話題作誕生の秘密とは!? バンダイキャンディ「スーパーミニプラ」開発者インタビュー!<前篇>
発表後、たちまち話題沸騰となった「スーパーミニプラ 戦闘メカ ザブングル」。電撃ホビーウェブ編集部では、この大型新アイテムの企画を担当した田中宏明氏(バンダイキャンディ事業部)と、実際の設計を手がけた柳沢 仁氏(アーミック)のおふたりにお話をうかがいました。
大ボリュームのインタビューとなったため、本日(1月29日)、明日(1月30日)の2日連続更新! 前篇となる今回は、企画の成り立ちから製品としてのツボなど、ホビーファンにとって気になるポイントを貴重な画稿と共にご紹介します!
【Profile】
田中宏明(たなか・ひろあき) |
現バンダイ キャンディ事業部 玩具菓子チームマネージャー。多くのハイターゲットトイの開発を担当し「超合金魂」「ROBOT魂」シリーズなどにも深く携わる。 |
柳沢 仁(やなぎさわ・ひとし) |
アーミック取締役。「ROBOT魂<SIDE AB>」シリーズや、R3「ウォーカーギャリア」などの開発に携わる。 |
■「スーパーミニプラ 戦闘メカ ザブングル」への道
――本日はよろしくお願いいたします。さて、話題沸騰の「スーパーミニプラ 戦闘メカザブングル」の話題の前に、まずはおふたりが今までに関わったアイテムを教えていただけますか?
田中宏明氏(以下、田中):
10年ちょっと前、トイ部門のハイターゲットチーム(現コレクターズ事業部)に所属して、「超合金魂」をはじめ大人向けトイを担当していました。その時に「超合金魂」の「ザブングル」「ウォーカーギャリア」「アイアンギアー」をデザイナーの加藤大志さん(※1)と共に手がけています。あとロボット繋がりだと「魂SPEC」シリーズや、「ROBOT魂」の『機動戦士ガンダム00』、『コードギアス 反逆のルルーシュ』、『フルメタル・パニック!』などですね。ロボットものはとにかく幅広く担当していて、バンダイの中でも、担当した作品の幅はかなり広いほうかなぁと思います。ロボットアニメに関しては’70年代の作品から現在に至るまで、浮気性な感じで、守備範囲を広く(笑)。
(※1:フリー玩具デザイナー。アニメーターとしての経験を経て1991年(株)プレックスに入社。戦隊ロボや超合金魂シリーズのプロダクトコンセプトデザインを担当。「超合金魂 ザブングル」では、完全変形の機構提案とプロダクトスケッチを行い、同シリーズの「ウォーカーギャリア」「アイアンギアー」他、現在も多くのロボットトイを手掛ける。2001年からフリーデザイナーとして活動。)
田中:
2014年にキャンディ事業部に異動してからは、柳沢さんと一緒に「ネオ・ジオング」から始まった「アサルトキングダム」(※2)の大型アイテムなどを担当しています。マネージャーという立場ですし、シリーズ全体のメイン担当でもないので、今はたまにちょっかいを出して自分の好きなことをやるという……仕事としてはちょっと、不届き者な感じですけど(笑)。
(※2:バンダイキャンディ事業部が展開する食玩シリーズ。全高:80ミリ程度のサイズながら高いアクション性能を実現した高い人気を誇る)
――お二人はすでに「アサルトキングダム」の大サイズアイテムでタッグを組まれているんですね。その柳沢さんは、今までどんなアイテムを……?
柳沢 仁(以下、柳沢):
けっこう年なんで、いろいろと(笑)。私個人としては、創刊当初の電撃ホビーマガジンさんや、その前身の情報誌・B-CLUBさんでライターをしたこともあるんです。あわせて玩具などの企画開発を手掛けるアーミックという会社に所属していまして、そちらで主にホビー事業部さん、コレクターズ事業部さんといっしょにお仕事をしています。
コレクターズ事業部さんとは、ROBOT魂の『聖戦士ダンバイン』シリーズなんかを手がけました。『ザブングル』関連でいうと……じつは、10年前にホビー事業部さんから発売された、R3シリーズの「ウォーカーギャリア」にも携わっていたんです(笑)。
―― そうなんですか!
