バンダイの生産拠点に潜入取材!【第2回】初心者からコアなファンまでが魅了する『スター・ウォーズ』プラモデルの開発者インタビュー(ビークル編)
マニアでも驚く精密な作りでありながら、初心者でも容易に完成できることで人気のバンダイの『スター・ウォーズ』プラモデル。
本シリーズは、いかにして生み出されたのか? その製造拠点である静岡のバンダイホビーセンターで、開発と製造の過程をお伝えしたが、今回は商品開発に携わるみなさんへインタビュー取材を敢行! まずは、「ビークル」にまつわるお話を伺った。
※これまでのバックナンバーも併せてご覧ください。
バンダイの生産拠点に潜入取材!【第1回】『スター・ウォーズ』プラモデルができるまで!
▲写真右より
開発設計チーム サブリーダー・芳賀勇助氏
これまでに、ガンプラやMGフィギュアライズの他、「有人潜水調査船しんかい6500」などを担当。
企画チーム サブリーダー・小林幹広氏
福地氏や芳賀氏と共に立ち上げから参加。パッケージや取扱い説明書、デカールのデザインなど、商品製作の仕上げを担当。
企画開発チーム リーダー・福地英記氏
『スター・ウォーズ』(以下、SW)のプラモデル・シリーズを立ち上げ、現在も企画と開発を担当するスタッフのまとめ役。
マーケティングチーム・曾 令涵 氏
マーケティング担当。昔からのSWファンであり、ファンの声に耳を傾けてることにも熱心。
高橋清二氏
卓越した技術を持つモデラーであり、SWの世界的なプロップ研究家。その豊富な知識でシリーズに大きく貢献している。
――SWの場合、ファンの世代によって好きなエピソードやキャラクター、ビークルに大きな差異がありますが、みなさんはいかがでしょう?
福地氏:年齢的に、僕と高橋さんは『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』からスタートしています。高橋さんの方が少し先輩なのですが、中学生ぐらいで旧三部作にはまった世代ですね。
小林氏:僕も旧三部作からのファンです。小学生の頃、漫画雑誌等に掲載されている映画の記事を読んでいたリアル世代なので。見たこともないスタイルのビークル類が、とてもカッコよく見えました。友達がSWのプラモデルを作っていて、こんな商品があるんだと驚いた思い出もあります。
芳賀氏:僕は現在37歳なのですが、旧三部作はテレビ放送された際にチラ観していたぐらいで、本格的にハマったのは十代のときにケナー/ハスブロの3.75インチのフィギュアの発売が開始された頃です。そのとき映画を改めて鑑賞して面白さを再認識し、さらにフィギュアに夢中になっていきました。
小林氏:余談ですが独身寮に住んでいたとき、僕と芳賀君の部屋がSWフィギュアの双璧と言われていました(笑)。芳賀君の方が上をいっていましたが、かなり細かいものまで集めていましたね。
高橋氏:今回のプラモデル・シリーズは、SWが本当に好きな人じゃないとここまで精度の高いものに仕上げるのは難しかったと思う。ライトなファンにはない、着眼点が求められますから。そういった意味では、ベストメンバーが集まったと言えますね。
福地氏:でも、決してマニア向けに作っているわけではないんですよ。むしろライトな方にも、気軽に楽しんでいただける内容を目指しています。
――ラインナップはどのように決定されているのでしょう?
福地氏:お客様の要望や社内の意見、高橋さんのアドバイスなど様々な要素があり、ひと言で述べるのは難しいのですが、世界観は非常に重視しています。ビークルで言うと、ルークのXウイング・ファイターを出すなら、ベイダーのタイ・アドバンストx1もあった方がいい。そうなると両翼を固めるタイ・ファイターも欲しいところ。でもルーク機を集めたいという方は、彼のスノースピーダーを待ち望んでいるかもしれない……など、並べて飾ったときの状態をイメージして選んでいます。
――非常に凝った内容ですが、商品リリースのペースが早いですね。
福地氏:慣れてきたということもあるのですが、実は最初のXウイング・ファイターは、最近の商品とは比べものにならないぐらい時間をかけました。
高橋氏:Xウイング・ファイターのときは、バンダイも僕も慣れていないうえ、ルーカスフィルムから資料が届いていない状態から始まりましたからね。
福地氏:高橋さんとタッグを組ませていただき、芳賀が基本設計をやることになったのですが、資料がないところからの研究・開発というのは初めてでした。高橋さんからは、プロップと100%同じものは作ることができないと聞いていたのですが、可能であれば映画の特撮シーンで使ってもらえるようなプラモデルにしたいと思ったんですよ。
そのため、高橋さんからアドバイスをいただきながら、プロップの作りについて徹底的に追及していきました。しかし、同じXウイングのプロップでも、本体が上下に分割されたものと左右に分割されたものが存在したり、ルーク機だけは後部のパーツの上下が逆だったりと、突き詰めれば突き詰めるほど泥沼に陥っていって……(笑)。形になるまで、半年以上かかりましたね。
――Xウイングのディテールが特定の機体だけ異なる点に関し、ルーカスフィルムは設定を作っているのでしょうか?
