『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第50話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第50話

 

「さあー、心行くまでやってくだされい!」

ガラーヤン大佐の大声で始まった宴はさすがのもので、美食家も大食家も小食者も偏食者も、その口を通って胃の腑に落ちるものであれば、飲み物と言わず食い物と言わず、無いものはないという贅を尽くしたものだった。

「さすがだな!」

「絶対権力者の力を見せつけるってかー」

バニラとゴウトが肘を突き合った。

「でもさぁ~」

ココナが声を潜めて、

「なんだか腑に落ちないわねぇ……?」

眉根に皴を寄せた。

「豪勢すぎて貧乏育ちにやあ口に合わねえか?」

バニラのちゃちゃに、

「そうじゃないわよ! この大宴会の趣旨よ、狙いよ! 何かありそうよぉー」

言いながらココナが胡散臭そうに宴席を見回す。

「ふん?」

言われたバニラが改めて辺りを窺う。

「……なるほどぉーー」

「だなあ……」

ゴウトも不審の目を向ける。招き主の大佐の口上によれば宴会の趣旨は“親睦”であったが、出席者の誰もがそんな目をしてはいなかった。料理を口に運びつつも、誰もが何かを探り窺うといった風情を醸し出していた。

「あいつとは?」

バニラがテーブルの向こうで黙然とするキリコに顎をしゃくった。

「まだよ!」

「わしも、話してもいねえ」

ココナもゴウトも首を振った。

「俺もだ。無理やり離れたこっちの席に案内されちまった。ありゃあ意図的だったな。こいつは、何かあるぜ」

バニラのセリフが終わるか終わらないかのうちに、それは始まった。

「そいつは豪儀だ! アストラギウス銀河で最強ですと!」

宴席の一角で突拍子もない胴間声が上がった。

「その最強のATが当タブタブレイ・ニプニィー聯武国にあると、そうおっしゃるか! それはどこに?」

声の主は大佐の近くに陪席していた軍服姿の側近だった。

「貴国の兵器廠機動歩兵整備所の懸架台に…」

ダドット・クロムゼンダー少佐が我が事のように自慢げに言って、

「で、間違いありませんな」

と隣席のチャイルドに念を押した。

「その通りです少佐」

迷いない答えが返った。

「ほう! メッタリアの保証付きですか! これは疑いもない! 疑いもないですが、よろしければ、後学のためその最強の根拠をお示し下さらんか!」

側近はチャイルドに応答を求めた。

「私自身が、その機体が有する基本パフォーマンスに見合います可能上限の兵装を加えました。そしてハンガーテストにより、全き機能の発現を確認しました」

「といいますと?」

「考えうるあらゆる戦闘に対応が出来ます」

「ほおーぅ!」

側近が賛嘆の声を上げ、

「メッタリアがそこまでおっしゃるなら本物ですな! 閣下!」

側近は主であるガラーヤン大佐を振り仰いで、

「我が聯武国の名にふさわしい、銀河最強のATが存在しておるそうですぞ、何と誇らしいことではありませんか!」

と吠えた。

「うむ」

満足そうに頷く大佐だったが――その耳に、

「解りませんなあー、どういうことでしょうか?」

その耳に揶揄を含んだ疑問の声が届いた。傍若無人なその声の主はジュモーラン大尉だった。

「んー? 大尉、何が解らんのだ?」

大佐が質した。

「そうではありませんか」

言って大尉がすっくと立って一座を見回した。

「たかが、ATですぞ!」

「たかがATだと⁉」

気色ばんだ側近の声が飛んだ。

「はてさて、メッタリアの言葉とも思えません。メッタリアがどんな存在か? ここにおいでの皆さま方はよーくご理解のことと思います」

一座はざわついたが、確かな言葉は返ってこなかった。それを確かめたかのように大尉は言葉を継いだ。

「メッタリアとは当惑星では“超絶者”の謂いであります。さらに言えば……」

大尉はパスダード艦長に視線を向けた。

「ドロムゼン・パスダード艦長にあっては、ギルガメス総軍の軍令によって“チャイルド”の移送任務に就いておられる。チャイルドとはこのギルガメス銀河を統べるワイズマンの後継者のコードネーム……ですな艦長」

パスダード艦長は答えない。

「ふん」

大尉はプイっと視線をキリコに移した。

「キリコ・キュービィー曹長。そなたは、ワイズマンの意向を受けて、ワイズマンの後継者の養育を引き受けた。違いないな」

キリコもまた答えない。

「ふん」

大尉は再び鼻を鳴らし一座を睥睨するように見渡した。

「艦長においても、曹長においても、応答なきは肯定と受け取りますがよろしいかな。そしてこの私だが……」

大尉は一拍置いて、

「過日、ブローザン・ヒルでのメッタリアの振る舞いを目撃し、驚嘆と同時に確信した。かれこそまさに、ギルガメス銀河を統べる神、ワイズマンの後継者、本物だと!」

満席声もない。

「……その神の後継者がですぞ、支配と統治を思いのままにする全能の後継者がですぞ、児戯のごとき兵隊遊びにうつつをいたすなど、何処に誇らしさなどあるでしょうか!」

満席咳もない。と、

「ハハハハハ」

若い、明るい、あっけらかんとした笑い声が響いた。

「大尉、どうやら私のことを言っているようだが、二つばかり思い込みというか、まあ、承服できないことがあるぞ」

チャイルドだった。チャイルドも身を立たせた。

(承服できない⁉)

それは何だとばかりに大尉がチャイルドを睨んだ。

「一つは、ワイズマンとかいうこの銀河を統べる、神様かい? どうやらその神様のテストはまだ終わってないらしいんだ。つまり、自分は後継者候補ではあるんだが本物かどうかわからない」

「……」

「もう一つ、児戯に等しいというけどATは君が言うほど軽いものじゃない」

「ん⁉」

「この世界の支配と統治をつかさどってきた神は色々の技を駆使するらしいのだが、つまるところ…戦争を仕切るのが一番有効だと考えているらしいのさ」

「だ、だとしても、ATなどと言うものは!」

「などと言うものは、何だね?」

「地獄の戦場をはい回る一歩兵、戦争という巨大な仕掛けの最小単位、底辺も底辺、炎と硝煙に噎せ返る、最低野郎と言われる存在にすぎない」

「ハハハハハハ、その通り!」

「だとしたら!」

「だからこそだよ大尉、神の意はは細部に宿るってことさ」

「⁇」

大尉だけでなくその場にいる全員が、いや一人を外して、チャイルドのいうことを理解していなかった。

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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