“好き”を貫き、品質を追求!『FGO』『エヴァ』など数多くのフィギュアを製作するクレーネルの企画営業・生産管理担当者に聞く、現場のお仕事とフィギュア業界に向いている人材とは?
2010年に設立されたフィギュアの製作会社・クレーネル(2023年4月1日にリボルブから商号変更)は、企画から原型製作、生産管理、販売までを一貫して社内で行うのが強みのフィギュアメーカー。その商品クオリティの高さでホビー業界内でも注目を集めています。さらに、これまでは他社からの依頼でフィギュア製作する業務(OEM事業)が多かったのですが、2023年からは自社製品の開発にも力を入れ、増員も図っているとのこと。
では、そんなフィギュアメーカーのお仕事はどんなもので、どんな人が働いているのか? 本記事では普段あまり馴染みのない、メーカーの企画営業部と生産管理部社員という立場のお2人からお話を伺いました。
――まず仕事の内容の前にお伺いしたいのですが、おふたりはどういった経緯でホビー業界を志望され、クレーネルに入社されたのでしょうか?
G氏:元々は私は原型師だったんです。そこから転職して3D造形と彩色・複製などをするようになり、その後はカプセルトイの企画・開発をすることになりました。その時に仕事で関わった縁からアニプレックスに入社し、そこから出向という形でグループ会社のクレーネルに来ているという流れです。
K氏:私も元々フィギュアが好きで、一度まったく関係のない業種に就職したのですが、やはり好きなことに関わっていきたいという想いが強く、フィギュアショップの店員になりました。何年か勤めた後に今度はイベント物販の会社に就職したのですが、諸事情で会社がなくなってしまいまして、途方に暮れていたところで、ちょうどクレーネルの求人が出ていたので応募したという流れです。最初はデカールデザイナーという職種で面接を受けたんですけど、そちらは別の方が先に決まってしまいまして、「生産管理だったら席が空いてるんだけど、どう?」と声をかけていただき入社が決まった次第です。それから3年間、生産管理に携わっています。
全員が企画立案者!企画営業はキャラクターの魅力を追求し、ニーズを見極める!
――Gさんは企画営業ということですが、それは具体的にどのようなお仕事なのでしょうか?
G氏:基本的には自社のフィギュアの商品企画を立ち上げるところから始まります。そうして社内で通った企画を今度は版権元に商品化の申請をして、許諾がいただけたものから今度は社内にいる原型師、フィニッシャー、生産管理部と進行を確認しながら開発計画と発売スケジュールを立ち上げます。基本的には生産管理部門に原型を渡すところまでが商品発売前の仕事になりますね。あとはイベントやプロモーション、マーケティングも企画営業の仕事としてやっています。「このイベントで商品を初出ししたい」といった目標を社内で共有して、それに間に合うようにスケジュールの調整をしていきます。後はそのイベントにおいてどういうブースにするかも企画営業の仕事の範疇ですね。
――商品化企画の立案ということでしたが、ラインナップの選定はどのようにして行われるのでしょうか?
G氏:企画会議を毎週やっているんですけど、弊社は少し変わっていて、社員全員がそこで意見を言ったり、アイデアを出せたりするんですよ。
――全員で!?
G氏:ええ、それこそ経理や事務の人間も含めて、部署は問わず希望者は全員です。これは中小企業ならではの強みですね。そうして社内全体で意見を出し合って、企画部がとりまとめをしながら決めています。企画の可否は、フィギュアとしての魅力を出せるのか、商品として売れるのか、作品の人気やファンの熱量はどれくらいか、市場が熱い時期にちゃんと受注し、商品を届けることができるか、それからクレーネルという会社のカラーとしてこれをやるべきかやるべきでないか、そういう所まで含めて検討しています。
――クレーネルさんではフィギュア本体のみに要素を絞ったものから、凝ったベースや小物がたくさん付属するものまでさまざまな形態の商品がありますが、そういった商品デザイン、仕様はどうやって決めているのでしょうか?
G氏:まずはこの作品のこのキャラだったらどういう表情で、どういうポーズをしていて、どういう価格帯のものが欲しいのか、そういうところをメインに考えて決めていきます。あとはそのキャラクターのユーザーがどういった層なのかですね。男性なのか女性なのか、年代はどのあたりか、普段フィギュアを買う層なのかそうじゃないのか。そういうデータも見極めながらニーズに合致したものを模索しています。やはり高くなっても買ってくれるユーザーがついている作品は仕様を豪華にできますし、ライトなお客様が多そうな作品では価格を抑えた商品展開を考えることになりますね。
――そうして決まった仕様に合わせて原型師さんを選定するわけですか?
G氏:そうですね。表情やポーズなど、各人の得意な要素を考慮して、社内の原型師から候補を上げて、決めていく形になります。
――このお仕事で手応えやりがいを感じるのはどういった時でしょうか?
G氏:やはりユーザーの方々の反応がすごく良いですとか、売り上げが良かった時ですね。売上数量というのはイコール、ユーザーのみなさんに気に入ってもらえて買っていただけた結果だと思いますので、そこが跳ね返って来た時が一番手応えがあります。
――では情報解禁された日のネット、SNS上での反応は気になりますか?
G氏:めちゃくちゃ気になりますね! 気になり過ぎて怖くて、他の人に見てもらったりね(笑)。公式アカウントの引用リツイートとかもすごい見ちゃいます。
――引用リツイートでの一言は嬉しいですよね。
G氏:嬉しいですね。あとは海外の方の反応も見ています。今はTwitterの翻訳機能でダイレクトに見ることができるので。
――やはり企画は海外も意識されますか?
G氏:はい。例えば北米ではスタチューのようなものが好まれるとか、そういう傾向はすごく意識しています。今は作品によっては出荷数の半分が海外向けということもあるので、海外の方にもアプローチするようには考えていますね。
原型のクオリティをいかに維持するかが生産管理の使命
――生産管理というお仕事は具体的にどのようなお仕事をされるのでしょうか? 先ほど生産管理には原型ができ上がった段階でバトンタッチというお話でしたが?
K氏:そうですね。ただ原型を受け取る前の段階から、製作中の原型のデータであったり、作品の設定や商品仕様を中国の生産工場と共有しながら、そもそも立体化できるのか検討していく形になります。このフィギュアが自立するのかとか、これだけ細い部位があって折れたりしないのか、そういった注意点を洗い出した上で企画の方から原型に仕上げていただいて、その原型を受け取った段階で成型見本を作っていきます。成型見本と平行して、企画の方には彩色見本(デコレーションマスター/デコマス)の製作を進めてもらうんですが、そうしてできたデコマスをお手本として工場で量産し、お客様に納品するところまでが生産管理の仕事ですね。
――工場での生産におけるクオリティも管理されるわけですね。
K氏:はい、工場で一番最初に分割見本というものを作るんですけど、その段階で問題があるとそれ以降がすべて変になってしまいます。ですから、まず最初の段階から重点的にチェックしていきます。それでも次の成型サンプルの段階で素材の伸縮や硬さといった要因で、組み立てた時に隙間ができるとか、金型に上手く材料が回っていなくてショート(先端部にまで素材が流れないこと)したり、モールド(凹凸)が埋まっていたりということがありますので、1回1回サンプルごとにどこが見本と違う、ここが良くないというのをコメントして、工場とやり取りしながらブラッシュアップしていくことになります。
――仕事をする中でこだわっていることはありますか?
K氏:やはり製品をデコマスのままのクオリティをできるだけ維持してお届けすることを意識していますね。複製を作って、工場で量産していく過程で、どうしても元の形から変わっていく部分が出てきますので、それをどれだけ抑えることできるか、それが商品を手に取ったお客様の満足度にダイレクトにつながってくると思っていますので。
苦楽を共にした、忘れられない相棒(フィギュア)たち
――ご自身が関わられた中で印象に残っている商品はありますか?
