「写真や動画では伝えきれない“本物の説得力”を会場で体験していただきたい」『動く実物大ガンダム』公開記念 Evolving G代表・佐々木新氏インタビュー
2020年12月19日、ついにグランドオープンとなった「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」。実物大ガンダムが動きだす歴史的な瞬間を、すでに目撃したという人も多いのではないでしょうか。
“18メートルのガンダムが大地に立ち、動いた”というロマンあふれる事実は、この瞬間も世界中のユーザーに夢をあたえています。
先だっては「最大の可動型ヒューマノイド」「最大の可動型ガンダム」としてギネス世界記録に認定されるなど、年が明けてもまだまだ勢いが止まらないこの「動く実物大ガンダム」、そして「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」について、電撃ホビーウェブでは、同施設を運営する株式会社Evolving G代表取締役社長・佐々木新氏にインタビュー!
施設の見どころや開催にいたるまでの苦心、そして「動く実物大ガンダム」に託した思いまで、あますところなく語っていただきました。
※インタビューは「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」開催直前の2020年12月15日に行いました。
――「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」オープン、おめでとうございます。
佐々木氏:ありがとうございます。実物大ガンダムを動かすプロジェクト「GUNDAM GLOBAL CHALLENGE」(以下GGC)が2014年に始動してから約6年、ようやくここまでたどり着けた……というのが今の正直な気持ちです。
――新型コロナウィルス流行での予期せぬ苦労もあったと思います。
佐々木氏:そうですね。当初は2020年10月の本オープンを予定していて、ガンダム自体は予定通りにお目見えできるように製作されていたのですが、新型コロナウイルスの影響で10月に万全な状態でお客様をお迎えするのは難しいという判断になりました。それから感染対策をさらに徹底して、なんとか年内のオープンにこぎつけることができたというところです。山下ふ頭という場所が、人が集まってもスペースを確保することができ、なおかつメインの展示であるガンダムが屋外というのも幸運だったと思います。今のシーズン、ちょっと寒いですけど(笑)。
――立地的に換気は抜群ですよね。山下ふ頭を会場に選んだのは、どのような意図があったのでしょうか。
佐々木氏:まず、ああいった場所を提供していただけることはそうそうあるわけではないという前提があるのですが、“ガンダムをお客様に見ていただくベストな環境”と考えたときに、海の近くで後ろに建物がない、空も見える、対比物がないのでガンダムの巨大さも感じられる、そういった山下ふ頭のロケーションはとても魅力的でした。
――ガンダムの後ろの青空が気持ちいいですよね。やっぱり対比物はないほうがいいですか。
佐々木氏:そう思います。例えばお台場のユニコーンガンダムとフジテレビの社屋を並べると、あのビルの球体に届かない高さなんですよ。そうなると、近くに建物があるとどうしてもガンダムが対比的に小さく見えてしまう。それは今回の動くガンダムと同じように、まわりに比較物があまりない潮風公園のときにも強く感じたことでした。
――なるほど。実際に足元に立ったときは比較物がないほうが巨大感を感じるのですが、最近は必ず写真を撮るじゃないですか。そうすると、比較物がないがゆえにサイズ感が伝わりにくいという一面もあるかなとも感じました。
佐々木氏:言われてみればそれはあるかもしれませんね(笑)。オープンして足元でご覧になっている方々は、またスケールの感じ方が変わってくるのではないかと思います。
――“ガンダムをお客様に見ていただくベストな環境”というお話がでましたが、やはり「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」は動く実物大ガンダムありきで作られたのでしょうか。
佐々木氏:そうですね。はじめからガンダム総合施設にしようという構想があったわけではなく、実物大ガンダムをしっかり置けて、「G-DOCK」を作れて、入場料をいただく以上はある程度の囲いができて……というふうに考えていった結果、こういう施設になりましたというのが正直なところです。なので「この施設のコンセプトは?」と聞かれてしまうと、「いやいや、動くガンダムを見せるのがこの施設のすべてです!」としか言えないんですよ(笑)。そのうえで、施設内にあるアカデミーやガンダムカフェ、ガンダムベースも楽しんでいただければと。
――なるほど。それでは、施設の中心である「動く実物大ガンダム」についてお聞かせください。当初、「実物大ガンダムを動かす」と発表したときの反響はいかがでしたか?
