『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第27話

『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第27話

 

ルーの操る船が濃密なフローターベルトを抜けていく。

「右舷45度!」

「極微速前進!」

「左舷停止!」

「左舷一杯!」

「両舷全速前進!」

次々に発せられる指令は繊細にして大胆、しかも正確無比! 自分の手足を動かす如く舵を操り機関を自在にコントロールする。艦内寂として声もない。

やがて――、

「抜けた……」

ルーの声にブリッジに人の呼吸音が戻った。むろんそれまでの間艦内の人間が息をしなかった訳ではないが、それを忘れるほどに緊張を強いられていたのは事実だった。

「艦長、船を返します」

ルーの声に艦長は一言、

「うむ」

と頷くことしかできなかった。と、

「あの星は何だ⁉」

誰が叫んだのかは定かではないが、その場の全員が同様に息をのんだ。メインモニターの左端から画面いっぱいに薄茶色の巨大な円球が迫っていた。

「大丈夫です。この船はすでにあの惑星の衛星軌道上にあります」

ルーの少年特有の高さを持った、だが落ち着いた声がブリッジに響いた。

「どういうことだ? 説明してくれ?」

艦長の質問に、

「どうやら私たちはあの星に招待されたらしいのです」

「招待⁉」

「フローターベルトを抜けたら、必然的にここへ来るように、まあ誘導されていたのです」

キリコの勘は当たっていたのだ。

 

 

あれからワイズマンの指示はなかった。

「出ました。当艦の位置は アストラギウス銀河トロックフーブ宙域北端部の惑星グラッセウスの極軌道にあります」

管制スタッフが艦の航行軌道記録から現在地を割り出した。

「惑星グラッセウスだと⁉ あの消失の惑星と言われたグラッセウスか?」

艦長が驚きの声を上げた。それも無理はない、

「消失の惑星とは何ですか?」

少佐の質問に、

「地上の人間が知らないのも無理はありません。あの百年戦争の末期突然にアストラギウス銀河のあらゆるデータからある惑星の存在が消えてしまったのです。むろんギルガメスもバララントも惑星のあったトロックフーブ宙域に何度も探査を試みたのですが、惑星の存在した痕跡がつかめず、なお且つ探査隊の遭難失踪が相次ぎ、探査をあきらめざるを得なかった。その惑星がグラッセウスなのです」

艦長の説明を聞きながらブリッジの全ての視線がメインモニターの薄茶色の星に注がれていた。

やがてキリコが呟くように言った。

「ワイズマンの招待だ。断るわけにはいくまい」

「グラッセウスに降りるというのか⁉」

艦長が聞き質した。

「ルーと……俺もな。奴とは古い因縁がある」

一拍遅れて少佐も名乗りを上げた。

「チャイルドの行くところには私も行かなければならない。それが任務だ」

ドクターは沈黙を保った。

ボブゥーがルーとキリコの顔を交互に窺いながら、

「私も同行していいかな? それとも足手纏いになる?」

おずおずと言った。

「いいよねキリコ?」

同意を求めるルーの言葉に、

「好きにするさ」

キリコが言った。

それから艦内の意思統一と着陸準備に、極軌道を船が二巡するほどの時間を要した。

「私と部下5人が同行する」

艦長も同行を決意した。

「必要になるかどうかも分からんがAT二機を用意した」

一行を載せた揚陸艇は艦を離れ惑星グラッセウスに向かって降下した。

「着陸は北半球の山脈地帯になる」

艦からの観測ではその山岳地帯には人工物の影がなかった。上陸に際して無用の摩擦を避ける意味からも人里離れた場所が求められたのだった。

「私は、任務も無論だが星の海の船乗りとして逃れられない誘惑にかられる」

艦長の語るところによれば“消失の惑星グラッセウス”は百年戦争当時アストラギウス銀河では辺境域に属し、社会の発展認識はやっと中世といったところだったという。そこにギルガメス、バララントの両陣営は自分たちの対立の構図を持ち込んだというのである。それはある意味軍事テクノロジーの発展を促したが社会に抗争と不安定を呼び起こした。両陣営はグラッセウスがどちらかに偏るのは望まなかったが、社会の乱れには責任を取らなかった。やがて終戦である。そして間もなく惑星グラッセウスは銀河から消失した。

「どんな理由で、そして今どうなっているか? 私でなくても誰もが興味をひかれるところだろう」

ボブゥーがうんうんと頷いて、

「三十年がとこ放っておかれた実験箱みたいなもんだね」

と同意した。

「そう。それもワイズマンの超テクノロジーで銀河中のデータを操作し、近づくものはフローターベルトで排除した。そうまでする必要がこの星にはあるということだろう。そうは思わんかね少佐」

艦長は満面に野心を滾らせて少佐に同意を求めた。

「その通りですな…」

少佐の反応はあくまで任務の為とでもいった鈍さだった。

 

 

タサの高原を行く遊牧の民の一人が声を上げた。

「あれを見ろ!」

男の指さす彼方には赤墨色の空を斜めに縫うように一筋の光が走っていた。

「あっ!」

「あ!」

「あれは‼」

数人がその光に驚きの声を上げた。

長のテントに一族の主だったものが集められた。

族長のテグサンが重々しく問い質した。

「間違いなく“降臨の矢”だったというのだな」

聞かれた壮年の男は興奮を隠せず、

「間違えようがない! あれこそ幼いころから耳にタコができるほど聞かされ続けた神様がこの世に降りるお姿だった! なあ!」

男は両サイドに控える男どもに賛同を求めた。

「おう! おう!」

と男たちが呼応した。

「うーーん」

族長テグサンは暫し瞑目した後、厚い両の唇から漏れるように言葉を押し出した。

「やっと、やっとおいでにならっしゃったか……」

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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