『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第一章劇場上映直前!福井晴敏スペシャルインタビュー公開!

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取材・文●小林徹也/編集●電撃ホビー編集部

2017年2月25日より、新シリーズ第一章がいよいよ劇場上映される『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』。そのタイトルの通り『宇宙戦艦ヤマト2199』の3年後の世界を舞台とするストーリーで、旧作の『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(以降『さらば』)および『宇宙戦艦ヤマト2』(以降『ヤマト2』)のリメイク作品であることがすでに発表されている。この日本のアニメ史上に燦然と輝く不朽の名作を、現代日本においてどのようにして再び命を吹き込むのか? 果たしてそこに勝算はあるのか? シリーズ構成で本作に参加することとなった福井晴敏氏を直撃し、その胸中を語ってもらった。

 

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福井晴敏(ふくい・はるとし)

1968年東京都生まれ。1998年に作家デビュー以来、『亡国のイージス』(1999年)、『終戦のローレライ』(2003年) 、『戦国自衛隊1549』(2005年)と代表作が次々と実写映画化されている。また2007年から連載が開始された『機動戦士ガンダムUC』がアニメ化され、大ヒットを記録したことも記憶に新しい。

 

『さらば』は今の時代にこそ求められる物語

――今回シリーズ構成として福井先生が参加されることとなったのはどのような経緯だったのでしょうか?

福井:最初は確か2013年頃に原作元からお話を一度いただいたんです。でもその時はまだ『機動戦士ガンダムUC』が走っている時期でしたので、さすがに両方は厳しいとお断わりしたんです。でも小説の連載開始から約10年間関わってきた『機動戦士ガンダムUC』が終わって、じゃあ次に何をするのかとなかなか自分の中でこれっていう芯にできるものがみつからなかった時期に、もう一度原作元からお声をかけていただいて。それで改めて本気で今回のお題である『さらば』とかを観返してみたんです。これを今の時代にもう1回作ることにどんな意義があるのかということを検証しつつ観返す中で、「これはいけそうだ……いや、いける!」という確信を得て、その上で「ぜひやりたい!」とお引き受けすることにしました。

 

――その『さらば』を今改めて作るべきという確信は旧作のどういった要素から得られたのでしょうか?

福井:『さらば』はいろいろとセンセーショナルな作品じゃないですか。戦中を知る当時の大人世代の人たちから「特攻賛美じゃないか」という批判も受けていましたし。

 

――確かに出来事を追うとヤマトで敵要塞に突っ込んでいるわけですからね。だからなおさら現代にそぐわないのではないかという危惧もあるわけですが……。

福井:ええ。あの時代にそう受け取って眉をひそめる人がいたのもわかります。しかし改めて今観ると、あれって国家のためにやってることではないなと思えたんです。結果としてヤマトによって地球は救われたわけですが、あれは「地球を救うため」というより、古代進という人間が、自分を納得させるためにやってることなんだなと。

 

――納得といいますと?

福井:順を追って話しますと、前作の『宇宙戦艦ヤマト』はガミラスと地球という星間、ありていにいうと国家間の戦争を描いていました。しかし『さらば』の敵勢力である帝政ガトランティスは国家としての描写がほとんどなく、半ば形而上的な存在として描かれているんです。だからあれは若者が希望とか理想とかを抱いて生きて行く時に「いや、現実はこうだ」って突きつけられる現実のメタファーなんですよ。それでその人間性を削ってくる動かし難い現実に対して「いや、俺は人間としてありたい」と抗ってみせたのが『さらば』の本当の構造なんじゃないかと。

 

――なるほど。作品後半にいくに従って戦記ものとしてのリアリティや整合性が後退する一方で、問答無用で胸に迫るものがありました。あの迫力の正体が、今のお話でやっと読み解けた気がします。

福井:息苦しい時代に人間がどうやって納得して生きていくことができるか、自分の生をどうしたらまっとうすることができるのか。古代はそのことに対して自分の命を使っているんです。だから彼が命をかけてでも守りたかったものは、国ではないし、森雪との生活ですらない。だって森雪はあの時点でもう死んじゃってるわけですからね。彼が守ろうとしたものって何だろうって考えると、すごいフワッとした言葉になっちゃうんですけども「ヒューマニズム」そのものだなと。

 

――ヒューマニズム…つまり「愛」というわけですか。

福井:そうですね。ヒューマニズムの極地として、大きな意味での人間を人間たらしめている愛。それこそがこの作品の中核となっているものだと掴んだ感触はありました。そこからこの「愛の戦士たち」というド直球なサブタイトルをスタッフの皆さんに提案させていただいたんです。フィクションでさんざん濫用されて陳腐化されていたこの「愛」という言葉ですから、10年前だったら目も当てられなかったでしょう。でも今はこのストレートな言葉が逆に皮肉にも取れるし、少し怖い感じもするでしょう。

 

