今語られるアメリカの伝説的ヒップホップ・グループ、N.W.A.の真実
その歌詞は、日本語版CDでは対訳のみならず原詩すら記載されていないほど過激で、犯罪率を上げるほどの影響力が社会問題にもなった、アメリカ西海岸ヒップホップ・グループN.W.A.(エヌ・ダブリュ・エー)のお話です。いわゆる成功の裏に隠れた(隠れてない?)あんなことやこんなことも描いているわけですが、製作スタッフに当事者が携わっているということで、その内容はかなり迫真的なようです。全米屈指の危険地域で、いかにしてこのグループが生まれ成功したのか、日本の音楽シーンと比べてみるのも一興です。
※一部解説にネタバレを含んでます。
文/百鬼
■ストーリー
1986年、カリフォルニア州コンプトン。全米でも屈指の犯罪多発地帯。麻薬の売人をしているイージー・Eは、アイス・キューブやドクター・ドレーらと意気投合して、ヒップホップで一旗揚げようと「N.W.A.」を結成。現実の理不尽や不満をストレートに表現した歌詞やクールなリズムで注目を浴びて、人気はうなぎ登り。折しもロサンゼルス暴動が勃発。その過激な思想に警察はおろか、FBIからも目をつけられるようになってしまう。しかし、名声が高まるにつれて、メンバー間での収入格差や音楽性の違いなどの不協和音が生じてしまい、次第に仲間たちは離散。独立したアイス・キューブらとディス合戦を繰り広げるが、孤立無援なイージー・Eは次第に追い込まれていく。そして、さらなる悲運が彼に降りかかるのだった……。
■解説
現在のラップ、ヒップホップシーンの興隆を決定付けた伝説のグループ「N.W.A.」の伝記映画。アメリカ犯罪多発地帯としても有名なコンプトン出身の彼らが、いかにして出会い、「N.W.A.」を結成し、時代の寵児となり、離散していったかをリアルな描写で再現。俳優としても活躍中のアイス・キューブ役を実際の息子、オシェア・ジャクソン・Jrが演じていることでも注目の一作だ。
全編を彩る「N.W.A.」のヒットナンバーも、もちろん聴きどころ。しかも、ジェイソン・ミッチェルによるイージー・Eのライブパフォーマンスなど、俳優陣による再現度も高く、マニアも納得の仕上がりだろう。それもそのはず、製作にはアイス・キューブやドクター・ドレー、さらに亡きイージー・Eの未亡人トミカ・ライトも名を連ねるという、まさに「N.W.A.」公式映画なのだ。
もちろん、ドラマもまさに「N.W.A.」が生きた時代を完全再現。コンプトンの町並み だけではなく、「N.W.A.」が演奏したライブ会場も当時のそのまま。まるで現存するライブ映像をそのまま使用しているかのような再現度だ。また、1992年のロサンゼルス暴動前後の「N.W.A.」に対する弾圧とも呼べるべき当局による締め付けにも言及。大人気グループへと上り詰めながらも、根深いアメリカ社会の人種差別にさらされる理不尽。その中で、3年という短い活動期間に凝縮された、彼らの栄光と挫折が描かれる。
とにかく先に述べたように、再現されたステージシーンは圧巻のひとこと。彼らが当局から完全に敵視される要因となり、本作でも重要なキーワードとなる“Fuck tha Police”をはじめ、タイトルロールの“Straight Outta Compton”他のヒット曲が散りばめられる。
なお、注意することがひとつ。本作を鑑賞した後は、なぜか韻を踏んでしゃべってしまったり、ついビートを刻んで歩いてしまうことになるので覚悟しておくように。
街の不良たちが小さなスタジオで製作した1本のテープが、その後の世界的なヒップホップブームという音楽史に残る一大ムーブメントの始まりとなった。何にも縛られず、その日、その時に感じたことをストレートにリリックに乗せたラップは、瞬く間に全米を虜にしていく。人種を越えて……。
「N.W.A.」の才能にいち早く気づき、プロデュースしていくこととなるジェリー・ヘラー。演じるのはポール“ライノ”ジアマッティ。イージー・Eに惚れ込み過ぎたために、他のメンバーから反感を買ってしまい、やがてグループ分裂という結果を呼び込む遠因となった。
俳優としても、まさに「N.W.A.」の代表曲でもある“Boyz-n-the-Hood”をタイトルに冠した『ボーイズ’ン・ザ・フッド』でデビューし、『アナコンダ』『スリー・キングス』『ゴースト・オブ・マーズ』など数々の作品でも活躍中のアイス・キューブ。大学生というインテリにも関わらず、ラップに惹かれて「N.W.A.」の作詞スタイルを決定づけた。本作で演じるのは本当の息子さん。ちゃんとオーディションで勝ち取ったとか。しかし、ひょっとするとお父さんよりもイケメンだぞ。
ライブシーンは、まさに当時の「N.W.A.」のパフォーマンスをそのままの姿で再現。ちなみにエンドロールでは、実際の「N.W.A.」メンバーの姿も映しだされるのだけど、それまで見ていた本編と見比べても、ほとんど遜色なし。
<DATA>
ストレイト・アウタ・コンプトン
監督:F・ゲイリー・グレイ/脚本:ジョナサン・ハーマン、ほか
出演:オシェイ・ジャクソン・Jr、コーリー・ホーキンス、ジェイソン・ミッチェル、ポール・ジアマッティ、ほか
配給:シンカ、パルコ ユニバーサル映画
上映時間:147分
12月19日より全国順次公開
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<関連情報>
『ストレイト・アウタ・コンプトン』公式サイト
(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS