アンビル星人の「東京おもちゃショー2023」レポート~おもちゃ業界の変化と最新トレンドを探る
電撃ホビーウェブ読者のみなさんこんにちはアンビル星人です。古くからのモデラーさんの中には名前を覚えていただいている方もいらっしゃるかも知れませんが、40歳以下の方には元電撃ホビーマガジン編集長(2009年~2013年)とご紹介した方が良いかもしれません。電ホビでのお目見えは気まぐれで載せていただいた下記の作例以来です。
編集部から一般公開も含め4年ぶりのフル開催となった東京おもちゃショー2023のトレンドを探ってほしいとオーダーいただきこのコラム(?)を書いてます。“敬語キャラ”なので少し鬱陶しい文体はご容赦を。
東京おもちゃショーは1985年のバンダイ入社以来、立場や参加の形を変えましたがほぼ皆勤賞かも知れません。ただし少し迷走した2003年から3年間だけは行きませんでした(笑)。
電ホビ読者が注目する新製品などは下記リンクの「東京おもちゃショー2023(まとめ)」をご覧いただくとして、少し俯瞰気味にここ数年の変化や最近の傾向を探っていきましょう。
まず会場に入って真っ先に会った業界の友人に「注目は?」と聞いたら「Tamagotchi Uni」と言われてビックリ。「たまごっち」の近年の復活ぶりはもちろん知っていましたが、今でも話題をさらえるのはそもそも携帯玩具としてシンプルな製品フォーマットが素晴らしかったんだと改めて思い知りました。加えて初代「たまごっち」の発売は、ちょうど東京ゲームショウが分離した1996年なので、その後様々な電子玩具が、ゲームが抜けた部分を補完しておもちゃショーの話題の中心になっていったのは必然だったのかも知れません。
世間的なトレンドの話はこのくらいにして、もう少しマニアックな方向に話を振りましょう、電ホビですし。
帰巣本能(笑)でどうしてもバンダイさんから回るのが習性になっちゃってますし、俯瞰しているつもりですがハイターゲットに響く商品はやはりバンダイさんが多いのでそこはご容赦ください。
おもちゃ「卒業」の阻止と螺旋(スパイラル)進化
バンダイさんのブーストップは王様戦隊キングオージャーコーナーで、スーパー戦隊シリーズがオープニングを飾るのはここ何年かブレません(ブレたことあったかも?)。その一押しアイテムは「DXオージャカリバー」ですが、この種のなりきりおもちゃは、かなり前から「まるで実際の販売商品を劇中で使っている」かのようなリンク感がすごいです。昭和の昔と違って、商品仕様が劇中に逆流すれば開発は楽になっているのかな?と思い話を聞いてみましたが、劇中と販売商品に大きな差異が許された頃とは違う苦労があるそうです。劇中プロップは大人である俳優さんのサイズに合わせてあるので、それを主要ユーザーである3~6歳児が持って違和感がないサイズに圧縮し、増え続けるギミックを組み込み、プロップでは許されるディティールを玩具安全基準(ST基準)に適応させて縮小するのはやはり大変だそうです。
スーパー戦隊コーナーの最後には、放送終了の前作商品でありながら予約受付中の「豪華観賞用 ゴールドンメッキドンオニタイジン」が(2023年6月30日 23時まで)が展示されているのが印象的でした。
仮面ライダーギーツコーナーも同様で、「HISTORY」と銘打ってクウガ以降の過去作品ベルトの展示が目を引きます。本来おもちゃショーは「玩具見本市」ですので、市場から製品がなくなる前作、前々作を展示することはあり得ませんでした。もう何年か前からですが、こうして過去商品を展示するのはハイターゲット、いわゆる大人向け商品市場があってこそでしょう。
それが如実に解る展示がバンダイさんのNARIKIRI WORLDコーナーにありました。
