初代のプラモ制覇!!電ホビ版第3回――奥の院レベルのスジ彫り“超”タイヘン編

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驚くなかれ、今回はいきなりの奥の院
筋彫り編の下に当る、奥の院レベルのスジ彫り実演をお届けする

 

 

前回の内容を踏まえ、奥の院ではこのMGシャアザクの肩パーツにスジ彫りを追加し、R2ザク(MS-06R-2)の肩にしようという修行だ。

スジ彫りの難しさは常に均一な力加減で始点から終点まで進むこと、またそれを何度も繰り返すことの難しさだと前回講釈した。

それを踏まえてこのパーツを見るとどうだろう?

 

▲いやらしくめくれている付近に幅均等位置で線を彫り、途中に台形の相同模様が多数挟まるという……。そして何より、彫る面がほぼ球体という難題。

どうしたものかと途方に暮れるのも無理はない。
いやいや臆することは何もない。今回の問題に当っては以下の金言を進呈しよう!

 

 

 

たとえ面積が狭くとも、面が歪んでいようが反っていようが、仮に曲面であったとしても、伸縮自在のクリアラインテープならば大抵の場所には貼れる。テープさえ貼ることができれば、前回の初級編と何ら変わることなく彫れるはずだ。

先ずはスジ彫りデザインをじっくり分析

複雑な形状故、解説上の文言を一度設定しておこう。

図は肩アーマーを真横、つまりザクの左側から見た状態と思っていただきたい。正面から見るとまた角度、形状の異なる台形もあるが、全て同様に解釈する。

「上底」「下底」「高さ」など台形各部の数学的呼称も、状況に合わせて使用する。

 

▲複雑に屈折したスジ彫りを、まずはこの様に分解して解釈するところから分析が始まる。彫りやすい部分、彫りにくい部分、先に彫るべき部分、後から彫るべき部分、同時にも彫れる部分などに分けて考えていくのだ。

 

複雑な形状のスジ彫りは、「一度に彫ろう!」などと過剰な積極性を発揮するのがもってのほか。

作業に先立ち、先ずは形状を冷静に観察し、位置や難易度、作業順などによって、いくつかのブロックに分類する必要がある。

今回は「外周線分部」、「斜辺部」、「内側線分部」と、各部を繋ぐ「屈折点」に分け、各部毎に攻略していく。

 

 

▲内側の台形部分は外周線分の位置が決まらない限り手の付けようがない。またパーツ端から等距離という外周線分の位置条件は、ラインテープの幅を利用して決めるのが高効率と言える。以上のことから判断して「先ずは外周線分を彫る」という点は決定できる。

 

初めに外周線分を彫るとしても、できるなら同時に斜辺などを一度に彫れないか? と考えるのが人情だ。

たとえば、外側に外周線分用のテープを貼り、更に貼り重ねれば斜辺も同時に、いや思い切ってすべて一発で彫れないものだろうか?

 

 

無視できない屈曲点角度

彫る順番や組み合わせを考える上で無視できないのが屈曲点角度。

屈曲点が180度以内の狭角ならば、折れ自体がストッパーとなり、事実上線分2カ所の作業と変わらずに通過できる。

しばし本題から離れて、別のパーツで説明しよう。

 

▲狭角の場合は、互いのテープがストッパーとなるため、余計な手間を掛けずとも、普段と変わらない操作で各線分を各々彫ることができる。

 

しかし屈曲点が180度を超える広角の場合はそうはいかない。

刃が外側に滑るため、その都度ストッパーが必須になるうえ、針が通過するためのスペースを空けねばならず、手間も掛かるし精度も落ちる。

広角になる貼り方は避けるのが無難と言える。

 

 

▲広角の屈曲点はそのまま進もうとする刃を一度止める工夫が必要になる。テープを貼るなどしてストッパーを作るが、手間も掛かるし、精度も下がり易い。避ける方が賢明だ。

 

屈曲点角度を含めて更に分析

このデザインの場合、全ての屈曲点を同時に狭角と捉えるのは無理。

しかし、外周線分の幅位置をパーツ端とテープ幅を基準に決めると考えた場合、外周線分用テープは外側から貼る。

そこに斜辺用のテープを重ねれば屈曲点は狭角となり、少なくとも外周線分と斜辺を一度に彫ることは可能なのではないか?

