絵師×原型師の共作によって表現されたキャラクターの「内面」。それを引き出す試行錯誤を経て作り出された作品に込められた想いを原型師・曽我菜月さんに聞く!【「MINAMOTO」プロジェクトインタビュー①】

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原型師の可能性と、その世界をより多くの人に知ってもらうために実施されたコラボレーションプロジェクト「MINAMOTO」。『「軌跡」と「交錯」』をテーマとして今回のコラボレーションにおいて、原型師は何を考え、表現していったのか。全3回でお送りするインタビューの第1回では、曽我菜月さん(イクリエ)に今回のプロジェクト、そして原型師としてどのように取り組んだかについてお話を伺いました。

 

MINAMOTOプロジェクトの流れ

「MINAMOTO」プロジェクトでは、作品作りを2つのターンに分けて展開。前半のターン(オリジナル制作のターン)では、原型師、イラストレーターそれぞれがテーマをもとにオリジナルの作品を制作。後半のターン(共作のターン)では、原型師とイラストレーターがタッグを組み、原型師はペアとなるイラストレーターが描いたイラストをモチーフにフィギュアを制作、イラストレーターは原型師が制作したフィギュアをモチーフにイラストを描き上げます。

 

プロフィール

曽我 菜月(原型師)

3Dデータを使用したフィギュア原型制作を手掛ける原型会社「イクリエ」の原型チームに所属する原型師。普段はアニメやゲームキャラクターの商業原型を主に手掛けている。

 

おしおしお(イラストレーター)

『ホロライブ』天音かなた、『にじさんじ』空星きらめのキャラクターデザインを手掛けるイラストレーター。2022年9月には自身初となる個展「青光」がpixiv WAEN GALLERYで開催予定。

 


 

これまでの手法とは異なり、テーマに沿って考えるより、やりたいことにテーマを擦り合わせて制作

――今回の「MINAMOTO」プロジェクトについて、最初にお聞きになった際にどういった印象を持たれましたか?

曽我:最初に話を聞いたときは、とても新鮮なイメージを持ちました。普段は元からあるイラストを立体化する仕事をしているので、それとは求められているものが違うと感じました。いつもは指定されているポーズを再現するなど、イラストにどれだけ近付けるかを重視していますが、今回はテーマだけが決まっていて、それを独自に想像して作っていくという部分が興味深かったですね。

 

――『「軌跡」と「交錯」』というテーマを受けて、どのように制作を始められましたか?

曽我:最初にお仕事の内容を聞いたときに、自分の中でやってみたいと思っていたことがありました。なので、テーマに沿って考えるよりも、やりたいことにテーマをどう擦り合わせていくか、ということを考えました。

 

――その「テーマに沿って擦り合わせる」という部分は、実際にはどういった考えだったのでしょうか?

曽我:最初から「かわいい女の子のフィギュア」にしようと思っていたので、その女の子がどうしたら魅力的に見えるのか、という部分を最初の取っかかりとして考えました。キャラクターを2体にしたのもテーマを聞いて最初に思ったことですね。2人いるから生まれてくるものもあるだろうと。

▲制作スタート直後のラフモデル。ここからポーズや衣装、小物などのディテールが追加されていきます。

▲もう少しだけ制作が進んだ原型。表情や髪の流れ、椅子の意匠などが徐々に完成状態に近付いています。

 

――それが最初に作られた作品「共生カンケイ」の、2人が寄り添っているような構成になったんですね。

曽我:そうですね。この2人は「アリ」と「アブラムシ」を擬人化しています。椅子に座っている髪の長い女の子の方がアブラムシで、顔を寄せている子がアリですね。アリの方が働き者なのでメイドのイメージにしています。自然界での「アリ」と「アブラムシ」の共生関係っていうのは割と知られていて、アリが天敵から守ってくれたお礼にアブラムシが蜜をあげる。椅子の四隅には花をモチーフにしてディテールを入れて、ベースのところには菜の花を置いて、それを表現しています。特にベースの方は拡大してもらうとアリがいるのがわかると思います。

▲前半のターンで曽我さんが作られた作品。「共生カンケイ」というタイトルどおり、寄り添うふたりが世界観を作り上げています。

 

▲台座の隅に配された花束。よく見ると数匹のアリがいるのがわかります。ここからも本作のテーマを伺うことができます。

 

まったく違う状況になったときにキャラクターが見せる新たな一面を教えていただいたと思います

――曽我さんの原型を受けて制作された、おしおしおさんのイラストをご覧になった時の印象はいかがでしたか?

曽我:おしおしおさんのイラストは、「キャラクターの内面も想像されているな」という印象でした。自分ではなかなかそこまで踏み込む機会も少なかったので、そういう繊細な部分を見せていただけて、すごく勉強になったし、嬉しかったです。

▲後半のターンでのおしおしおさんのイラスト。顔を寄せ合うふたりの内面をより表現した作品となっています。

 

――原型師さんとイラストレーターさんとの取り組み方の違いを感じられたというところですかね。

曽我:そうですね。これは私に限ったことだと思うのですが、フィギュアになった時にどう見えるかなど、キャラクターの外面的な部分に加えて、内面的な部分は少し想像することはあります。けれど、今回、おしおしおさんの絵を見せていただいて、その2人が全く違う状況になったときに、どういった面を見せるのか、というのを教えていただいたような気がして、嬉しかったですね。キャラクターそのものは人間だから、人物性だけじゃない部分が眠っているっていうところに改めて気づかされました。

 

絵師から原型師に繋がって、この原型が生まれた

――少し時系列を戻らせていただきます。後半のターンでは絵師さんのイラストを受けての原型制作に移るわけですが、線画イラストをご覧になって、インスパイアされた部分はありましたか?

