自分たちに求められたものは何か?職業原型師ならではの取り組みと考えを株式会社Knead・木村さんに聞く!【「MINAMOTO」プロジェクトインタビュー②】

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原型師の可能性と、その世界をより多くの人に知ってもらうために実施されたコラボレーションプロジェクト「MINAMOTO」。『「軌跡」と「交錯」』をテーマとして今回のコラボレーションにおいて、原型師は何を考え、表現していったのか。全3回でお送りするインタビューの第2回では、株式会社Kneadを代表して木村和宏さんに商業原型という視点での今回のプロジェクトへの取り組みを伺いました。

 

プロフィール

木村和宏(株式会社Knead代表取締役)

3DCGを用いた原型制作などを手掛けるKneadの代表取締役。今回はディレクションの担当として本プロジェクトに関わる。

 

しらたま(イラストレーター)

『にじさんじ』えま★おうがすと、『しゅがてん!』『恋×シンアイ彼女』などのキャラクターデザインを手掛けるイラストレーター。自身もVTuberとして動画配信なども行っている。

 


 

原型師が実際にどういう仕事をしているのかを知ってもらうことで、将来の仕事の選択肢のひとつになる

――今回、絵師さんと原型師さんとのコラボレーションプロジェクト「MINAMOTO」について、最初にお話をお聞きになった際にどのような印象を持たれましたか?

木村:今回のプロジェクトを濵島さん(イクリエ代表取締役)が始めたことは聞いていました。その中で、「原型師がどういった仕事をしているのか、世間にアピールするにあたってKneadさんにもお願いしたい」というお話をいただきました。確かに、原型自体は原型師が作っていることはみなさんご存知だと思います。その中で、原型師が実際にどういう仕事をしているのかを知ってもらうことで、将来の仕事の選択肢のひとつになるのでは、と考えたうえで弊社もお声がけいただいたんじゃないかな、思いました。

 

――これまでの原型のお仕事をされてきて、「原型師」という仕事をどう捉えておられましたか?

木村:弊社は既存のキャラクターなどをベースとして原型を作っている職業原型師なので、「職人」のイメージで考えています。そのうえで今回のプロジェクトは我々の仕事にも様々な手順や役割があることを知ってもらうには、いい機会だと感じました。また、色々な方にお声がけをしていることもお聞きして、その中には職人よりも作家として活躍されている方もいらっしゃったので、弊社の「職人」のイメージにプラスしてアーティスティックな部分も見せられるのでは、と考えました。今回の「MINAMOTO」を通じて「原型師も職業のひとつとして認知されるのでは?」という部分に興味を抱いたことも大きかったですね。

 

ツールで原型師のこれまでの仕事の軌跡を、エフェクトリングでその向こうにいる絵師さんとのコラボ(交錯)を表現

――『「軌跡」と「交錯」』というテーマをお聞きなった際に、どういうイメージを持たれましたか?

木村:「MINAMOTO」自体の発足のテーマに加えて、今回のテーマはすごく分かりやすく、具現化しやすいものだなと考えました。『「軌跡」と「交錯」』ということについては、「軌跡」は原型師が今までにしてきたこと、「交錯」は絵師さんとコラボと捉えました。そこで、まず原型師の過去と現在の仕事や作業の違いを踏まえて、担当の原型師と「軌跡」をどう作って行こうかと話し合いました。今までは絵師さんが描かれた絵を元に原型を制作していましたが、こちらがオリジナルの原型を制作して、絵師さんにバトンタッチすることはなかったので、そこを起点として今までの「軌跡」を考えていくのは作業として面白かったですね。

▲原型師の「これまで」と、絵師との「これから」を踏まえて制作された原型。本作を以降の制作の起点となることが想定されています。

 

