『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第36話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第36話

 

インターホンに向かってバニラが吠えた。

「ソルティー、すぐ来い!」

声の勢いに見合う速さでソルティオがやって来た。そして、

「あなたは‼」

と絶句した。

「久方ぶりじゃな」

ロッチナにしては穏やかな笑みを浮かべた。腰こそ挙げなかったが黒衣の袖から両腕がゆったりとソルティオに向かって差し出された。その腕を激しくつかみソルティオが叫ぶように訊ねた。

「お久しぶりです! 何用あってグルフェーへ?」

「それだがな…まあ親父さんから聞いてくれ」

ロッチナはしたり気にバニラを振り返った。

「ふん」

バニラは軽く鼻を鳴らして、

「どうやらお前さんたちはエラク気が合うようだな」

と言って、ソルティオにも腰を下ろすように掌を振った。ソルティオはソファーのどちら側に座るか一瞬迷ったがバニラの隣に腰を下ろした。

「ソルティー、お前は惑星グラッセウスに詳しかったな」

ソルティオの表情が僅かに曇った。

「隠さなくったっていい。お前がグラッセウスと結構な取引をしていたのは知っている」

「……」

「商売をするのを咎めちゃあいねえよ。だがバニラ商会は兵器の類は扱わねえのが、大層にいやあ社是だ」

「俺だって武器弾薬の類は!」

「ポリマーリンゲル液だって十分にヤバい」

「あの星のポリマーは不安定でやたらめったら事故が起こって、兵員の死傷が絶えないからって、それで!」

「まあいい。そのことをとやかく言う為にお前をここに呼んだんじゃあない。実はその惑星グラッセウスだが…」

「あの星は消えちまったよ。今じゃこの宇宙に存在していない」

「喪失の惑星ってか、ハハハハハ、世間の奴らはともかくこの俺っちがそんなことを信じると思ってるんじゃあるまいな」

バニラはソルティオを鋭く睨み、

「ロッチナの旦那も言ってる、蛇の道は蛇だ。ソルティー、俺の目を盗んで何回も商売に出かけているお前ならグラッセウスがどこに隠れているか知ってるはずだ」

「……」

「グラッセウスとの商売のことを今はとやかく言っちゃあいねえ、聞いているのは行けるか行けねえかだけだ」

「軍だってグラッセウスのことは…」

「ロストしたってんだろう、ハハ、俺たち商売人はそれほど甘ちゃんじゃあねえ。言いたかあねえが、お前は俺に一番似てる。お前は知ってるはずだ。いいや、いずれまたあの星は商売になると踏んでるはずだ」

「……あの星はヤバいものに囲まれて、何だか知れないが突然通信も何も、この世から遮断されてしまったんだ。軍の船もあの辺りを探し回った挙句相次いで遭難する始末だ」

「ヤバいものってのは?」

「うちの船と同じくらいの質量を持つ円筒状の浮遊体だ」

「円筒状の浮遊体⁉ ……ははあ……」

バニラの顔色を読んだソルティオが、

「親父、心当たりがあるのか?」

「ああ、その昔な。ふん、まさに神隠しだ」

「だろう」

ロッチナが再びしたり顔でバニラに頷いて見せた。

「なんなんだよー。二人して意味ありげに、ちゃんと話してくれよー俺にも!」

「ソルティー、すぐに出航できるように船の支度をしろ」

「船の支度って⁉」

「グラッセウスへ行く」

「あの星に行くのはヤバいって!」

「本当にヤバい奴は星の上にいるんだ」

「本当にヤバい奴って?」

そのソルティオの質問にはロッチナが答えた。

「キリコだ。キリコ・キュービー」

「キリコ・キュービー、あの! ここで黒い稲妻とやり合った⁉」

「そしてチャイルドも一緒だ」

「チャイルドって⁉」

「神の子。……ワイズマンの後継者だ」

「ワイズマンって……」

「ソルティー、行くのか行かねえのか? お前が行かねえんなら!」

バニラが椅子をける勢いで立ち上がった。

「おっとー! 危ないことに目がないのは親譲りってね。半日もあれば銀河のどこへなりとすっとんで行けるようにするぜ!」

飛び出そうとするソルティオの耳元にバニラが一言囁いた。

「了解!」

ソルティオを見送ったバニラが改めてソファーに腰を下ろした。

「……ところでロッチナの旦那、何でそんな星に二人が?」

「わしもそれが知りたいのさ。神が隠していた星にわざわざ呼び寄せる。意味があるに決まっている。それが、何なのか、わしは知りたい」

「……」

「……」

疑問と思索に部屋の空気が固まりかけたその時、

「何の悪巧みだあ―ー!」

胴間声が部屋の空気を揺すった。

「とっつあん⁉」

入って来たのはゴウトだった。と、次いで、

「お客様って、誰かと思えば誰でしょう! アレレのレー!」

「ココナ!」

二人はロッチナを挟むように左右からソファーに座った。挟まれたロッチナは右を見て左を見て、ぼそりと呟いた。

「二人共、老けたな」

「言われたくはねえや、おめえこそそんな辛気臭い格好をしやがって!」

「そうよ! 坊主みたいな恰好をしたって業の深さは隠せやしないよ!」

「ハハハハハ、二人ともジジイになろうがババアになろうが向こうっ気の強さは相変わらずってところだな」

「何をっ!」

「何よ!」

いきり立つ二人をバニラが抑えた。

「まあまあまあ、まずは落ち着きなよおー二人ともー」

「これが落ち着いていられるかってんだ。バニラ、おめえはアストラギウス銀河一のお人好しだ。比べてこいつはアストラギウス銀河一の腹黒男だ」

「そのお人好しがみすみす騙されるのを、配偶者としては黙って見ちゃあいられませんってのさ!」

「配偶者⁉」

「ヨメさんてこった」

「間違いないでしょ」

「まあまあ、そこんところは間違いない。銀河一のお人好しも、銀河一の腹黒も間違いないとして、今回は利害が一致したんだ」

「利害が一致したあ?」

「どんな?」

二人の疑問にバニラの声とロッチナの声が重なって答えた。

「キリコに会いに行く」

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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