先輩のバルキリーに一目惚れ?『超時空要塞マクロス』五十嵐浩司のお蔵出し第4回

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このコラムは、アニメーション研究家・五十嵐浩司が30年以上に渡って集めてきた、オモチャやプラモデル、そのほかキャラクターグッズについて書いていくという連載です。

 

※バックナンバーも併せてご覧ください。

 

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今から35年前の1981年。映画『機動戦士ガンダム』の公開を起点にして、ドラマや運用のリアリティを追求したロボットアニメーション、いわゆる“リアルロボットもの”が一つのジャンルとして成立します。
そこから様々なリアルロボット系アニメが登場して、当時中学生だった自分はそのウェイブに飲み込まれていきました……と、普通はそんな流れの話になるのですが、青森市在住者として振り返れば、そんなウェイブは来やしませんでした。だって、全然テレビでやってなかったんですから。

 

映画『機動戦士ガンダム』公開後の、ポスト・ガンダム作品としては『太陽の牙ダグラム』『戦闘メカ ザブングル』が挙げられます。模型という商材ベースで考えれば、映画『伝説巨神イデオン』もその範疇と見て良いでしょう。しかし、青森では映画の『イデオン』はともかくとして、『ダグラム』も『ザブングル』も放送されていません。だから、「リアルロボットものが流行っている」という感覚を得るのは、もっぱら模型店やアニメーション専門誌の広告からでした。

 

やがて、1982年の夏が終わって秋に差し掛かる頃、自分は青森市K模型の店先で一枚のポスターに出会います。それは、10月スタートの新番組『超弩級要塞マクロス』(まだ仮題だった)の宣伝ポスターでした。巨大戦艦マクロスを始め、バトロイド・バルキリーほか計9体のメインメカニックが勢揃いしたレイアウトには、感動すら覚えたものです。
しかも『マクロス』は青森でもキー局と同じ日、同じ時間で放送されることもわかりました。なので、青森市民にとっては『ダグラム』『ザブングル』よりも『マクロス』がポスト・ガンダムだったはずです。ちなみに、『ダグラム』『ザブングル』はキー局放送終了の1年後に青森テレビの帯番組枠で放送されました。

 

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▲テレビ放送前の1982年8月に発行された小冊子「マクロス情報第1号」。題名はまだ『超弩級要塞マクロス』。ほぼ同じレイアウトのポスターも作成されており、筆者が模型店で見たのがそれだった。各イラストはディテールが描き足されたのちに、プラモデルや玩具のパッケージに使われている。

 

放送第1話にあたる「マクロス・スペシャル」の放送日は1982年10月3日。当日は自宅の引っ越しと重なっていてヒヤヒヤしましたが、昼食のタイミングを狙って第1話を見ることができました。第1話を見終わって、頭に浮かんでいたのはだいたい次の2点。

 

「ポスターに出ていたバルキリー(白いボディに赤いストライプの入った一条輝仕様のVF-1J)は主題歌のところにしか出て来ないような?」
「フォッカー先輩が乗ってるドクロマークのバルキリー、カッコいい!」
……さすが当時中学二年生、ロボットしか見ていなかったんですね。

 

それまでのアニメだと、主人公の乗るメカニックは「主役ロボット」でもありますから、ハイ・ポテンシャルであることは必然でした。しかし、バルキリーは主役なのに、ありふれた量産兵器です。かつ第1話の時点でバリエーション機が登場したことで、驚きは倍以上に膨らんだのでした。

 

写真2

▲テレビ放送終了付近に模型店などで配布されたカタログ下敷より。バルキリーの各機種が紹介されている。オープニングも含めれば、第1話にはこの4機種がすべて登場しており、当初からバルキリーはその魅力がバリエーションにあることを示していたのだ。

 

そんなバリエーションの一つ、ドクロマークのバルキリー、つまり「バルキリーVF-1S ロイ・フォッカースペシャル」に、自分は一目惚れのような感覚を覚えました。白いボディに黒と黄色のストライプ、そして胸のドクロマーク、さらに頭部のレーザー砲は最多の4門……すべてが主役のVF-1Jよりもカッコよく思えたのです。

 

しかし、お店に並んでいるバルキリーはVF-1Jのみ。当時はなんでフォッカー先輩のバルキリーを出してくれないの? と悔しい思いをしていました。VF-1Sに恋い焦がれるあまり、ついついハセガワのジョリイロジャーズデカール付き1/72トムキャットのを買ったりもしました。重症です。

 

後で聞いたところではバンダイOBの野中剛さんは、当時タカトクトイスの1/55バトロイド・バルキリーVF-1JをVF-1Sに改造してしまったとのこと。どうやら先輩のバルキリーを偏愛したのは、自分だけではなかったようです。

 

やがて、第6話より主役ロボットにあたる一条輝仕様のバルキリーVF-1Jが登場しますが、第16話で墜落します。そして総集編の第17話を挟んだ第18話ではフォッカー先輩が戦死しました。あまりにあまりな展開の連続に、どうなっちゃうの? と思わず心配していたところへ続く第19話。この回で「俺、先輩のバルキリーに乗せていただきます」のセリフとともに、なんと!! VF-1Sは主人公、一条輝の乗機となるのでした。

 

▲タカトクトイスの1/55バトロイド・バルキリーVF-1S、いわゆる完全変形バルキリー。自分が初めて買った、マクロスのオモチャだった。VF-1Sはパイロットが一条輝に交代してから、ほぼ間を置かずに発売された。パイロット表記がフォッカーではなく一条輝になっており、映像サイドとの連携が伺える。

 

個人的に好きだった機体がシリーズ途中で主役ロボットになるという感激!! この主役ロボット交代は事前から計画されたもので、お店で売られている模型もオモチャも、急速な勢いでVF-1JからVF-1Sに切り替わっていきました。一時の飢餓状態が夢か幻のようです。
自分もその流れに乗せられるまま、あの名作玩具、タカトクトイスの1/55バトロイド・バルキリーをついに買いました。それまで売っていたのはVF-1Jだけだったので、ずーっと躊躇していたのです。今にして思えば、そこまでVF-1Sを偏愛していたのかと、自分で自分を呆れてしまいますが……。

 

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▲イマイが宣伝用に作成した大判ステッカー。テレビ放送後期のもので、黒のストライプを用いて、新たな主役ロボットとなったVF-1Sをアピールした。

 

ところで今回のネタは、シリーズ後半の主役ロボットとして用意されていたVF-1Sを、自分は第1話の時点で見抜いていたノダ!! ……みたいな美談に仕立てることもできたのですが、あくまで事実に沿って書いてみました。当時の気分を偽りたくなかったのです。もちろん今でも、バルキリーで一番好きな機体を聞かれたら、VF-1Sと答えることでしょう。

 

 

プロフィール

いがらし・こうじ。1968年、青森県生まれ。1992年よりフリー編集者およびルポライターとして活動中。主なジャンルはアニメーション、特撮、トイやプラモデルのホビー関連。2015年には、アニメーション研究家として「メカニックデザイナー大河原邦男展」の監修を担当している。近作は『スーパー戦隊Walker』『アクティヴレイド -機動強襲室第八係-』(BD解説書)の編集など。

 

 

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