『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第33話

『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第33話

 

「ふむ……」

大佐はガナハのボトルにキャップを締めてテーブルを滑らせた。

「教授、一日は長い。良かったらお持ちください」

「これはありがたい」

ボブゥーはまだ七分ほど中身の残っているボトルを屈託なく手元に引き寄せた。

――そして、キリコが呼ばれた。

「おう、キリコ曹長よく来てくれた」

「……」

応答もなく立つキリコに大佐は前の三人にもまして上機嫌に問いかけた。

「昨夜はよく眠れたかな? ATのコクピットよりはベッドのクッションを柔らかくしておけと言っといたのだがな」

「……」

「AT乗りの無口はどこでも同じと見える。ハハハハハ、わしは気にせん。ハハハハ、聞きたいことがあってきてもらった」

「……」

無言のままのキリコに、

「わしの一般アストラーダ語はどうかな? 意味は通じているかな? そこそこだとの自信はあったんだがな」

「よくわかる」

やっとキリコから言葉が出た。

「そうかそうか安心した。ハハハハ、良かった良かった」

大佐はくつろいだ雰囲気のままそろりと要件に入っていった。

「あのルーという少年のことだが……」

「……」

「神の子だという話だが、本当なのか?」

「……さあな。俺には解らない」

「解らない⁉ 育てていながら解らないというのか?」

「育てているだけだ」

「神と、…ワイズマンと約束したのだろう、後継者を養育すると」

「後継者を養育するなんて言ってない。ただ赤ん坊を育てると言っただけだ」

「赤ん坊を育てる。育てるって、どういう意味だ?」

「そのままだ」

「そのままって……キリコ曹長、君のいう育てる、というのは?」

「飯を食わせて、いろいろ教えて、大きくする」

「……」

今度は大佐が黙る番だった。キリコの答えはあまりにもそっけなくシンプル過ぎて、反応を起こすのに一瞬の戸惑いを呼んだ。

「……なるほど、理屈だ。育てるとはそういうことか……」

「キリコ曹長」

ジュモーラン大尉が口をはさんできた。

「チャイルドは自分でメッタリアと名乗ったそうだが、メッタリアとはこの惑星では古より超絶者という意味合いで捉えられており、神にもなぞらえられる存在だ。チャイルドは自分で神の子と認識しているのでは」

「あれは一種の方便だ。俺たちはヴァンバララッサの高原で遊牧の民の歓待を受けた。彼らは宇宙から来たメッタリアを歓待しているつもりだった。その意に沿ってルーがそう名乗っただけだ。他意はない」

「しかしテグサンたちはそこに信ずるに値するものを見た。違うか」

「……」

「ボブゥー教授によればチャイルドは、天才の上を行く能力を持った存在だという。パスダード艦長もクロムゼンダー少佐も同様の印象を持っているようだ。つまりチャイルドは人間を超えた……」

「個人の能力などどんなに優れていてもたかが知れている」

「しかし曹長!」

なおも続けようとするジュモーラン大尉の言葉を大佐が遮った。

「ご苦労だったキリコ曹長。まだ疲れが残っておるだろう、下がって休んでくれ」

キリコがドアーの向こうに消えるのを待って大佐が呟いた。

「あれが、神殺し…触れ得ざる者と言われた男か……」

「奴はどこか反抗的です。このまま放っておいては…」

何か言おうとするジュモーラン大尉の言葉を、

「さて……」

さりげなく抑えた大佐が言った。

「メッタリアに拝謁するか」

ルーが呼ばれた。

「何と呼んだらいいのかな? チャイルド。ルー。メッタリア?」

「ルー」

「ふむ、名付け親はキリコ曹長かな」

ルーがこくりと頷く。

「どんな意味があるのかな?」

目の前の少年がいきなり、

「ルーー‼」

と叫んだ。そして付け加えた。

「呼びやすい。良く聞こえる」

「なるほど」

大佐は資料にあった北の荒野での二人の生活を思った。

「キリコは良く食わせてくれましたかな?」

ルーはこくりと頷き、

「グドーンも」

と付け加えた。

「グドーン?」

聞き返す大佐にジュモーラン大尉が耳打ちする。

「惑星ラドーの北極圏に住む老人です」

「ふむ。……キリコ曹長はルーに色々教えてくれましたかな」

ルーはこくりと頷き、

「グドーンも」

と付け加えた。

「ふむぅ……言葉通りか、食わせて、いろいろ教えて……」

大佐は少年を見て言った。

「そして、大きくした」

大佐の視線の先の少年の身長はすでに育ての親のキリコに近づいていた。

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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