「すべてが極秘扱い」「改めて作品のパワーを実感」『スター・ウォーズ』に人生を捧げるマーケッターが明かす、トイの歴史と開発秘話!
文/TAKUYA KUBO
■ライター:TAKUYA KUBO……電撃ホビーマガジンでは海外映画の関連グッズを紹介するコーナー「WORLD CHARACTER TOYS」を担当。『スター・ウォーズ』に造詣が深い
公開初日のチケットが、予約開始と共に主要劇場で完売した『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。そんな『スター・ウォーズ』のトイに18年以上も携わり、今作でもタカラトミーでマーケッターを務める白井貴彦氏に、国内におけるハスブロ商品の展開の歴史と、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のトイの開発秘話を聞いてみた。
■小学生の時からスター・ウォーズに魅了
そして、フィギュアブームの到来を予見
――白井さんが、最初に『スター・ウォーズ』に触れたのは?
白井氏(以下S):1978年、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』が日本で初公開された際、父親に連れられて劇場で観たときです。当時は小学1年生で、ストーリーのすべてを把握することはできなかったのですが、すっかり魅了され、帰りに当時旧タカラ(現タカラトミー)が輸入していたケナーのフィギュアを買ってもらったのをきっかけに、以後同社のフィギュアを集めるようになりました。
――玩具業界に入られたのも、そのときの経験が?
S:実は、初めは建築関係のデザイナーをしていたんです。しかし’97年にハズブロージャパン(当時のハスブロ日本支社)がパッケージのデザイナーを募集していることを知り、フィギュア好きの私としてはいてもたってもいられず、受かる確信もなく前職を辞して応募しました。その際、『スター・ウォーズ』が好きなこともアピールしたのですが、入社が決まった前日に「そんなに『スター・ウォーズ』が好きなら……」とレイアとステルス・プレデターのフィギュアをいただいたのは良い思い出です。凄くいい会社に入ったなと(笑)。
――最初に担当されたお仕事は?
S:現在もそうですが、ハスブロの『スター・ウォーズ』商品は本国のパッケージ・デザインを生かし、国内で発売する際に必要な表記をラベルにして貼っているのですが、そのレイアウトをしていました。最初に作ったのは3.75インチの〈ベーシック フィギュア〉のロイヤル・ガードのラベルでしたね。それらと並行して、『スター・ウォーズ』が好きということで、マーケティング・チームに協力して仕様書やポップを作ったり、キャンペーンのアイデアを出したりしていました。
――白井さんがハズブロージャパンに入社されたときは、それまでは子供のオモチャでしかなかったフィギュアが世界的に大ブームになる頃ですよね。
S:そうですね。『スター・ウォーズ』のフィギュアは、いわゆるオレンジ・カードと呼ばれるファースト・ラインナップが発売されたばかりの頃で、当時はフィギュアの専門誌は少なかったのですが、一般誌からの掲載依頼が頻発するようになり、ブームの兆しが見えていました。またハズブロージャパンは、私が入社する以前に発売していた『エイリアン』と『プレデター』のフィギュアが、子供ではなく年長のファンにウケていたことから、ブームの到来を予見していたようです。
――プリンセス・レイアの最初のフィギュアは、海外では一般商品でしたが、国内ではプレゼント・キャンペーンの賞品でしたね。
S:当時のマーケティング・チームのリーダーが、『EP4』公開当時に菓子メーカーで『スター・ウォーズ』商品を担当していた方で、作品に思い入れがあったうえ、キャンペーンにも熱心な方だったんですよね。レイアは国内では一般商品として扱うには十分に数が確保できなかったため、キャンペーン賞品になったと聞いています。
――マーケッターになられたのはいつ頃ですか?
