『キャプテン・アース』デザインの現場 浅井真紀(その1)
今月よりスタートする「キャプテン・アース デザインの現場」。 ここでは『キャプテン・アース』に深く関わるデザイナーに、王道ロボットアニメと評される本作品をデザインという視点から語っていただきます。
記念すべき第1回はキルトガングのデザインを担当した浅井真紀氏。『キャプテン・アース』メインデザインワークスを担当されたコヤマシゲト氏の全面協力を得て行われたインタビューはどれも貴重なエピソードばかりとなっています。
インタビュー:電撃ホビーマガジン編集部(2014/5/2)
※インタビューで語られる画稿は電撃ホビーマガジン2014年7月号に掲載されています。
<PROFILE>
コヤマシゲト(こやましげと)
デザイナー。1975年/東京都出身。04年、OVA『トップをねらえ2!』に参加したのをきっかけに、多数のアニメ作品にかかわる。五十嵐卓哉監督作品では前作『STARDRIVER 輝きのタクト』のサイバディデザインに引き続き、『キャプテン・アース』ではエンジンシリーズデザイン・メインデザインワークスを担当する。
浅井真紀(あさい・まさき)
フィギュア原型師。1973年/大阪府出身。多くのホビーメーカーを通じて様々なフル可動フィギュアを世に送り出している。ワンダーフェスティバルではアマチュアディーラー『f-face/plastica』主宰。『キャプテン・アース』ではキルトガングのデザインを担当する。
『デザイナーと原型師への憧れは同じようなもの』
―浅井真紀さんは原型師をお仕事にしていますが、メカデザインのお仕事との違いは感じられましたか?
浅井真紀(以下、浅井):自分の場合、デザイナーと原型師への憧れは同じようなものだったんです。僕、ガンプラ世代直撃なんですよ。子供の頃、メカデザイナーという職業がある事を知ったのは、大河原邦男先生からなんですが、その事を知るきっかけになった本やマンガ、『プラモ狂四郎』とか、そういった作品を読む中で、モデラーの小田雅弘さんや川口克己さん、速水仁司さんが、大河原さんと同じくスターとしてそこに居られたんです。地元に海洋堂やボークスなど、後にメーカーとして有名になるショップもあって、実際に造形の現場を目の前にできていた事も大きかったですね。造形に関しては現実感を持って夢中になれる環境があった。そんな中で、大河原さんに憧れることと小田さんに憧れることの気持ちに大きな違いはなかったんです。
コヤマシゲト(以下、コヤマ):メカデザイナーに、というより、小田さんに憧れてた?
浅井:当時、メカデザイナーといえば大河原さんしか知らなかった。というか、「大河原さん=メカデザイナー」だった感じです。大河原さんってデザインも造形もされるじゃないですか。だから余計勘違いしたんでしょうね。「大河原さんも作ってるんだから、模型や造形はデザイナーへ連なる技術としておかしくはない」と。しかも、中学校の頃には小林誠さんや小田さん達モデラー勢が『機動戦士ガンダムZZ』にデザインで参加されましたから「やっぱりモデラーとメカデザインって近い場所にあるんじゃないのか」っていう思いが加速してしまった(笑)。さらに『ガンダム・センチネル』みたいな模型側からの仕掛けが目立った時期もやってきて、模型の可能性に夢も持てたんですよ。それに、その少し後には、僕も業界に入って原型師になってしまうので、もう造形側の人間として腹をくくってしまって、「僕は造形からのアプローチで何とかしてみせる」という意地が産まれちゃってました(笑)。ですから、ずいぶん遠回りして繋がった感じではあります。
―『キャプテン・アース』のお仕事に関わることになった経緯を教えてください。
浅井:以前にいくつか別の作品で、製作現場のお手伝いをさせていただく機会があったんですけど、個人的には後悔というか、あのやり方で良かったのかという不安が残っていたんです。アニメの製作現場で動いているスピード感と、自分のデザインを立体として提案するやり方では、速度も感覚も、先方の負担になったんじゃないか、という不安です。その後、造形をデジタルで行うようになって、形にする事に関しては明らかに早くなったので「このやり方なら、ちゃんと対応できるんじゃないだろうか」という意識が持てるようになってきた、ちょうどそのタイミングでコヤマくんから声をかけていただいたのが、今回の『キャプテン・アース』だったんです。正直、緊張感はあったんですけど「今ここでやると言わなかったら絶対後悔する」と思って、まずは提示だけでもさせていただこう、と。
コヤマ:浅井さんは原型師、だと考えるのが一般的ではあるんですけど、WFなんかでオリジナルのフィギュアも作られてて、僕はそのフェティッシュ感が含まれた独特のラインを持ったフィギュアを見た時から「浅井さんにデザインをしてもらえないかな」という想いがあったんです。だから今回の『キャプテン・アース』で、五十嵐監督が細いロボットを求められていると感じた時に、まず最初に浅井さんへ「原型師としてじゃなく、デザイナーとして参加してくれませんか?」という無茶ぶりをして(笑)。
浅井:この時、自分の中で「デザイナーとしてやってみたい」という願望だけでなく「アニメの現場でやることの意味」を意識できたのも大きかったんです。ここ何年か、自分のキャリアは完成品フィギュアを“商品”として考え、作るというポジションに軸足を移しています。これは原型を作って複製して販売、という原型師の個人技に近いガレージキットと違って、多くの人が関わる量産品を想定しながら「ベストな落とし所ってなんだろう」と探す行為の連続です。ともすれば「個人としてのやりたい事」は否定される面もあるんですが、でもそれは自分にとって有意義な経験で、決して不快なものではなかった。アニメってこれ以上ない集団作業じゃないですか。その中で、僕個人のやりたい事だけでなく、集団の中で答えを見出していく仕事は、とても魅力的に思えたんです。
―では実際にキルトガングをデザインした時のことについてお聞かせください。デザインに入る段階では、先々のストーリー、世界観は把握されていたのでしょうか?
浅井:最初はキルトガングの概要を書いたメモと、マシングッドフェロー各機の名前、1話分を数行で書かれたストーリー構成案くらいで始まりましたね。
コヤマ:企画段階でキルトガングは「アースエンジン・インパクターのデザインを古くさく感じさせるような、最先端のデザインラインに」という考えがあったので、今のカルチャーも含めてテクノロジーがもう少し上に行っているデザインが欲しい、という方向性は出させてもらいました。
浅井:正直いうと最初は感覚が掴めなかったので、最初期稿はアイデアをゴチャ混ぜに詰め込んだものになりました。これは「こういうデザインをしたいです」という考えを示したものというよりは「(五十嵐監督が)どういったものを求められているのか、それを知りたくて要素を詰め込んだ」という感じでした。その際、はっきりと覚えているのが、五十嵐監督が「こういう立ち方が好き」と言われた事です。いわゆる“S字立ち”を過剰にした、腰をグッと突き出して猫背気味になる、不良みたいな立ち姿なんですが、初期の打ち合わせでそういうお話が出たので、ではそれが似合う形を模索していこう、と。実は僕もその立ち方が好きだったので、根っこの趣味性というかフェチの部分が合うんだ、とちょっと安心しました(笑)。
(6月2日につづく 1/4)
<関連情報>
その2:『機械生命体という存在なので、生き物でもあり、機械でもならなくてはならない』
その3:『異形の部分を狙い過ぎたせいもあって、なかなかOKにならなかったんですよね』
その4:『嬉しかったですね。想像していなかったものが出てきているわけですから』
(C)BONES/キャプテン・アース製作委員会・MBS