ガシャポン超大型商品「1/25スケール 電柱」の完成度に、企画開発者インタビュー&監修・三池敏夫氏ご本人の作例で迫る!
発売中のガシャポン、「1/25スケール 電柱」。驚きのモチーフながら45センチという大サイズに妥協を許さない完成度を誇ります。見慣れた電柱が手元に巨大な模型として届く不思議な感覚。500円というお値打ち価格。完成後も45センチの巨体は見ているだけで満足感があり、とにかく見逃せないアイテムとなっています。ぜひ回してくださいね!
今回はこの「1/25スケール 電柱」の開発にあたり、プロデュースを務めた特撮美術の巨人・三池敏夫氏が自ら作例を制作。いわば公式ともいえるこちらの作例を、使われたテクニックと合わせてご紹介します。本物のプロップを作る技術で組み上げられた電柱、そこに込められた圧倒的な研鑽と意外な技術、そしてその驚嘆すべき完成度と見どころしかない作品になっています。本稿は三池氏の作例原稿をあわせて、お届けします!
プロフィール
三池敏夫(みいけ・としお)
特撮映画美術のエキスパートにして、多数の特撮作品で辣腕を振るう美術監督。『ゴジラ』シリーズ、平成『ガメラ』シリーズ、『ウルトラマン』シリーズなど、参加作品、代表作多数。近作に『シン・ゴジラ』(B班美術)、『Fukushima 50』(特撮/VFX監督)、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(プリヴィズ制作協力など)。株式会社特撮研究所所属。
まずは全景をごらんください。その大きさは1/25、なんと45センチ。大サイズの高級トイにも迫るサイズです。この巨大サイズを活かした、存在感と各部の作り込みこそ本アイテムの真骨頂。脇に置かれたカプセルからサイズをご想像ください。27インチのPCモニターとほぼ同じ高さ!
開発担当・M内氏:45センチというサイズはカプセルトイにとっては巨大で、三池敏夫さんからも『分割してもカプセルには入らないのでは?』というご心配をいただきました(笑)。バラバラにすることでギリギリまで大きくすることができた、画期的な商品ではないかと。組み立てキットなので皆様にお手間をかけてしまうのですが、この大きさを作ったときの手ごたえ、組み味も一つの商品の魅力として遊んでいただけたらと思います。
それにしても1/25というのは模型でも珍しいスケールです。1/25というスケールにも秘密がありました。
開発担当・M内氏:今回監修をいただいた三池敏夫氏と、かつてガシャポンHGスケールのジオラマだけを集めた商品「HGストラクチャー」をプロデュースしたときに、特撮の撮影現場で使われているミニチュアに1/25スケールというものがあるとお聞きしました。そこで、『1/25の電柱であればバラバラにすれば何とかカプセルに入れることができるのではないか?』という話が持ち上がったんです。
細部を見ていきましょう。見慣れた電柱ですが、あらためて眺めるとトランスや足場釘、看板といった「見せ場」が大量に。大サイズの恩恵で必然的に細部もしっかり造形されて満足感は高いです。大きいは正義ですね。
開発担当・M内氏:トランスを2機摘むことができたり、ガイシの位置を自由に変えられるなど、かなり遊びがいのある商品です。我々の想像を超える遊びを、皆さんにしていただけたら幸いです。
看板部分はシールで再現。広告内容は架空のものですが、色使いなどはいかにも“ありそう”な感じでグッとリアリティが増します。こういったデザインの看板がリアリティとともに、ある種ノスタルジックな気分をも喚起させてくれます。
開発担当・M内氏:団地や電柱など、日本の風景には画一的なモチーフがあふれています。カプセルトイ=ガシャポンの販売形態上、同じものが複数出てしまう“ダブる”という事象が起こるのですが、これを逆手にとって何か面白い商品が作れないかと考えたときに、あえて同じものをいっぱい集めたくなる、並べることで風景の成立する商品があってもいいのではないかと思いました。
やはりその存在感は白眉。さっと外で撮るだけで、そこにあなただけの電柱が現れます。(中央の電線のかかっていないものが本アイテムです)このお手軽な本物感は唯一無二。スマホを片手にちょっと散歩したくなります。
