『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第40話

『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第40話

 

ここはアストラギウス銀河に散らばる民間の乗継宇宙港である。普通、大型の軍艦などのようにハイパードライブエンジンを持たぬ船はこの乗継港で他の宙域に跳ばしてもらう。バニラ商会の船は通常宙域での船足は抜けた力があるが遥かな宙域に足を延ばすには乗継港を使わざるを得ない。

「ここを出れば惑星グラッセウスは目の前です」

ソルティオがロッチナに告げた。

「ソルティー、ずいぶんとなれた物言いだな。お前はそんなにここに通っていたのか」

バニラが皮肉っぽくちゃちを入れるがソルティオはそれには答えず、

「ミスタージャン、座席についてください。まもなく跳びます。それなりのショックが」

とロッチナに注意を促した。

「うむ」

ロッチナが所定の席に着くや否や船は乗継港から惑星グラッセウスのあるトロックフーブ宙域北端部へと放りこまれた。

船が安定すると前方にフローターベルトが広がっているのが確認された。

「ソルティー、お前の腕の見せ所だ」

バニラのセリフに、

「任せろって、ダテに親不孝はやっていねえぜ」

言うだけあってソルティオの腕は確かで危なげなくフローターベルトを抜けた。惑星の軌道上を回りながら飛び交う情報を分析した。結果は、

「ここだ。この、タブタブレイ・ニプニィー聯武国に降りてくれ」

ロッチナが言った。

「ロッチナの旦那、その心は?」

バニラの質問にロッチナの答えは簡潔で明瞭だった。

「情報の中で際立ってるのが『メッタリア』という言葉だ。メッタリアとは通常アスタラーダ後に直せば“超絶者”という意味合いになる。チャイルドは多分この惑星ではメッタリアと呼ばれているのだろう。そのメッタリアは今このタブタブレイ・ニプニィー聯武国にいるらしい」

「なるほど」

バニラが頷くとロッチナはさらに続けた。

「そのメッタリアが現れたことでこの数百年眠っていたような星が揺れている。キナ臭い。まことにキナ臭い。キナ臭いと言えば…」

「キリコか! なるほど、そういうことだな」

バニラも納得した。

「ソルティー、聞いたか。降りるのはタブタブレイ・ニプニィー聯武国だ」

「合点承知! ハハ、ジジイとばかり話してるとこっちも言葉が変になる」

ソルティオはかつて知ったるとばかりに船をタブタブレイ・ニプニィー聯武国の宇宙港へと向けた。

 

 

その頃、ブローザン・ヒルはキナ臭いどころかどんな生物の呼吸をも許さぬほどの凶悪な大気の充満に喘いでいた。そこはあたかも、どんな金属をも切り刻む巨大な旋盤台のごとく群がるATの破壊を呼んでいたからだ。互いが放つ徹甲弾が鉄の鎧を突き抜け爆発と共にその内臓をぶちまけあい、その活血であるところのポリマーリンゲル液をまき散らす。

作戦の目的は各軍共に単純だった。

『ヒルトップの碑文を確保せよ』

このゲームは各チームともにオフェンスもデフェンスも関係なし繋ぐボールなどなく、ただただ辿り着くべきゴールだけが設定されているそれだけのゲームだった。互いがひたすらつぶし合い引き裂き合いゴールを目指す。

犇めき鬩ぎあう熱狂の外にその一人だけがいた。

「メッタリア、なぜ戦わない? なぜヒルトップを目指さない」

ジュモーラン大尉の声がヘルメットの中に響いた。

「ケンをしてるのさ」

答えたのはチャイルドだった。チャイルドの率いる一個中隊はルート中ほどでその動きを止めていた。

「ケンだと!? ケンとは何だ?」

「ケンは――見さ。キリコがやってた」

答えるチャイルドの声には昂ぶりの欠片も無かった。チャイルドはあのバトリング会場でのキリコの行動を思い出していた。

「敵軍のデータは渡しているぞ」

「各軍のATの性能、銃器の威力、過不足なく入っているけどね。不確定要素も多い。中でも各軍のエースの力量が分からない。もう少しケンする」

ジュモーラン大尉は『ケン』などという博打場の用語に戸惑いながらも、

「…だが、くれぐれも後れをとるなよ」

と念を押した。

(俺の明日が懸っている)

ジュモーラン大尉はすでになけなしのポケットマネーをはたいてチケットは買ってしまっていた。後戻りは無しだった。

「ん!!」

覗いていた双眼鏡のフレームの中でひときわ凄みを見せていたヘビー級ATスタンディングトータスが一瞬動きを止めグァッと膨張したのち閃光の中に消えた。

「あいつがやられた!?」

それは聯武国の隣で同じように軍事を誇っていたブランジン大公国の近衛のエースだった。その残影ともいえる黒煙をくぐってぬっと現れたのは、

「出たっ!!」

ブランジン大公国のそのまた隣のギャッタール首長国の音に聞こえた特殊陸戦隊のエース“肉食う亀”だった。乗る機体はその名の通りヘビー級のスタンディングタートルだった。

「んんっ、こいつは見ものだ!」

しかも、タートルの行く手を遮ったのは聯武国の南隣のジャコメール教律国の護教軍のエース“赤い蠍”だった。機乗するのはドッグ系の改造機で背後のバックパックに特殊銃を装備する。

「いよいよエース戦か!」

ジュモーラン大尉の双眼鏡の中で両者はじりじりと間合いを詰めた。

「メッタリア! 見てるかエース戦が始まるぞ」

ジュモーラン大尉の呼びかけに、

「楽しみですね。見たところお互いに手持ち銃器は打ち尽くして装弾の暇がない。白兵戦はAT戦の花です」

チャイルドの沈着な声が答えた。

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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