『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第35話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第35話

 

「あんたから声が掛かるとは、予想もしていなかったぜ」

「ふん、そうだろうな。だが、誰にでも使い道ってものがある」

「それって、ソルティオのことか」

「勘がいいな。やっぱり楽をしなくてよかった」

ロビーを抜け外に出るとバギーカーが止まっていた。

「乗ってくれ」

バニラが助手席を指した。

「世話になる」

ロッチナが慎重に黒衣をさばいてバギーに乗り込んだ。

シュクーを走りながらバニラが質した。

「楽をしなくてよかったとはどういう意味だ」

「ソルティオならわしの話にはすぐ乗ってくれたろうが、あとであんたが知ったら障害になると思ったのさ」

「ふん。考えが深いな」

バギーはほどなく市内の一等地に構える豪壮と言えるほどの邸宅の門をくぐった。

充分な長さのアプローチを抜け玄関前の車寄せにバギーが着いた。黒衣をさばきながら降り立ったロッチナが建物を見回しながら言った。

「ここの当主が客を迎えに来るのにバギーカーとはな、運転手付きのリムジンでもよかろうに」

「ふん、俺はこっちの方が合っているんだ」

出迎えのグレファローズを先頭にした使用人達に軽く手を上げ、

「ああいい。俺が案内する。――こっちだ」

バニラはロッチナを先導してロビーを抜け自分の執務室に入った。

「座ってくれ」

接客の為のソファーを指さした。

「何を飲む?」

「アルコールはいい、茶をくれ」

バニラがインターホンにビールと茶を言いつけた。

「話を聞こうか」

「二人でか?」

「ああ、他の者は呼ばない。聞けない話なら、余分な波風を立てたくない」

「そうか、そうだな」

飲み物が来るのを待ち、使用人が去るのを待って、バニラが話を促した。

「何を企んでる。さあ話せ」

「そう急かすな。話せば長くなる。もっともお前にも興味のある話だ」

「俺にも……」

疑り深い目をしたバニラがビールに手を伸ばした。

「キリコと神の子の話だ」

「なにぃ‼」

口元でビールグラスが止まった。

「それ見ろ、フフフフフ」

それからのロッチナの話は要を得て的を射ていた。

「つまりだ。わしをキリコとチャイルドのところへ連れて行ってもらいたいという話だ」

「う―――ん! やっぱりキリコは神の子を育てていたのか!」

「情報を分析すれば、神の子は肉体的にはキリコと同じかそれを越しているかもしれない。精神は解らぬが知能は並みでなく千年に一人の天才だそうだ」

「その二人が消えた⁉」

「移送の軍艦ごとな」

「いったいどうして? 何があったんだ?」

「それを知りたいのさ」

「う―――ん」

バニラはぬるくなったビールを舐めるように飲んだ。そして、

「艦が消えたのは、何処だって?」

「トロックフーブ宙域北端部だ」

壁のモニターに宇宙図が映し出された。

「トロックフーブ宙域北端部だってぇ……」

宇宙図がスクロールされトロックフーブ北端域がアップされた。ややあって、

「あっ⁉」

バニラが小さく声を上げた。

「そうか! それでソルティオを!」

ロッチナがしたり顔でにんまりと笑みを浮かべて言った。

「蛇の道は蛇、だろうが」

バニラがさらに宇宙図のスクロールとアップを続けた。――そして、一点で止めた。

「消失の惑星グラッセウス!」

「そうだ、グラッセウスだ。以前はお前も、バニラ商会もこの星と取引していた」

「だがこの星は突然消滅した、宇宙から消えた」

「星一つが忽然と消えた、爆発も無しでだ。むろん普通に考えてそんなことはあり得ない。百年戦争のさなか惑星グラッセウスは重要な戦略地域ではなかった。だからと言って両陣営が放っておくものでもない。ギルガメスもバララントもそれなりの干渉はしたが、惑星グラッセウスはどっちつかずのままに終戦を迎えた。それからこの惑星は統一権力を持たぬままに群雄割拠の様相のまま数十年を過ごした」

「その頃だ、俺たちが商売をしたのは、ずいぶんと稼がせてもらった」

「消えた惑星、あり得ない珍事、両陣営も随分とこの星を探した。だがなぜか消息がつかめない。それだけでなく捜索の犠牲も増えた。いつの間にかアストラギウス銀河における不思議の一つとして消失の惑星の名が定着した。今はめったなことにも話題に上らない」

「ビール!」バニラがインターホンに怒鳴った。

「わしも貰おう、のどが渇いた」

ビールが届き、また二人だけになったのを見定めて、

「国家だろうが軍だろうが他の連中はいざ知らず、わしたちは惑星一つが訳もなく消えるなどということは信じない。そうだろうがバニラ・バートラー」

言い切ってロッチナがビールグラスを呷った。

「ワイズマン……か?」

バニラがロッチナに正解を求めた。

「神だ。神にしかできんことだ」

「消失の惑星に、キリコが…」

「神の子もな」

「何のために?」

「行ってみなければ分かるまい、消失の惑星、グラッセウスに!」

「それでソルティオに」

「ああ、奴には若さと野心がある、いやとは言うまいと思ってな」

「ふん。見くびられたもんだ」

「行ってくれるか」

「行かいでか‼」

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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