――そしてできたものが、「軌跡と交錯」というタイトルの作品ですね。

木村:これは「原型師のこれまで」という部分と、「絵師さんとのコラボ」という部分が合致したものですね。足元には色々なツール的なものを配置して、キャラクターの前方にはエフェクトリングを浮遊させるという、対照的な情報量の原型になっています。これは、ツール類などが原型師のこれまでの仕事の軌跡を表現して、エフェクトリングはその向こうにいる絵師さんとのコラボ(交錯)というものを現しています。あと、左側がシンプルになっているのは、「見る人にそこから生まれてくるものを想像してもらう」という意味もあります。今回で言えば、前半のターンの作品を受けて後半のターンでどういった作品が生み出されるかというコラボレーションのクライマックスになる部分も表現しています。そうした原型師側の投げかけに対して、今回の絵師さんであるしらたまさんがこの原型をご覧になって、どうアプローチされるのかという部分に絵師さんの軌跡があるのではないかと考えていました。そこについてはバトンタッチしたときに絵師さんにお預けしています。

 

――どこを切り取ってもアプローチできる自由度を残しているのですね。

木村:あと余談になりますが、タブレットをモチーフにしたデザインも盛り込んでいます。デジタル原型はタブレットを使って作るので、「原型師と絵師は職種こそ違いますがタブレットでも繋がっている」というところも表現しています。あとタブレットのペンがあったりもするので、探してみてもらえればと思います。

▲制作途中の3D原型。PCやエアブラシ、ノギスなど、足元に置かれた様々な小道具が原型師のこれまでを象徴しています。

 

――ちなみにツールの話が出ましたので、そちらもお伺いできればと思います。現在Kneadさんで使用されているソフトなどを教えていただけますか?

木村:以前は3ds Maxというソフトを使っていましたが、今はBlenderがメインで、プラグイン程度にZBrushも使用しています。Blenderの利点としては、無料であること、そして3年くらい前に機能自体が大きく刷新されて、原型制作にも使いやすくなりました。コストがかからないという点は特に大きくて、これから原型を始めようと思う方には、使いやすいアプリケーションだと思います。

 

――話は前後しますが、後半のターンを経て完成したしらたまさんの作品をご覧になった印象はいかがでしたか?

木村:リングの向こう側を描いていただいたなって思いましたね。こちらで想像していた部分を酌み取っていただいたという意味では、いいバトンの渡し方ができたと思います。

▲前半のターンの原型からインスパイアを受けてしらたまさんが描かれたイラスト。ダブレットなど、原型師と絵師を繋ぐ小道具が舞っているなどにも注目です。

 

「このイラストを立体化する仕事で受けたらどう取り組むか」を考えてチームで制作

――では、次に後半のターンのお話を伺いたいのですが、前半のターンでのしらたまさんの絵をご覧になった印象や作業をされるうえで気を付けたポイントなどはありますか?

木村:設定資料的なものではなくて、キャラクター性がわかるものをいただけて、さらにそれが可愛らしかったこともあって、後半のターンに関してはこれまでの仕事と同じやり方でこのまま立体化しちゃおうと思いました。実はそれにも考えがあって、これは前半のターンからなのですが、今回我々を含め3人の原型師に声をかけていただいて、そのなかでも弊社は商業原型の会社、針桐さんは作家性をお持ちの方で、曽我さんは商業原型をなさっていますがこのプロジェクトではこれまでと違う方向性のものを出されるだろうと考えました。そのうえで、我々がこのプロジェクトやテーマに対して何が提示できるのかを考えた際に、「このイラストを立体化する仕事で受けたらどう取り組むか」というアプローチで制作体制を決めました。普段はチームで原型制作をやっているので、後半のターンに関してはディレクションする人、原型を作る人、分割や出力をする人、出力した原型を磨く人など、普段の立体制作と同じ体制にしました。そうすれば、三者いる原型師のいろいろな側面を見てもらえるんじゃないかと思いましたね。

▲しらたまさんによる「九尾の傍観者」。九尾の狐がモチーフとなっており、尻尾やケモミミなど、モフモフした柔らかなイメージが特徴的です。

 

▲しらたまさんのイラストをモチーフに、まずはラフモデルを制作。

 

――「普段のお仕事として受けたとして」ということでしたが、いつもと比べて情報量や参考にする資料の差があったと思うのですが、そのなかでこだわった点などをお聞かせいただけますでしょうか。