佐々木氏:すごい反響があったというか、それこそ世界から興味をひくニュースになったんじゃないかなと思います。とはいえ、そのときは僕ら自身がまだどう動くかをまだ明確に決められていなかったですし、「ここまでやれればOK」というゴールがあったわけでもないので、さて、どうしようかと思ったのがそのときの記憶です。
――そのときはどのように動くと想像していましたか?
佐々木氏:やはりはじめはアニメのイメージで、「ガンダム大地に立つ」じゃないですけれど、ガシンガシンと歩く二足歩行ロボットを想像したというのはありますね。私だけでなく、ユーザーの方々もそう考えていたのではないかと思います。
――18メートルのロボットが二足歩行するというのはロマンがありますからね。
佐々木氏:そうですね。ただ、それはなかなか難しいというのが今回、「動くガンダム」を作ったことでわかりました。“動く”という言葉にはいろいろな捉え方がありますし、富野監督も自身のメッセージで「僕たちはここまでしか動かせなかった」と書かれていましたが、結果として、今回お見せするガンダムが、いま我々ができるベストであると言えると思います。
「動く実物大ガンダム」だからこそ生まれたディテールにも注目してほしい
――動く実物大ガンダムのここを見てほしいというポイントは?
佐々木氏:動きの部分でいうと、今回のガンダムはいろいろな箇所が稼働可能なので、イベントや時期などでさまざまな動きや演出をお見せすることができると思います。
――そんなにたくさんパターンがあるんですね!
佐々木氏:そうなんです。なので、時期によっては別の演出を楽しんでいただけると思います。それから特別観覧デッキがある「G-DOCK」も見どころですね。今回の動かし方が決まったときに、ドックはガンダムとひとつあわせになるので、せっかくなのでこちらからも見ていただこうということになりました。頭のところからガンダムを見下ろすようなアングルは今までなかったので、デッキからの眺めはすごく新鮮だと思います。
――肩アーマーの内部など、いろいろな機構が間近で見れるのもドックならではですよね。
佐々木氏:あのへんいいですよね。お客様にご覧になっていただくのは5、6階だけなんですが、ドック自体はガンダムを整備するためのものなので、もちろん他の階にもメンテナンス用のフロアがあるんですよ。ガンダムの胸の手前で開くデッキも、実際にメンテナンスするためのものなんです。
――エレベーターに乗るまでの、ドックの隙間から覗き込むような感じもいいですよね。
佐々木氏:工場に忍び込んでるみたいでね(笑)。それこそドックに向かうときに間近で見れるというのもあるんですけど、僕、今回のガンダムの脚がすごく好きなんです。ものすごく細かくパーツ分割されていて、色も同系色で何種類も使われていたりしてセンスいいですよね。
あとは個人的にガンプラ好きとして言わせてもらうと、やはりガンダムのディテールも見どころですね。18メートルの「動くガンダム」を作るうえで埋め込まなければいけない構造物をうまく内包しつつ、スマートでかっこいいフォルムを実現するというのがもっとも四苦八苦した部分なので。
――そうか。機体のデザインありきのガンプラとは逆に、必要な構造物にあわせてディテールを構築していかなければいけないわけですもんね。
佐々木氏:そうなんです。普通に表面的なディテールを追いかけていても、あのデザインはでてこないんですよ。たとえばここにモーターが入っているから出っ張ったデザインになっている、ここにジョイントがあるのはこういう理由なんだ、この円盤状のディテールはこういう役割なんだ……というように、もちろん後からデザイン的に付け足したディテールもたくさんあるのですが、基本的にはすべてにおいて物理的な理屈があるわけです。そういった部分はアニメでもプラモでも生まれなかった、動く実物大ガンダムだからこそ生まれたディテールだと思うので、せひ注目してもらいたいですね。
――そこにフォーカスして「RX-78F00 ガンダム」のガンプラを作ると、いつもと一味違った楽しさがありそうです。
佐々木氏:そうかもしれませんね。あとは、なんといってもあの18メートルのものが動くという事実を目の当たりにしてほしいです。驚きとかワクワク感とかいろんな表現がありますけども、必ず心にくるものがあると思うので。それが一番見ていただきたいポイントです。
