『こんなクオリティ見たことない』業界屈指の技術を集結!ワンフェス最高責任者・海洋堂の宮脇センムに聞く“ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト”とは
「ワンダーフェスティバル2016[冬]」から開始された「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」。ワンフェスの象徴ともいえるワンダちゃんを、新鋭イラストレーターが作画、それをPVCフィギュアで販売するというプロジェクトです。「本気のワンフェスみやげ」をコンセプトとしたこの試みは、ワンフェスを取り巻く状況の変化をいち早く察知したものであったともいえます。そこで今回は、ワンフェス最高責任者も務める海洋堂の宮脇センムに本プロジェクトついて伺いました!!
主催者として「どうだ、こっちの本気を思い知ったか!」と言えるような最高の美少女フィギュアを開発しよう
――まずは「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」について、企画の発端・経緯をお聞かせください。
宮脇センム(以下、宮脇):この話が出たのは5年くらい前ですね。ホビー業界全体が先細りになっている中、ワンフェスの入場者だけはずっと右肩上がり、その時で総来場者数が5万人にもなっていました。ただ、会場からの声に耳を傾けてみると、「当日版権が下りない」から「会場にそのタイトル関連のガレージキットが一切存在しない」ということを知らない、もしくは 「ワンフェスで売られているガレージキットのキャラクターって、中途半端に古い」という声が入ってきて、従来の来場者の層が変化してきていることも感じました。これは、設定資料の公開から、造形、版権許諾が出るまで1年はかかるというカレージキットと製作スパンを知らないことの証明です。また、ワンフェスという名前は知っているけれど、造形物のイベントということを会場に来て初めて知ったという人たちが増えてきているというのも理由ですね。これは衝撃でした。どうしてこういう現象が起きているのか考えた結果、「ワンフェスも“オタク詣”のひとつになったのではないか?」という結論に至りました。「オタク詣」とは、「行きたくて行く」ではなく、自分の属性がオタクである以上行かなければならないという「オタクの年間行事のひとつ」のように認識された結果、「そもそもワンフェスとは何か」を知らない人たちが会場に来るケースが増えてきたからだと思ったわけです。
もうひとつの問題が、当時すごい勢いでワンダーショウケースにおけるプレゼンテーション作品(レジンキット)の売り上げが低下していたことです。昔は一番安いもので 2体組で3,000円以下で買えていましたが、中国で生産できなくなったこともあって販売価格が8,000~9,000円にまで値上がりしたのです。そうなると、「来たついで」というだけでモノが買えない。その結果、写真だけ撮って、誰がワンダーショウケース に選ばれたかSNSで盛り上がるだけで終わりです。また、ガレージキットに対する来場者の反応も変わってきました。フィギュアというのは予め塗装されていると思っている人が増え、レジンキャスト製の組み立てキットの注目度が下がってしまった。
ただ、来場者の層は変わりましたが、知名度と来場者数が増えていることは確かです。これは主催者側が正しい努力をすれば、6~7万まで来場者数が伸びる可能性がある。きちんと広報戦略を立て直せば、フランスにおけるジャパンエキスポのように、それこそ海外から「You」たちが来ることにも繋がる。そこで、ワンフェスの歴史を知らない来場者層でも買えるくらいの価格設定で、主催者として「どうだ、こっちの本気を思い知ったか!」と言えるような最高の美少女フィギュアを開発しようということになったのです 。
海洋堂は30年以上、ワンフェスというイベントをやってきましたが、ワンフェス自体の在り様が変わってきたのも感じるようになりました。イベントとして入場者は増えているけれど、造形物に対するカロリーが低くなってきているんですよね。私の目の黒いうちは、ただ人が多くてザワザワしているだけのゆるいイベントにしたくない、海洋堂はこのワンフェスというお祭り全体を取り仕切っていこうじゃないかと(笑)。
このレベルのものをこの値段で、半年に1個ずつ出し続けられるというのは本当に奇跡的なこと
――「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」の企画にはグッドスマイルカンパニー(以下、GSC)さんんも協力されていますね。