 

▲外周線分が外側にテープを貼る作戦であれば、狭角の屈曲点を挟んで斜辺までを一度に彫ることが可能となる。斜辺テープが外周線分のストッパーとなり、斜辺終点にストッパーを設けるだけという最小の手間で彫れることも確認できた。

 

以上の分析で斜辺→屈曲点→外周線分→屈曲点→斜辺というセットを一度に彫れることが判明した。

これを計画の第一段階とし、しかる後に内側線分を改めて彫る、これを計画の第二段階とする。 ここに最も費用対効果の高い計画が立案された。

 

新メンバー マスキングテープを使った位置決め

計画が立案されたら、スジ彫りのマストアイテム、クリアラインテープと、今回からの新メンバー、マスキングテープを加えた、テープ類の準備作業を行なう。

凝ったスジ彫りの場合、市販のテープ幅では限界があり、自らカットして最適な幅に調整するのが得策だ。

 

▲大量に必要な上、失敗を防ぐためにも贅沢に使いたい。テープ類は、正確に採寸し一度に多数カットしておくのが奥の院的秘訣だ。プラ板にテープを貼る際、完全な直線には貼れないためと、テープ端はヨレや、ホコリの付着が起きやすいので切り捨てるのが定石。

▲ジャスト幅にカットしてあるため、スジ彫り位置を正確に決定できる。しかも一度に用意してあるため、どこに貼っても同じ位置にスジ彫りが施せる事を保証してくれる。

▲実際に外周線分を彫るためのラインテープと、台形の高さを決めるためのマスキングテープを並べて貼る。マスキングテープのほうは用が済んだら剥がす段取りだ。

▲次は台形の上底、下底の長さを決める。全台形で同じ幅のテープを使えばすべての上底、下底を簡単に同じ長さにすることができる。

▲同じ方法論で、各台形とその隙間も全て揃えることができる。もちろん各部の長さを厳密に計り、正確なマステ幅を算出しなければ正確な作業は望めない。この部分が全作業中最も精度を要する作業なのだ。

▲実際のパーツ写真で見るとこういうことだ。綿密な計測、計算に基づいて各部のマステがピッタリの幅に切り出されているのが確認できるだろうか。

▲前のカットでも触れたとおり、この段階で斜辺の始点と終点が導き出される。この2点を実際のガイドとなるラインテープで繋げば[斜辺→屈曲点→外周線分→屈曲点→斜辺]セットに正確なガイドテープが貼れることになる。

▲実際のパーツではこういう作業になる。この時、役目を終えたマステは剥がすことになるわけだ。これですでに貼られた外周線分と合わせ、1回目の工程で彫る[斜辺→屈曲点→外周線分→屈曲点→斜辺]というセットの準備が整った。

 

実作業 前半1~外周線分を回転で撫でる

それではそろそろ実際に彫ってみるとしよう。

使用する道具は前回と全く同じ。けがき針から始める3段戦法。

まずは問題の1である「球体に近い形状」についてだ。

球体であるが故に「切削面に対して平行に手を動かし~」がまず難しい。

が、臆するなかれ、道具を平行に動かせないならば如何とする? その通り!