おそらく電ホビ読者にも深く刺さっている「ファイズギア」の新バージョンが、過去のバージョンと共に予告されています。「555」はちょうど20年前の放送ですが、すでに翌年には「COMPLETE SELECTION ファイズギア」が31,500円で発売されました。それ以来再販、バージョンアップを続けています。2003年発売の「おもちゃ版」を買った世代は現在25歳~30歳、3万円の「2004年大人版」を買った(買えた)世代は現在40歳~60歳。この二つのターゲットに向けてバージョンアップしながら進化する姿はよくSFのネタで使われる時間の螺旋(スパイラル)論の様です。同じところを巡っているようで実は少しずつ未来に向かって進んでいる…まさにスパイラル進化ですね。
この進化というかバージョンアップは、一足早くジェネレーションの垣根がなくなったプラモデルの世界では当たり前になりましたが、おもちゃの世界は現在進行中といえます。
ただ、このスパイラル進化だと一時期のガンプラのように新規ユーザーの獲得に苦労するのでは?と思い、担当さんに聞いてみましたが、「2年前の50周年限定のCSM変身ベルト・タイフーンも20歳代のお客様にも買ってもらえています。みなさん以前の作品もよくご存じです」とのことでした。今は様々な入り口が用意され、作品自体が新たなファンを獲得しているので心配無用みたいです。
バンダイさんの話ばかりになりましたが、スパイラル進化にまさにこれから挑戦すると思えて印象的だったのがタカラトミーさんの「BEYBLADE X」。もちろん従来同様のアニメ展開(秋放送予定)もありますが、りんかい線国際展示場駅の駅貼りから始まって、ブースの構築、プロモーション映像とかなりとがったプロモーションを展開しています。スポーツ化を目指しているそうですが、その目的は二つ、新規ユーザーとなる子どもたちに「かっこいい」と思わせること、そして「卒業した元ユーザーの呼び戻し」でしょう。「ベイブレードシリーズ」が双方を取り込んでスパイラル進化状態に入ることができるか楽しみです。
すでに盤石な体制で大人層も獲得している代表的な商品二つのお話も聞きました。
タカラトミーさんの「トミカ」は一番の古株ですが、成人男性のシェアは3割程度、子ども向けと大人向けでシリーズ分けはされていますが、その垣根は曖昧で「このシリーズは子どもの方が多い」程度の傾向があるだけだそうです。
もう一つはエポックさんの「シルバニアファミリー」。箱庭お人形遊びはドールハウスとして昔からのジャンルでもあり、「シルバニア」はご存じの通り、すでに世界レベルで全年齢にファンがいます。コロナ禍の巣ごもり需要だけでなく、近年のバリエーション追加で大人のユーザーを増やして好調だそうですが、ちょっと驚いたのはその追加されたバリエーションの方向性。実は“渋くマニアック”な方向のバリエーションが貢献しているのかと思ったら、写真の「お城のゆめいろゆうえんち」に代表される「ゆうえんちシリーズ」が当初想定した子どもだけではなく20~30歳代の女性ファンを増やしたそうです。
スパイラル進化論…ちょっと自信が出てきました(笑)。
ジェンダーレス化で配色に変化は?
上の「ゆうえんちシリーズ」をはじめ「シルバニア」も男の子ユーザーが確実にいると聞いて、そうえばおもちゃ業界にジェンダーレスの影響はあるのだろうか?と思いました。
前記の通り仮面ライダーベルト「HISTORY」も年を経るごとに配色がカラフルになっています。自分がバンダイに居た80年代は「紫色と黄緑色を使った男の子商品は売れない!」と先輩の薫陶を受け、その配色は赤・黒・シルバーなどの男の子カラー一辺倒でしたが、仮面ライダーWが紫色と黄緑色のツートーンでビックリしたのすら今は昔です。「最近はライダーベルトや戦隊ロボにも紫色、黄緑色はもちろんピンクを使ってもお子さんたちは問題ないですね」と担当者さんも言っていました。こういったビビットカラーが男の子にも好まれるようになったのは隔世の感があります。これって文化の成熟なんでしょうか?