――形容しがたい感動がありますよね。「あぁ、本当に動いてる」という。“質量の説得力”とでもいうのでしょうか。
佐々木氏:“本物の説得力”にしておきましょうか(笑)。こればかりは写真や動画では伝わりにくいので、ぜひ会場で実物を見てほしいですね。もちろん「思ったよりもどうだった」とか、個人の感想はたくさんあると思うんですけど、やっぱりそこには今回の動く実物大ガンダムが「次にどうつながっていくか」みたいなワクワク感もあると思いますし、富野監督もおっしゃってますけど、次の世代の方たちが、じゃあ自分ならこう動かすとか、自分たちが十何年後かにそれに関わりたいとか、そうなっていってくれたらとてもうれしいですね。そういうことを含めてのエンターテインメントだと思うので。
――未来にどうつながっていくか……。「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」を題材にした絵本『18メートルの夢』もそういう内容になっていますよね。
佐々木氏:そうですね。子どもに夢をあたえる、次の世代に託す……。おおげさにいってしまうと、そういうところが「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の意義だと思っています。
見どころは動く実物大ガンダム以外にも
――実物大ガンダム以外の施設に関してはいかがでしょうか。「ACADEMY」の学術的な展示は斬新だなと感じました。
佐々木氏:「ACADEMY」は我々がこの6年間でどのような試行錯誤や研鑽を重ねて、どういうスタッフがどのような知恵を出し合ったかという“足跡”をきちんと伝えたいと考えて作りました。もちろんそこには「なにができなかったか」ということもちゃんと書かれているので、さきほどのお話じゃないですが、展示を見た方が「今後どうしていくのか」というところにつながっていくとうれしいですね。
――パネルのほかにも、実物大ガンダムのメカニズムを体験できるコーナーや、映像VTRがたくさんなど、ものすごい情報量でしたね。
佐々木氏:「ハンドルを回して腰のヨー軸の回転について学ぼう」とか、いろいろな展示がありますね。情報量が多いのはガンダムの伝統ということで、そこはお客様の期待どおりであればいいなと(笑)。実物大ガンダムを見ていただいた後に見学していただくと、より理解が深まって楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
――「ACADEMY」以外にも、「GUNDAM Café YOKOHAMA Satellite」「THE GUNDAM BASE YOKOHAMA Satellite」など、見どころはたくさんですね。
佐々木氏:「GUNDAM Café YOKOHAMA Satellite」のお話で言うと、やはり横浜の名前を使わせていただいている施設なので、地域の方々と連携して一緒に施設を作り上げていくのが一番理想的な形だと思いますし、ガンダムを見に来た方々に横浜の名物を食べていただくいい機会だと思ったので、提供するメニューには横浜のいろいろな企業に協力していただいています。こちらからお願いして、ぜひとも一緒にやりましょうと言っていただいて進めてきました。
――中華街の老舗とのコラボなど、横浜ならではのメニューが盛りだくさんですね。
佐々木氏:江戸清さんのハロあんまんとか、おもしろいですよね。食べ物自体に関してはご協力していただいた企業の方々はその道のプロなのでお任せするとして、我々としては「どのように商品にガンダムを落とし込むか」というところに注力しました。名物の商品性を出したうえでお客様に楽しんでもらえるものにしないといけないですから、ガンダムの写真を貼り付けるだけというわけにはいかないんです。パッケージにも特に工夫を凝らしてたので、そのあたりにも注目していただいて、食事を楽しんでいただけるとうれしいです。
動く実物大ガンダムで感じた“現実を積み重ねる”重要性
――「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」が開幕した今、やり残したことや「これは実現できなかったな」ということはありますか?