田中:
そうなんです(笑)。それぞれが別のラインで10年前にもザブングルの一時代を作っていたんです、超合金側とプラモ側で。
柳沢:
田中さんとは数年前から「『ザブングル』のアイテムをやりたいよね」という話をして、ノリノリになってたんですけど、その直後に田中さんがキャンディ事業部に異動されたため、その話は流れてしまったのです。でも、田中さんとはキャンディ事業部でも一緒に色々とやることになりまして。そこからまた「ザブングルをやろうよ」となり、「ああ、これはもうやらなきゃ」と(笑)。
――10年たって、改めて超合金魂とR3のザブングルチームが合流したんですね。それで、「これはいける!」と。
田中:
はい、もちろんです……もしかしたら、「いける!」と思っていたのはキャンディ事業部では僕だけかもしれないんですけど(笑)。
■なぜ2016年に『戦闘メカ ザブングル』?
――さて、さまざまなロボットアニメのなかで、今回はザブングルをチョイスした理由はなんだったのでしょう。
田中:
じつは最初は「スーパーミニプラ」ではなかったんですよ。この企画。
――そうなんですか?
田中:
まずは「アサルトキングダム」シリーズでサンライズアニメのロボットを立体化する、という企画を柳沢さんと進行していたんです。そこでも、まず最初にザブングルをお願いしていました。僕としては「超合金魂ザブングル」のころから、『ザブングル』ファンの反応に、非常に強い手応えを感じていましたから。
柳沢:
当時の企画だと、小サイズのザブングルから始まるサンライズロボのシリーズということで、ほかにも『聖戦士ダンバイン』や『重戦機エルガイム』などができたらいいな、と。
田中:
で、実際に試作があがったときに、柳沢さんのほうから「もうすこし大きなサイズのほうが楽しくないですか?」って(笑)。
柳沢:
いやいやいやいや! サイズは田中さんからのご提案ですよ!(笑)
田中:
どちらから出てきたかはともかく(笑)。やはり小サイズでは、どこか物足りない。あわせて、仮に「アサルトキングダム」のフォーマットで『ザブングル』を出した場合、一個一個がすごく割高になってしまう可能性がある。そこでほかのバリューの出し方を模索することになったんです。そのときに頭の中にキャンディ事業部の「ミニプラ」が思い浮かびまして。
この「ミニプラ」というのは非常に秀逸なフォーマットで、複数に分けて販売されているメカを合体させて、ひとつのロボットが完成するんです。僕らの世代だと、昔懐かしのアオシマさんのキットのイメージですね。今も昔も通用する、強いフォーマットです。これで何かできないかな、という考えがずっと心の中にあったんですが、分離変形合体のできるザブングルなら、この「ミニプラ」のフォーマットともしっかり合致する。それで「やろう!」となりました。
柳沢:
最初はサンライズロボ全般をリリースする、という話だったのが、ここで急にザブングル一本になったんで……正直をいうと、「大丈夫かな……」と心配ではあったんです。田中さん、平気なのかなと(笑)。
僕としては、この「ミニプラ」のアイデアは面白そうだったのでぜひ形にしたかったんです。そこで最初のプレゼン用に、他のアイデアもお渡ししたんですよ。それと『ザブングル』でプレゼンにかけてもらえるように。で、結果を聞いたら「いや、満場一致でザブングルになりました」っていう話で、「えっ!?」って(笑)。すごい話だ、と思ったんですけど、実際に色んな人から話を聞くと、何か、どうも、ちがうみたいな……。
田中:
企画会議に提出した資料なんですけど、明らかにザブングルのほうが分厚く作ってしまいまして。その会議で「こっちがやりたいんだよね?」ってなってすぐに決まりました。ただ、僕の上司が苦言を言うんです、「……ホバギーが入ってないじゃん」と(笑)。普通、上司ってもっと別のことで反対すると思うんですよ、「これが売れる根拠は何?」とか。
柳沢:
「採算にあってるのか」とか。いやー、いい職場ですよねー。
田中:
上司はキャンディ事業部のゼネラルマネージャー・・・要するにトップなんですけども(笑)。同じく『ザブングル』世代なので、凄くこだわるんですよ。試作を見て、「キャノピー、クリアーじゃないの?」って言ってきたり(笑)。「お前のザブングル愛はこんなものなの?」くらいの勢いで言ってくるので、見返してやろうと(笑)。
―― みんなで一丸となってこのステキな立体が……。
田中:
いや、それだと僕と上司と柳沢さんしか一丸になってないじゃないですか(笑)!