S:1999年にハズブロージャパンが解散することになり、商品は旧トミー(現タカラトミー)が取り扱うことになりました。その際、数名の社員も移籍することになりました。移籍後は、ハズブロージャパン時代と同じ仕事をしていたのですが、2003年に海外商材をまとめて扱うトミーダイレクトというグループ会社ができたとき、『スター・ウォーズ』のマーケッターに立候補しました(笑)。
――白井さんがマーケッターの頃から、海外のショップ限定品が、国内でも買える機会が増えましたね。
S:昔は、海外のショップ限定品は案内すらもらえなかったのですが、私が知り合ったハスブロのマーケッターの方と良いコミュニケーションがとれて、案内を日本からも注文できる時期に送ってくれるように変えたのです。そのため、注文できるものはすべて注文できるように努めました。特に海外に支店を持たないターゲット・ストアやKマートの限定商品は、コレクターの方が喜びそうな内容のものが多かったですから。
――トミーダイレクトでは、輸入商品のみならず、オリジナルの『スター・ウォーズ』商品もいろいろとありましたね。
S:そうですね。カバンに入れて運べ、イベントなどで使えるペンライト型の「ミニネオンライトセーバー」とか、当時人気だった12インチ・フィギュアの頭部と同サイズで精巧な作りの「ヘルメット・コレクション」、究極のデフォルメ・フィギュアを目指した「ディフォームドフィギュア」などがありましたね。何しろ担当は私だけだったので、好きなものを作らせてもらっていました(笑)。中でも「マイクロドロイドR2-D2」には思い入れがあります。
●ミニネオンライトセーバー
●ディフォームドフィギュア
●マイクロドロイドR2-D2
この商品は『スター・ウォーズ』が好きだけど、ずっと裏方の仕事に徹していた僕がマーケッターになった記念に、開発部の先輩が何でも好きなものを作ってやると言ってくれたのがきっかけになっています。そこで、ずっと好きで集めていた「ベーシック フィギュア」サイズの動くR2-D2を企画したところ、数週間後には実際に動くサンプルをもってきてくれ、トントン拍子で商品化が決まりました。
2年間で7種類のバリエーションを発売したのですが、合計で15万個も売れるヒットになりました。また、ちゃんと英語版のパッケージを作り、ハスブロとルーカスフィルムが発行している雑誌「スター・ウォーズ・インサイダー」の通販ページを通じ、アメリカでも発売できたのは嬉しかったですね。1999年以降、旧トミーでは様々な『スター・ウォーズ』商品を作ってきたのですが、アメリカ側の反応は芳しくなかったので。そのため、開発担当の先輩や所属の部署の者たちとともに非常に喜びました。「ハスブロからは商品を買うばかりだったけど、ついにウチの商品を買わせた」と(笑)。
■「新三部作」関連の商品化
そして、トミーダイレクトの解散
――2005年公開の『EP3』は白井さんにとって、初めての新作映画の商品になったのだと思いますが、情報等は早めにもらえていたのでしょうか?
S:映画公開の前年の9月には、ハスブロを通じてかなりに情報をいただいていました。そのため半年以上もかけて、TVCMやキャンペーン、売り場のツールの準備を進めることができました。また、公開日には万全の体制で迎え、深夜イベントを行ったり、大きな売り場の確保もできましたね。
特にキャンペーンは、ジョージ・ルーカスが実際に使っているディレクター・チェアを調べて、背中に『スター・ウォーズ』のロゴを入れて景品にしたり、限定発売した『スター・ウォーズ』Gショック2本を特製パッケージに入れたものをカシオさんに作ってもらったりしました。
また当時、ストリート系ファッション誌で『スター・ウォーズ』のフィギュアがTシャツと同列のコレクション・アイテムとして紹介されていたこともあり、そういったファッションデザイナーさんにTシャツをデザインしていただき、月替わりでプレゼントするなんてこともしました。トイとしては珍しいキャンペーンだったので、お客様にも大好評で、考えているときも楽しかった記憶があります。こういったことが影響したのか、『EP3』の売り上げは『EP2』を上回らせることができました。
――『EP3』で『スター・ウォーズ』が終わると聞いたときは、危機感はありませんでしたか?
S:もちろんありました。何しろジョージ・ルーカスが、来日記者会見で自身の引退と映画シリーズの終了を宣言しましたからね。でもすぐにテレビ・シリーズの『クローン・ウォーズ』の製作発表があり、おそらくスピンオフという形でずっと続いていくんだろうなと思って安心しました。
――しかし、映画のキャラクターで主だったものは商品化し尽くされており、未商品化のキャラクターはマイナーなものばかりで、心細くはなかったのですか?
S:もちろん、新作映画の公開時のような爆発的な売れ行きは期待できませんが、実は2006年以降も、2003年から2004年にかけての新作映画の公開がなかった時期と、売り上げ的にはあまり変わらなかったんです。
ハスブロの開発担当者が非常に『スター・ウォーズ』を愛していて、同じキャラクターでも造形や塗装を突き詰めていったり、可動部を増やすなどの変化を加えていったりしましたからね。またマイナーなキャラクターも、日本にはマニアックなコレクターの方が多いので、非常に好調でした。しかし、やはりジワジワとパワーが落ちていくのは避けられず、2009年にトミーダイレクトはその役目を終え、海外商品は本社で扱うことになったのですがうまくは進まず、しばらく『スター・ウォーズ』からは離れることになりました。
――再びタカラトミーが『スター・ウォーズ』を取り扱うことになったきっかけは?
