのスナイパー任務には高性能のカスタム機が適しており、狙撃仕様と高機動仕様というふたつの性能傾向の相乗効果によって、本機は高度な性能を獲得するに至っている。高機動機は優れたパイロットの搭乗する専用機として運用される例も多く、このハイザック・カスタムもそうした機体に分類されるケースもある。装備はジムタイプと互換があり、RGM-79SRジム・スナイパーⅢもトランスパックを装備して運用されている。こうした性能向上機は一年戦争時から運用されており、ジオン公国軍においてはMS-06R-1A 高機動型ザクR-1Aタイプ、連邦軍ではRGM-79SC ジム・スナイパーカスタムなどが存在した。いずれも生産数が少なかったにも関わらずエース機としての活躍で広く知られている。なお、ザクR-1Aタイプの脚部構造がハイザックの脚部の設計に反映されるなど、ザクの後継機として関わりが深い。

TRANSPACK VARIATION

ジオン公国軍が開発したモビルスーツ(MS)は、ミノフスキー粒子散布環境下に対応した新しい万能兵器であった。だが、その最初期の機体であるザクにおいて、すでにMSは想定を超える様々な戦術や運用環境に直面し、それに応じた仕様特化、派生型を必要とした。こうした状況は兵器開発の黎明期ならではのもので、MSの運用法も試行錯誤のすえ、確立されていったものである。そしてこの中で、陸戦、砂漠、水中といった局地戦仕様、砲撃戦仕様や高機動仕様など、さまざまなザクのバリエーション機が誕生していくこととなった。一方の地球連邦軍でも、RXシリーズのデータをベースに開発されたRGM-79 ジムをベースとして、ジオン公国軍の局地型MSへと呼応するように、その対抗機として様々なバリエーション機を展開していった。後のTR計画に連なる「対抗兵器」の概念によるMS開発と運用が、MS誕生初期のこの時点で既に見受けられる。一年戦争後、ジオン公国軍のMS開発技術を吸収した地球連邦軍は、新たな主力機の開発にあたって、当初からバリエーション機への展開を盛り込んだ。その結果、戦後初の本格的量産MSとなるRMS-106 ハイザックは、バックパックの交換のみで様々な局地戦用機への仕様が変更可能な機体として完成した。さらに、従来の主力機であるジム系ともバックパックの互換性を持たせることで、より高度な運用柔軟性を確保したのである。本機の開発はT3部隊が中心となって行われた。当初はジムⅡの試作タイプ(RGM-79CR)を母体とし、その後はYRMS-106 ハイザック先行量産型を使用して実験は継続された。実験部隊であるT3部隊では、さまざまな武装やオプションの運用試験が行われた。そこで得られた実験の成果が、制式採用されたハイザックの各種バリエーション機に生かされることとなった。装備変更による局地戦仕様は無数に存在するが、T3部体と特に関わりの深い代表的な装備仕様──バックパックの交換により派生型が展開していく仕様は「トランスパック」バリエーションの俗称を持つ──を3種、ここでは紹介していく。なお、このハイザック開発に至って確立した「万能MSによる装備互換での特化仕様」という概念だが、これはティターンズが主導した「TR計画」の一部として計画に深い関わり持ち、前述の「対抗兵器」という概念と共に、後にTR-6の換装システムとして結実する。装備の換装であらゆる任務に対応するTR-6は計画の集大成であると同時に、ザク誕生からの理想であるMSの万能性を体現した姿なのである。

RMS-119 [EWAC-ZACK] アイザック

通信妨害や電子機器などの働きを阻害するミノフスキー粒子を用いた一年戦争は、他の従来兵器と同様に、偵察機の概念や有り様を根本から覆した。ジオン公国軍はこうした状況に対応するためにMS-06E ザク強行偵察型などの偵察任務専用のMSを実用化したが、地球連邦軍では偵察用航空機・航宙機を多数保有していたことから、そのような新たな偵察用MSの開発に積極的ではなかった。しかし戦後、MSが戦術の中核となるにつれ、従来兵器の役割は低下。MSで統一した部隊運用の面からも偵察用MSの必要性が増加。撃墜の容易な航空機とは異なり、MSの万能性があれば会敵時の生存性が向上する点も注目された。そうした様々な理由により、MSを用いた偵察任務の新しい有り様を示すべく、地球連邦軍においても専用MSが開発されることとなった。アイザックはその一種にあたるEWAC(早期警戒)機である。ハイザックの偵察仕様で、ミノフスキー粒子散布環境下での電子戦を想定した機体である。バックパックと一体化した巨大なレドーム(ロト・ドーム)が外見上の特徴で、高倍率カメラなどの光学機器との組み合わせで偵察運用を担った。射出用データポッドなどの偵察用装備が搭載されたこのトランスパックは、EWACジムと共用の装備であり、各種装備品が後頭部に長く伸びたバックパックに支えられるレイアウトは、EWACネロやEWACジェガンといった、以降の地球連邦軍機にも共通する偵察用MSの特徴ともなっている。外装化されたレドームなどは、地球連邦軍の偵察用航空機ディッシュの搭載機器が参考となっており、従来兵器が機能を発展させ、MSに転換されていったことを示すひとつの例である。一方で、早期警戒が任務であるが、マシンガンやシールドなどの大型武装を標準装備することも多く、兵器に対する使用概念の変化、模索も伺える。

RMS-106C [HI-ZACK CANON] ハイザックキャノン

ハイザックには、開発段階から「バックパック・ユニットの換装による運用性能の向上」=トランスパックがコンセプトとして盛り込まれていた。中距離支援用ユニット「キャノン・パック」もそうしたトランスパック装備のひとつで、これを装備したハイザックが「ハイザックキャノン」である。ジェネレーターの出力問題から、実体弾式のキャノン砲やミサイルポットが採用されている。このキャノン・パックはキャノン砲とスラスターが一体化したもので、推進力の維持と同時に攻撃力の強化を果たしている。防御力向上のため、胸には増加装甲ユニットが取り付けられている。X字型の爪状部分で固定されている装甲の中心部に、防御用スプレットビーム砲口を備えているほか、被弾時には装甲のパージが可能。なおこの装備は後に、TR-6の中核となるプリムローズⅡを覆う増加装甲や、その簡易型であるRMS-154バーザムの胴体装甲ユニットへと発展していった。これらのユニットを無改造で取り付け可能な点が本機の利点である。同一の機体をユニット換装により様々な用途で使用することで、コストの削減が図られている。汎用規格パーツであるためジムの他にも、ハイザックの上位互換機となるRMS-108 マラサイ等への取り付けも可能であり、マラサイキャノン等といったバリエーション機としての運用が可能であった。キャノン砲を装備した中距離支援用MSは、MS-06K ザク・キャノンがその始祖とされ、地球連邦軍もRGC-80 ジム・キャノンとそのシリーズを開発・運用している。ハイザックのキャノン・パックはジム・キャノンの機構を外付けユニット化した設計である。なお、こうしたトランスパックの運用はTR計画独自のものではなく、ジオン公国軍におけるMS-14 ゲルググで実用化された機構が元となっている。ゲルググは、高機動用のバックパック(ランドセル)を装備したMS-14B 高機動型ゲルググとしてエース・パイロットを中心に使用された。一方でキャノン・パックへの交換によりMS-14C ゲルググ・キャノンとしても運用可能であった。高性能な主力機の性能特化は、一年戦争時で既に一定以上の効果を上げていたのである。