宮脇:GSC さんが一緒に盛り上げる側に回ってくださったことは本当に感謝しきれません。海洋堂は一般的な認知度は高いけど、展覧会やネイチャーもののイメージが強くなっていて、美少女フィギュアからは一線を引いた形になっています。その点、GSCさんは美少女フィギュアに特化して、常に最前線で戦ってこられています。このサイズの美少女フィギュアで最高のものを作ろうとすると、海洋堂よりGSCさんの方が上手です。広報の面でも、ライト層にはGSCさんが発信する方が、信頼性があります。GSCさんが企業としてこれに関わることは、コストパフォーマンスでのメリットはありません。けれども、海洋堂とGSCさんはライバルであると同時に、造形物への想いという点では同志でもあるわけです。それで、一緒にワンフェスを盛り上げてくれることになりました。GSCさんの労力という話が出ましたが、通常、ペイントマスターの写真が雑誌に掲載されて、商品が出来るまで、だいたい一年はかかります。それを半年に一個開発するというタイムスケジュールを強いているにもかかわらず、これだけのレベルの仕事をやってくれたというのは驚異的です。
また、原型師についても、榎木ともひで君(シリーズ第1弾)、大嶋優木君(シリーズ第2弾)、そして今回の石長櫻子さん(シリーズ第3弾)という、いわば最高のエース級の造形師を投入しました。このレベルのものをこの値段で、半年に1個ずつ出し続けられるというのは本当に奇跡的なことなんです。造形物として見たときに、これは一般の素人の方でもそうだと思いますが、玄人の人ならなおのこと、見れば見るほど「へぇー!」と驚かずにはいられません。
造形物の魅力、楽しみ方をアピールできるようになったと思います
宮脇:イラストについてですが、今までワンフェスのカタログの表紙を描いてくれていたイラストレーターが水玉螢之丞先生から『よつばと!』のあずまきよひこさんに替わったことも大きいです。おふたりのイラストはパブリックドメイン的な観点から見ても素晴らしいものですが、それは言い換えると毒気がないともいえます。
ワンフェスというのは、基本的には肌色成分の強いものでもあるし、オタク的なイベントなので、僕らも自分たちの意思として、今の流行よりももう一歩先を行く最先端のものを作るべきではないかと思うようになりました。そこで、せっかくワンダちゃんというワンフェスの象徴がいるのだから、それを題材にするのが良いだろうと。それを今風のイラストレーターの方がどう表現するのだろうというのも楽しみだし、ひょっとすると、レジンキットにはお金は出さないというライトな層にも手に取ってもらえるんじゃないかなというもの考えました。
このように、最先端のイラストをGSCさんの協力で、「最高の3Dテキスト」になるような最高の美少女フィギュアを開発できたことで、このイベント自体が他のイベントとは違う立ち位置に居られるのではないかと思います。主催者として、「どや、見てみろ! 今回のワンフェスはこれや!」と全面に押し出せるネタがあるということは、漫然と続けるより意味のあることだと思います。また、これだけの時間や労力を費やしていますから、来場者にもそれだけのカロリーをもって受け止めてもらえるのではないかと期待しています。
自画自賛になりますが、イラストやフィギュアでこれだけのものをオフィシャルなアイテムとして作れるイベントは他にないと思います。それからパンフレットにも、美少女フィギュア造形へのこだわり、原型師ごとの作家性といった評価、注目すべき点といったことを記載することで、今まで造形物に興味がなかった人にも造形物の魅力、楽しみ方をアピールできるようになったと思います。
▲第1弾、第2弾のチェックや撮影するポーズについても細かく指定されています。イラストレーター、原型師、メーカーの三者のこだわりが最上の「3Dテキスト 」を作り上げる原動力となっています。
次のイラストも造形物も着々と上がってきていますが、僕自身が新しいことに取り組める楽しみを味わっています。主催者がまずは楽しんで、それをお客様と共有できたらと思います。今回の一般販売用ガイドブックの表紙デザインにしても 素晴らしいものですからね。一般参加者が会場へ入場する際にはこのガイドブックの表紙を高く掲げ入場チケットの替わりとして入場されるわけですが、僕としてはそのガイドブックを高く掲げる行為をもってワンフェスとワンダちゃんNEXT DOORプロジェクトへ忠誠を誓っていただきたいくらいです(笑)。
▲今回のフィギュアのモチーフとなったワンダちゃんがこちら。
まずはイラストとしての魅力を追及してくれれば良い
――フィギュアのモチーフイラストを担当するイラストレーターさんの選定はどのように行っているのでしょうか?
