Vol.52

RX-124 GUNDAM TR-6 [WONDWART]to[INLE] ガンダムTR-6[ウーンドウォート/インレ]

ガンダムTR-6とは、「TR計画」における最終目標を成し遂げるために開発された機体である。「万能化換装システム」と呼ばれる強化装備の組み替え機構を備え、その能力による「全軍への配備機の規格統合」と「決戦兵器化」を可能とする。素体である[ウーンドウォート]は、オプションの換装と運用を行う管制ユニットとしての使用を前提とした小型MSである。その真価は換装によって実現される無限とも言える運用形態にある。そして、その最終形態が決戦兵器[インレ]である。戦局を覆す力を内包しながらも、様々な思惑によってグリプス戦役では活躍することのなかったTR-6だが、遠く火星の地で鹵獲、さらに再生産が行われた結果、その本来の性能を遺憾なく発揮した。

TR計画

「TR計画」とは、ティターンズが立案・主導した次期主力兵器開発計画である。ジオン残党狩りを命題に設立されたティターンズは、地球圏の守護者を自認する地球連邦軍内の特殊部隊であった。組織の特性上、少数精鋭であったティターンズは、限られた戦力で多数の敵に対応する必要があった。そのため部隊が装備するMSには、単機または少数で多数の敵を制圧する戦力とあらゆる領域での万能性が必要不可欠とされた。一騎当千の万能機。当時においてこれを満たす機体はただひとつであった。それが「ガンダム」である。一年戦争での活躍から地球連邦軍に、「ガンダム信仰」とでもいうべき概念を植え付けたガンダム。ティターンズが、組織の象徴としてのガンダムを欲するのは当然と言えた。そして、この要求に対して開発陣は、「万能機」に必要とされる要素を抽出。その要素ごとに複数の開発計画を並行して進める方式を採った。こうしてTR-1〜TR-5までの実験機が完成。それらで得たデータを集約し、TR-6を開発したのである。ハイスペック素体である「ウーンドウォート」を中核として、用途別に開発された強化パーツを任務に応じて換装することで全局面に対応する——万能兵器の誕生である。また、このTR-6の優れたパーツの互換性は、別の点でも注目された。グリプス戦役期、MSは恐竜的進化を果たす兆しを見せており、ティターンズにおいても開発部門ごとに独自規格の試作機開発計画が乱立し、事実、多数が開発されていた。そうした機体群の後継機をTR-6一機種に規格統合することが、計画に盛り込まれたのである。このようにTR計画は単なるMS開発計画に留まらず、膨大な互換パーツとそれを運用するシステム、そして組織体制までをも更新する巨大な計画として結実した。すなわち「ガンダムTR-6」とは、MSの名称ではなく、その運用体系すべてを指すのである。そして、TR-6は換装によって想定されるどの敵機をも上回る性能を獲得することが可能であった。換装の最終形とも言えるフル装備時には決戦兵器「インレ」へと進化。グリプス戦役に投入された場合は、戦局を覆すほどの力を獲得した。ガンダムTR-6はティターンズの威信を体現した、地球圏の守護者というべき存在として完成したのである。そしてその力は後年、火星圏での建国戦争を征することで実証される。

パーツ換装による万能化

ミノフスキー粒子散布環境下における有視界戦闘を前提として開発されたMSは、万能兵器として完成した。しかし、地球圏全域を舞台に行われた一年戦争の長期化は、想定外の様々な戦場への対応を必要とした。それはMSの発展を促し、結果、多数の局地での運用を目的とした専用のバリエーション——局地戦用機——を生み出した。こうした運用地に合わせた専用機の開発に対し、素体を中核とした局地専用の強化パーツの換装により、あらゆる任務に対応可能なMSを開発することで、局地運用を賄おうという思想が生まれた。MSという万能兵器の在りように対する戦後統括、兵器としての利便性、規格の統一、生産性の向上、予算問題、等々、その理由は様々であった。地球連邦軍においてはRX-81ジーラインをこの装備換装型のMS開発の始めとし、グリプス戦役期のTR計画、そしてU.C.00100年代の「F計画」にまでその思想、技術的な影響と系譜を見ることができる。