最近、受注が好調なんですけど、それを見た社内の他のメンバーから「本当に売れるんですね!」っていわれて、「え、売れると思ってなかったの……」とショックを受けるという……(笑)。後で聞くと、僕ら以外のメンバーは「ざぶんぐる……?」ってポカンとしていたらしいです。
まじめな話、セールス面で言うと、超合金魂とR3の数字は、会社の実績として残っているので、そのユーザーが改めて買う、という前提に立てば、数字の根拠はあったんです。
柳沢:
キャラクター的にも、やっぱり強いと思うんですよ『ザブングル』は。ロボット作品の中でも、富野由悠季監督作品でメジャー級。時代としても、『ガンダム』『マクロス』に次ぐ作品ですし。
田中:
無謀な暴投をしてるつもりじゃなかったんですけど、あの、周りから見ると「何をやっているんだろうこの人は」っていう……(笑)。
―― そういう経緯があって、あらためて、完成品ではなく、キットというかたちで企画がスタートしたと。
田中:
『ザブングル』については、昔のキットに対するこだわりをもっている濃いファンがたくさんいるという確信めいたものはありました。今もキットが再販されるたびに人気になりますし。
一方で、10年前の「超合金魂ザブングル」や、R3の「ウォーカーギャリア」によって、ファンの皆さんが満足してしまっている可能性はある……! ということを、唯一心配していたんです。僕自身、超合金魂でやりきったと思ってたぐらいだったんです。でも柳沢さんと話をしていて、そんなことはないな、と。
柳沢:
「ザブングルの変形・合体するキットってないですよね」っていう話になって。『ザブングル』のキットは傑作ぞろいで、機種・スケールを問わず素晴らしい仕上がりなんですよ。ただ、当時のザブングルは1/144も1/100も変形合体が再現されてなかったんです。R3でもザブングルはリリースされませんでしたし。唯一、完成品の「超合金魂ザブングル」だけが変形合体できる。その再現と、湖川友謙さんの画稿の、肉感的な面取のザブングル。それを両立したプラキットを、ぜひやってみたいというお話をさせていただきました。
田中:
そこで「ザブングルのキットってちゃんとリニューアルしてもいいんじゃない?」となりまして。
フタを開けてみれば、凄い大反響で。そこは安心というか、嬉しかったですね。ああ、みんな、ザブングルが欲しかったんだ、と。
あとは、柳沢さんが「食玩だからこれくらいにしておいたほうが良いんじゃないですか?」っておっしゃるのを「いや、もうちょい……もうちょい……」とやってて、気付いたら、サイズも仕様もゴージャスになっていました(笑)。
■「スーパーミニプラ」の仕様に迫る! (パーツ分割篇)
――成り立ちとコンセプトをお聞かせいただいたところで、いよいよ商品の「ザブングル」について詳しくお聞かせください。
柳沢:
田中さんの作られた超合金魂という存在があったので、あれに勝るとも劣らないモノにしたい。ほぼ同じサイズの立体物ですので、どう差別化しつつ魅力あるモノにできるか、というところがやはり難しかったです。そのあたりを考えて、今回、変形は思い切って差し替えにしました。コスト的な面もありますが、設定通りの変形を再現すると、脚の側面のウイングの形が劇中と違うものになる、という理由が大きいですね。ここを差し替えとして割り切ったことで、劇中同様のシルエットが再現できたんです。これは一例ですが、そんなかたちで全体的にシンプルに、且つそれぞれの形態をベストな形にもっていけたかな、と。
田中:
僕も、超合金魂のザブングルを手がけていたので、完全変形を求めたときのメリットもデメリットも分かっていました。なので、今回はあえて差し替えで、ウォーカーマシンとしてのザブングルの魅力を出したい、というコンセプトになりましたね。実際に手に取っていただけると伝わると思うのですが、差し替えの割り切りが、結構面白いんです。ブングル・スキッパーになったとき、胸部で車高を調整するための割り切りはけっこう秀逸で、見所ですね。
柳沢:
ザブングルは、タイヤの移動とその位置関係がとくに複雑なので、変形させようとすると、やっぱりヒンジの上下関係も煩雑になっていくんです。中途半端にやると、ヒンジを配置したうえに、差し替えのパーツも必要になってしまう。なのでしっかり割り切って、「これくらいはいいだろう!」とガンガンガンガン押していった、という感じです。
