『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第3話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第3話

 

キリコは銃を持って立ち上がった。

 

「ルー。付いてこい」

 

「何で?」

 

「この辺りを知らなくてはならない」

 

「何で?」

 

「ここで生きるためだ」

 

「何でルーも行かなければならない」

 

「一人にしておけない」

 

「何で?」

 

「そばにいなければお前を護れない。お前は強くない」

 

チャイルドは一瞬考える様子を示したが立ち上がった。

 

二人はテントのある場所を中心として半径5キロくらいを螺旋状に歩き回りくまなく探索した。何もなかった。ただ南東の方向に海と見まごう河があった。対岸が見えない。だが海でない証拠に流れる水は真水であった。

 

「あの河の近くに移ろう」

 

「何で?」

 

「ふん、また何で? か」

 

「何で?」

 

「まず、水だ。そして木だ」

 

生き抜くためには水が必要だった。融解ポッドにも水はあったが濁度から見て飲料水には向かないと判断した。河には流木が豊富にあった。人間には火が必要である。野生と人間を分けるところのものは火だ。生活にも、そして安全にも火は不可欠だった。

 

「分かった」

 

チャイルドに、いやルーにこの言葉を言わせるのは容易ではなかった。ルーは曖昧なことを許さなかった。言葉にも行動にも適当というところが無かった。

 

キリコとルーはその日のうちに河の畔にテントを移した。しかし川面とは数メートルの高さを取った。川上での降水に備えてのものだった。

 

「食べ物はあと二日しかない」

 

永久凍土のツンドラ地帯には人間にとって食物となる植物も穀類もなかった。考えられるのはここに棲む動物を狩ることと河の魚を捕ることであった。しかし河にはどんな魚類が生息しているか見当もつかず、現時点では釣り具も網もなかった。

 

「この荒れた大地にも何かがいる」

 

この三日ほどの探索で大小の糞をいくつか発見していた。その主を狩るのが一番効率的と思われた。糞の大きさとその内容物からかなりの大きさの草食動物と推察された。

 

「たぶんカブ―だ。そいつを探す」

 

カブーとはこのあたりの銀河に一般的に生息する角のある偶蹄目の哺乳類である。

 

「どうやって探す?」

 

「歩き回るしかあるまい」

 

「効率的でないな」

 

「効率的? ふん」

 

ルーの言葉にキリコは笑った。確かに効率的ではなかった、だがさすがのキリコにもルーが言う効率的な手は浮かばなかった。

 

たちまちに二日が過ぎた。獲物の姿は見えず代わりに新たな脅威を発見した。

 

「これは…」

 

発見されたのは動物の骨だった。散らばる骨に付着物は無く舐めとられたような白い片々には鋭い牙の痕跡があった。

 

「ウルグゥンだ」

 

「ウルグゥン?」

 

北の大地では食物連鎖の頂点に立つイヌ科の捕食獣で成獣は人間の成人男子と同じ体重に達し、十頭前後の群れが連携を生かした狩りをする。

 

「まてよ」

 

キリコはさらに詳しく白い辺々を調べた。

 

「グランツアもいる」

 

「グランツア?」

 

ヒグマの亜種で雑食性でオスは600キロにもなる。元の形もとどめぬ白い辺々はグランツアの強大なあごがかみ砕いたものだった。しかも、しゃぶり尽されたかのような骨の様子からグランツアにとっても獲物が少ないことが想像された。

 

「テントに戻ろう」

 

キリコは休む間もなく手製のディテクターの製作に取り掛かった。流木の小枝で作られたそれは何ものかがそこを通過するとそれを検知できるように仕掛けされ、要所々に配置された。

 

「ウルグゥンにとってもグランツアにとっても俺たちは今はストレンジャーだが、いずれはカブーと同じと見なす」

 

「そのうち食べたくなる」

 

「ハハ、そういうことだ」

 

ルーの真面目な顔がおかしかった。ルーの経験ではウルグゥンもグランツアもカブ―も食べ物と関連しての認識しかないのだ。

 

「奴らを待つ」

 

キリコはルーに作戦を話した。野生の動物の嗅覚は鋭い。この数日二人は周辺をずいぶんとうろつき通した。つまりは彼らが察知する痕跡は十分すぎるほどに残した。いやたぶん彼らはもうすでに二人のことを認識しているだろう。だから、

 

「待っていればいい」

 

キリコは傍らの銃に視線を送った。

 

一日が過ぎた。テント周辺から離れず辺りに目を凝らしたがそれらしき動くものは認識されなかった。翌朝一番遠いディテクターに侵入者の痕跡があった。夏草の反発力が足跡を消していた。

 

「ウルグゥンかグランツアか、カブ―か」

 

また一日が過ぎた。何も起こらなかった。こちらから仕掛ける時が来たとキリコは判断した。

 

翌日午後、河からの風を待ってルーをテントから百メートルに立たせた。

 

「食べに来るのか?」

 

ルーが聞いた。

 

「怖いか」

 

「いや」

 

ルーの顔には一片の恐怖も浮かんでいなかった。

 

「なら頼む」

 

キリコはテントの前で銃と共に待機した。あたりの見通しはいい。ウルグゥンの襲撃にもグランツアの出現にも対処できる。

 

しかしその日も何も動くものは現れなかった。キリコは広い河の上の空を見た。白い鳥が一羽舞っていた。

 

(いよいよとなったらあれを撃たなければならないな)

 

と考えていた。しかし鳥の肉は量が不満だった。これからのことを思うと限られた銃弾と鳥の肉との費用対効果は割が合わなかった。

 

それから二日が過ぎたが期待するものは現れなかった。食料は尽きかかっていた。

 

「作戦を変えるか」

 

誰に言うともなくつぶやくと、ルーが、

 

「私も空腹に二日は我慢した。我慢は辛い」

 

と所定の時間に所定の位置に立った。キリコも所定のところで銃を構えた。

 

やがて…それは姿を現した。彼方に重なり合う影が、トトト、トトトと近づいてくる。

 

「ウルグゥンだ。7、8、9頭…」

 

ルーは昂然と顔を上げて立っている。

 

「ルー絶対に動くな!」

 

キリコは銃を構えた。射撃の腕には自信があったが、ルーまでが百メートルそのまた五十メートル前で銃撃と決めた。ウルグゥンの群れは速度を変えず淡々と近づいてくる。この決断までに彼らも数日を要したのだろう。足取りに迷いはなく、あとは群れの経験と己の本能に従うだけなのだ。

 

(先頭の奴を一発で仕留める)

 

キリコにも迷いはなかった。群れの速度が上がり、なお先頭の一頭のスピードが上がった。

 

(あと十メートル)

 

キリコの指腹がじんわりとトリガーに懸かった。と、その時思いもかけない異変が起こった。

 

「んっ!?」

 

先頭を走るウルグゥンの直前で何かが破裂したのだ。

 

「ギャン! キャンキャン!」

 

先頭の一頭が何かに打たれたように跳ね回る。そして後続の群れの中にもう一発、何かが破裂したのだ。ウルグゥン達の疾走が止まり、耐えかねる何かの痛みに全身を跳ね返らせ震わせ、やがて、鳴き声と共に元来た方向に壊走していった。

 

「ルー!」

 

キリコはルーに向かって走った。

 

「大丈夫か?」

 

駆け寄り肩を掴むとさすがのルーも、

 

「キリコ!」

 

とわずかながらも身を寄せた。そして、

 

「あれ」

 

と視線を一方に走らせた。その視線の先にその男はいた。

 

 

 

続く

 

 

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イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE


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