福地氏:それはわかりませんが、「バンダイが作りたいのは、このエピソードのこのシーンに出ている機体です」というお話はさせていただきました。デカールはもちろん、機体両サイドの赤いラインを分割して色分けしているのも、あくまで『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のルーク機であることにこだわったからです。このラインの分割に関しては、塗装をする方にとっては迷惑だというご意見もいただいたのですが、素組みでも、完成した瞬間にルークがプロトン魚雷を放つ名シーンの感動が蘇るようなものにしたかったんですよ。
高橋氏:最初は僕も、モデラー目線で赤いラインの分割は必要ないんじゃないかと言ったのですが、ライトユーザーのことを考えると良かったと思います。
福地氏:でもパッケージを開けたときに、ライトなお客様に「これなら、塗装しなくても完成できる」と思っていただけるようにすべきだというのは、高橋さんのアドバイスだったんですよ(笑)。
曾氏:コンセプトとして、初めて触る方にも楽しんでいただけて、コアな方にも納得していただけるプラモデルというのがありますからね。
福地氏:相反する要素を、どうまとめるかが大変だったよね。
――そこで重要になってくるのが、やはり組み立てやすさということでしょうか?
芳賀氏:そうですね。設計をするうえでこだわっているのは、最大限に形状を再現することなのですが、コアなお客様に満足していただき、なおかつ『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でファンになり、プラモデルを作るのは初めてという方も組み立てられるものを目指しました。
SWの場合、似たようなパーツでも取り付ける向きや位置が異なるものが多々あります。そのため、あるパーツにダボが4つあるとしたら、ひとつだけ丸ではなく半円形にし、絶対にその場所にしか取り付けられないようにしました。極端な話、説明書を読まなくても映画に登場したものと同じものができるようにしたかったんです。
福地氏:タイ・アドバンストx1のカラーインサート成形やスナップフィットなど、SWにはバンダイの既存技術のすべてをつぎ込んでいるのですが、ゲートの処理に非常に気を使っているのも大きな特徴です。そのためアンダーゲートを使ったり、なるべく目立たない部分にゲートを設けたり、ニッパーさえ良いものを使っていただければ、誰にでもキレイに完成できるものを目指しました。
またミレニアム・ファルコンの本体など、大きなパーツには手でもぎってもキレイに切れる「楔ゲート」というものを導入しています。
そうそうファルコンといえば、少ないパーツで多重感が出るように心がけたのですが、細いパーツが多いため、その部分は本体と同じ成形色でも柔らかい材質に変え、折れにくくなるように配慮しました。
曾氏:SWキットには、シールとデカールの両方が付いているのも特徴ですよね。
福地氏:それは、先程高橋さんがおっしゃったように、マニアの方とライトな方の双方に楽しんでいただきたいから。実は企画初期の段階から、僕の上の方からもそういったことを考えたらどうだとアドバイスがありました。その負担は小林君にいってしまいましたが(笑)。
小林氏:負担にはなっていないですよ(笑)。ただ、ここまで毎回熱いシリーズに対応するのは初めてです。本当に情報が深いので、今までにない経験をさせてもらいました。
――『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』に登場したビークルに付いている台座が、デス・スターの表面モールドを再現していたのも良かったです。
福地氏:実は、僕がすごく欲しくて付けたんです(笑)。たくさん連結すると非常に見栄えが良いですよ。
高橋氏:あれも細かい部分までプロップを再現しているんですよね。
福地氏:あの台座は本当に大変で……。最初、ルーカスフィルムにはコンセプトアートを基にした台座を付けたいと申し上げたのですが、本物はもっとディテールが細かいと教えられて驚きました。ならば徹底的にやろうと決めたのですが、思った以上に苦労しました。しかしこれをきっかけに、後続商品の台座にもこだわりをもつようになったんです。
実際にバンダイの『スター・ウォーズ』キットのビークルを作ってみると、精密な出来栄えにはもちろん、組み立てやすさに驚かされるが、スタッフの方々がここまでこだわっていたのは驚き。完成させたプラモデルに、組み立て説明書には書かれていない「発見」を見逃していないか気になってきた。
ここでは、「ビークル」にまつわるお話を伺ったが、次回は、「キャラクター」に関する内容をお届けする。
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