ただ一方、女の子玩具は真逆だとも思いました。男の子向けがどんどんビビットカラーを取り入れて配色のバリエーションが拡がっていくのに対し、成人女性のトレンドでもあるモスカラーが加わっているといえパステルカラー中心の「原宿KAWAII」一辺倒の印象的です。
唯一事前の想像通り配色が融合していると思ったのはハイターゲット向けの「超魔法合体キングロボ ミッキー&フレンズ」と「Disney IMAGINATION BELT」しか見当たりませんでした。やはりおもちゃショーでのジェンダーフリー化はまだ大人向けだけのようです。
と言うことで、もうすこし男の子向け、女の子向けで配色が混じり合っているのかな?と思っていましたがおもちゃショー全体を見回しても現時点ではまだかなり明確に分かれている印象です。ただ今やどんなおもちゃにも一定数の異性ユーザーがいますので男の子色、女の子色なのではなく、もしかしたら「バトル色」と「お友達色」なのかも知れません。
テクノロジー普及の最後の指針となるおもちゃショー
単色のLEDユニットを回転させ文字やアニメーションなど様々な効果を見せる技術は、すでにお祭りアイテムやパーティーグッズなどで使い尽くされ一山越えた感がありましたが、フルカラーになりおもちゃへの応用範囲が拡がったのか、調達部品としてさらに価格がこなれたのか、何点か印象的な商品がありました。特にバンダイさんの「変身スカイミラージュ」は球体内に変身効果を再現し、よりアニメ劇中に近づいた感じでなかなかインパクトがありました。
このLEDユニットを応用し、同じくすでに枯れた技術である傾斜センサーなどを組み込んで、さらに高度な表現をして話題になっていたのが、タカラトミーさんの「とびだせきゅーびっつ」です。表示されるアニメーションの解像度はそれなりですが、薄いユニットが常に振動しているため、まるで立体ホログラフの様にキャラクターが浮かび上がり、しかも触れることができるのは新鮮な驚きです。
冒頭の「Tamagotchi Uni」のポイントはWi-Fi搭載によるクラウド接続ですが、これも今や最新の技術とはいえません。ただこちらの肝はアマゾンウェブサービス(AWS)のクラウドサービスに接続する点で、 “安心できるセキュリティー”を担保したうえで、クラウドサービスがいよいよおもちゃの世界に降りてきました。おもちゃがテクノロジー普及の最後の指針であることを如実に表しています。
- シリーズ史上初!Wi-Fiを搭載して世界中のユーザーとつながれる最新機種「Tamagotchi Uni」が発表!たまごっちたちのメタバース“Tamaverse”へと飛び込もう!
- 『たまごっち』初となるWi-Fiを搭載した『Tamagotchi Uni(たまごっちユニ)』が7/15発売
ここまでくると、次は子どもの遊びと親和性が高いはずの「VR」「AR」「MR」がいつ、どのように使われるのか、どこに組み込まれるのかに注目したいですね。…まあ擬似的にARっぽく遊べた製品は10年くらい前に少し流行ったような気もしますけど…あ、バーチャルボーイの存在はちょっと置いときましょう(笑)。
クラフト&ホビー関連商品が思ったより少ない?
最新技術と対極にあるクラフト&ホビーおもちゃですが、コロナ禍の巣ごもり需要でかなり伸びたと言われており、その余勢を駆って新製品も多いのかな?と思っていました。この辺のクラフトジャンルは造形にも応用が利くものがあるので気になる人も多いかと思います。
このジャンルにはバンダイさんもタカラトミーさんも人気商品があるのですが、今回新製品は見当たりませんでした。制約もなくなり子どもたちが“外に飛び出す”ことを見越したためなのか、既存商品を伸ばす方針なのか解りませんが少々意外でした。ただ定番ジャンルなのは間違えなく、ビバリーさんが新製品を、メガハウスさん、エポックさんなどがバリエーションを大きくPRしていました。
ホッとするおもちゃもご紹介
言葉通りの「おもちゃ」という印象ながら地味な進化で人気が続く商品も多数あります。増田屋コーポレーションさんの「パネルワールド」は先行他社よりさらに拡張が手軽ですが、プログラミングの基礎の要素もあり大人でもはまりそうな楽しさもあります。まもなく発売から10年を迎えようという商品ですので、大人向けの展開は考えないんですか?と聞いたところ「そこは先行する巨人がいらっしゃるので」と控えめなお返事でした(笑)。
もう一つは乗り物玩具で有名なトイコーさんの建設重機のシリーズ。海外では子ども向けおもちゃのモチーフとして定番のショベルカーなど建設重機ですが、日本では少しマニアックな印象です。しかし近年アイテムを増やしており大変好調だそうです。「大人の方にも買っていただいています」とおっしゃっていました。自分も「アスタコ」はかなり欲しいです。
今年明確なトレンドと思えたのは宇宙かな?
