『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第44話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第44話

 

 

「メッタリアは兵器廠でATをいじっている」

ジュモーラン大尉の答えにキリコは無言で、微かに頷くようなそぶりを見せた。

「ATをいじっている? どういうことだ?」

クロムゼンダー少佐が大尉に聞いた。

「興味を持ったんじゃないですか、ATに」

「興味を持った…とはどういうことか?」

少佐が重ねて聞いた。

「文字通りの意味ですが。まあ無理もないでしょう、あの才能であれば」

「才能!?」

少佐のオウム返しの質問に大尉が答える。

「ブローザン・ヒルの戦いは表向きは五か国の痛み分けということになっていますが、実際には我が軍の、いやメッタリアの圧勝といえたでしょう。いや、お歴々にもお見せしたかったなあ、ヴァンバララッサ天授王国の近衛機甲師団のエース双剣の薔薇との一騎打ちを」

「双剣の薔薇? 何やら美しい響きがありますなあその名には」

ボブゥ教授がのんびりした声を上げた。

「いやいや、名の響きとは裏腹にこの星では聞こえた凄腕のAT戦士でして、もっともネイティブグラッセウスではなくクエント人傭兵でして、クエント人ですので正確な年齢はわかりませんが、何とこれが見た目には十五か十六の凛とした美少女です。フフフフフ、メッタリアも多感な年頃、その辺りが影響したかどうかはわかりませんが、決着はつけませなんだ。もっともこれはもっと深い意味合いがあってのことかもしれませんが、フフフ」

大尉はお得意のしたり顔に笑いを含ませた。

「奥歯にものの挟まったような物言いはやめてもらおう。言いたいことがあればはっきりと言うがいい」

クロムゼンダー少佐が大尉を睨んだ。

「ハハハハハ、そうですな、物事ははっきりした方がいい。いいでしょう白状しましょう。私は自分の野心を満たすために故国ヴァンバララッサ王国を裏切りメッタリアを、この国、いや、ガラーヤン大佐に売り渡した。大佐と私の狙いはメッタリアを押し立てて近隣の諸国を支配するのが狙いです」

「野心家はどこにでもいる」

少佐が吐き捨てた。

「ですか。ハハハハハ、そこに不自然な落雷による碑文の出現です。導火線に火が付いたようなものです。案の定近隣五国がにわかに騒がしくなりました。ブローザン・ヒルを我が手にすればと誰でもが考えるところです。自分にしてもメッタリアを押し立てて一気にと心が逸りました。ところが、あろうことか頼りとするメッタリアが紛争の火種をあっという間に吹き消してしまった。いきり立って出兵した五ケ国のAT部隊は痛み分けという結果に満足して国に引き上げ、この辺りは三〇〇年の惰眠の続きに戻ろうとしている」

「結構なことではないか。まさに君たちが言うところのメッタリア、超絶者のなせる業ではないか」

パスダード艦長が口をはさんだ。

「冗談ではありませんぞ。このグラッセウスは銀河の平均的文明から三〇〇年がとこ遅れております。百年戦争の折も戦略的に価値無しとして捨て置かれ、今に至ってもAT一つ自ら作れる工業力も持てず、既得権者と老人権力者がぬくぬくと! この星に必要なのは安定ではなく騒乱なのです! 騒乱こそが」

「野心を太らせることが出来る。か」

「進歩も、発展もです!」

「そのあたりのことを君と議論するつもりはない。聞きたいことが他にあるんだろう。言ってみたまえはっきりと」

パスダード艦長が大尉を促した。

「ハハハハハ、そうでしたそうでした」

大尉はあっけらかんと気を取り直した。

「メッタリアのことなのですが。メッタリアは自分のことはルーと呼べと言っておりましたが、あなた方はチャイルドと呼んでいた」

「ふむ」

「こんな私でもアストラギウス銀河の重要な情報は入ってまいります。チャイルドとは…神の後継者のコードネームなのでしょう」

一瞬その場に沈黙が訪れたが、

「隠しても仕方がないだろう」

パスダード艦長がチラリと同意を取り付けるようにクロムゼンダー少佐に視線を走らせ後を続けた。

「君の言う通りだ。だが、あくまでチャイルドは神の後継者の可能性があるということだけだ。私たちは彼をギルガメスの軍本部へ移送する任についている。ギルガメスにとってもこのことは最大の関心事だ。この事を阻むものがいれば全軍が動く。分るな」

艦長は恫喝と言ってよい言葉を付け加えた。

「もちろんです。しかしそこまでは私でも解っていることでありまして、知りたいのはその先のことであります」

「何だ? 言ってみたまえ」

「はっ、そんな重要な人物を移送していながら、何で、この辺境の星グラッセウスに降りたのですか? わざわざ何で? そこのところが解りません」

「…………」

パスダード艦長の口から言葉が出なかった。クロムゼンダー少佐も口を開かなかった。やがて、

「導かれてしまったんだよ」

ボブゥ教授が隠してもしょうがないとばかりに肩をすくめた。

「導かれた?」

「そう、神に。まあそこのところはキリコに聞いた方がいい」

教授がキリコの方へ顔を向けた。その目を追ってキリコを見つめるジュモーラン大尉の目がギラリと光った。そして、

「神が導いた? 何で?」

食いつくように問い質した。

「神、というよりワイズマンと言わせてもらおうか」

キリコが重い口を開いた。

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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