開発担当・M内氏:企画立ち上げでは『電柱?なんで?』という社内での当たり前の反応の中、企画を通すハードルや、分割しても(カプセルに)入るのか? など、挑戦の連続でした。売れるか不安ですので、ぜひぜひ皆様が楽しんでいただきSNSに画像をどしどしあげていただけると嬉しいです。1/25スケールではありますが1/24スケールとも丁度よいサイズ感なので、ミニカーなどのお供にもぜひ遊んでくださいね。
さて、ここからはその「1/25スケール 電柱」を使用した、監修の三池敏夫氏による作例をご紹介します。実際に特撮のプロップに関わる氏による、効果的な作例工作、そして驚異の完成度をお楽しみください。工作自体もセンスにあふれながらもシンプルなもので、マテリアルも100円ショップなどで手に入るものが多数。ぜひ気軽に試して、ご自身の「1/25スケール 電柱」にフィードバックしてみてください。
三池氏:まずはパーツの確認と組み立て使用部品の決定。複数並べる場合、変圧器は全部の電柱につける必要はありません。さらに下地清掃。ウエットティッシュで良く拭きます。中性洗剤で丸洗いする場合は部品を紛失しないように気を付けてください。
三池氏:組み立てていきます。ゆるいパーツは接着剤で固定。電線を張る場合は柱の分割も固定したほうが安定します。
キット自体はスナップフィットで接着剤不要ですが、サイズが45センチと大きいこともあり、三池氏は接着剤を要所で使用しています。
三池氏:台座の固定。仕上げの効率を良くするためと線を張る際の安定のため四角いベニヤ(15センチ角、厚み12ミリぐらい)にしっかり固定します。できればドリルで穴をあけてビス止めするのが最も確実。
台座に電柱そのものをしっかり固定してしまいます。ハードな現場での使用にも耐える剛性と安定感第一の工作が施されます。
三池氏:足場ボルトの穴の塗装。最初に凹に白い塗装を施す。白ポスカで塗るのが早いです。本物を見ればわかる通り、これは絶縁体の白色。
実際の電柱を参考に、細部の塗装を施していきます。塗装に使うのはアクリルカラー! 塗りやすく扱いやすく、手に入りやすいアイテムです。
三池氏:全体の塗装。今回はアクリル塗料を平筆で塗ります。ほとんどの100円均一ショップで誰でも安く入手できるからです。プラカラーをピースで吹ける装備がある方はそれでも結構。
三池氏:ブラック、ホワイト、ブラウン、この3色あれば十分。基本色のグレーを多めに作って全体に塗りますが、あえて色ムラを出してウエザリングも同時に施すと作業は早いです。パレットは洗った食品のスチロールトレイが便利。穴の白色をつぶさないように。ブラウンで錆び汚し。碍子の白や黒も筆で塗り分けます。
全体の塗装はアクリル塗料で。3色だけでリアリティあるカラーを調色し、筆塗りならではの色ムラも味方につけて実在感を出していきます。この圧倒的なセンス、まさに匠の技……!
三池氏:金属ベルトの塗装。銀色のマーカーで塗ります。これで電柱のグレーとの差は出ますが、もっと金属感を出したい場合にはアルミシートを使います。デザイン用の細いシルバーラインは高価なので、キッチン用のアルミシートをカッターで細裂きにします。多少よれても貼るときにきちんと押さえればきれいな反射面になります。質感の差は歴然で、外で撮影した場合の反射のリアルさはいい感じになります。貼るだけなので、いっぱい増やせます。
金属ベルトの表現にもアイデアが。塗装とシートを併用することで、銀の情感に変化が出ます。この時点でもう電柱としての存在感は抜群です。
三池氏:碍子の赤ライン。細い赤マジックで手描きです。よほどドアップにならなければ、手描きで十分です。パーツを回しながら描くとうまく線が引けます。
油性マジックペンで赤ラインを引くと、色が加わってグッと華やかになります。遠目で見るとリアリティもマシマシ。
三池氏:トラジマの細工。色紙の黄色に黒ラインを斜めに入れて、紙の両面テープで貼ります。コピックや普通の黒マジックで十分です。私は目見当で間を空けていますが、きちんとやるには寸法を入れて等間隔にします。色紙も紙の両面テープも100円均一ショップで買えます。
高い位置にある碍子から、足元のトラジマへ。赤、黄色と色が入って本物に近づいていくのが楽しい!