「ハクトR」の月着陸は残念ながら失敗しましたが、最近の宇宙開発熱は当然おもちゃにも反映されており、おもちゃショーでも少なからず関連商品を見かけました。カワダさんの「ナノブロック」も宇宙シリーズをブース前面に展開されています。「ナノブロック」は大人向けに力を入れて成功しているシリーズですので、先のスパイラル何チャラの思いつき自説を検証しようと成人と子どもの比率はどのくらいですか?と質問しましたが「良い質問ですね」とはぐらかされてしまいました(笑)。
あと宇宙関連で一番の話題商品は、ここであえてあげる必要もないくらい注目されていた「ルナクルーザープライム」ですね。
海外メーカーの展示も復活
ハイエイジトイという面では海外の状況も今や抜きに語れない存在になっているので、ここで少し触れておきましょう。日本コンテンツの影響を受けたうえで、日本指導の製造技術とクオリティの向上を経たアジア地域独自のオリジナル商品も少なからず出展・展示されています。
国内だけでなく、海外のハイエイジ向け商品も多く扱うマイルストンさんの方にお話をうかがいましたが、アジア地域の最近の「変形玩具」熱は日本以上だと感じるそうで、これからも異質の高い商品が期待できそうだとのことでした。
そのほか先日のG7広島サミットでも話題になった「BRICS」の盟主で、従来のおもちゃショーではあまりお目にかからなかったインドの製品をSTEAMS LAB JAPANさんが展示していたのでご紹介。あくまでも知育玩具とのことですし国内でも似た製品はありますが、このクラフトホビー感が気に入っちゃいました。
少し寂しい国産SFビークルトイの消滅
最後に個人的な趣味の感想を。
昨年のクリスマスシーズンの「トイザらス」チラシに一切見当たらず、今回会場で意図的に探してみたのが国産SFビークルトイ。案の定、昭和の昔に主役だった「ウルトラ超兵器」「タツノコメカ」などに代表される純然たる“乗り物メカ”の新製品はほぼ消滅(もちろんビークル→変形→ロボットは山ほどありますが、これらは基本的にロボットカテゴリーかと)。頼みの綱のウルトラマンシリーズ最新作『ウルトラマンブレーザー』(7月8日(土)放送開始)も担当者さんに聞いてみましたが、当面人類側メカはロボット怪獣「DXアースガロン」だけのようで、国産SFビークルトイ(プラモ含む)で育った昭和の子どもとしては一抹の寂しさを感じます。北米系トイではスターウォーズシリーズに代表されるビークルメカが今も商品ラインナップの主役を張っていますので、世界的に趨勢が今後どちらに向かうのか興味津々です。
あとはなんと言ってもタカラトミーさんの「ダイアクロン」シリーズ。現行シリーズはロボットに変形したり最終的に合体したりする商品が多いので少し方向性が違いますが、SFビークルトイジャンルを引っ張り続けて欲しいと願ってます。展示を見ると全52話アニメの第48、49話ぽさのある大型商品が続きますが、まだまだ続くことを期待してます。
…とか、ここまでなんだか偉そうに書いちゃいました。特に「スパイラル進化」とか恥ずかしいフレーズを臆面もなくなく書いてますが、要はその商品、そのシリーズを知らない人に「また同じもの買ってる」って言われても反論できるように理論武装したいだけなんです(笑)。取材中に会ったとあるメーカーの企画担当者さんがスパイラル進化について「全く新しいアイデアなんてそうそう出せませんから必然ですよ」と笑って言うのも事実ではありますが、二重螺旋のDNAが突然変異して生物が分岐するように、進化には必要な事象じゃないかと思います。それを期待して「また同じもの…」と言われちゃうスパイラル進化商品買っちゃいましょう。最近は断捨離だのミニマリストだのサブスクだのと、ものを持たないことを是とする単語がもてはやされますが、おもちゃの基本は“物欲”ですよね。物欲が人類を発展させてきたんです(笑)。
で個人的には素直にこれ↓が今一番欲しいです。
プロフィール
アンビル星人 (安蒜 利明)
「模型情報」をはじめ3誌のアニメ・特撮・ホビー雑誌編集長、黎明期のガレージキット企画責任者、ゲームプロデューサー、コスプレ誌・携帯情報誌・コミケ系オタク漫画誌編集長、iモードサイトプロデューサー、ボカロ雑誌・小説・コンサート製作担当、フィギュア企画、そしてアニメ聖地権利元担当などなど…究極の”サブカル器用貧乏”キャリアを経て、現在は第二の人生を模索中(笑)。