バンダイの生産拠点に潜入取材!【第3回】初心者からコアなファンまでが魅了する『スター・ウォーズ』プラモデルの開発者インタビュー(キャラクター編)

更新日:2016年3月7日 09:05

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マニアでも驚く精密な作りでありながら、初心者でも容易に完成できることで人気のバンダイの『スター・ウォーズ』プラモデル。

 

本シリーズは、いかにして生み出されたのか? その製造拠点である静岡のバンダイホビーセンターで、開発と製造の過程をお伝えしたが、今回は商品開発に携わるみなさんへインタビュー取材を敢行! 様々なメーカーからSWのアクション・フィギュアがリリースされている中で作られたプラモデルならではのこだわりとは? 「キャラクター」にまつわるお話を伺った。

 

 

※これまでのバックナンバーも併せてご覧ください。

 

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▲写真右より

マーケティングチーム・曾 令涵 氏
マーケティング担当。昔からのSWファンであり、ファンの声に耳を傾けてることにも熱心。

 

開発設計チーム サブリーダー・芳賀勇助氏
これまでに、ガンプラやMGフィギュアライズの他、「有人潜水調査船しんかい6500」などを担当。

 

高橋清二氏
卓越した技術を持つモデラーであり、SWの世界的なプロップ研究家。その豊富な知識でシリーズに大きく貢献している。

 

企画チーム サブリーダー・小林幹広氏
福地氏や芳賀氏と共に立ち上げから参加。パッケージや取扱い説明書、デカールのデザインなど、商品製作の仕上げを担当。

 

企画開発チーム リーダー・福地英記氏
『スター・ウォーズ』(以下、SW)のプラモデル・シリーズを立ち上げ、現在も企画と開発を担当するスタッフのまとめ役。

 

 

――各社からSWのアクションフィギュアが続々と登場している中、プラモデルならではの特色を出すのに苦労された点は?

芳賀氏:プラスチックならではのシャープなエッジを出せるので、ビークルと同様に様々な資料を検証し、形状の再現度を高くすることにこだわりました。反面プラモデルでは、本来柔らかい部分が固く見えてしまう、アクションフィギュアのように製品段階では塗装表現ができないというデメリットがありますが、そういった点を踏まえても負けないようにしています。

 

また、パッケージを開けてすぐに遊べるアクションフィギュアと違って、プラモデルには組み立てという過程があります。取り扱い説明書とランナーを見比べながら完成形を想像するときのワクワク感、自分で組み立てたからこそ沸く愛着といった独特の楽しみがあり、それはプラモデルならではの魅力と考えます。

 

特にダース・ベイダーは、一見すべてのパーツが同じような黒いパーツに見えますが、ヘルメット、マント、スーツで材質を変え、材質は同じでも金型上に細かい傷をつけて質感を変えたパーツを入れるなど、これまでのバンダイのプラモデルで培われた技術を惜しみなく投入し、プラモデルならではの表現を多数取り入れています。

 

高橋氏:芳賀さんが、一番苦労しているよね。僕も1/1ダース・ベイダーのマスクをはじめ、ありったけの資料を芳賀さんに送り、これでやってっていう感じで、まかせてしまいました(笑)。

 

芳賀氏:実は高橋さんのお話を聞くまで、ダース・ベイダーのマスクや細部の形状が、エピソードごとに異なることを知らなかったんです。そこで各エピソードのスーツの形状の把握からやり直し、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』に登場するスーツを作ることに決めました。しかしマスクの形状が左右非対称であることに気づかず、半分だけCADデータを作り、反転したものをくっつけたのですが、写真と見比べるとどうにも違和感があって……。改めて高橋さんにアドバイスをお願いしたところ、ベイダーのマスクはわざとラインを歪ませており、左右非対称であることを教えていただきました。そのため、見る角度によって表情が変わり、それが長年ファンに愛されている理由のひとつであり、特徴であることも。

 

そうとなると、すべてプラモデルに入れ込まねば気が済みません。目の大きさやその下のラインの違い、マスクの微妙な歪みが、1/12というスケールでどこまで再現できるかわかりませんでしたが……実際、CAD上でもコンマいくつかという修正でした。でも、やってみたら全然印象が違ったんです。そのため、以後のフィギュアでは細部の微妙な変化は見逃さないように心がけるようになりました。ベイダーの最初の光造形試作は、今見ると我ながらムチャクチャですね(笑)。

 

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福地氏:そこがやっぱり大きな転換期というか、キャラクターを作るうえでのスキルアップのポイントになりましたね。ビークルは、比較的わかりやすいんですよ。ひたすらディテールを追いかけて、形状のアウトラインを把握すればよいのですから。ただキャラクターは、数値には現れない独特のツボのようなものがあることを、高橋さんのご指導で理解しました。

 

高橋氏:一番わかりやすいのは「ボバ・フェット」ですね。ヘルメットのT字型の切り込みは、正面から見ると左右で少しズレています。

 

福地氏:お客様の中には、この部分に違和感を持たれている方がいるかもしれませんが、これが本物の再現を目指したバンダイなりの回答なんです。

 

――ダース・ベイダーを、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』ではなく、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』版にされたのはなぜですか?