G氏:僕を育ててくれたという意味では、アニプレックス時代の「FGO Duel」ですね。小さめのコレクションフィギュアで、原型からプロモーションまで50何体も1人で全部やっていました。年の半分以上は中国の工場にいてとにかく大変でしたが、生の中国を感じ、生産の知識を得ることができたのは大きかったと思います。あとは『Fate/Grand Order』ルーラー/始皇帝でしょうか。とんでもなく大きくてコストもかかったし、パーツ数も工程数も桁外れだったので、印象に残っています。
K氏:私は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のアスカとマリなんですけど、かなりシンプルな構成に見えて、成型のサンプルを他の製品の倍ぐらいやり直しています。肩周りのパーツが重なっている部分の調整にかなり苦労しました。ちょっとでも段差ができるとかなり目立ってしまうので。
――普通の衣装と違って、ボディに密着したプラグスーツだとラインのガタつきにごまかしが効かないわけですね。
K氏:はい。また彩色もこの白を出すのにかなり苦労しました。塗装は成型素材の影響を受けるのですが、白の成型色に白の塗料を乗せてもうまくいかなかったんです。商品は試行錯誤を繰り返し、最終的に肌色の成型色に白を乗せています。入社して初めて最初の試作段階から納品まで担当した商品になったので、「同期」という感覚があって思い入れはありますね。
K氏:他にも技術的な面では、KADOKAWAさんから依頼されて製作した『FGO』アサシン/カーマ、セイバー/アルトリア・ペンドラゴン〔リリィ〕 英霊祭装Ver.が印象的でした。フィギュア工場だけでは生産できない別注の異素材パーツを使って作り上げるということで、かなり色んなやり方を試行錯誤しながらやっていた商品ですので、この2点で培ったノウハウというのはかなり大きいですね。
――企画段階では工場で何ができるのか、できないのかは考えるものでしょうか?
G氏:実はそれはあえて考えないかもしれないですね。企画の段階ではあくまでキャラクターの魅力をどう体現するか、ということが第一なので。また原型師としての経験から原型の苦労をわかってあげられることもあるんですけど、「わかってるけど……お願い!」と言う立場です(笑)。ある意味企画はわがままな部署だと言えるかもしれませんね。
――現在イチオシの商品はありますか?
G氏:タイミング的には予約が始まったばかりの『FGO』カーマ 英霊夢装Ver.ですね。
G氏:カーマはまず絵が可愛かったので商品化を申請したんですけど、その時は意識してなかったのですがピンバッジが十数個もついているんですよね。セーターもボーダー柄ですし、「これ生産が難しいぞ?」と後々気づきました(汗)。バッジは小さい中に色をたくさん入れるのがまた大変で。あとは元のイラストがキャラを下から見上げるアングルだったので、フィギュア的に前から見た時に違和感が出ないように、そこをどうアレンジするかが非常に難しかったですね。
G氏:あとはセーターの編み目なんですが、これが深すぎると生産時にボーダー柄の色分けがキレイにできなくなるんですよ。かと言って編み目が浅すぎると立体感がなくなってしまう。なので何回も出力かけて工場にもチェックしてもらい、どれくらいの深さでいくかを決めていきました。最終的には浅くした上で編み目に彩色でスミ入れをして立体感を出してみたりと、さまざまな工夫をしています。
G氏:あとは台座の色は珍しいかもしれないですね。最初は雪だけでいこうとしたんですけど、台座がある方が色的にもボリューム感的にもしっくりくるなということで急遽追加しました。パール塗料で珍しい色味になったなと。
K氏:私の方からは、『プリズマ☆イリヤ』イリヤとクロエですね。こちらはフィギュア用に上倉エク先生に描き下ろしていただいたイラストを元にしていまして、元絵のふんわりとした世界観をなるべく表現できるように進めています。その結果、パーツ数はそれぞれ300点以上、計600点以上となっています。今までの自社製品の中でも一番細かいんじゃないでしょうか。
K氏:これは片方が日本で作られた組み見本で、もう片方が中国の工場から上がって来たテストショットになります。今からこの両者で違いがないか、鬼のような間違い探しをするわけです。こことここが違うという指示書をぶわーっと書いて、中国に戻すという。
――こ、これは大変そうですね(汗)。
K氏:パートナーシップをしっかり結んだ工場ですので、最初のテストショットでも相当に高いクオリティで上がってきてはいるんですが、それでもやっぱり細かいところが違っているので、それを極力原型に合わせていく作業を今からみっちりやるわけです。そしてさらに2回目、3回目とテストを重ねてブラッシュアップをしていくことになります。
――気が遠くなる作業ですね。
G氏:それを根気よくできるっていうのが生産管理ならではですね。彼が生産管理部門に引き抜かれたのは、適性検査で細かい作業ができると判定されたからだと聞いています。
K氏:そうだったんですか!?
