第28回東京国際映画祭「ガンダムとその世界」、 「機動戦士ガンダム ジ・オリジン」安彦良和監督と田中真弓さんのトークショーが実現!
東京を舞台にして開催中の第28回東京国際映画祭。今年は「ガンダムとその世界」がひとつのテーマに掲げられており、会期中は「機動戦士ガンダム」が初代から最新作まで、幅広くスクリーンで上映されています。
去る10月25日、新宿ピカデリーでは『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅰ 蒼い瞳のキャスバル』が上映。これにあわせて、本作の原作者であり安彦良和総監督と、幼い日のシャアである、変声期前のキャスバルを演じた田中真弓さんのトークショーが実現しました。ライターである石井 誠氏の進行で、安彦監督の作品と田中さんの関わりを振り返りながらの歴史を感じさせるセッションとなりました。“キャストとスタッフの信頼関係”をテーマにしたこのセッションの様子をレポートいたします。
●長い付き合いの安彦監督と田中さん
安彦監督と田中さんは過去の作品で幾度も一緒に仕事をなさっています。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、安彦監督の「田中さんは僕が一方的な押しかけファンなんです。今回も、ただ一人だけ、キャスバルだけはどうしても田中さんにお願いしたい」との強い想いが叶うかたちでの起用だったそうです。「音響監督からは渋い顔をされました。けっこう大胆な要望だったみたい」と苦笑いを見せる安彦監督。田中さんは「ほとんどデビューのときから(安彦監督と)一緒なんですよ」と笑顔。「(『白い牙』で主役を務めたことに対して)あれは大抜擢だったんじゃないですかね?」と積年の疑問を尋ねると、「あれは病み上がりだったこともあって、キャラクターだけを描いていたので関わっていないんです。『白い牙』が(田中さんの)デビューだったと後から聞きました」と意外な告白をしていました。
●安彦監督のTVシリーズ「巨神ゴーグ」
そして、安彦監督と田中さんがタッグを組んだ「巨神ゴーグ」へ話は続きます。主人公の田神悠宇に関しては「最初から田中さんの声だよな、というのがイメージ。少年ボイスが無理なく出る、作り感が無くていかにも自然だな、という気がしています」
石井氏から「『巨神ゴーグ』のとき、役柄についてご相談はされたんですか?」との質問に、安彦監督は「『ゴーグ』は2クール26本なんですが、僕は絵描きとしてその26本をできるだけ均質な、ある一定のレベルのシリーズにしたい、というのがあった。そのためにスタジオでひたすら絵を描くので、録音スタジオにはいかない。そういうふうに位置づけたんです」回答。「たしかに現場ではお会いしていないです」と田中さん。
安彦監督は「『ゴーグ』に関しての自分の仕事は、声優さんが困らないようにきちんと絵を提供することだと思っていました」とその信念を覗かせました。田神悠宇という役柄に思い入れがあるという田中さんは、「成長物語として、最初は怖がっていた男の子が男らしくなっていくというのはやりがいがありました」と作品への思いをつづってくれました。
●「ゴーグ」での対談が、田中真弓によるキャスバル誕生のきっかけに
『巨神ゴーグ』には、ロッド・バルボア役で青年期以降のシャア・アズナブルを演じる池田秀一さんもキャストとして参加されています。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』で田中さんにキャスバル役をオファーしたきっかけに関して、安彦総監督は「(最近出た『ゴーグ』のムックで)池田さんと田中さんが対談をなさっていた。そこで、『ああ、シャアって田中さんだよな』と思った。池田さんは幼いときに田中真弓だったんだ、と。これはアリだな、と。それまでキャスティングは頭になかったんだけど、あれを見て、また田中さんに仕事を頼めるんだ、と。音響監督にそれで『キャスバルだけは田中さんにお願いしたい』と伝えました」と、キャスティングのアイデアが産まれた瞬間が「巨神ゴーグ」にあったことを明かしました。
●セネカという素晴らしい役に恵まれた「アリオン」
その後の安彦監督による長編劇場作品「アリオン」でも、田中さんはセネカという、主人公アリオンの弟分として出演されています。本当は主人公のアリオンを演じたかったという田中さんは、「(アリオン役の)中原茂を縛って、トイレに押し込めてでもアリオンをやりたかったです。アリオンを受けたくてずいぶんゴネました。……でも、セネカは本当に良い役をもらいましたね」と当時の思いを告白。
●そして、『ガンダム THE ORIGIN』へ