福地氏:『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』はチュニックを胸部プレートの上から着ており、プラモデルにした際は組み立てにくくなるということもありましたが、やはり『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』でルークと戦った際に見せた、圧倒的な強さこそベイダーらしいと考えたからです。

 

 

――ストームトルーパーが『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』版なのは、サンドトルーパーの発売を想定していたためなのでしょうか?

福地氏:できればサンドトルーパーもやりたいと思っていましたが、その際にはバージョンアップというか、顔のアイラインの上の黒い部分の位置を変えてサンドトルーパーらしくしようと、芳賀と話していました。

 

高橋氏:僕は最初から『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のストームトルーパーがよいと言っていました。『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』や『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』とはマスクの形状が全く異なり、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』が一番かっこいいから。

 

曾氏:先程のお話の追加になりますが、アクションフィギュアと違って、プラモデルは手を加えることで自分ならではのオリジナリティを出せるのも大きな魅力だと思います。サンドトルーパーは特にそれが顕著で、バックパックのパーツを組み替えることで、複数のサンドトルーパーを再現できるようになっています。

 

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福地氏:アクションフィギュアならではのすごく良いところがありますが、プラモデルには先程芳賀が言ったように自分で組む楽しみがあり、その過程で「発見」があると思っています。

例えばトルーパーは、左右どちらの手でもブラスターを握ることができるようになっており、ホルスターも腰の左右のどちらにも付けられるようになっています。実際、劇中ではどうなっているのだろうと思って映画を観直すと……というような、自分の手で作るからこそわかる発見や選択の遊びがあると思うんですよ。

 

曾氏:個人的に一番好きなところなのですが、写真に撮ってアップにしてもキレイなんですよね。(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』公開時に一部劇場で配布されたプラモデルのカタログを手に)表紙のストームトルーパーは、実は塗装していないんですよ。これだけ大きくしてもキレイに見えるのは、プラモデルだからこそだと思います。

 

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福地氏:装甲服を着たキャラクターは、プラモデルならではのシャープなモールドが生きるよね。アクションフィギュアは、素材の都合で硬質感を出すのが難しいから。

 

高橋氏:それはモデラーが一番気になるところ。ABSだと固いからいいんだけど、触ったときのソフビ感が苦手。トルーパーは本物がプラスチック製なんだから、ある意味プラモデルは理想の形と言える。

 

福地氏:それから最大の利点はメッキができること。アクションフィギュアでは難しいのですが、プラモデルならばC-3POのような全身メッキも製作可能ですから。

 

曾氏:C-3POって、わざとあまり動かないようにしているんですよね。

 

高橋氏:そう。キットを買った方の中には、動かないと言う人が多いんだけど、本物があまり動かないんだよね。

 

福地氏:今回のキットは、あくまでも実物のスーツの再現を主眼においているので。肘を固定した腕と可動する腕の双方が入っていますが、後者はオマケと考えてください。

 

高橋氏:僕からも、可動のためにプロポーションを変えるようなことは、絶対にやめてくださいとお願いしたんですよね。

 

曾氏:でもファンの方のツイッターなどを拝見していると、明らかにトルーパーがとらないような大胆なポーズをとらせて、これだけ動くと楽しんでいる方が少なくないんですよ。

 

高橋氏:僕のようなタイプのモデラーは、あまり可動を重視しないからね(笑)。

 

福地氏:高橋さんは、関節は固定でいいんですもんね。むしろ、関節は埋めたいぐらい。

 

高橋氏:そういえば、スカウト・トルーパーってブーツの裏のモールドもすごいですよね。

 

福地氏:バンダイのSWキットでは、靴の裏側はわかる限り再現しています。ポーズをとったときに、足の裏が見える機会は少なくありませんので。この部分へのこだわりは、今後も持ち続けたいですね。ストームトルーパーの足裏は、ハン・ソロがデス・スターのコントロール・ルームで足を組んだときの1カットを参考に作っているんですよ。またスカウト・トルーパーは、スーツに使用された実物の靴をつきとめて、メーカー名の刻印まで再現しています。

 

曾氏:キャプテン・ファズマは、ファースト・オーダー ストームトルーパーに似ていますが、明らかに異なる靴を履いていますよね。

 

高橋氏:えーっ、気づかなった!

 

福地氏:幅が細くて、若干長いんだよね。ファズマには、可動用とディスプレイ用の2種類のマントを入れているので、こちらにもご注目ください。

 

 

――高橋さんから見て、一番評価が高い商品はどれでしょう? また、言いにくいかもしれませんが、不満が残る商品はありますか?