宮脇:最先端のイラストレーターのリストアップには、「なんとなくドクターK」さん という著名なクリエーターの方にご協力いただいています。彼は絵柄を解析したり、新しい絵を追及したり色彩設計ということに長けた人物です。そうしたことをライフワークとしている彼と、今回のプロジェクトを取り仕切ってくれているあさのまさひこ氏のあいだに たまたまご縁があり、彼から毎回、候補となるイラストレーターさんを5~6人ピックアップしていただいて、そこから選定に入ります。絵を描いていただいてから、フィギュアになって販売されるまで、およそ一年半かかりますから、一年半以上先にこの絵を見たときに、それがどう見えるかなということを考えなければなりません。ある程度ポピュラリティも得られて、素直にかわいいねって言ってもらえるようなイラストレーターを選んでいます。
それから選んだ方にコンタクトを取り、お会いして、企画趣旨を伝えます。その際に「フィギュアになるのが大前提ですが、それを一度頭から抜いて欲しい」とお願いしています。フィギュアになるというと、みなさんどうしても感激してフィギュアの設計図を描いてきてしまうんですよね。新進作家の方を選んでいるからか、どうしても自分なりのフィギュアへの思い入れが出てしまって、「フィギュア化用の絵」になってしまうんです。どの方にお願いしても最初の頃のやり取りは同じになってしまいます。まずはイラストとしての魅力を追及してくれれば良いんです。原型師というのは、どんなに立体化が難しいイラストでも、それが魅力的であれば逆に燃えるんですよ。とにかく、自分の絵柄に自信を持っていただきたいです。そこがこの企画のいちばんの難しさだと思います。ただ、一回「じゃあこの案で行きましょう!」と決まると、そこからはとても早くて、毎回上がってくるイラストを見るのが楽しみになります。
ですから、最初はポージングの指定などもせず、とにかく好きに描いてくださいとだけお願いしています。それでも、最初のうちに上がってくる絵は、どこかで見たようなものになっていることがお約束のようになっています(笑)。僕らは「いかにも」というものを作りたいんじゃないんです。イラストとして最高に魅力があるものを立体にするのがフィギュアですから。それをどう料理するかはこちら側に任せていただいければと思います。
それから、選定のもうひとつの難しいところが、新進作家とメジャー作家の線引きですね。今の新進作家は、大抵の方が商業仕事をかじった経験がありますからね。一年半後くらいに中メジャーというか「この人知ってる!」くらいに育っているであろう人を選んでいます。この企画を通してブレイクしてもらうというのが一番理想ですが、こればっかりはやってみないと何とも言えませんね。
「1+1=2」で終わらせたくない
―― 第1弾から第3弾まで、イラストレーターさんが手がけられたイラスト、上がってきた原型(立体物)を見た感想をお聞かせください。
宮脇:第1弾から第3弾まで、作家と原型師のタッチのシンクロ率ができるだけ高いようにしています。まずはこの方たちが持っている線の魅力を引き出すことを最優先に考えています。同じワンダちゃんにしても、水玉さんとあずまきよひこさんのワンダちゃんだと違うラインがあります。それと同じように、原型師にも榎木君や大嶋君、石長さん、それぞれの線の魅力がどこにあるのかを見て、できるだけイラストとシンクロする組み合わせを考えます。とにかく「1+1=2」で終わらせたくないんです。だから、このイラストにはこの原型師という順に考えていますが、とにかく売れっ子の原型師は一年以上先まで仕事で埋まっているので、先に原型師を確保して、この原型師に合うイラスト、という順に探す場合もあります。
また、大阪芸大の教授という立場からも、フィギュアを教材に使わせてもらっているんですが、第1弾を榎木君にして良かったなと思うのは、顔の作り込みにしてもポーズにしてもバランスにしても、イラストをここまで忠実に再現できている点に尽きます。さらに、彼がTwitterやFacebookに作業工程を書いてくれたことにも感謝したいです。彼が大成功というお手本を作ってくれたことが、このプロジェクトの道を作ってくれたと思います。彼が作っている途中を見たときに、碇ゲンドウさんじゃないけど「勝ったな」と思いましたね(笑)。この「アヘ顔」のところとか「やってくれたな!」と思うし、靴ひものところにしても、最初は「こんなのできるわけないだろう!」と思ったけれど、GSCさんのすごいところは、こういう本来であれば塗装するのが相当に困難である箇所にもきちんと塗装してくれるところですよね。原型を作った男もすごいけれど、これの色を塗り上げて、このレベルで量産してくれているというところも含めて、可愛らしい女の子のフィギュアのテキストとしては最強のものですよ。ただ、実はこの榎木君が原型製作を担当した第1弾のPVC製品に関しては、記録保存用としての在庫管理をしっかり行わなかったために、うちにもあたった2個しか在庫が残っていないんですけどね 。「ちくしょう、海洋堂の記録保存用として、販売分とは別にもっと作っておけばよかった!」って後悔しています(笑)。
▲記念すべき第1弾となった国道12号氏×榎木ともひで氏によるワンダちゃん。「アヘ顔」や右足に引っかかったアンダースコートなど、フェティッシュな魅力が満載。
――前回のワンフェスで販売されたワンダちゃんについてはいかがですか?
