Vol.55

◯構成部品の共有化

リーベン・ヴォルフの具体的な改良のコンセプトは以下の通りである。
A:生産性の向上
予断を許さない地球圏の状況に対して、地球侵攻を進めるネオ・ジオン(旧アクシズ)への支援はジオンマーズにとっても急務であった。一機でも多くの機体をネオ・ジオンに引き渡すために、ジオンマーズではMS開発費のコストダウンを図り生産性を向上させることが目標とされた。特に、ドーベン・ウルフを採用したネオ・ジオンとは異なり、ジオンマーズでは「ジオンの伝統」を重視。そのためAMX-011ザクⅢを採用し、独自に改良したうえでAMX-011ザクⅢ-R型として生産を進めていた。このザクⅢ-R型と外装の一部や内蔵部品など、数割ものパーツを共通化することで生産性のアップを図っている。こうした事情によってか、シルエットは原型機よりも丸みを帯びたジオン的意匠が濃くなっている。これは、ジオンマーズの技術者が元は連邦系とも言えるドーベン・ウルフの意匠——角ばった装甲など——を嫌ったことも要因のひとつと言われている。加えて、アクシズで設計が完了していた新型機の機構が組み込まれており、これは後のドーガ系MSへと連なる。
B:過剰装備の整理
確かにドーベン・ウルフは、高い戦闘力を誇る高級機であり、エースパイロットに相応しい機体であった。しかし、一般兵にとっては機体に装備された大量の火器や(準)サイコミュ兵装などを使いこなすのは困難であった。そこで、余剰と思われる内蔵兵器の一部をオプション化、必要に応じて追加装備する形式をとなった、同時に過剰とも言える大推力も操作性の低下に繋がる可能性があるため、推進系を整理、追加する方式を採用した。これによって改良された点は以下の通りである。
・胴体部
胸部メガ粒子砲はオプション化、搭載数を選択できる方式に変更。複数を搭載しない場合は、メガ・ランチャーに変わり、手持ち式火器としてビーム・マシンガン、対艦ライフルなどを携帯。
・腕部
射出、および遠隔操作機構をオミットしたノーマルの腕部に変更が可能。ドーベン・ウルフでも見られた隊長機と一般機の違いをより推し進めたものと言える。
・バックパック
腹部に搭載されたドラムフレームを介して接続された、マルチ・コネクター・ポッドへの選択装備式に変更。ドーベン・ウルフでは標準装備されていたメイン・ブースター・バインダーやインコム、対艦ミサイルなどの各種装備に加え、ミサイル・ポッドやビーム・ランチャー等の搭載も可能となった。このように武装を交換することで、中距離支援任務になどにも対応する。これらの改良方式は前述のジオンマーズがザクⅢ-R型に施した改良と、似たコンセプト——高級機の武装や推進器を整理することで性能を下げ、一般兵にも扱いやすく、かつ生産性も向上させる——にある。ドーベン・ウルフやザクⅢは元来、過剰とも言えるスペックを持つ機体であったため、各種改良を施した後もその水準を維持していた。それが、高性能量産機として短期間での量産化に成功した理由と考えられる。こうして完成した機体は、二桁を超える機体が開発され、チェスターJr.が率いる地球派遣艦隊に搭載、地球圏へと運ばれた。余談だが、この「突出した性能を押さえ、運用性と生産性を向上させる」というコンセプトは、TR計画におけるTR-6ハイザックⅡ形態に近いものと言える。

AMX-014R[REBEN-WOLF]リーベン・ヴォルフ

第一次ネオ・ジオン戦争においてネオ・ジオンは、多数の機動兵器を開発・実戦に投入した。その種類は多岐にわたり、可変機から巨大MS、MAまで、およそ考えられる限りの種類の機動兵器が戦闘を彩ることとなった。AMX-014ドーベン・ウルフもそのうちの一機である。ドーベン・ウルフはネオ・ジオンが開発した機体だが、ベースとなった機体が存在する。その機体とは、グリプス戦役期にティターンズが運用したMRX-010サイコ・ガンダムMk-Ⅱを参考に小型化を目指したMSであると言われる。ティターンズからアクシズの手に渡ったその機体をベースに第四世代MSとして開発されたドーベン・ウルフは、同時期に開発されていたAMX-011ザクⅢと次期主力機の座を争ったが、人員に乏しいアクシズでは、強大な火力をはじめ、一騎当千の性能を勝るドーベン・ウルフの量産が決定する。こうして生産されたドーベン・ウルフだが、戦局の悪化やネオ・ジオンの内紛により第一次ネオ・ジオン戦争時では6機が配備が確認されるのみである。火星で活動するジオンマーズでは、アクシズと協力関係にあったことから、支援の一環としてひとつの計画が提案された。その計画とは「独自の改良を施したドーベン・ウルフを生産し、地球へと送り届ける」というものであった。そしてドーベン・ウルフの発展量産型とも言えるこのリーベン・ヴォルフが開発された。名前には、ドーベン・ウルフのリファイン(Re)の意と、生存を意味する「leben」」を掛け合わせ、「ドーベン・ウルフはまだ生きている」という思いが込められている。

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