S:2013年にディズニーさんがルーカスフィルムの買収を発表し、その後ディズニーさんとお話を進めました。その頃、私は別のボーイズブランドのマーケッターだったのですが、兼任という形で『スター・ウォーズ』も担当し、再び国内商品の企画とハスブロを中心とした輸入商材の手配することになったんです。
■新作映画の公開決定!
商品化で苦労した点とは
――『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』については、いつ頃知らされたのですか?
S:2014年春に、最初にハズブロと打ち合わせをしました。同時期にルーカスフィルムの方が来日し、スケッチなどと共に説明をいただきましたが、具体的なストーリーは一切知らされず、すべてが極秘扱いでしたね。『EP3』のときとはかなり違っていました。ハスブロの商品サンプルを見たのは2014年秋なのですが、ショールームには鍵がついており、写真を撮ることは一切許されず、その管理は徹底されていました。
――今回の商品をご覧になった感想は?
S:キャラクターが非常に良いと思いました。ビークル類もラルフ・マクォーリーのデザインを引き継いでいる点がいいですね。見ていて非常にワクワクしました。予告編を何度もみながら色々と想像し、本編での活躍を楽しみにしています。
――事前情報が少なく、発売時に不安はなかったのですか?
S:めちゃくちゃありましたよ(笑)。通常は1カ月前に雑誌やHPを通じて商品情報をお知らせするのですが、今回は全世界で一斉発売される9月4日の0時1分まで、一切情報を流すことが許されなかったんです。何が売っていて、いくら持っていけば分からないような深夜イベントに、果たしてお客様は来てくれるのか……。ずっとハラハラしておりましたが、実際に都内3カ所で行われたイベントは、どれも大盛況で安心しました。僕は過去に『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』『クローン・ウォーズ』で深夜イベントに携わったのですが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は過去を大きく上回る方が来場され、改めて『スター・ウォーズ』のパワーを実感させられましたね。
――現時点で人気ある商品は?
S:40、50代のコア・ファンには、「6インチ・フィギュア」と定番の「ベーシック フィギュア」ですね(商品の詳細はこちら)。キャラクター的にはカイロ・レン、キャプテン・ファズマ、ストームトルーパーになります。特にキャプテン・ファズマは、ほとんど情報がないキャラクターなのに、動きが良いですね。映画が公開されるとライトセーバーの売れ行きが上がるので、こちらにも期待しております。
●6インチ・フィギュア
●ベーシックフィギュア
――それでは、タカラトミーのオリジナル商品について教えてください。
S:輸入商品だけではなく、もちろんタカラトミー独自の商品も今回は展開しようという話になりました。そこで話し合いを重ねていった結果、まずはタカラトミーを代表する商品である「トミカ」とコラボレーションするべきだということになったんです。また、個人的にはやはりフィギュアが好きなので、昔からのファンである40~50代の方に楽しんでいただけるものが作れないかと思い、コレクションしやすいサイズで、その世代のお子さんが遊んでも壊れにくい「メタコレ」を企画しました。ダイキャストの第3弾は、トミカとは違ったかわいい車を作りたいという開発担当者のアイデアで、「スター・カーズ」を発売しています。
●トミカ
●メタコレ
――「ナノドロイドR2-D2」はインパクトのある商品でしたね。
S:これは前述した「マイクロドロイドR2-D2」を作ってくれた開発部の先輩が、私が再び『スター・ウォーズ』の担当に戻った機会に、また一緒に商品を作ろうと声をかけてくれたことで実現しました。
初めは「マイクロドロイドR2-D2」をスマホで操作できるものを考えていたのですが、先輩からもうひとつのアイデアとして、見せられたのが「ナノドロイドR2-D2」でした(商品の詳細はこちら)。当初は双方の商品を並行して進めていたんですが、発売時のインパクトを重視してスマホ版はやめたのですが、現在は良かったと思います。他にも2002年と2005年に発売した「ダース・ベイダー危機一髪」の音声が流れるバージョンを作りたくて、名前は同じにしたのですが完全新規のものを企画しました。
――今後は毎年『スター・ウォーズ』の新作映画の公開があって大変ですね。
S:そうですね。毎年というのは未経験ですし、アンソロジー作品に関しては、現時点では情報不足でわからないので。しかし不安よりも楽しみといった気持の方が大きいですね(笑)。今後の商品展開にご期待ください!
――本日はありがとうございました。
<関連情報>
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