三池氏:ディテール追加。電柱は意外と複雑なので、製品に無い部品をいくつか付けています。白や赤のプレートは、色紙でも新聞チラシやフリーペーパーでも良いので、端切れを利用して両面テープで貼っています。丸棒は竹串でもボールペンのインク芯でも、それらしくなればOKです。
実物の写真と見比べながら細かなパーツを追加していきます。横に手があるのが信じられない実在感になってきましたね……。
三池氏:ホームセンターやホビーショップで売っている一番細い針金を使って巻いたり接着したりします。
各所に張られた鋼より線などのパーツを針金で再現していきます。
見よ、この電柱感! 手と並べると脳が混乱するほど本物です。作成レポートにある通り、工作自体は100円均一ショップなどのどこにでもあるマテリアルを中心に行われていますが、ここまでの完成度が現出するのはやはり三池氏の培われた技術とセンスあってこそ。
三池氏:完成した電柱に電線を張るためには、土台にしっかり固定しなければなりません。今回は180センチの木の棒に3本の電柱を立てています。電柱の間隔はいろいろあって良いのですが、特撮セットでは25分の1の電柱は普通少なくとも90センチは間を空けます。中央の電柱はわざと真ん中にしていません。
ここからは完成した電柱をより情景に近づけていきます。土台に固定する際には、感覚にも十分気を使うとのこと。それにしても180センチとは、サイズが大きいだけにやはり土台も大型になります。
三池氏:電線は撮影現場では糸ヒューズを多く使います。これは特殊な素材なので、糸はんだのほうがホームセンターで買えると思います。今回使用した電線は太い線が#20で、細い方が#2です。ナンバーが小さい方が細いです。
今回はスペシャルなマテリアル、糸ヒューズで完成度を上げていきます。
三池氏:線の両端は巻き付けるだけで接着しません。あとでたるみの調整ができるようにです。張ったあと指で軽くクセをつけるときれいなたるみになります。今回組んでわかったのは金属の線を張ると、線の重さで電柱がしなります。傾くだけなら撮影用の電柱でも普通のことですが、曲がるのはありえません。なのでやむを得ず今回は両端の電柱にはアルミパイプを横に抱かして補強しました。3点針金で縛っただけですが、真っすぐに矯正できました。こういう丸棒がくっついた電柱もあっておかしくないです。
線の重さに電柱の強度が耐えられないというトラブルが発生。ここを“らしい”工作でリカバーしてしまうのがまたすごいところ。電柱は多種多様なので、逆にリアリティが増したようにも見えますね。
三池氏:ということで、作例は金属線を使っていますが、ユーザーには黒い糸を推奨します。ただ糸では美しいたれ具合は難しく、真っすぐに張らないときれいな電線に見えないと思います。また軽い分、外で撮影をすると風で揺れやすいという欠点もあります。
三池氏:細い針金を筆などの丸棒にぐるぐる巻きつけてコイル状にします。先に直線の電線を通してそれを張ってから、コイル状の線の両端を引っ張って伸ばしていきます。十分に伸びたら、電柱に取り付けます。
補強用に使われるコイル状の電線を足していきます。
三池氏:電線の塗装。糸ヒューズにしても糸はんだにしても金属色です。被覆されている電線が光っているのは不自然なので黒く塗ります。(過去の特撮映画で電線や送電線がきらきら光るのは時間がなくて塗ってない場合です。)筆で黒塗料を塗るか、黒ポスカで塗ります。黒ポスカは特撮のピアノ線消しでも必需品です! 黒ポスカの芯は丸くて細い線は塗りにくいので、カッターでVの字を入れてやると線に沿ってうまく塗れます。
ポスカの先端に切れ込みを入れることで塗装しやすくなるのが現場の知恵。きらきら光ってしまうことのないよう、しっかり塗っていきましょう。
三池氏:さらに追加パーツ。電柱の下の方には支線という、斜めに張った線があります。ぶつからないように通常は警告の黄色いガードがついています。ミニチュアはストローと色紙で作りました。
街中でよく見かける黄色のガードは、電柱のアイデンティティ。ストローに色紙を巻き付ければ立派なガードに早変わりです。
三池氏:最後に、電線の接続部に見かける黒いぐるぐる巻きを市販の黒いテープで細工しました。黒いパーマセルはカメラ用品売り場で買えます。黒い紙テープは珍しいですがホームセンターで売っているところもあります。もちろん普通のテープで形を作って、黒く塗るので構いません。
もう本物そのものにしか見えなくなってしまった1/25スケール電柱。最後は自然光下で、いっそ抒情的ですらある電柱をお楽しみください。「M内科クリニック」のシールがそのままなので、かろうじてガシャポンであったことがわかります。三池氏のテクニックすべてを盗むのは難しいですが、紹介した技術を投入することでグッと完成度は上がるはず。お手元の電柱をぜひ、工作してみてはいかがでしょうか!
DATA
1/25スケール 電柱
- カプセル商品
- 全3種
- 発売元:バンダイ ベンダー事業部
- 価格:1回500円(税込)
- 2021年12月第3週発売予定
(C)BANDAI