『キャプテン・アース』デザインの現場 浅井真紀(その3)
『異形の部分を狙い過ぎたせいもあって、なかなかOKにならなかったんですよね』
インタビュー:電撃ホビーマガジン編集部(2014/5/2)
※インタビューで語られる画稿は電撃ホビーマガジン2014年7月号に掲載されています。
―モールキンは女性型ということで、注意したところはありますか?
浅井:最初にデザインしたモールキンは、宇宙生物ということを意識して意図的に怖いデザインにしていましたね。
コヤマ:“骨”っていうコンセプトがあったので、顔なんかもかなり骸骨っぽいというか。
浅井:そうですね。女性メカでも口が裂けてたり、瞳に見える部分が無かったり。でも、五十嵐監督のイメージをヒアリングしていく過程や、先ほどお話したような、キャラクター原案を再転化するという流れの中で、モールキンはあくまでモコなんだという意識に変わってきて、そうなると女の子のキャラはやっぱり可愛くしよう、と。
コヤマ:美人にしてあげようか、みたいな。だから、“骨”っていうのはコンセプトの考え方に近くて、実際にはもう少しキャラっぽく“可愛い”とか“カッコイイ”とかを狙ったデザインを提案してもらいました。浅井さんはフィギュアを作られているので、立体造形のアプローチから色々と振り幅のある提案があって。そういう意味で電撃ホビーマガジン7月号でも掲載されたような、何パターンもの提案も浅井さんだからできたところがあるような気がするんですよ。
浅井:もうこれは身に染み付いた癖なんですが、造形的に映える情報の足し方をしようと考えてしまって、ついエッジをフィレット(角丸)にしてしまったり、先端に面取りを入れたりとかやってしまうんです(笑)。
コヤマ:僕から見てもこれは絶対に、デザイン的に作画やそれ以降の工程でのミスが出やすいとか、作画スタッフが把握しづらいって部分を浅井さんに理解してもらった上で修正してもらっています。それが完成した段階で、今度は本当にアニメ用の作画設定として吉岡(毅)さんにリデザインしてもらいました。普通だとキャラクターやメカのデザインを“原案”という形で受け取った後はアニメの現場で何とかしちゃうケースが多いんですけど、それだけだとやっぱり情報が抜け落ちちゃう。つまりアニメの現場で本当に実作業のことだけを考えてデザインすると、どうしてもデザインとしての“旨み”みたいなものが抜け落ちちゃうので、今回は僕が現場との通訳という形で入ることで浅井さんの“旨み”みたいなものをなるべく残していこう、みたいなことはありました。結果的に、吉岡さんからも作画面からのアイデアをさらに盛ってもらって、めちゃくちゃ助かりました。
浅井:今回の現場では自分の原案をアニメ用の線に整理する打ち合わせに、五十嵐監督とコヤマくんが常に同席してくださってて、吉岡さんと4人でもう一段階作り直していく、みたいな練り込みが行われた形になりますね。
―アルビオンはアマロックとモールキンと比べると少し雰囲気が異なりますが?
コヤマ:アルビオンのデザインはかなり難航しましたよね……。頭部の形状だけでもかなり試行錯誤しましたよね(笑)。
浅井:アルビオンの時は「異形だけどカッコ良い」というところを狙おうとしていたんですが、異形の部分を狙い過ぎたせいもあってなかなかOKにならなかったんですよね。
コヤマ:アルビオンは嵐テッペイの“本体”でもあるので、キルトガングの中でも主人公というか、ヒーローという位置付けでカッコ良くあってほしい、という想いが我々にもあって。ある意味、主人公機であるアースエンジン・インパクターよりカッコ良くないといけないわけで(笑)。五十嵐監督からのアイデアもたくさん出て、僕も顔とかには相当アイデアを出させてもらったので、要望の多かったデザインだと思います。
浅井:テッペイのマシングッドフェローって名前が「荒武者」なんですよ。それもスマートなヒーローには繋げづらくて悩んだ理由でした。そこでアマロックの外装が“短ラン・ボンタン”に見立ててデザインされていたので、アルビオンはその逆算で決めることに。
―アマロックが番長ですか?
浅井:アマロックは番長よりもっとチャラい感じの不良で、そこにマシングッドフェロー「天狼星」の名前から狼のイメージを重ねているんです。そうすると対抗するアルビオンは生徒会長で白ランだろうと(笑)。白ランだったら長ランになるだろうから、襟も高くしたりして。アルビオンとアマロックの対決って、そのまま生徒会長と不良の対決構造なんですよね。でも実際に完成した映像を見たら生徒会長がすごい打撃力のある竹刀を持っていた(笑)。
―すっかりそういう風にしか見えなくなってきました(笑)。
浅井:モールキンの外装は、兎に赤ずきんを重ねています。狼と赤ずきんのコンビですね。背中の羽根状のパーツは、ほら、フードの上からマフラーを巻いちゃう娘とかいるじゃないですか? アレ、個人的にすごく可愛いと思ってるので、そのイメージで(笑)。女性型なので、足元に靴っぽい形状を入れたり、指先にマニキュアを入れたりして差別化を図っていますが、このあたりは今後出てくるキルトガングの男女差にも適用しています。
コヤマ:あとアルビオンで言うと、浅井さんと話していて面白いなと思ったのは、この外装は「成長し続けている」という設定があって……完全に裏設定。
浅井:設定というか、僕らの間だけでそう言っているだけなんです(笑)。だからこれは公式設定ではない、という前提の話なんですが、キルトガングは本人の「自分はこうである」というエゴが外装になっているので、イメージが強く大きく膨らめば、成長というか、変化し続けることが可能なんです。実は普段からちょっとずつ大きくなってる。その過程で明確にイメージできた範囲を超えた外装がパリパリと剥離して、結晶みたいな破片として常に周囲に散っているんです。
コヤマ:モールキンがパッと地球を目前に実体化した際に周囲に光が弾けるんですが、それが剥離した外装の結晶なんだ、と(笑)。
浅井:手から光弾を飛ばすのも「謎のエネルギー」を飛ばしているわけではなくて、モコの「壊したい!」というイメージが変化した外装の断片が飛んでるんです。テッペイだとそのイメージが強固なので、武器の形にまで物体化している。この剥離した外装もデブリとなって星の周りを漂流するんですが、星が食い尽くされる前にキルトガングがやられると、外装はエゴブロックに爆縮して消えちゃうんです。勿論、デブリになった破片も一緒に。だから地球の周りはまだ綺麗なんですけど、キルトガングが明確な意思を持ってそこに在り続けたら、剥離した破片のデブリはどんどん増えていって、最後は、星の回りに環ができるんです。キルトガングの環が。それはその星の生命体が、星から出て行けなくなった証なんです。
コヤマ:例えば地球がモールキンにやられたら地球の周りにピンクの環ができてしまう。
浅井:だから環は惑星の“使用済み”の痕跡なんですよ。宇宙上の“輪っか”のある星は、キルトガングが食った跡なんです。
コヤマ:それで思いついたのが、「それだと土星には白い環があるので白いキルトガング、ということはアルビオンが過去に……!?」とか勝手に妄想して盛り上がって(笑)。実はこの世界観では地球というのは太陽系で2番目に狙われている惑星であって、すでに1番目で犠牲になった星、すなわち土星……とか言って(笑)。
浅井:それいいね、みたいな(笑)! あくまで“オレ設定”的な楽しみ方ですが(笑)。
(6月16日につづく 3/4)
<関連情報>
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