エアブラシ特訓シリーズ その4【冬休み特別企画】マイスター関田の実験プラモLABO Vol.010
電撃ホビーマガジンに連載された「マイスター関田の実験プラモLABO」は、プロモデラーであり、新宿の模型ファクトリー店長でもあるマイスター関田が、見習い店員ホセとの掛け合い形式で、プラモデル作りのハウトゥを紹介する記事でした。電撃ホビーウェブでは、冬休み特別企画として連載の中から選りすぐりの記事を掲載! プラモデル作りのレベルアップに、お役立てください!
エアブラシ特訓シリーズその4
今回は、ホセのエアブラシ特訓シリーズの締めくくりとして、エアブラシをコントロールする5つの要素から残り2つ「ニードルの引き具合」と「手の動かし方」を見ていく。これまでの要素と合わせて練習すれば、霧の状態を思いのままにすることも不可能ではない。ぜひ、理解して体感でコントロールできるようになってほしい。
エアブラシ使用時の吹きつけ圧と距離のポイント
- ニードルストッパーを利用し、塗料の吹き付け量をコントロールしよう。
- 手の動かし方は「速さ」と「直線」or「円」の動きに気を付けよう。
- 5つの要素をシフトさせて、思いのままの塗装ができるようになろう!
登場人物
マイスター関田……模型店「模型ファクトリー」店長にして本誌ライター。10年余の店員経験から、工具材料に関しては不必要に広い知識を持つ。
ホセ……マイスター関田の元で修業を積む模型店員見習い。モデラーとしても初心者だが様々な課題にぶつかりつつ成長中。
それじゃあ、続きだ。エアブラシをコントロールするための5つの要素後半のふたつ「ニードルの引き具合」と「手の動かし方」だな。
エアブラシをコントロールするための5つの要素
「ニードルの引き具合」って、初めのうちは何のことだか全く分からなかったですね。
確かに初めてエアブラシに触る人にとっては「ニードルって何?」って思うよな。エアブラシの中でも最も重要な構造の話だし、おさらいしておこうか。
そこはボクに任せてくださいよ! オホン! 「ニードル」とはエアブラシ本体の中心を通って、先端のノズルに収まっている細い針状のパーツですね。これをシングルアクション、ダブルアクション、トリガーアクションそれぞれの操作方法で手前に引くことで、ニードルとノズルの間に隙間ができて、その隙間から出てきた塗料に空気を当てることで霧状に吹き付けができるようになります! 加えて、ニードルを引けば引くほどノズルとの間に大きな隙間ができ、塗料がたくさん出てくる。つまり、「ニードルの引き具合」とは塗料の吹き出し量のコントロールということですね!
ノズルキャップとニードルキャップを外した状態
その通りだ。吹き出し量は吹き付けの幅や「距離」による密度の変化にも大きく影響する。「濃度」や「圧」と違い、手元で変えることができるので、上手く行かなければ調節してみると良いかもしれない。考えてみたら、俺は薄めた塗料をカップに入れた後、必ず「ニードルの引き具合」を調整しているな。
ザラ付くようなら引き具合を大きくして吹き出し量を多くして、垂れ・流れが出るようなら引き具合を小さくして量を少なくするって感じですか? でも、「距離」も簡単に調節できますけど、それでもニードルの引き具合なんですか?
必ずしもこれが正解とは言えないが、「距離」に関しては「通常の面吹きはこの位」というポジションがクセで決まっていて、それをズラすのは割とストレスなんだよ。そこで、比較的イジるのが簡単な「ニードルの引き具合」をメインに調節していくのはよくあることなんじゃないかな。
でも、ダブルアクションとかで、トリガーボタンの引きを一定の位置で止めるのって難しくないですか?
いや、ニードルストッパー(orニードルアジャスター)があるじゃないか。
なんですそれ? ってちょっと待て、ホセのエアブラシはダブルアクションだよな?
そうですよ? いやー、いつもトリガーの位置固定させるのに苦労してるんですよ。長時間やってると腕がプルプルって……。
そうか。まぁ、説明してなかったかもしれないな。エアブラシの一番後ろに付いているダイヤルみたいなパーツがあるだろう。これがニードルストッパーだ。最後まで締め込むとトリガーが動かなくなる。で、少し緩めると少しだけトリガーが動くようになる。つまり、このニードルストッパーでトリガーの動きに上限を決めて、後はトリガー引きっぱなしでOKっていう話なんだが……。
ニードルストッパー
いや、てっきり知っているもんだとばっかり。すると待てよ。ホセ、今までニードルストッパーなしでグラデーションとかやってたのか? それはそれでスゴイことだぞ?
いや、そんな風に誉めてもらっても嬉しくないですから。あ~、すごい損した気分。
まぁ、これから使っていけばいいじゃないか。細吹き、太吹きにかかわらず作業の安定性が格段に違うぞ。
そうですね。これからはちゃんと使っていきます。それはそうと、ニードルって思ったより引かないですよね。
そうだな。全開で吹くってことはほとんど無いな。塗料の吹き出し量が多くなるとタレやすくなってコントロールが難しいし、繊細な霧で塗装ができるっていうエアブラシのメリットを台無しにしてしまいやすいのも気を付けたいところだな。それと全開にしないと上手く吹き付けができないっていうのは「濃度」が濃過ぎるんじゃないかとも思う。
ほかの条件と同じように、ちょうどいいところを自分で見つけて行くってことですね。
その通りだ。それも一定に決めずに、吹き付けるパーツや表現したい塗装状態に合わせて柔軟に変化させることができれば様々な塗装が可能になるぞ。
いやもう、ニードルストッパーの使い方を覚えたボクに死角はありませんよ!
