『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第47話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第47話

 

「そう、終わっていない。それどころか言うなればこれからが本番」

ロッチナ博士は自信たっぷりに言い放った。

(テストは終わっていない! そう言えば奴もそう言っていた)

大尉はキリコの言葉を思い出したが口には出さなかった。そして、

「これからどんな本番が待っていると?」

博士に質した。

「わしは、いささか神とは付き合いが永い」

博士の言葉を大佐が補強した。

「聞いておりますぞ。博士はかつてはワイズマンの目であり耳であったとか」

「ふむ、随分とお役に立った思いがするのですが……」

(――見返りは少なかった――)

博士は後の言葉を辛うじて飲み込んで続けた。

「神はしたたかだ。自らの失策すら利用する。かつて神はキリコ・キュービーを後継にと目したことがある」

「あの、キリコですな。今、我が、この聯武国にいるキリコ・キュービーですな」

大佐が念を押した。

「さよう、かのキリコ・キュービーです。遺伝確率250億分の一の異能生存体、神の後継者、レッドショルダー……形容する言葉は多い。が、どれもが彼の全てを説明することにはならない。なにせ彼はアストラギウス銀河を統べる神、ワイズマンの、後継指名を蹴ったのですからな。その上に神を殺した。ま、これは完全とはならず、神は辛うじて生き延びた。そして復活した」

「そんな仕打ちを受けていながら神はどうして? メッタリアを、いやチャイルドの養育を彼に託したのですかな?」

大佐の疑問は誰もが抱く疑問だった。

「さ、そこが神のしたたかなところですぞ。異能の養育は異能にという訳です」

「うむ…そこは解らんでもないですが、でも彼は、キリコ・キュービーは神の後継指名を蹴り、あまつさえその抹殺を計った男でしょう。つまりはアストラギウス銀河の支配と統治を拒否した男でしょう。さすれば再び! ……あっ!」

大佐は気付いて言葉を飲み込んだ。

「その通りです。もしチャイルドが神の眼鏡にかない後継を受けるとなれば、そう必然的に二人は戦わなければならない」

「育てた男と、育てられた男が……!?」

「これは神の復讐といってもいい。キリコが勝てば自分が育てた子を自らの手で殺すことになり、チャイルドが勝てば自分の後継者、つまり神の勝利となる。どちらにしても神に損はない」

「ふーーむ!」

大佐は神なるものの深謀に唸った。

「冗談じゃねえぞ! 黙って聞いてりゃあ好き勝手なことをぬかしやがって!」

バニラがロッチナ博士の前に立って喚いた。

「おめえは、昔からへその曲がった男だったが相変わらずってえことがよーく分かった! 何でキリコがチャイルドと戦わなくちゃならねえんだよ! チャイルドだってそうだ。親同然のキリコにどうして戦いを挑まなきゃならねえんだよ!」

「そうだよ、父ちゃんのいう通りだ! 何で二人が戦わなくちゃならないのさ、言うなれば二人は親子だよ。その親子が何で?」

ココナの言葉を老いたゴウトの嗄れ声が継いだ。

「馬鹿馬鹿しい! あれだけキリコを追っかけまわしていてお前さんはまだキリコが解ってねえようだな。キリコが好んで戦いをしたことは一度もねえんだ。まして我が子と命のやり取りをなんてするわけがねえ!」

「ふん」

息巻く三人を前にロッチナ博士は軽く鼻を鳴らした。

「分ってないのはお前たちだ。いや、お前たちは分かっているんだ。だから、そう、そんなに喚きたてているんだろうが」

(なにぃ!?)

三人が三人とも言葉を失った。

「どうやら図星の様だな。お前たちはキリコをよく知っている。確かに奴は自分から好んで戦いに臨んだことはない。だが奴から戦いが離れたことがあるか? 奴から硝煙の臭いが消えたことがあるか? 奴はいつも戦いの只中にいる。好むと好まざるとに拘わらずだ。だから」

「だから何だってんだ!!」

三人の誰が叫んだのか、三人全部か、悲鳴のような声が賓客の間に響いた。

「だから…戦う。二人は戦わざるを得ない。お前たちはそれを知っている」

声はなかった。

「キリコの、これは運命なんだ」

ロッチナが断固としてダメ押しを下した。

 

 

ブローザン・ヒルでの作戦が終了して三日が過ぎていた。

チャイルドは騎乗したATと兵器廠に戻ったまま整備工場に籠ってしまっていた。

何をしていたか。

まずは作戦で騎乗したATの稼働データ分析だった。

(どんな行動をしたか?)

自分の行動の一挙手一投足は正確に克明に記憶していた。その影響による機体への影響、つまり損傷損耗疲労等など、中でもポリマーリンゲル液の分析には念を入れた。あのような動作、機動、緩急がPR液にどのような変化をもたらすか、その先の劣化曲線予測、それによる機動力変動等など――。

(己の基本体力を知ることは大事だ)

そう、チャイルドはATを直立二足歩行動物の、つまり人体の延長線上にある戦闘力強化装置としてとらえていた。次に、

(どこまで攻撃能力を上げられるか?)

に関心が行った。

軍事力の最小単位は一歩兵ではないだろうか、歩兵は軍事力の基本の基である。その歩兵であることの意味を失わず最大限にその能力を保有する。ATの価値がそこにあるならば、保有火器の種類は数は?

(どんな武器をどれだけ装着できるか?)

ここに至ってチャイルドは俄然楽しさを覚えてしまった。

「あるだけの武器を並べてみてくれる?」

チャイルドはサポートの整備兵に頼んだ。

――GAT―22 ヘビィマシンガン

――GAT―42 ガトリングガン

――SMAT―38 ショルダーミサイルガンポット

――SAT―04 アームソリッドシューター

――X・SAT―06 ハンディ―ソリッドシューター

――GAT―35 ロックガン

――FTAT―16 フレイムスロウワー

――HRAT―30 ハンディロケットガン

――HMAT―38 ハンディーミサイルランチャー

――SMAT―32 ショルダーミサイルポット

まだまだきりなく出てくる。チャイルドはそれらをキラキラする目で追いながら、

「まだある? あるだけ並べて!」

嬉々として声を上げていた。

 

続く

 

イラスト:吉田徹 (C)SUNRISE

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