パーツを回転させてしまえばいいのだ。

まずは練習用の断面が半円形のパーツを使って、パーツと道具側の手、両方を動かす、というよりパーツを主に動かす感じを掴んでもらおう。

 

<両手を動かして円柱を彫る>

「平行に動かす」というのは、「道具がパーツに作用している時、道具とパーツの角度が不変」という意味なので、接触角度が変わらない範疇である限り、どちらをどう動かそうが問題は無いのだ。

ただし、指先を使ってはならないという大原則は、遵守すること。

 

円柱や球体の基本的な操作が解ったところで、実際のパーツを使った操作を恒例の「肝心な動画」で見ていただく。

 

<両手使いでパーツを彫る>

例題パーツほどの回転は不要だが、パーツ側も回した方が成功率は断然高い。

ストッパーに接する部分では、接する直前で減速、自然に直前停止くらいのイメージが良い。

実際にぶつけてしまうと、力が加わりすぎて停止点が穴になるため、各線分を繋げる際にトラブルの元になる。

 

 

実作業 前半2~屈曲点の通過

両手の回転を用いて外周線分が彫れたら、同様の手順で斜辺も独立した線分として彫る。外周用のテープとストッパーがあるので、両テープ間を往復する、外周線分と同じ作業だ。

 

問題はこの後、独立した各線分を繋げ、屈曲点を含む「折れ線分」にするところだろう。

この時、各屈曲点をキリッとした鋭角に処理したければ、角を強く意識して、頂点を彫るイメージ。

これまた全体の精度に関わる重要部分なれば「肝心な動画」を連続でご覧いただこう。

 

<線分を屈曲点で繋ぐ>

この時は何があっても下方へ力を加えてはいけない。

弾く力はあくまで側面の壁に突き刺すイメージ、両線分の延長方向へ壁を崩すよう交互に弾く。

 

前半工程完了

[斜辺→屈曲点→外周線分→屈曲点→斜辺]という第一段階は順調に進捗。

キサゲによるめくれ処理は屈曲点を含むと言っても、けがき針と注意点は同じ、それ以外はまったく前回同様であり、特に問題はないはずだ。

▲屈曲点通過を含む曲面作業は少々ハードルが高かったかもしれないが、作業手順を工夫して失敗要因は可能な限り排除した。テープを剥がせばこの通り綺麗なスジ彫りが彫り上がっている。

 

テープを使った位置決め~後半

今度は残りの内側線分にテープを貼る。

前ターンで彫ったスジ彫りの始点と終点を繋げるだけだが、ここでもマステを上手く利用することで、外周に平行な内側線分を正確に決めることができる。

▲再び台形高さ幅のマステを貼り、外周線分と上底相当の内側線分が平行であることを確認するとともに、全上底の高さ的位置を揃える。マステに合わせてラインテープを貼付すれば完了だ。

▲先ほど同様、役目を果たしたマステは剥がし、始点、終点位置にストッパーを設ければ準備完了だ。

 

後半戦完了

これまで通りの作業を行ない、けがき針、キサゲの作業はすべて完了した。

すべての役割を終えたテープは完全に剥がし、遂にスジ彫りの全貌が姿を現わす。

▲屈曲点を含む第一段階の外周線分と斜辺、始点終点を繋げた第二段階の内側線分。深さ、幅など違和感なく全て一体に見える仕上がり。ここまでは申し分のないできと言えるだろう。

 

実作業 タガネの役割1

キサゲまでの作業で概ね一本の繋がったスジ彫りにはなった。

今回のタガネ処理は、前回も解説した「幅をフィックスする」という目的だけに留まらず、「屈曲点の仕上げ」、「各部を同じタッチに揃える」という3つの目的を担うことになる。

面倒な屈曲点他はひとまず置いて、まずは前回に近い線分間の幅をフィックスさせる作業から行なう。

▲刃を縦にして気合いもろとも彫り始めたりなどすると、始点部分底面に傷が入り、後に引っ掛かる原因になる。また平行移動する切削では中央部ばかり彫れる傾向があるし、停止時の緊張感がやはり刺さる原因たり得る。

 

▲そこで意識改革として、空母艦載機のタッチアンドゴーのイメージを持ってもらいたい。タガネは斜めに構え、軟着陸する要領でソフトに侵入し、途中穏やか且つ段々力を抜きながら離陸するように刃を浮かして終わる。