高橋氏:一番いいのは、やはりYウイング・ファイターですね。これは完璧です。そのぶん、みなさん相当苦労されたみたいですけど(笑)。

不満が残る商品は、基本的にないです。商品化が決まった際、僕はできるかできないかを考えず、120%の理想形をバンダイに伝えるんですよ。当然、生産コストや技術的な問題で不可能なこともあるのですが、ほぼ文句なしの出来栄えになっています。

 

福地氏:模型的な制約はありますが、高橋さんから教えてもらったことは、最大限生かすようにしていますから。

 

高橋氏:強いていえばスカウト・トルーパーは、もう少し猫背のポーズもとれるとよかったかな。

そうそう、スカウト・トルーパーといえばセットのスピーダー・バイクについても話してくださいよ! あれ、すごく感動したんだから。

 

福地氏:高橋さんが、感動してくれるなんて嬉しいですね。

 

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芳賀氏:機体上部の制御盤に、小さなレバーがいくつか付いているんですけど、アクションフィギュア用のビークル等を見ると、金型から抜く都合上、みな垂直に付いているんですよ。劇中ではレバーをいろいろと動かすシーンもあるので、それを再現したくて、いくつかのレバーは接続部を扇状にして動くようにしています。

 

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福地氏:取り扱い説明書には書いてないんですけどね(笑)。

そんなところが動くからどうなんだと思われるかもしれませんが、組み立てているときに「なんかこのパーツ、グラグラする」と思ったら実は動くというのは、先に述べたような「発見」だと思います。

それから、スピーダー・バイクは台座も凝りました。AT-STの台座があっさりしすぎた気がしたので、もっとディテール感を追求しようと思い、表面や木の木目はわざわざ別加工しているんですよ。

 

 

――最近は女性のSWファンも増えているようですが、プラモデルの購買層に変化はありましたか?

曾氏:購入者の方に定期的にアンケートを取っているのですが、以前からR2-D2は女性に人気がありました。しかし、BB-8の人気は圧倒的ですね。ちなみにボバ・フェットの女性の購入者は、全体の約1%です(笑)。最近のアンケート結果を見ると、ミレニアム・ファルコンとBB-8を見て久しぶりのプラモデルを買ったという方が少なくないですね。

 

福地氏:BB-8には、どうしてもアームを付けたかったんですよ。でも映画の公開前なので、なかなか情報がもらえなくて大変でした。ギリギリのスケジュールで、なんとか付けることができたのですが、おかげで現時点ではアームが付いている唯一の商品にすることができました。

 

曾氏:ミレニアム・ファルコンとBB-8がライトユーザーの方に人気があるのは嬉しいのですが、水転写デカールの存在がちょっと気になりました。経験がないと扱いが難しいと思うので。

 

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小林氏:デカールって貼るのにコツがいるんですよ。軟化剤を使ったりしないと、キレイに貼れないし。ぜひ、デカールの貼り方を電撃ホビーで紹介してほしいですね。

※動画を交えて紹介しています!

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』ミレニアム・ファルコンのプラモデルを製作!〜デカール&ウェザリング編

 

福地氏:実はシールも材質をいろいろと変えているんですよ。押さえると表面になじみやすく剥がれにくいものとか。そんなところにもバンダイならではの技術が投入されています

 

 

――最後に、今後商品化したいものや、使ってみたい技術があれば教えてください。

福地氏:旧3部作のスター・デストロイヤーはやりたいですね。それから、細いメカやキャラクターが多いので、インサート成形による可動にもトライしてみたいと思っています。

4月発売予定のカイロ・レンは、布でもなく硬質のプラでもない材質を下半身のケープに使っており、自由なポージングができるようになっているので注目してください。

 

芳賀氏:僕は、劇中のマイナーなキャラクターをプラモデルで展開してみたいです。

 

小林氏:僕はクワイ=ガン・ジンが欲しいですね。

福地氏:また、そんな難易度が高いものを(笑)。

小林氏:そうなんですけど、ジェダイを並べてみたいんですよ。ダース・モールもいいですね。それからSWファンは年齢層がかなり厚いぶん、プラモデルを組むのが辛くなってきた世代の方も増えているようなので、取り扱い説明書はよりわかりやすい誌面作りを目指したいと思います。まだまだ改善の余地があるので。

 

高橋氏:僕は『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』版のAT-STとプロボットが念願。C-3POが出たとき、やはりバンダイはロボットがうまいなと思いましたし。あとはサンドクローラーと『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』公開時のデューバックですね。

 

福地氏:まだ手を付けておりませんが、いずれ新三部作のビークルやキャラクターも出したいと思っていますので、ご期待ください!

 


 

 

これまでの商品では見逃されていたキャラクターの特徴を発見し、プラモデルに取り入れてきたスタッフの努力には頭が下がるばかり。今後のラインナップにも期待が高まる。

 

 

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