『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第29話

『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第29話

 

「オーッ! メッタリア!」

長老テグサンをはじめとする一同から歓喜の声が上がる。ルーがこころもち胸前の両手を広げて言葉を繋いだ。

「ボン シー ブッフエル ト ズオン」

「オーッ‼ メッタリア‼」

さらに高い歓声が上がった。そして、

「ムルシャス! ムルシャス! ムルシャス!」

乾杯に次ぐ乾杯だった。

「チャイルド。彼らに何を言ったのだ?」

艦長がルーに訊ねた。

「私が超絶者だと名乗った。そして、超絶者として彼らに祝福を与えた」

「か、彼らの言葉でそれを⁉」

ルーは頷き、

「さっき翻訳機で勉強した。多少のことならもう会話に不自由はしない」

とさらりと言い放った。と、

「ラバラバーッ‼」

テントに飛び込んできた男が叫んだ。

「ヴァンバララッサ? カクウ ラバラバ!」

一座の喧騒が一気に引いた。

「ヴァンバララッサ? カクウ?」

テグサンが聞き質すと、

「カクウ! カクウ!」

男はうんうんと頷いた。

「どうした? 何があった?」

艦長の質問に翻訳機を待たずルーが答えた。

「ヴァンバララッサ国の軍隊が来たと言っております」

「軍隊⁉」

やがて、入り口の男を押しのけるように、明らかに軍人と分かる人物が登場した。

「ナノウサ テグサン」

長老テグサンに慣れた感じで会釈し、そのあとで一同に対し、

「初めてお目にかかります。私、当ヴァンバララッサ天授王国近衛竜騎第一大隊のエスエスラゼ・ジュモーラン大尉であります」

明瞭な一般アストラーダ語で 名乗りを上げた。

「ふむ……」

一般アストラーダ語と大尉という階級に安心感を抱いた艦長が、

「自分はギルガメス戦略宇宙軍のドロムゼン・パスダード少佐だ」

と名乗りを返したが、あえて他の者は紹介せず、

「で、大尉、我々に何用かな?」

先制の探りを放った。

「は、先日我が諜報部にこの方面に未確認の飛行物体が降着したと報告が入り、探査しておりましたところ……」

いったん言葉を切り他の一同にも視線をめぐらせた大尉が、

「ここにこうして少佐殿一行と遭遇を……という訳であります」

「なるほど。それはお手間を取らせた。実はな……」

艦長はさもやむを得ずという感じに肩をすくめ、

「我が艦は惑星ラドーを出て惑星メルキアを目指しておったんだが、不覚にも航路を逸してしまってな。気が付いたらこの惑星グラッセウスの衛星軌道上に迷い込んでしまったという次第。燃料にも食糧にも不安があって、支援を仰ごうと降りたところ、図らずもテグサンの招待を受け、ま、このような歓待に与っていたという訳で……」

艦長は巧妙に仔細を隠した。

「なるほど……」

ジュモーラン大尉は視線鋭く思考を巡らせた。

「なるほど……それはお困りと察します。ご安心ください。我が天授王国は喜んでご支援を申し出ましょう。我々は報告のため一旦本部に戻りますが、後刻お迎えに参じます。では!」

ジュモーラン大尉はさっと敬礼を決めると返礼を待たずその身を翻した。

テントの裂け目からのぞくと小隊規模の兵士達が去っていくのが見えた

 

 

揚陸艇に戻った一同は状況の分析に入った。

「我々の存在は、この星の全てに知れ渡っているとみるべきだな」

パスダード艦長が口火を切ると、

「さようですな。遊牧民の接待を受け、当地の軍も知るところとなった」

クロムゼンダー少佐が言わずもがなのセリフの後で、

「しかし艦長の答弁は見事でしたな、肝心なことは一言も漏らしていない」

と持ち上げた。

「ふん、だが大方のところは、あの、近衛大尉、ジュモーランとか言ったな、彼の態度からみて判っているのじゃないかな。だから、あそこはあっさり引き上げた」

艦長の読みは的確だった。

「というと、私たちは、メッタリア一行様、超絶者一行様ということですか」

ボブゥーが会議にそぐわないのんびりした声で言った。

「そういうことです。テグサンにとってはメッタリアは福音を授けるありがたい存在だったが……」

艦長がルーに視線を向けて続けて言った。

「軍にとって、いや、ヴァンバララッサ天授王国にとってはどんな存在か。さらに惑星グラッセウスの全ての民、あるいは国家にとってどんな存在か」

「まさにそこですな。メッタリアとはこの星にとってどんな存在か、もし権力を握るものにとって厄介なものであれば……」

少佐は慎重に言葉を止めた。

「以前、艦長はこの星は、文明の発達状況は、大雑把に言って中世に留まっているとおっしゃっていましたなあ……」

ボブゥーがのんびりした口調を変えず、

「ということで言えば、通常は権力が偏っているというか、抑圧者と被抑圧者が存在しているということになりますなあ……一般論ですよ。この惑星が、いやヴァンバララッサ天授王国がそのようだと言ってるんじゃありませんが、一般論としては権力に偏りがあると……」

ボブゥーの意見を少佐が遮った。

「権力の偏りは我々の世界にも存在していますよ。抑圧者も被抑圧者も、人間というものがそこに生きていればそれらは無くなるものじゃあない」

「おっしゃる通り、少佐のご洞察の通りです。人間というものは全く……」

ボブゥーは己の頭をポンポンと叩きながら、

「懲りないもんですからなあ。威張りたがる。持ちたがる。離したがらない。あ、いったん握ったものをですよ。……ああ、そうだ。ルー。お前さんは、あそこでどうして自分がメッタリアだと名乗ったんだ?」

一同の視線がルーに集まった。

ルーがテグサンたちの言うメッタリアであることに異論を差し込むものはここにはいなかった。メッタリアであることは誰もが認めていた。だが誰が“そう決めた”のか誰が“そう言った”のかは誰も分かっていなった。

「解ったんだ」

揺るぎのない口調でルーが言った。

「彼らの話す言葉を聞いているうちに、これは自分のことだと理解できた」

ルーが彼らの言葉を、誰とでも、どんなことでも、自在に話せること、この事をここにいる誰もが目撃していた。

「テグサンも、いえ、この星の誰もがそれぞれの意味合いで、メッタリアの、つまり僕の降臨を待っていたのです」

一同は言葉を失っていた。

――やがて、

「ワイズマンのテストが始まったんだ」

ぽつりとキリコが言った。

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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