『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第46話
『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第46話
「色々と面白い話が聞けるのではないかとわしは期待している。ハハハハハ、まあ、せいぜい失礼のないようお連れしろ」
宇宙港につくと何ともまとまりのつかない五人が待ち受けていた。ジュモーラン大尉は挨拶もそこそこに車に迎え入れた。
車内では互いに探り合うような空気のなか言葉も少なく、ほどなく車は宮殿についた。
「お待ちしていましたぞ御一行!」
迎賓の間で待ち受けていたガラーヤン大佐が大仰に両手を広げて迎え入れた。
「わしが当タブタブレイ・ニプニィー聯武国の国家革命指導評議会議長アルルバン・ガラーヤン大佐だ」
大佐の自己紹介を受けた五人がそれぞれに過不足ない挨拶をする。大佐とソルティオは旧知の仲のはずだがさりげなく初対面を装っていた。
挨拶が終わると大佐が手を叩いた。例によってどこの隙間から現れるのか数人のウエイターがありとあらゆる飲み物を乗せたトレーをささげて現れた。
「好きなものを飲んでくれたまえ、なければ言ってくれ10秒で用意する。わしはもっぱらこれですが、ハハハハハ」
大佐は言ってなみなみと注がれたガナハのグラスに手を伸ばした。それぞれがグラスを手にしたのを見計らって、
「ようこそ聯武国へ!」
言うや否やグラスの酒を喉の奥に放り込んだ。空になったグラスにガナハを注ごうとするウエイターの手からボトルを奪い取ると自ら注いで、間髪を入れず二杯目を喉の奥に放り込んだ。
「うまい! 強い酒は生のままに、これに限ります。ガハハハハ、やってくださいやってください、遠慮はいりませんぞ」
大佐はさらに二、三杯も飲んだであろうか、ウエイターを呼んでやっとトレーにボトルとグラスを戻した。そして、
「酒が入れば話がしやすい」
一同をズイと見回した。
「蛇の道は蛇! いやいや、同じ穴の狢! とでも言いましょうかな。御一行とわしは同じ臭いがプンプンしますな。つまり、御来着の理由もおおよそに分かろうと言うもの、腹を割って話しましょうぞ」
「ふむ……」
ロッチナ博士が鼻を鳴らした。右の口角が微かに上がっている。
「さすがに、実力者は話が早い。大いに助かりますな。では……どこから入りますかな、議長閣下」
ロッチナ博士が法衣の裾をさばいて椅子に腰を下ろした。他の四人もそれに従った。
「まずは……彼が、メッタリアが、チャイルドが、神の後継者かどうか? ロッチナ博士、専門家としてのあなたの意見を聞きたい」
いきなりの核心だった。
「分りませんな。私が会ったのはヌルゲランドでチャイルドはまだ乳幼児だった」
「ふん。まさに奇跡だ。その乳幼児が一年を満たさずに、今や少年期から青年期に達しようとしている。聞くところによればあらゆる能力においても余人とは比べるべくもないという。大尉!」
大佐は背後に控えるジュモーラン大尉を振り仰いだ。
「貴様の見たことを御一行にお話ししろ」
「はっ……」
大尉は要点を掴んだ話しぶりで己の見たままを話した。
「メッタリアがこの星に降りたのがワイズマンのテストと言うならまさにブローザン・ヒルでの戦いと振る舞いが、彼の、メッタリアの回答だったのではないかと、私はそう考えます」
「と言うと」
ロッチナが大尉にその意味するところを質した。
「つまりですな。神は、自ら作った数百年の安定にメッタリアを呼び寄せ、自分の影としての碑文を露出することで不安と欲望を呷り騒乱の種を作り出した。そのうえでメッタリアにどうするかを問うた。メッタリアは見事にAT一機で騒乱の種を摘み取り再びの安定を取り戻した。つまりは神たる資格があることを鮮やかに証明して見せた。ま、満点回答です」
「なるほど、筋の通った見立てだな」
「ふっ……」
ロッチナの反応に大尉は鼻を鳴らした。
「ん? 大尉、何か不満でも?」
「いや、不満と言う訳ではありませんが……」
「物言わぬは腹膨るるわざなり、と言うぞ。話してみたまえ」
ロッチナに促され、どうしたものかと大佐の顔色をちらりと窺う様子を見せたが、意を決したように指をピンと鳴らした。たちどころにウエイターがトレーに大柄のタンブラーを乗せて現れた。
「ガナハも悪くないが私はこのウルーが好みで」
大尉はおもむろにアストラギウス銀河でも名酒と名高いスピリッツで一口喉を湿らせた。
「ま、ここに同席の方々が一つ穴の貉ということで私も正直になりますか」
大尉はもう一口ウルーを飲んで、
「私も大佐ももう一望み上を狙っておりまして、つまりは安定より混乱、平和より騒乱が欲しかった訳でして、メッタリアの登場と碑文の出現によって五か国が浮足立った時は我が時節到来と血が湧き上がったことを白状しておきましょう。それが一瞬にして、メッタリアの振る舞いによって鎮静し、従来の安定と停滞が蘇ってしまった。神の意志が支配と統治、その結果としての平穏にあるのであれば、メッタリアはまさに模範解答を示し、後継者を証明して見せたと…ま、私にとってはつまらない結果としか言いようがない」
とぼやいて見せた。
「なるほど、面白い」
聞き終わったロッチナの顔に優越の表情が浮かんでいた。
「面白い? どこがですか? まあいいでしょう。さすがのロッチナ博士もお年を召して野心の何たるかをお忘れになったか」
「いや、そうではないぞ大尉。私が言いたいのは神の、ワイズマンのテストはまだ終わってないということ言いたいのだよ」
「テストはまだ終わってない!?」
大尉が飲みかけたタンブラーから唇を離した。
※イラストを描いていただいていた谷口守泰さんは都合により、しばらくお休みとなります。次回からは代わりに吉田徹さんに描いていただきます。ご期待ください。
続く
イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE
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