『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第49話
『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第49話
操作卓上のキーボード上を縦横に疾走していたチャイルドの指がピタリと止まった。
「完璧」
一言いって、くるりと椅子を回すと、そこにはジュモーラン大尉が立っていた。
「大尉…何か?」
大尉は懸架台のATを見上げて、
「仕上がりましたか?」
と聞いた。
「うん。これがこの機体が持てる戦闘力の最大値だろうね。これ以上は考えられないよ。まず負けないね、誰にも、アストラギウス銀河で一番さ」
チャイルドは無邪気に言い放った。
「なるほど……」
大尉は矯めつ眇めつその機体を眺めて、やがて、
「ところでこれはどうするんですか?」
「ん?」
「これは何のために?」
「ん――、何の為と言われると…まあ、作ってみたかったんだね。あらゆる敵を想定し、あらゆる局面をシミュレーションして、最強って魅力的じゃない」
「最強ですか?」
「最強だね」
再び言い切るチャイルドの言葉を大尉が呟くように反芻した。
「最強、最強、最強……最強ですか?」
最後の一言に疑問符が付いた。
「最強だよ!」
「本当に?」
「現存する他機種の性能も計算に入れ、あらゆる戦闘局面を想定し、シミュレーションし尽くした上、最適格のミッションディスクも添えてある。間違いなく最強だよ!」
チャイルドの語気に気負いが見えた。
「……」
大尉は言葉を返さず、こころもち首を傾げた。
「え、疑うの!?」
「いえ、ただ……」
「ただ? ただ何?」
「いえ、疑ってなんていません。ブローザン・ヒルでのメッタリアの戦いを見て、そのメッタリアが作り上げた機体ですので、疑るなんてことはありません。が、メッタリアは科学者でもあると思いますので、これはその、科学でいうところの仮説、いえ、作業仮説ではないかと」
「ははあ、大尉はクールな実証主義者なんだね。ハハハハ、でも残念ながら証明はできないよ。する必要もないし、僕の計算ではこの機体に勝てるATも乗り手も居ないよ。少なくてもこの惑星には存在しないよ」
「そうでしょうか?」
大尉はそう言うと左右の掌をパンパンと二度鋭く打ち合わせた。すると、
「ん!?」
整備工場の一角の鉄扉が軋みながら開き数人の男たち、いや女も一人混じっている一団が入って来た。そして懸架台のATとチャイルドを取り囲むと口々に、
「ほう! 何とこりゃあ!?」
「瓜二つだ!」
「親子ともなるとここまで似ちまうってのか!」
「右肩を赤く塗りたくなるぜ!」
「あなたがキリコが育てたって子!?」
と声を上げた。
「大尉、この方々は?」
チャイルドが大尉に質した。
「お歴々、御紹介します。この方がメッタリア、つまりチャイルドで、キリコ曹長はルーとお呼びしております」
さらにチャイルドには、
「こちらがジャンポール・ロッチナ博士、それにバニラ・バートラー氏、それと……」
とココナ、ゴウト、ソルティオを次々と紹介した。
「あなた方が!」
チャイルドは瞬時に一同を理解した。これまでにキリコに聞いていた飛び飛びの昔話が繋ぎ合わさり、幹をもち枝葉を巡らせ、血肉を通わせた。
「皆さんどうしてここへ?」
「それよ! キリコはどうしてる? どこにいるんだ?」
「キリコ? 彼ですか、それは…」
チャイルドはここ数日他の皆と顔を合わせていないことに気が付いた。
「お歴々。キリコ曹長にはこの後すぐにお会いできます。今宵はお歴々の歓迎の宴席を議長閣下が用意していますれば心行くまで旧交を温めていただけましょう。開宴まであまり時間がございません。お急ぎ御用意をなさっていただきたく、さ、さー」
大尉は一同を出口に急かせ、
「メッタリア、では後程、お待ちしておりますぞ」
とチャイルドにも念を押した。
宴会の案内はドロムゼン・パスダード艦長一行にも届いていた。
「どういう連中なんだこの同席の一行は?」
聞かれたダドット・クロムゼンダー少佐も、
「さあ……」
と首をかしげる。ボブゥ教授も首を振る。艦長の質問はそこで途切れ、キリコには振られなかった。むろんキリコは、
「……」
言葉を発しない。
続く
イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE
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