エアブラシ特訓シリーズ その2【冬休み特別企画】マイスター関田の実験プラモLABO Vol.008
電撃ホビーマガジンに連載された「マイスター関田の実験プラモLABO」は、プロモデラーであり、新宿の模型ファクトリー店長でもあるマイスター関田が、見習い店員ホセとの掛け合い形式で、プラモデル作りのハウトゥを紹介する記事でした。電撃ホビーウェブでは、冬休み特別企画として連載の中から選りすぐりの記事を掲載! プラモデル作りのレベルアップに、お役立てください!
エアブラシ特訓シリーズその2
ホセのエアブラシ特訓シリーズ第2弾は「濃度」に注目。エアブラシ塗装をするうえで、初めに迷うところではないだろうか。今回はそんな迷いを解きつつ、柔軟な調整が可能になる考え方を解説する。これまで安定した吹き付けができなかった経験のある方はぜひ見直してほしい要素だ。
エアブラシ使用時の塗料濃度(薄め具合)のポイント
- 「2倍から3倍」という言葉を頭から消そう。
- 塗料の濃度はメーカーごとの差や単体の個体差がある。
- パーツを塗る前に必ず試し吹きを忘れないこと。
登場人物
マイスター関田……模型店「模型ファクトリー」店長にして本誌ライター。10年余の店員経験から、工具材料に関しては不必要に広い知識を持つ。
ホセ……マイスター関田の元で修業を積む模型店員見習い。モデラーとしても初心者だが様々な課題にぶつかりつつ成長中。
よし、今回から本格的な解説に入っていくが、ここで、おさらいだ。エアブラシをコントロールするための5つの要素を覚えているか?
もちろん! 濃度・圧・距離・ニードルの引き具合・手の動かし方。ですよね!
えへへ。やっぱり上手くなりたいですからね。それで、初めはやっぱり濃度のお話ですか?
うーん。迷ったんだが、そうなるな。今回は濃度の話をメインにしよう。とりあえず、濃度の濃過ぎ、薄過ぎでどんなトラブルになるかは分かっているな?
そうですね、濃過ぎればノズルに詰まっちゃって、エアブラシから出てこない場合がありますよね。それと、出てきたとしても糸を引いたり、塗装面がザラザラになったりしますね。
それは、塗料に含まれている溶剤成分が少ないと、ノズルから出た塗料のミストの粒がパーツに着く前に固まって他の粒と溶け合わないからですよね?
その通りだ。逆に薄過ぎると塗料が垂れたり流れたりするのは、塗料が液体状態のままで重ねられ、そこに風圧や重力がかかることで動いてしまうことが原因だな。
塗料の濃度が濃過ぎた場合
▲吹き付けられた塗料が付着する前に乾燥し塗料の粒子が融合し合わないため、表面がザラ付いてしまっている。また、粒子自体も大きくなってしまい繊細なミストで吹付ができるというエアブラシの長所をダメにしてしまっている。
濃度が適正な場合
▲表面がザラ付くこともなく、垂れ・流れも発生していない。吹き付けられた粒子は細かく理想的な状態となっている。
濃度が薄過ぎた場合
▲溶剤成分が多く含まれているため、揮発自体が遅くなり液体でいる時間が長くなる。結果として風圧や重力がかかる時間が長くなり、流れや垂れが発生する。
じゃあ、その濃度を適正にすることから話を始めるのは妥当なところじゃないですか。何を迷うんです? 塗料にどれくらい溶剤を混ぜるかだけですよね?
エアブラシは5つの要素がそれぞれ影響しあうから、単独の条件だけをピックアップして話してもあまり意味はない。ないんだが、お客様も含めて最初に迷いが出るのが濃度なんでな。やっぱり、その迷いを消しておこう。
確かに。僕もいつも安定しないですから。ちゃんと計って混ぜているんですけどねぇ。
なるほど。その「ちゃんと計る」がそもそもの迷いの始まりなんだ。目安でこれくらいと決めておくのはいい。だが、そのあと試し吹きした結果がいつも同じになるかい?