佐々木氏:我々が今できる限りのことがあそこに集約されていて、そのなかでベストを実現できていると思っています。ただ、できなかったことといってしまうと、まだまだたくさんありますね。
今回のプロジェクトでしみじみ感じたのは、「リアル」というのはやっぱり物質的な問題があって、「ちゃんと動く、動かない」といったような現実を手前からひとつひとつ積み上げていかなければ、絶対にかたちにはならないということでした。僕たちが普段作っているアニメというものは、絵を描くことができればかたちになるけど、「リアル」ではそういう“強固な現実”が占める割合がすごく大きいわけです。
だからこそ、さらに現実を積み重ねていって、十数年後に二足歩行するガンダムや飛ぶガンダムを作ることができたなら、それはお客様にとってもすごく感動をもたらすものになると思うんですよ。
今、それを目指しているとはとてもいえないですけれど、将来的に、そのときはおそらくは僕らじゃない若きクリエイターたちが、今回の動くガンダムで培った技術に上積みして、そういうことに挑戦してくれたらいいな、実現してくれたらいいなと思っていますね。
――アニメという「エンターテインメント側」でお仕事をしてきた佐々木さんならではの言葉ですね。
佐々木氏:おもしろいのが、一方で「リアル側」でずっとお仕事をされてきた橋本周司先生(GGCリーダー)は「リアルよりもひとつうえの夢とかロマンがないと、背伸びした技術はなかなか生まれない」というようなお話をされているんですよ。今回の「動くガンダム」が、橋本先生のいう「夢やロマン」といった存在になれたかなという気はしています。
――エンターテインメント側はリアルが重要、リアル側はエンターテインメントが重要と。
佐々木氏:そうなんです。やっぱりお互い仕事の仕方もぜんぜん違いますし、考え方も違うのですが、それが融合して「頭ひとつ半上の夢を一緒に見ようぜ」みたいな部分が、今回のプロジェクトの重要なポイントなんじゃないかなと思っています。
ちなみに、「リアル側」の人の中にも「ガンダムが作りたい」といってこの業界に入ってきた方がけっこういます(笑)。テクニカルディレクターの石井啓範さんなんかもそうですから。そういう人が多いのはガンダムが、そして富野監督が残した大きな遺産だと思いますね。
――今年は上海のフリーダムガンダム立像の公開も予定されています。
佐々木氏:そうですね。最初のガンダムを作ったときには、“ガンダム立像をつくる”というエンターテインメントがこれほど広がっていくとは思ってもいませんでした。フリーダムガンダムは、最初のガンダム、ユニコーンガンダム、そして動くガンダムに引き続き、乃村工藝社さんに設計をお願いしているんですが、チームが日々進歩して巧みになっていっているのをひしひしと感じています。ですので、そういう「技術の洗練」のような部分も、フリーダムガンダムのお目見えのときにはみなさんに感じとっていただけるんじゃないかなと。今回、動く実物大ガンダムを作った経験も、目に見えないところでフィードバックされていると思います。フリーダムは動かないですけどね(笑)。
――最後に、これから「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」に訪れる方々にメッセージを!
佐々木氏:メッセージというと偉そうになってしまいますが、なにはなくとも、ぜひとも会場まで足を運んでいただいて、実物を見てほしいですね。見ていただいたうえで、そのとき感じたことを自分なりに飲み込んで、いろんな発信をしてほしいなと思います。コロナウィルスの流行を含め社会情勢的にいい状況とはいえない部分もありますけど、やはり僕らとしてはガンダムを見て、ちょっとでも元気になった! とか、楽しかった! とか、動画を撮ったから転送するぜ! とか、盛り上がっていただけるととても励みになります。再三言って申し訳ないですけども、ぜひ見に来てください!
――本日はありがとうございました。
プロフィール
佐々木 新
(株)Evolving-G代表取締役社長、(株)サンライズ常務取締役。
2000年代のサンライズにて『機動戦士ガンダムSEED』の宣伝を担当し、その後『機動戦士ガンダム00』を企画、『機動戦士ガンダムUC』や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』などをプロデュース。2019年12月より現職。
(C)創通・サンライズ
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