大きく出たな。じゃあ、最後の要素「手の動かし方」はどうかな?
まずは手を動かす速さですよね。早く動かすとうっすらと塗料を乗せることができて、ゆっくり動かすと塗料をたっぷりとパーツに乗せることができますね。
まずは正解。通常の面吹きならゆっくりと動かして、垂れる寸前までしっかりと塗料を乗せるのが望ましいな。吹き付けた塗料の樹脂成分がお互いに溶け合って強固な塗膜を作ってくれるし、溶剤がパーツ表面を溶かして食い付きを強めてくれる。
ボクはタレるのが怖くて、ついつい距離を離したり早く動かしたりしてしまうんですよね。
結果、ザラ付いたり、乾燥後の光沢にバラつきが出たりするわけだ。
うーん、図星ですね。タレるのは怖いですけど、ゆっくり動かす練習をしてみますよ。
パーツに塗料を吹き付けるとき、照明をパーツの塗る面に当てるのがオススメだ。反射にツブツブがなくなって、平坦になった瞬間が一番いい塗装状態になる。それ以下の吹き付け量だとザラ付く可能性があるし、それ以上吹き付ければタレてしまう。
なるほど、反射を見るんですね。やってみます。でも、さっきの「まずは正解」ってどういうことなんです? 「手の動かし方」ってスピード以外に問題になることってありましたっけ。
ひとつは直線の動き、もうひとつは円の動きだな。円の動きはマイナーかもしれない。
思い出してみれば、マイスターが細かく動かしているときありますよね。あれが円の動きだったんだ。実際はどっちが良いんでしょう?
吹き付け方として別物だから、いい悪いの問題じゃないな。状況に合わせて使い分けるのが理想だろう。直線派と円派がお互いに否定し合っているという構図が10年前まではよく見られたんだが、そんなの両方できる方がいいに決まってる。固執する必要なんてないのさ。
そうだったんですね。僕は直線の動きしかしないから、いまいち違いが分からないなぁ。
大まかにパーツを塗り潰すときは直線の動きが多いかな。円の動きはディテールがたくさん入っている場所や凹凸が激しいパーツのヘコんでいる所や、奥まった場所に集中して吹き付けたいときに使うかな。そういえばグラデーションをかけるときなんかも円の動きが多いな。こうした箇所は直線の動きではどうしても霧が当たらない部分が出てしまうことがある。そこで円の動きをすることで、ひとつのポイントに多方向からの霧を当てることができるんだ。
本当だ。パーツにある大きなヘコみにもちゃんと塗料が乗せられる! でも、かなり落ち着きがない作業ですね。疲れる……。
その辺りは慣れだろう。繰り返し練習することで安定してくると思うが、とりあえずふたつの動きでやりがちな失敗例と解決策を見ておこう。
失敗例
直線の動きの失敗例
円の動きの失敗例
成功のコツ
直線の動き成功のコツ
円の動き成功のコツ
なるほど~。どっちにしても、重ねつつ塗りつぶしていくというのがポイントですね。
そうだな、吹き付けの範囲の最も外側の粗い粒子の部分を飲み込んでいくように塗ると理想的だな。
この時のずらす幅は「距離」だったり「ニードルの引き具合」によって変わってくるんですよね。
その通りだ! とりあえず、これでエアブラシをコントロールする際に考えるべき条件は解説できたわけだが、まず心がけてほしいのは面塗りの際の「いつもの基準」を作ることだ。そこから、各表現に合わせて条件をシフトしていくことで、まったく新しい条件出しをせず様々な塗り方ができるようになる。
そうですね。マイスターならグラデーションかけるとき、どうシフトさせます?
グラデーション塗装をするために下地に対して明るくした色で細吹きによるハイライトをかける場合、まず「いつもの基準」から「ニードルの引き具合」を絞り「距離」を近くに持っていく。続いて「距離」を近づけてもタレ・流れが発生しないように「圧」を下げる。また「ニードルの引き具合」を絞っても塗料の詰まりが発生しないように「濃度」を薄めにする。「手の動かし方」はパーツによって変わるが速めの円の動きでボカシの効果を狙う、ってところかな。
グラデーションをかけるときは「圧」の下げ過ぎに気を付けないとな。「いつもの基準」より下げるが、近づけてもブチャッと流れないギリギリの強さを保つのがポイントだ。
そうだな、5つの条件を上手くシフトさせることができれば本当に色々な表現が可能になる。とにかく色んな条件の組み合わせを実際に試して経験を蓄積していくことだ。
自分でやってみないと調節の方法も、どんな結果になるかも分からないですからね。
おお、言いたいことを言われてしまった。エアブラシに限らず、自分のイメージ通りの作品を作るためには実践あるのみだな。
俺もだ。長年思い描いた理想のプラモを必ず作るぞ。さぁ、お客様が来たぞ。レクチャーはここまでだ。
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