宮脇:第2弾のTAQROさんの絵を見たときは、エッジが効きすぎていて「ここまでついてこれるかな?」と思ったんですが、大嶋君の造形物を見たときにその破壊力たるや! ダイレクトにエロスを表現するのではなく、ひざの裏とかお腹の下のふくらみのいやらしさというか、そういった部分を極めてうまく表現してくれました。TAQRO君の絵は大嶋君にしか立体化できない」というあさのさんの予想がそっくりそのまま実現したと思います。 「1+1=3」に化けた良い例ですね。このTAQRO+大嶋の化学変化が凄すぎて、僕はちょっと造形物の魅力に負けてしまって、みんな少しついてこれなかったのかなとも思いました。しかし、主催者としてはこんなすごいものを生み出したという満足感は高かったですね。造形物の魅力としても、まさに「大嶋、恐るべし!」です。
▲第2弾はTAQRO氏×大嶋優木氏。エッジの効いたイラストの魅力を、造形物が充分以上に引き出しています。
――そして今回の第3弾もついに今日公開となりました。
宮脇:第3弾については、もう自信満々というか、第1弾と同じく勝ったも同然と感じました。石長さんの魅力と、賀茂川さんの正統派的な絵というこれ以上はないくらいのわかりやすさです。かわいらしさと肌色成分の良いバランス、チラッと見えるやわらかさ、ふくらみ、背中のリュックなどの小道具の魅力……この良さが分からなかったら、「お前、もうワンフェスへ来なくていいよ!」と言いたいくらいわかりやすい良さがありますよね
でも、今回は原型制作に苦労したんですよねぇ。「3Dなりの良さを伝えたいので、腰にひねりを加えても良いですか?」って石長さんが聞いてきたんですよ。OKを出して、上がってきたものを見たら、それが騙し絵的になってしまったんです。イラストと同じ角度から見ると、頭が大きくて、腕が短く見えてしまう。でも、それ以外の角度からだとちゃんと見えという、3Dならではの矛盾が生じてしまって、それを直すのにかなり時間がかかりましたね。それからもうひとつ、膝とつま先で支点が4点あるにも関わらず、ふわっと浮いたような感じになってしまいました。そこを直すのに彼女はとても苦戦していましたね。ただ、粘り強く修正をしてもらったおかげで、ずいぶん良いものに仕上がったと思います。毎回プロダクツの部分での問題になりますが、この背中のリュックの別パーツと塗り合わせが難しくて、ペイントマスターを初めて見たときに、「これどうするかね?」ウチじゃ諦めるねって話になりましたね(笑)。それが出来ちゃったんですよねぇ。この整合性、 きれいにやってますねぇ! これはGSCさんに大拍手です。最初に塗られていない状態で見たときは、造形としては良いけど、この先の工程が可能かどうか心配だったんだけど、第一回目の彩色品からバッチリ塗られていて、行けるもんだなと驚きました。
▲ワンフェス2017[冬]で発表される賀茂川氏×石長氏によるワンダちゃん。シンプルながら、ポージング、キャラクターの柔らかさ、小物とのバランス……その魅力と見所は、挙げればキリがありません。ヴィヴィットなカラーリングも徹底して再現されています。
▲左が開発途中のサンプル、右が製品。こうして比べてみると、ジャージや髪の毛のブリーチなど、右の方が鮮やかになっていることがわかります。
▲チークを塗る位置も違っています。「普通だと頬の中央 のところに塗ってしまうのですが、本当のオシャレな女の子は頬骨の頂点に塗ります。こうすることで表情に艶というか立体感が出ます」とのこと。また、イラストは当然横顔 なので、正面から見た際の瞳やまつげなどに関しては 、原型の写真を撮って、それに賀茂川氏に正面から見た顔の指定をしてもらったそうです。
――第3弾まで原型を手がけられてきた方はみなさんいわゆるアナログ原型の方々ですね。そこにも何か狙いがあるのでしょうか?
