『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第42話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第42話

 

 

どちらの銃撃が早かったか、戦いはためらいもなく瞬時に始まった。

「さすがに正確だな」

襲い掛かる双剣の薔薇の機銃弾を交わしながらチャイルドは感嘆の言葉を漏らした。同じく、

「メッタリア、お前もな」

応じた相手の言葉にも実感がこもっていた。

ベルゼルガが持つのはGAT―40―Cアサルトライフル、チャイルドのスコープドッグが持つのはGAT―22―Cヘビィマシンガン改。数合の撃ち合いの後、

「打ち合いは無駄だ」

「そのようだな」

互いの銃弾は髪の毛一本の隙間を残し後方に流れていく。弾速、弾道など互いの武器の性能が分かれば二人にとって銃弾を避けるのは容易な事だった。

「AT戦の花は白兵戦と心得る」

「望むところだ」

両機の手元から銃器が離された。

「メッタリア、見ての通りこれが私だ」

淡紅色の機体の腕に繰り出された双剣が光った。

「薔薇に棘か」

言いながらチャイルドも両拳にナックルガードナーを装着した。

(酔狂な!)

じりじりと間合いを取る両者を見ながらジュモーラン大尉が歯噛みした。

(一騎打ちなどしなければ!)

チャイルドの想像される指揮能力を発揮すれば集団戦の勝利は固いと思われたのに、

(なんでまた好き好んで白兵戦などを!)

大尉には理解できぬ思いだった。

「おっ!」

両者の悪路走行用の強化ユニットが岩盤大地を抉り取った。一直線に合い寄る両機。ベルゼルガのひと際長大な左剣が突き出される。ドッグは身体を開いてその一撃を避けるが、剣の付け根の犬歯のような突起物が胸の強化装甲を裂いて流れた。ベルゼルガの動きは止まらない。行き違った瞬間その場で超信地旋回を掛け回転に任せて右剣が横なぎにドッグの右側面を襲った。

「うおっ!!」

大尉が思わず自分のことのように身をのけ反らせた。ドッグの機体が真っ二つ! と思われた。無理にでも右剣を避けようとすれば文字通り真っ二つであったろう、だがドッグは反対に僅かにベルゼルガに身を寄せた。剣を避け得たドッグはベルゼルガの右腕に吹っ飛ばされ5メートルも横に飛んだ。H級とM級の馬力の差は歴然だった。しかも攻撃は一瞬も止まらない。

「ふんっ! はっ!」

わずかにレシーバーに薔薇が発する音声が伝わる。同時に左右の剣が息つく暇もなくドッグの機体を襲う。チャイルドはその剣尖を複合超硬合金のナックルガードナーで受け止め受け止め呼吸を計っていた。と、

「メッタリア、大丈夫か? 応援を出すか?」

大尉には下がり続けるドッグ機が劣勢に見えたのだろう、じれた怒声がレシーバを揺るがせた。

「問題ない。それより碑文を記録しろ」

「何だと!?」

「汝らに告ぐ……」

「な、なんだと?」

「聞き返すな、私だって余裕はないんだ!」

ベルゼルガの双剣を掻いくぐりやり過ごし受け止めながらチャイルドが叫んだ。

「血の海におぼれ、血の河に流され!血の―ー」

「何だと、聞こえないぞ!」

「……辿り着いた頂の……五つの約定を、忘するるな!」

ベルゼルガの足が止まった。

「舐められたものだな。戦いの合間に碑文の解説か。だが――」

双剣の構えが変わった。

「私は手を抜かないぞ!」

双剣に今まで以上のパワーが満ちるのが感じられた。

「双剣、ライトグラインダー!!」

叫びと同時にどこがどう稼働したものかベルゼルガの双剣がぎらつく花冠となった。

「む!」

身構えるドッグに二輪の花が襲い掛かる。

「おわっ!?」

脇で見守るものにはそれは無数の火花を散らす閃光の塊に見えた。光の中ではクエント鋼の剣と複合超硬合金のナックルガードナーがしのぎを削っていたのだ。

「メッタリアー‼」

ジュモーラン大尉が安否を叫ぶが、

「そは……そは、攻めることを欲せず、欲せず……」

戻ってきたのは碑文の言の葉の連なりだった。

「色あるは尊く……それぞれに尊く……」

「ええーい、耳障りな!」

薔薇が叫んで機体に燐光を引かせて離れた。

睨み合うがごとき二機のAT、距離10メートル。

「あえて交わることを願わず、さらに言う……」

「ええーい、耳障りと言っておろうが!」

薔薇のいらだちに、

「すまない。しかし私たちはこの碑文ゆえに戦っている。双剣の薔薇、そなただって知っておいて損はなかろう」

「私はクエントの傭兵。雇い主との契約以上は何も望まぬ」

「――そうか、ならば聞き流すがいい」

「そうするとも!」

言うや双剣のうち左剣が盾に畳み込まれた。同時に右剣が腰だめに構えられ、その身がグッと沈み込んだ。その構えからは烈々とした一撃必殺の気が放たれ、淡紅色の機体が赫々と殺気に染め上げられたように見えた。

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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