 

▲次は反対側から同様に侵入することで逆側がより削れ、これを数回繰り返すうちには、概ね水平な底面に仕上げることができるというものだ。

 

理屈が把握できたらこの事を念頭に置きながら、お馴染み「肝心な 動画」で実際の手つきを見ていただこう。

 

<タガネ空中浮揚>

この、やる気なく入り、途中更に益々やる気をなくし、最後には昇天してしまう感じがいいのだ。

底面に傷を付けやすい「入り」と「終わり」の2度の危険を半減させ、一工程につき「入り」の危険度だけに限定、方向を逆転させることで両側に応しようという作戦なのだ。

 

実作業 タガネの役割2

次は問題の屈曲部。

ここは折れ曲がるうえ、更に曲面でもあるため、道具と作業部の角度を固定するのが非常に難しい。

「肝心な動画」で見ていただくが、タガネの刃幅を利用するので、「作業面に対して垂直」なだけでなく「進行方向に対しても垂直」になるよう動かしているところに注目してほしい。

 

<全てに対し垂直を絶対維持>

注意深く作業すれば、自然に角部分も最適な丸みを帯び、あたかも始めからこうであったかのような自然なスジ彫りができる。

最後に線分、屈曲点など全てを一本の線で滑らかに通過させながらすべての幅と深さを整えればタガネ工程は完了、スジ彫りの完成だ。

▲初めに彫った外周部と、二度目に彫った台形部分はもちろん、幅が揃いにくい直線部と屈曲点も綺麗に揃い、上々の仕上がり。

 

実作業 奥義 最終エッジ調整

ここで完成! としたいのが人情だが、忘れるなかれ、ここは奥の院。 もう一手、四段階目の作業もやってみようではないか。

完成したとはいえ、鋭利に切り立ったエッジを伴う、堀りたてのスジ彫りはどうしても悪目立ちする「追加工作感」がつきまとう。 これをキサゲで丁寧にほんの僅かに舐めるてやるのが、奥の院的本 当の最終処理だ。

 

▲シャープな仕上がりは望むところだが、他に比べシャープすぎる状態は、逆に悪目立ちし、違和感を覚えさせる。尖りすぎた角をキサゲを使い僅かに落とす。言ってみれば極小のC面処理。

 

▲見えるか? と言われればかろうじて……と言う印象の、ほんの微々たる違いだが、元来が0.15ミリしかない幅に関わる話、これは結構大きな違いなのだ。

 

スジ彫りの完成

奥の院スペシャルの四段階目が完了し、今度こそ本当に全ての作業が完了、ここで下塗りのグレー吹き付ければ完成したスジ彫りの全容がより鮮明に視認できるだろう。

▲やや荒さが残る位を「手作りの味」と称する向きもあるようだが、奥の院では、最低でもキットに初めからあったような完成度を目指す。そういう意味では、この最後の手間がスジ彫り追加作業で最も重要なのかもしれない。

 

いきなりのほぼ球体型パーツ、複雑なスジ彫りデザイン、2度に分ける煩雑さ、前回に比べ、随分ハードルが上がってしまった感は否めないが、積極姿勢を慎むこと、失敗しないための万全の工夫は前回とまったく同じだ。

複雑だろうが、曲面だろうが、まずは冷静に観察、分析、どうすれば最も高い確率で作業できるかをじっくり考える。

これに、テープさえ貼れれば必ず彫れるという確固たる信念、そのためのテープ類フル活用術、何となればパーツ毎回転させるも有りという、柔軟な基本解釈を加えれば、どんな複雑なディテールも必ず彫れる!

裏技、秘奥義、超能力等は決して存在せず、柔軟性と独創性こそがプラモのすべてなのだ。

 

 

 

著者:鋭之介・初代・日野

月刊電撃ホビーマガジン誌 初代ガンプラ王。プロモデラー原型師。各模型誌で活躍中!

(C)創通・サンライズ

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