宮脇:今のところ、第3弾まではアナログの方でしたが、そのうちデジタルのものが出てくるかもしれません。今やアナログとデジタルの差はありません。ただ、デジタルとなると、出力の費用等別の問題が発生してきますからね。そうなると予算の組み直し等が必要になってきます。ともあれ、手法に関してはアナログ、デジタルと特にこだわりはありません。
本当にすごい人のレジンキットを3Dテキストとして提供してあげたい
――第1弾、第2弾ともに完成版とレジンキャスト版の両方を販売されています。こうした販売方式を採られた理由をお聞かせください。
宮脇:これはふたつの理由があります。まずひとつは、一流原型師のレジンキットがなかなか手に入らないからです。版権元から販売数の上限が決められているので、それを買おうとすると、ダイレクトパスを買って一番に走っても手に入るかどうか……。さらに市販のレジンキットも、一般市場に流通していないのが現状です。つまり、レジンキットを入手するには、ガレージキット販売イベントしかなく、なおかつ一流原型師のものは入手が極めて困難。これでは、これから原型師を目指そうという人たちが、一流原型師がどういう風にガレージキットの原型を作っているのか、学ぶことが難しくなってしまいます。レジン状態で見れば、パーツ分解のコツをはじめ、製法などもわかります。現状のメインであるPVC完成品では製品開発時にパーツの分割方法などを変更してしまうので、参考にしづらい。だから、若い人たちに学ぶ機会を作りたかったというのが大きな理由です。担当している原型師にとってはライバルを増やしてしまうことになるわけですが、本当にすごい人のレジンキットを3Dテキストとして提供してあげたいというのが主な目的です。
嬉しかったのが、22~23歳くらいの若い女性が彩色済みのPVCではなくてレジンキットを買って行ってくれた時ですね。塗るのが楽しみだけなのかもしれないけれど、明らかに今までとは違う層が買ってくれたので、こちらの意図が伝わったのかなと思いました。ガイドブックの広告内にもレジンキット版の存在意義について書いてあるので、読んでくれれば分かってもらえると思います。本当は白で成形した方が彩色しやすいんですけど、そこは敢えて80年代風にディテールが見えやすい茶褐色やアイボリーにて成形してあります。
もうひとつの理由は、長年のレジンキット愛好者へのニーズに応えるためです。20年、30年とレジンキットを愛好してきた方たちの中には「今さらPVCなんて」という方も少なからず存在します。そういう方へのフォローの意味も兼ねてご用意しました。
ワンフェスに来たら、立体の教科書としてこれを手に取って欲しい
――実際にワンダちゃんを目にされた方からはどういった反応がありましたでしょうか?