G氏:今明かされる配属の秘密(笑)。
――でもちゃんと適性通りの配属がされて活躍できているってことですね。
K氏:ありがたい限りです(笑)。
フィギュアメーカーに求められる人材とは?
――今クレーネルさんは人材募集をされていますが、このお仕事にはどういった人が向いていると思いますか? また現場の人間としてどういった人に入って来てほしいですか?
K氏:まずはフィギュアが好きってことですかね。やはりフィギュアを見続けることに抵抗がない人というのが、まずは一番の条件かと思います。あとは社内・外でのやり取りが多いので、コミュニケーションが円滑に取れる人、内向的よりは外交的な方がいいかなと。
G氏:私はあえて逆を言うと、もの作りが好きであれば、アニメやゲームがものすごく好きでなくてもいいと思うんです。クレーネルでは会社全体で協力してものを作ることができているので、そこに楽しみややりがいを感じられる人ならいいんじゃないかなと思います。
――工場は中国ということでしたが、語学は必要ではないのでしょうか?
K氏:中国の工場とは、契約をしている現地駐在員の方を通してのやり取りとなりますので、語学が必須というわけではありません。私もほとんで話せませんので。
――Gさんは原型師出身ということでしたが、今の業務にはやはり原型師や3D造形の経験が必要ですか?
G氏:そこを経験していたからこそ、原型師さんや3D造形の人に作業をお願いした時にどれくらいの時間がかかるかをわかってあげられるというメリットはあります。ただ造形の経験がなくても、社内に原型から販売部門までそろっている分、それを間近で見て、必要な経験は社内で積むことができる環境が整っています。やりたいことさえあればそれを周囲が汲んで実現できるのがクレーネルの強みかなと。
K氏:ただWordとExcelは社内で使っているので、できた方が仕事をよりスムーズに始められるかもしれません。
クレーネルというブランド価値を確立したい
――今後どういった商品を開発していきたいか、指針や展望があればお教えください
G氏:弊社はまだ始まったばかりですので、社の特色というものを企画の段階から考えて出していきたいですね。また3Dの立体物を大きく対象として、フィギュアというカテゴリーに縛られない造形物もチームで作っていきたいと思っています。新しい素材や新しいやり方を含めて、社内でみんなで考えて作っていくことで、これからクレーネルというブランドができ上がっていくのかなと。
K氏:生産管理の現場から、企画へ何かしらの意見を出していける会社ではありますので、そういった面でも貢献していきたいですね。また今後も大型の商品が控えていますが、さらにボリュームのある商品開発にも挑戦していきたいですね。
――あのイリヤ以上の大物を?
K氏:はい、どうぞご期待ください!
――ありがとうございました。
今回インタビューさせていただいたクレーネルでは、現在企画営業職、生産管理職を募集中! 気になった方はぜひクレーネル公式サイトの採用情報ページをチェックしてくださいね。
(C) TYPE-MOON / FGO PROJECT
(C)カラー
(C)2019 ひろやまひろし・TYPE-MOON/KADOKAWA/Prisma☆Phantasm製作委員会
関連情報