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は「『ゴーグ』と被るところもあって、続きが気になって本当にワクワクします」と田中さん。安彦総監督から「『ジ・オリジン Ⅱ』のご感想はいかがでしたか」と聞かれると、「池田さんが演じるシャアの声が、ずっと聞いていたシャアの声と全く違っていた。変声期を迎えたあとで、でも完全な男の人ではない、青年というところの声でした。その微妙なところに、もしかしたら苦労されたのかもしれないですが、「おお!」と。皆さんもお楽しみに!」と声優の田中さんならではの見どころを指摘。
安彦監督も、「変声期をまたいで声は変わるので、3~4年経った田中真弓がいきなり池田秀一になるのですから、相当無理がある。池田さんはお顔と一緒に声を聞くと、本当に男らしい男声なんです。シャアをあてるとシャアに聞こえるのがまた不思議なんですが。(その池田さんから)一度録音したあとで、音響監督に連絡があって『池田さんがどうしても、もう一回録らせろと言っているんです』と。そこまで言ってくれているなら、録ってもらいましょうといって、録り直したんです。それが近日公開の『ジ・オリジン Ⅱ』です。(2回目のほうが)さらに良くなっていました。池田さんは今回の収録に1カ月お酒を断ってのぞんだ、とおっしゃってましたが、終わったあとで、お酒を飲んで考えてみると『あれでよかったのかな』となったとおっしゃるんです」と、収録にまつわるエピソードを紹介してくれました。
田中さんが「あれはお酒を飲んだあとの収録だったんですね」とコメントすると、安彦監督は「艶が出たんですね、慣れないことをするものじゃないなと(笑)。でも、良かったですね」と、冗談を交える一幕も。
●緊張感で張り詰めていた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の現場
田中さんは『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の収録現場について、「あまりに緊張していて。皆さん張り詰めていました。ガンダムという作品の重み、重圧というか。スタジオがとてもぴりぴりしていて、怖かったですね」とそのプレッシャーを語られました。安彦監督は「シャアは田中さんありきで、それが老けて池田さんになるので、それは自由にやっていただきました。ひとつだけ残念だったのは、実際に録音してみると「キャスバルの台詞が少なかったなあ」ということ。無口な子なんです。おしゃべりな子じゃないんですね。こんなに少なかったのか、と。田中さんに申し訳ない」と小さな後悔もちらり。
最後におふたりからのコメントを紹介します。
田中さん:(『ジ・オリジン』は)本当に楽しいので、(安彦監督に)続きをぜひ、早く描いてください! これからも一緒にガンダムを楽しみたいと思います。今日は本当にありがとうございます。
安彦監督:『ジ・オリジン』の監督を引き受けて、いま、とても良い思いをさせてもらっています。昔の非常に手薄な状態でものを作って、自分の才能もない、ということもあわせて、良い思い出がないアニメ時代を自分は持っているんですけども、それと照らしあわせると、“いま、はじめてアニメの仕事をしている”という実感があるくらい充実しております。注文を出すとスタッフが直してくれるんです! こんな経験ははじめてです。リテイク作業でスタッフは大変苦労していただいて。こんな美味しい仕事ははじめてだと。それだけに、結果にも非常に満足しています。これは非常に不遜なことなんですが、自分が作ったものはあまり見たくないと。これは初代『ガンダム』も含めて、見るに堪えないということで、封印していたりもしたけれど、『ジ・オリジン』に関しては、『1』『2』とも非常に満足しています。これから先も愛すべき映像がスタッフ、キャストのみなさんのおかげで出来ると、確信をもっております。ですから、ぜひ期待を込めてご覧いただきたいと思います。長丁場になるかもしれませんけど、どうぞお付き合いください。
長年、お互いの作品に携わってきたお二人による、暖かい雰囲気のトークショーでした。
安彦良和総監督による最新作、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅱ 哀しみのアルテイシア』は、2015年10月30日より全国でのイベント上映がスタートします。こちらもぜひチェックを!
<関連情報>
第28回東京国際映画祭
http://2015.tiff-jp.net/ja/
機動戦士ガンダム THE ORIGIN
http://www.gundam-the-origin.net/