木村:そうですね。情報量に関しては、普段の仕事よりも想像力を膨らませる必要はありました。それで苦労はした点もありましたが、逆に自分たちの頭の中でキャラクター設定を作っていく作業は楽しかったですね。また、担当した原型師が動物系の表現をしたことがなかったので、尻尾や耳でといったモフモフな感じのものをいかに表現するかは苦心しました。「九尾の傍観者」というタイトル通り9本の尻尾があって、それがクッションのようになって座っているイラストでしたから、それぞれの尻尾がどういう構成で丸くなっているのか、奥行きはどうなっているのかというのはすごく考えました。そこの再現がこだわった点になります。

▲ラフモデルから衣装や毛並みの質感などのディテールを追加された状態。イラストの雰囲気が丁寧に再現されています。

 

▲しらたまさんのイラストを立体化した出力後の完成原型。イラストにない設定は独自の解釈で制作するなど、普段の商業原型制作とはやや異なるアプローチで制作されています。

 

分割や出力時の強度などを逆算して、普段よりもひと回り小さいぐらいのサイズで制作

――確かに尻尾のボリュームは凄いですね。正面から見ただけだと後ろなどの構造がわかりませんね。

木村:原型師も私も出力した際のサイズについては、レギュレーションを含めて気にしました。出力時のサイズは分割にも関係するので、あまり大きいと尻尾だけを一気に出力できません。無理に出力すると、変なところに分割線が出てしまい、修正が大変になってしまいます。そこを考えながらどう分割するかは頭を悩ませました。

▲サイズ確認用にデータを仮出力したもの。通常の商業原型でも同様の確認作業を行うことがあります。

 

▲9本の尻尾が複雑な構成となっており、さらにそれが台座としての機能も有しています。このサイズ感と分割は本作の見どころの1つです。

 

――「データをどう分割するのかを考える」というのはこれからデータ原型にチャレンジしようとしている一般の方にも重要なポイントですね。

木村:重要なポイントだと思います。サイズに関しては「尻尾が大きすぎるから」ということで小さくしすぎると、服などの薄い部分は出力の最中で破れたりして強度が保てなくなるので、分割の担当者と原型師の間で話し合ってもらった結果、そうした点も逆算して普段よりもひと回り小さいぐらいの大きさで作ることになりました。ちなみにこの分割の担当者は、分割に加えて工場との生産のやり取りをするスタッフです。金型を作ることも考える必要があるので、縁の下の力持ちではないですが、原型を制作する上ではすごく大事な役割を担っています。

▲尻尾を含め、分割と全体のバランスを考慮してサイズを決定。服の薄さをはじめ細かなパーツの強度も考えられています。

 

▲原型データ完成後は、出力をするための分割データを制作。この分割作業もフィギュアの完成度に大きく影響する重要な作業です。

 

▲分割・出力後は表面処理(上)を行った上で組付け作業(下)を行い、原型が完成します。

 

三者三様で弊社は弊社ならではの部分を見せられたと思います

――実際に「MINAMOTO」プロジェクトに参加された感想などがあれば、お聞かせいただければと思います。

木村:楽しかったというのが率直な感想ですね。まず前半のターンでコンセプトを元にキャラクターデザインから造形することができました。これは普段、弊社ではやらないことだったので、素晴らしい経験になりました。後半のターンに関しては普段やっていることをみなさんに知ってもらうことができたと思います。今回、プロジェクト全体では3名の原型師が参加しましたが、弊社は弊社ならではの部分を見せられたと思いますし、そういった部分ではご協力できたのではないかと思います。また、途中の工程を知ると、同じ原型でも全然違うアプローチになっているのは凄いですね。まさに三者三様で、そうした面でもプロジェクトのコンセプトに合致しているのではないでしょうか。

 

――最後に今回のインタビューを読まれた方、展示を見られた方に一言お願いします。

木村:前半のターンのデジタルのデータとその実際の造形とを見比べたり、後半のターンでの絵師さんの原画がどこまで再現できているかが見ていただくポイントになるので、そこを注目して作品を楽しんでもらえればと思います。

 


 

電撃ホビーウェブでは同じく本プロジェクトに参加した曽我 菜月さん(イクリエ)のインタビューを掲載中! 針桐双一さんへのインタビュー記事も近日掲載予定なので、こちらの記事もお見逃しなく!

 

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