『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第51話
『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第51話
すなわちその場を沈黙が支配した。やがて――、
「大尉、貴方が黙ってしまったら話が進まないよ。そうでしょう閣下」
チャイルドがガラーヤン大佐に視線を送った。
「……」
大佐は言葉を発しなかった。
「閣下もお言葉なしですか。ハハハハハ」
チャイルドがからりと笑った。
「この宴はその為のものでしょう。大尉そうでしょう」
チャイルドの視線が再びジュモーラン大尉に戻った。
「……そ、それは…」
「忌憚なく望むところを言ってください。皆さんも、私も聞きたい。心配いりませんよ、何も問題は起こりませんよ大尉、さあ」
チャイルドに促されて大尉は意を決した。
「最強の証明を、証明をしてほしい」
「あのATのですか」
「どんなに機体が優れていても乗り手によって結果は変わるでしょう。最強のATは最高の乗り手によってその機能が証明される」
「つまり?」
「メッタリア、貴方自身の手でそれを証明してほしい」
「私に乗れというのですね。いいですよ。私も私自身の最強説を証明したい。でも、相手も強くないと意味はないですよ。貴方も知っての通り私はノーマルATに乗ってもかなりやります。双剣の薔薇とのバトルを目撃した貴方は良く知っているはずです」
「むろんです! 最強の証明は、最強の相手とのバトルからしか成立しません!」
「で、その相手とは?」
「その相手とは……」
大尉は大きく息を吸い込み、一気に吐き出すようにその名を口にした。
「キリコ・キュービィー!! ……彼です!」
宴席がどよめき、そして大尉の指し示すその指先へと全視線が集中した。
―キリコ? キリコ・キュービィー⁉
―彼か、彼が⁉
―彼がメッタリアの相手をするというのか⁉
―だが彼はメッタリアの養育者だというぞ!
―言うなれば親子だ。親子で戦うというのか?
「ハハハハハ、やっと本音を聞かれました。この宴席はそこへ話を持っていく為のものでしょう。ご苦労でした大尉。でも、もう一つ奥の狙いは…私が本物かどうか、真にワイズマンの後継者かどうか、それが知りたい。そうでしょう閣下」
チャイルドは再びガラーヤン大佐に視線を送った。
「……うーむ」
今まで沈黙を貫いてきた大佐がやおら口を開いた。
「この宴席はあくまでお歴々の歓迎と親睦の為でありましたが、話が意外な方向に進んでしまい、私自身驚いております。しかしながら…」
「しかしながらもクソもねえやヌケヌケと! なんだとおー? キリコとチャイルドを戦わせるだと、べらぼうめ! そんなことがあってたまるかよ!」
テーブルを叩いてバニラが吠えた。
「そうよそうよ! 親子同然の二人が戦う必要がどこにあるってのよ!」
ココナも声を張り上げる。と、
「いいや、当を得た提案ではないか」
黒ずくめの僧衣がのっそりと立ち上がった。ロッチナ博士だった。
「…チャイルドがはたしてワイズマンの、神の後継者かどうか? これはタブタブレイ・ニプニィー聯武国を代表するガラーヤン大佐だけの疑問ではない。今や、アストラギウス銀河中に盤踞するあらゆる権力者達の関心はこの一点にあるといって差しさわりあるまい。我々はその答えを欲している。喉から手が出るほど欲している」
「ふん、業突く張りの権力者たちの腰巾着らしい理屈だぜ。わしらはそんなことは知りたくもねえ」
ゴウトが毒づくと、
「枯れ萎んでしまった老いぼれには、世界のありようなど興味もあるまい」
とロッチナ博士が嘯いた。
「なにーっ!」
「何をどう吠えようと、お前たちの意見など聞く必要はない。なぜなら、チャイルドもキリコも戦うに異存はないようだ」
そう言うとロッチナはチャイルドとキリコを交互に見やった。
目に見えぬ力がチャイルドとキリコを戦いに導いていた。
チャイルドもキリコも言葉を発せず、ただお互いを見つめ合っていた。
――と、
「仮に、仮に、二人が戦うとしてそれはどんな戦いになるだろう…つまり実弾を使っての、それになるのかね。いや、その、つまり、自分が聞きたいのは……」
あいまいに語尾を濁した発言の主はダドット・クロムゼンダー少佐だった。
「実戦に決まっているだろうが少佐」
憮然たる声をあげたのはドロムゼン・パスダード艦長だった。
「だとすると、仮にもし、チャイルドが負けたとしたら、我々はメルキアに死体を運ぶことになる。それでは…」
クロムゼンダー少佐はまたも言葉の最後を濁らせた。
「貴官においては責務を果たしたことにならんとおっしゃるか、ふん。私はただ移送の任を果たせばよい。生死は関係ない」
「何ですと艦長! そ、それでは」
「黙らっしゃい!」
ロッチナ博士が割って入った。
「この後におよんで無駄な議論は慎んでもらおう」
「む、無駄な議論ですと! そもそも本官は!」
気色ばむクロムゼンダー少佐を、
「黙らっしゃい! と申し上げた。そもそも軍中枢がチャイルドの確保を望んだのは、チャイルドが神の後継者として本物かどうかを知りたいがため、キリコに敗れ死体となれば、それが答えだ。運ぶにも及ぶまい」
「何ということを⁉」
「少佐、何度も言わせんでほしい、黙らっしゃい。私はここに“バーン”の意を受けて来ておる」
「⁉ バーンの?」
パスダード艦長とクロムゼンダー少佐の口から同時に驚きの声が漏れた。
「事がどう転んでもお二方には責めが及ぶことが無いよう計らい申そう。だからこれ以上の口出し、邪魔だては無用! お判りだな」
「……」
二人の唇が閉ざされた。それほどにメルキアにおけるバーンは畏れられた存在であった。
続く
イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE
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