火星圏での再生

火星唯一の植民地である「サイドA(アルカディア)」は、様々な理由で地球に居場所がない者たちが最後に辿り着く土地であった。宇宙移民初期に入植が開始されるも、スペース・コロニーの建造をはじめとする地球圏の発展によって打ち捨てられ、忘れられた世界と言えた。そこは地球連邦政府、そして軍の手が届かない一種の独立自治国であり、その名の通り無法者たちの「理想郷(アルカディア)」であった。グリプス戦役に敗れ、戦後も地球連邦軍内で居場所を失ったティターンズ将兵の中には、アクシズと合流したものも多数存在した。その中の一大派閥である「トライステラー」は、ガンダムTR-6をはじめ、他のTR計画機を持ち出し、火星へと落ち延びた。当時の火星は、一年戦争後に地球から流れ着いたふたつのジオン残党勢力が、勢力争いを繰り返していた。主流はキシリア派の「ジオンマーズ」で、アクシズとも連携を取りつつ、火星プラントの生産力で得た強大な武力を背景に火星を支配していた。もうひとつの勢力がギレン派の「レジオン」である。少数勢力であったレジオンはゲリラ戦術で対抗していた。劣勢であったレジオンにジオンの後継者を名乗るアリシア・ザビ率いるティターンズ残党勢力が参入したことで、勢力図は一変する。ガンダムTR-6を投入したアリシアは、その絶大な力を持ってジオンマーズを壊滅状態に追いやったのである。こうして火星の支配権を手中に収めたレジオンは、悪しき風習として旧ジオン公国軍系の技術を徹底的に排除した。そして火星プラントにおいて、TR計画機に代表されるティターンズ製MSの再生産と配備を行ったのである。こうしてガンダムTR-6の力による火星の防衛体制を整えた。TR計画が想定した組織的な運用体制が、奇しくも敵勢力であるジオンが支配する火星の地で結実したのは、歴史の皮肉と言えよう。なお、レジオンでの配備にあたってTR計画機は、ガンダリウム合金によるかつての純白の機体色ではなく火星を象徴する赤に、そして漆黒に塗り替えられ「くろうさぎ」と呼ばれる姿に変貌した。自らの居場所を奪われたティターンズ残党と、無法者チェスター率いるジオンマーズ残党勢力は、共に力を合わせ、ガンダムTR-6の奪還を目的とする「輝ける星作戦」を画策するが……。

ARZ-124WD TR-6[WONDWART] TR-6[ウーンドウォート]

TR-6のオプション換装によって変化する全形態の中核となる素体MS。通常のMSよりも小型で、装甲などは最低限しか施されていない。オプションパーツを装着した形態変化の際は、四肢を折り畳んで換装を行う。各形態時のジェネレーターとしても機能するため、左右の大腿部に2基、ブーストポッドに1基の計3基のTR新型ジェネレーターを搭載。[ウーンドウォート]単体では、その出力を生かして高機動MS的な運用がなされる。MA形態に変形し、大出力を用いた大気圏内での飛行も可能。コクピットを内蔵する胴体部分は分離機能を備え、モビルポッドに変形したプリムローズ2となる。このように極めて多機能な本機だが、その開発予算をはじめ、必要なリソースはティターンズによる優遇措置によって賄われた。これはTR計画実施の名目のひとつに「過去に大虐殺を行ったジオンの残党勢力に対する抑止対策」があったためと考えられる。また、本計画で実用化された技術の多くは、以降の機動兵器開発に様々な形で影響を与えている。グリプス戦役後、火星においてレジオンが運用した本機は、漆黒のカラーリングがなされた。このレジオン仕様機は、建国戦で活躍し、総帥アリシア・ザビおよびその親衛隊専用機として一定数が量産、配備された。親衛隊の強化人間用のサイコミュをオプション装備していたほか、換装による形態変化を駆使し、火星全域において防衛任務に就いている。

ARZ-124INL TR-6[INLE] TR-6[インレ]

[ウーンドウォート]をコアとし、[ファイバーⅡ]と[ダンディライアンⅡ]という2種のMAを合体・装着した決戦兵器形態。TR計画の中核であり、「単機で敵陣に強行突入し、制圧を可能とする弾道兵器」を機体コンセプトとする。バインダーの開閉で巡航、そして戦闘形態へと変形するほか、大気圏離脱用として機体後部に球形のコンテナを兼ねる大型ブースターを装着可能。サイコミュを搭載した強化人間専用機への改装や、外惑星への進攻を想定した惑星間航行ブースターの搭載なども予定されていた。運用計画には専用の母艦や、拠点——衛星軌道基地SSD(スターシップダウン)の建造までもが含まれていた。[インレ]の内包する戦闘力はMSやMAのような局地戦闘兵器とは別カテゴリである。それは、核兵器やコロニー・レーザーと言った戦局そのものに影響を与える戦略兵器に分類される。100mを超す巨体とその複雑な運用システムのため、インレはそれ単体での開発は不可能と判断された。そのため、開発計画を分散させる方式が選択された。それがTR-1からTR-5までの開発計画で、各計画で生み出された試作機でシステム開発とテストを実施。それにより、各機能や機構の実用性を検証し、そこで得られたシステムを具体化することでようやく完成するに至った。レジオン建国戦争に投入された[ファイバーⅡ]はその威力を発揮。単機でジオンマーズの軍勢を壊滅させ、レジオンを勝利へと導いた。この戦果により[ファイバーⅡ]は「インレの翼」と称され、レジオンの象徴として国民からあがめられている。火星の独立と自治防衛の要として、現在はその拡張能力を生かした追加装備への改良と再建が進められている。

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