田中:
その設計の妙は、手に取ると「こう来たか! でも、こういう差し替えって、食玩だったらアリだな!」って思ってもらえるんじゃないかと。ちょっと大胆なアイデアに笑ってしまったというか。是非、楽しみにしていてください。
――超合金魂をふまえたうえで、もうひとつの決定版! というわけですね。
柳沢:
そのつもりではあります。
田中:
もともと超合金魂でも、1/144スケールのプラモデルと並べる、ということもイメージはしていたんです。とは言え合金トイとして旧クローバートイのブラッシュアップがメインのテーマでした。おまけのブラッカリィは、完全にプラキットのつもりで作ったんですが(笑)。
柳沢:
トイとしてのギミックをメインとする超合金魂。対して、これはミニプラということで、プラモデル的な商品。どちらも決定版といってもやはりアイテムとしての方向性の違いはあると思います。
こちらとしては、やっぱりユーザーの皆さんが手を入れていただいて、好みの形にできる素材というのが重要なポイントですね。このスーパーミニプラを、塗装や改造の素材として見ていただければ、っていうところもありますね。
田中:
成形色の段階で色分けはけっこうされているので、上級者でなくても、シールと成形色で、劇中イメージに近いものが仕上がります。赤と青と白とグレーはほぼパーツで色分けされて、一部のラインや黄色をシールで補うかたちですので、最近のキットに慣れている方であれば問題なく組み立てられると思います。
―― かなりしっかりと色分けされているんですね。
田中:
赤色の部分を別パーツにするかは最後まで悩みました。最初の成形色は青と白だけだったんです。でも、ザブングルのキットを作った当時、僕は筆塗り塗装だったんですが、青の成形色には赤は乗らなかったなー、という記憶が蘇りまして(笑)。後は胸の部分など、赤いシール貼るにしても、かなりテクニカルな部分もあるな……という理由で、赤い箇所に関しても、最低限の分割はすることになりました。タイヤガードの赤いラインはシールなんですけど、ここは貼りやすいからいいかな、と。どうせ自分も買うんですから、そのときのことも考えて製作しています(笑)。
――なるほど。ちなみにキットはスナップフィットで……?
柳沢:
接着剤は不要です! 食玩なので(笑)。
――さて、モデラーの方の中には、材質が気になっている方もいらっしゃると思いますが。
田中:
材質はPSという、ガンプラなどとおなじ材質ですので、加工も塗装もやりやすいかと思います。これもキャンディ事業部では異例で、あんまり使わない素材ですね。
柳沢:
僕もまだキャンディさんのPS素材の製品は見たことがないので、期待しています。やっぱりABSとPSだと素材の違いで、PSのほうがディテールが綺麗に出やすいんですね。流動性の違いで、きっとその素材の部分でのこだわりも、今までの常識を覆すような食玩になるのではないかと思います。
田中:
ドキドキしますね(笑)。普段は対象年齢のこともあって、頑丈で柔軟なABSを使っているんですが、これは値段も含めて、大人が買うアイテムだよね、ということでPS素材を使うことになりました。関節部分もポリキャップではなく、PS素材です。ここは……すみません(笑)。
――なるほど。関節はPS製なんですね。
(後篇へ続く)
……というわけで、お届けしたインタビュー<前篇>はいかがでしたでしょうか?
さらにもっと詳しい仕様が知りたい! という方や「ギャロップタイプやトラッド11は!?」という熱い『ザブングル』ファンの方は、明日(1月30日)10時更新の<後篇>をご覧ください!
さらにディープなお話はもちろん、皆さん気になっている「スーパーミニプラ」の次回作の話題もありますよ! お楽しみに!
■インタビュー:佐野達郎/電撃ホビーウェブ編集部
<DATA>
スーパーミニプラ 戦闘メカ ザブングル
■PS(ポリスチレン)製組み立てプラキット/ガム(ソーダ味)付属
■全高:125ミリ(ザブングルWM時)、55ミリ(トラッド11タイプ/ギャロップタイプ)
■価格:各850円(税抜)
■発売元:バンダイキャンディ事業部
<関連情報>
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