ならないです。だから、すごく不安になるんですよね。精神的にも……。
まぁ、そんなところだろうな。じゃあ、ここで邪魔な固定概念を外しておこうか。
「濃度は2倍から3倍」って言葉があるだろう。あれを頭から消してくれ。
いや、あれはホントどうしようもない言葉でな。目安としては範囲があやふやだし、エアブラシという表現方法全体を考えれば範囲が狭すぎる。無用の固定概念を頭に作るだけで何ひとつ得ることがない言葉だ。
何だ、そんなにショックだったのか? 店頭に2年もいればそろそろ気づくと思ったがな。まず、塗料メーカーごとに元々入っている溶剤の割合が違うのに、ひとつの型に当てはめようとするのがそもそも怪しい。
……あっ! 確かに! クレオスさんとガイアノーツさんは使用感が違う気がする。
それは気付いていたんだな。なら話は早い。じゃあ、ラッカー系だけでもひと通り見ていこう。
Mr.カラー:溶剤=1:2 ガイアカラー:溶剤=1:3 フィニッシャーズ:溶剤=1:4
となる。薄過ぎと感じる人も多い条件だろう。でも俺にはこれでいいんだ。
GSI クレオス Mr. カラー コバルトブルー
塗料:溶剤の比は、左から1:1、1:2、1:3、1:4
ガイアノーツ ガイアカラー コバルトブルー
塗料:溶剤の比は、左から1:1、1:2、1:3、1:4
オートモデリGT フィニッシャーズカラー スーパーファインコバルト
塗料:溶剤の比は、左から1:1、1:2、1:3、1:4
ほかの要素が絡んでくるからですね? でも、これで濃度単体のお話は終わりじゃないですか。
気が早いな。今までの話は、あくまで目安の話だ。溶剤の割合の差はメーカー毎だけじゃない。同メーカー内でも濃度の違いがあるぞ。
ほぼ全社に言えるがクリアー系は通常の塗料より薄めに調整されている。特殊な塗料だとGSIクレオスでもスーパーメタリックのクロームシルバーとかはさらに薄めだったりもする。逆にガイアノーツの大瓶塗料EXシリーズは相当濃いから、薄め具合は、俺の塗り方だと塗料:溶剤=1:4~5でもいいくらいだ。
ああ~EXホワイトをいくら塗ってもザラザラになっていたのはそういうわけですか~。
さらに、流通上の問題で濃度に差が出る場合もある。これは、あまり知られていないな。
どの塗料もメーカー→問屋→ショップ→お客様の経路で流通しているのは分かるな?
もちろんですよ。でもそれと塗料の濃度と何の関係があるんです?
例えばこの店で一番売れている塗料はMr.カラーのホワイトだ。こいつは入荷してもすぐに売れてしまうから、頻繁に発注することになる。となると問屋の在庫も常に減り続けるから、その分、多くの数量をこれまた頻繁にメーカーに発注しているはずだ。ここまではいいな。
メーカーの方では頻繁な発注に対応して品切れを起こさないようにするため、売れる塗料の生産頻度は高くなる。つまり、常に新鮮な塗料が供給されるようになるわけだ。逆に、売れない塗料は生産頻度も低く、メーカー・問屋での滞留期間も長くなる可能性が高い。当然店頭でも長く陳列されたままの状態でいることが多い。半年やそこらじゃそれほど差は出ないだろうが、2年3年と在庫されるとさすがに濃度に差が出るだろうな。
なるほど!! 塗料は買う前から濃度に差が出ている可能性が高いってことですね!
面白いのは、店舗によって売れる塗料の傾向が違うから、買う店によってさらに差が出るところだな。スケールモデル専門店でもAFVモデルが強い店と航空機モデルが強い店じゃ売れる塗料が全然違うぞ。だから、なおさらに「2倍から3倍」なんていう怪しい枷を初めから外してしまうのが望ましいんだ。塗料の濃度は元々違うんだから、自分の目安を中心にその場その場で補正していけばいい。そこが分かれば自然と試し吹きの重要性が増してくるわけだな。
そうですね。同じように薄めた塗料の試し吹きをする度に、違う結果になってビビってしまっていたのは、「元々の塗料の濃度が違う」っていう前提がなかったからなんですね。よし、なんだか光明が見えてきたぞ。
あとは実践の中で他の要素も絡めた微調整の方法を覚えておくといいかもしれない。
たとえば、小さいパーツに吹き付けする場合は垂れ・流れの発生を抑えるために溶剤の添加量を少なめにしたり、光沢塗装をするときは溶剤の添加量を増やして溶剤が揮発するまでの時間を稼いで表面張力で勝手にツヤが出るようにしたり、といった具合だな。
パーツの形状や、求めるパーツの仕上がりによって変えていくとなると、ますます、濃度を固定で考えるのはもったいないですね。
そういうことになるな、そして何よりも大事なのは自分の基準をしっかりと持つことだ、試し吹きをしたとき「いつもうまく塗れるミストの状態」をどのメーカーのどの塗料でも再現できれば安定した吹き付けができるようになるだろう。
他の要素とも絡んだトラブルをまとめておこう。思い当たる節があったら濃度と併せて調節してみてくれ。
濃度が濃いと起きやすいトラブル
対処方法は濃度を薄くするか各要素を調整する。
濃度が薄いと起きやすいトラブル
対処方法は、濃度を濃くするか各要素を調整する。
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