世界中で神様への愛や国への愛を掲げたテロが起こっているような時代ですから。そういった狂気に近い危険な面も引き受けつつ、その先にあるものを語っていけるのではないかと。そして古代が感じていた息苦しさはこの今の時代にも通じます。むしろ生きていく上での息苦しさが増していく時代、「現実ってこうだろ」と人間性を押し潰すようなものの比率が大きくなっていく今のような時代でこそ、この作品に込められたテーマがより切実に響くのではないかと思いました。

 

――なるほど。ただの懐古主義や商業的掘り起こしではない、まさに「今語られるべき物語」としての『宇宙戦艦ヤマト2202』への期待度がさらに高まりました。

 

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▲福井晴敏が描き出す新しい愛の物語の中でテレサはどのような立ち位置となるのか。

 

 

驚くべき展開と懐かしい肌触り

――旧作の核心テーマに関しては今うかがった話で安心できますが、実際にその語り口や設定面でどの程度旧作が踏襲されるのか、逆にどの程度新しいものとなるのか、そのあたりも気になるところではありますが。

福井:元より『宇宙戦艦ヤマト2199』を引き継ぐ話ですので、旧作とは話のスタート地点が変わっているわけですから、そこから必然的に導き出される違いというのはありますよね。

 

――具体的に挙げれば、波動砲を封印するとスターシャと沖田艦長が約束したこと、ガミラスが滅亡していなくて地球と同盟関係にあること、そして森雪の記憶喪失……。状況設定はかなり劇的に変わっています。

福井:そうした『宇宙戦艦ヤマト2199』から残された設定を切り捨てたり、矛盾するようなことは本作ではしていません。当然旧作とまったく同じというわけにはいきませんし、するつもりもないんです。しかし基本的には観た人が「懐かしい!」、「 久しぶりにこれ観た! やっぱこれだよ!」と喜んでもらえる部分と、でも大きな筋の部分で「これどうなっちゃうの?」と先が知りたくなる部分がほどよくブレンドされているのが理想だと思うので、その2つの極の間を縫うように、絶妙なバランスを目指しています。

 

――しかしその設定が変更された部分と先程うかがった旧作の核心というものはうまく融合できるものなのでしょうか?

福井:いやそれがね! スタート地点が違い過ぎていたので最初はどうしたものかと思っていたんですけど、考えてみればそれが逆に利用できることばかりだったんですよ。

 

――波動砲問題、ガミラス同盟問題、森雪の記憶喪失問題、その全部が!?

福井:それらがね、すべて現代日本に当てはめられることばかりなんですよ。「封印された波動砲」というのは原発問題に重なるでしょう。ガミラスとの同盟は日米安保とも重なる。日本一国では決められない、本当だったらこうしたいけど現実がそれを許さないというような今の我々を取り巻く多くの状況が、『宇宙戦艦ヤマト2199』から残された宿題に移植できることに気づいたんです。特に波動砲封印問題を残してくれてたのはすごく助かりましたね。そういう問題を抱えたクルーたちが、それを解決し切れないままこれから宇宙に飛び出して行っちゃうわけでしょう。それで敵と向き合って、どう考えても波動砲を撃たなきゃ生き残れないってないって局面になった時にどういう決断をするのか!? これは絶対知りたいですよ。そういう意味では絶対に観たい結末が作れそうなチャンスが与えられたと感じています。

 

――第一話を拝観しましたが、波動砲封印問題があったことでアンドロメダのキャラクタ-の立ち方がまたハンパないことになってましたしね……。

福井:その点に関しては確実に旧作を超えたと自負しています。(笑) あと森雪の記憶喪失問題もまだここでは詳しくは語れませんが、ちゃんとストーリーの牽引力となっていきますので注目いただければと。

 

I201701SYH_006▲「英雄の丘」で沖田艦長の銅像を前に今の時代を嘆く佐渡先生。その絵面はもとより、SEが入るタイミングまで旧作と同じ! こうした周到に旧作とそろえた絵並びを挿入することで、新しいストーリーの中に「確かに『ヤマト』だ!」と思える感触が生まれる。

 

I201701SYH_007▲絵柄的には『2199』とは影のつけ方が変更され、キャラクターたちはより硬派な印象となっている。旧作の空気に寄せた結果でもあるが、『2199』から苦節の3年を経たキャラクター変化としても納得のいくラインに収められているのが絶妙。

 

I201701SYH_004▲闇の中から不気味に浮かび上がる拡散波動砲砲口の輪郭。禁忌の存在としての存在感が立ち上がる。

 

 

福井晴敏が観た『ヤマト』の風景

――福井先生は放送当時から『宇宙戦艦ヤマト』はご観になっていましたか?