曽我:イラストを拝見して純粋に可愛いと思ったので、キャラクターがいかに可愛く魅力的になるかは絶対に外さないようにしようと考えました。その後に「この女の子ってどういう子なんだろう」と想像しました。ポージングなどもキャラクター性が重要になってくるので、おしおしおさんご本人にキャラクターのイメージなどを伺ったうえで、どう表現するかを想像していきました。

▲前半のターンでおしおしおさんが手掛けたイラスト(線画)。シンプルながら作品名の「Conductor(指揮者)」の通り、指揮棒や意匠などに原型制作のヒントがちりばめられています。

 

曽我:イラストだとおしおしおさんのConductor(指揮者)ちゃんはシンプルに描かれているので、キャラクターをどういう世界観に立たせようかと考えてからスタートしました。それで、指揮棒はガラスペンを、台座はインク瓶をイメージして、ふわっと広がっている五線譜の先端はカッターの刃をイメージしています。そうしたところで、絵師から原型師に繋がって、この原型が生まれた、というのを表現してみました。

▲曽我さんによる原型。おしおしおさんのイラストをもとに、ガラスペンのような指揮棒、インク瓶やカッターをモチーフにした五線譜など、絵師と原型師を繋ぐような意匠が散りばめられている点が特徴です。

 

――そういったお話を伺うと、Conductor(指揮者)ちゃんの内面と、そのクリエイターが仕事する時の心構えのような部分がリンクしているようにも感じますね。

曽我:やっぱり「Conductor(指揮者)」という作品名の通り、「クリエイター同士の調和を取る」というイメージもありますね。見ているこちらもしっくり落ちてくるところがあると思います。

 

途中でトレードして作品を作るというのは新鮮で、学生の頃のような創作って楽しいという感覚を思い出した

――後半のターンを作業されるうえで、苦労したポイントなどはあったのでしょうか?

曽我:おしおしおさんからキャラクターのヒントをいただくまでは、キャラクター性を表現する入口を見つけるのが大変でした。私としては、キャラクターやそのバックボーンをおしおしおさんが想像したものからかけ離れたものにしたくはありませんでした。あくまで絵師さんが創造されたキャラクターを発展させたかったので、最初にご本人にお話しできたことがすごく助かりましたね。それがなかったら思考の渦に巻かれて違う方向に行っていたかもしれません。

 

――おしおしおさんとのやり取りが、制作のヒントにもなったんですね。

曽我:もちろん「可愛くしよう」というのは決めていたんですが、そこから先はすごく悩みました。ポーズひとつとってもキャラクター性を表現するものなので、腕や手の動かし方ひとつで、どういうキャラクターなのかがわかる部分があると思うんです。そうしたものを確立するうえで、おしおしおさんと話さなかったら、内面的なものを引き出すよりも、外面的なかっこよさで制作してしまい、もう少し概念的な作品になっていたと思います。そういった面では、テーマに対して表現したいことを踏み込めたのではないかと。

 

――このプロジェクトに参加されて、話を聞かれたときと、実際に作品を作られてからで、印象が変わった点などはありましたか?

曽我:最初に話を伺ったときは、仕事として新しい体験ができると思い、取り組ませていただきました。実際に絵師の方と共作という形で、途中でトレードして作品を作るというのは新鮮でしたね。学生の頃のような「創作って楽しい」って感覚を思い出しました。前半のターンのキャラクターデザインは原型師としてはやったことがなかったので、自分でアイデアをひねり出してできたっていうのには、達成感がありましたし、それが今後の自信に繋がったことも確かです。その前半のターンを踏まえておしおしおさんが発展させてくださった後半のターンの作品を見た時の感動やインパクトは言葉では表現できないくらいでした。「作ることを楽しむ」っていう、すごく原始的なところに近い感情を抱いたという感じでした。それを受けて、初心に戻ったというか、懐かしい気持ちになったところに、そこの思いが凝縮されているように感じます。それは、普段とのお仕事とまた違うアプローチだからこそ、そういう感情が出たのかなって思います。

 

――最後に、インタビューを読まれた方、そして実際に展示会場で作品を見られる方に一言お願いします。

曽我:普段の制作活動では出てこない面が見られる機会だと思っています。今回のような取り組みでしか生まれなかった、普段見えていない「ひと味違った何か」というのが今回は作品の中で表現されているのではないかなと思うので、そんなところを楽しんでいただけたら嬉しいです。

 


 

電撃ホビーウェブでは同じく本プロジェクトに参加した木村和宏さん(Knead)、針桐双一さんへのインタビュー記事も近日掲載予定! 両名とも曽我さんとは違ったアプローチでの原型制作を行ったとのことなので、こちらの記事もお見逃しなく!

 

さらに、今回の「MINAMOTO×絵師100人展」プロジェクトで誕生した6作品は、期間限定のリアルイベントで展示! 2022年8月19日(金)~21日(日)に東京・秋葉原のAKIHABARAゲーマーズ本店7Fで展示予定となっているので、制作された圧倒的なイラスト、フィギュアをぜひその目でチェックしてくださいね!

 

展示会場情報

AKIHABARAゲーマーズ本店

  • 住所:
    〒101-0021
    東京都千代田区外神田1-14-7宝田ビル
  • 営業時間:11時~21時

 

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