宮脇:僕が見たところ、フィギュアのお客様というのは基本的には考え方が保守なんですよ。ワンダーショウケース のときもそうでしたが、どんな素晴らしいものでも1回目はとにかく遠巻きにする傾向は常にありましたね。そこを自分から素直に動いていただけたらと思います。1回目は仕方ないとして、2回目もそれなりに買ってはいただけているのですが、僕自身の気持ちを言うと、そろそろ思い切って動いていただけると嬉しいですね(笑)。
今までわれわれワンフェス実行委員会では、「食玩的なスタイルに基づく安価なPVC製大嶋君版ワンダちゃん」を24万個売ったという実績があります。当時のお菓子のおまけブームもあったりしましたが、海洋堂の心情としては、金型を作るからには10,000個、20,000個作って当たり前という考えがありました。でも、今はそれが5,000個です。来場者数が50,000人のうち、1割の人が買ってくれたら良いなと思った数字が5,000個なので、まぁ良い方なのかな、とは思います。それでも、売れている数に対して反応が薄い気がします。買って満足しているというのもあるかもしれませんが、そもそも、フィギュアが好きな人たちって、このフィギュアのここがすごいと思うというのを発信する人が少ないんです。こちらとしては、それなりのものを提供している自信がありますから、このフィギュアのここに感動したとか、ここはもっとこうやれるんじゃないかとか、SNSなどを利用してもっと発信していただけると我々にとってもそれはやりがいに繋がります。ですから、もっともっと率直な感想を発信していただけたらなと思います。正直、売れることだけが勝利ではないんです。
その点、第1弾の榎木君のTwitterへの反響は大きかったですね。まさに、造形の教科書としての役割を大きく果たしてくれました。自分で造形をやっている人たちが、榎木君に「とても勉強になりましたと」ツイートしている数が多かったです。第2弾はやや売り上げが落ちましたが、造形の教科書として、細かい部分について見てくださっているんだなというのは感じました。
我々はこれだけ高いレベルのものを、価格も含めて頑張ってやっています。なので、ワンフェスに来たら、立体の教科書としてこれを手に取って欲しいと思っています。できることならば、一般入場者だけでなくアマチュアディーラーの方たちに買ってもらって目標にしてもらいたいです。これに負けないくらいのものを作ってやろうと。本当にこれは玄人が持っても楽しめるものだと思います。
https://twitter.com/eyewater_e/status/690101681074364416
▲榎木ともひでさんのtwitterで公開されている第1弾が完成するまでの動画。こうした記録もテキストの価値を高めています。
「スーベニール」になるようなものを作り続けていきたい
――最後に、今後の展開やファンにメッセージをお願いします。
宮脇:正直、このプロジェクトが10年先も続けられるものなのか?という疑問もあります。そんなに都合よく毎回新進作家たるイラストレーターさんが見つかるかどうかも分かりませんし。それでも、続けられるところまでは続けてみたいなと思っています。今回もワンフェスに行ったら「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」のアイテムを記念として買って帰りたいね。次のイラストレーターは誰なんだろう?というところまで定着させたいですね。
これまで30年以上ワンフェスをやってきましたが、良い意味で主催者がクレイジーな企画を提案できるというのは、このイベントならではだと思います。大成功しなければ僕らもやる意味はありませんし、自己満足には絶対したくありません。「ワンフェスに行ってきました」という人にへのお土産(GIFT/ギフト)ではなく、「ワンフェスに行った」という思い出や記念(SOUVENIR/スーベニール)になるようなものを作り続けていきたいと思っています。そのためには、僕ら主催者は、これでもかこれでもかというくらい良いものを提供していきたいですし、作家、造形師たちが身を削って、良いものを作っていると自信を持って言えるイベントですから、ワンフェスが単に主催者の商売になるのではなく、造形の祭典として参加する来場者側にも協力していただきたけるといいですね。
――ありがとうございました。
▲「ワンダちゃん NEXT DOOR プロジェクト」だけではなく、ワンフェスの有り方にまでを語った宮脇センム。プロジェクトにかける熱量のすごさと徹底したこだわりが伝わってきました。
また、電撃ホビーウェブでは遂に公開となった「ワンダちゃん NEXT DOOR プロジェクト」第3弾をはじめ、ワンフェス関連情報を随時紹介していますので、お見逃しなく!
⇒ワンダーフェスティバル(ワンフェス)2017冬 まとめページ
イベント概要
ワンダーフェスティバル2017[冬]
- 開催日時:2017年2月19日(日)10時~17時
- 会場:幕張メッセ国際展示場 1・2・3・4・5・6・7・8ホール(〒261-0023 千葉県千葉市美浜区中瀬2-1)
- 入場料:2,500円(入場チケット兼公式ガイドブック/小学生以下無料)
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