福井:僕は元々の直撃世代よりは下の世代で、最初に劇場で観たのは『ヤマトよ永遠に』でしたね。最初は『さらば』が公開される直前ぐらいに、テレビで放送された一作目の劇場用映画『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』を観たんですね。それで2時間ちょっとで2つの星の興亡劇を観せられるっていう、かつてない経験をしまして。(笑) 親戚の家で観たんですけど、親戚のおじさんとおばさんも夢中になって観ている。アニメってすごいんだ、こんなことができちゃうんだなっていう最初の印象が強烈でした。

 

――当時は大人がSFアニメを観るなんてことは、それまでまずなかったでしょうからね。

福井:そうなんですよ。僕が住んでいたのは東京の下町なんですけど、蕎麦屋さんとか焼肉屋さんにテレビが置いてあって、普段だったら相撲とか野球中継とかしか映してないブラウン管にアニメで『ヤマト』だけは映っていたんです。あれはあの当時の40歳、50歳のおじさんたちも『ヤマト』を観てたってことで、それぐらい影響があるものでした。それから2、3年して『ヤマトよ永遠に』が劇場公開されて、『ヤマト』ブームの一番の大波が来ている感じがしましたね。他の同年代の子供たちと同じく私も盛り上がっていました。

 

 

圧倒的な密度で怒涛の展開! 第一話・二話を観て

――第一話を拝観して情報密度に圧倒されました。しかもまるで映画を丸々1本観たようなタップリ感でした。

福井: DVDなりBlu-rayを購入して頂いての繰り返し視聴が今の時代の基本なんで、1回観ただけではすべては把握できないくらいに、かなり濃密に情報を詰め込んでいます。『機動戦士ガンダムUC』の時もそうでしたけど、観る度に新しい発観があるような、そういう仕掛けを施してあるのでぜひ楽しんで欲しいですね。

 

――そして第二話はこれまた海外の連続ドラマのような、絶対に続きを観たくなる展開で……。

福井:これも『機動戦士ガンダムUC』の時からそうでしたが、海外ドラマをライバルとして想定していますから。海外ドラマはあの展開のスピード感が成功の要因のひとつですし、観る人はそれに慣れています。そして海外ドラマを観る人はHuluやNetflixといった配信サービスに加入してお金を月々払うことはまったく厭わないわけです。テレビで放送されるドラマなど無料のコンテンツを観ている層と、フィクションにお金を払う習慣がついている層とだったら、後者の嗜好に照準を合わせた方が絶対に良いと思ってそちらを狙ってます。

 

――最後にこれから観るファンの方々へ一言お願いします。

福井:とはいっても電撃ホビーウェブを観ているような人は……観るでしょ、どうせ。(笑)

 

(一同笑)

 

福井:もうここまで来たら観るでしょう。(笑) 『2202』は『2199』以上に旧作のフィーリングに回帰している部分はありますので、その部分も楽しみにしてもらいたいですね。そして電撃ホビーウェブを観ているのになぜか今まで一度も『ヤマト』を観ていないという変わった人(笑)は……早く観た方がいいですよ?(笑)

 

――これから本サイトでも『宇宙戦艦ヤマト2202』の記事もたくさん掲載していく予定ですしね。

今までは『ガンダム』はオタクの基礎学力だけど『宇宙戦艦ヤマト』は伝説の神話ぐらいで概要を押さえる程度でいいやっていう感覚があったと思うんですけど、これからは違いますよ! 今回の『宇宙戦艦ヤマト2202』も基礎学力になっていきます。それぐらいの意気込みをもって、命を込めて作っていますのでどうぞご期待ください。

 

――ありがとうございました!

 

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DATA

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第一章(全七章)

  • 上映日:2017年2月25日(土)全国15館にて2週間限定劇場上映
  • スタッフ:製作総指揮:西﨑彰司/シリーズ構成:福井晴敏/監督:羽原信義/副監督:小林誠/メカニカルデザイン:玉盛順一朗/メカニカルデザイン:石津泰志/キャラクターデザイン:結城信輝/音楽:宮川彬良
  • 前売券発売中
  • 価格:1,200円(税込)
  • 仕様:第一章前売券+『さらヤマ』オマージュポスター(B2サイズ)
  • 販売場所:上映劇場・ヤマトクルー

※特典ポスターはなくなり次第終了となります。終了後は前売券のみでの販売となります。
※特典ポスターは前売券1枚につき、1つとなります。

 

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 1

Blu-ray特別限定版(初回限定生産盤)

  • 上映劇場にて2017年2月25日(土)より先行発売
  • バンダイビジュアルクラブ(BVC)&プレミアムバンダイ支店にて2017年3月4日(土)より先行発売
  • 価格:9,259円(税別)
  • 【2話収録】収録分数:73分(本編50分+映像特典23分)
  • 特別限定版特典:第一話絵コンテ集(新規描き下ろし表紙[結城信輝])、第一話シナリオ集
  • 特典:特製記録集
  • 映像特典:ノンテロップオープニング、ノンテロップエンディング、宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 製作発表会、宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 特報 第一弾、宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 特報 第二弾、第一章 嚆矢篇 劇場予告編 第一弾、第一章 嚆矢篇 劇場予告編 第二弾
  • 音声特典:第一話オーディオコメンタリー[出演:小野大輔・福井晴敏・羽原信義]、第二話オーディオコメンタリー[出演:岡秀樹・福井晴敏・羽原信義]

 

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 1

  • 2017年3月24日発売
  • 価格:Blu-ray:7,800円(税別)、DVD:6,800円(税別)

 

関連情報

 

(C)西崎義展/宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会

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