初代のプラモ制覇!!電ホビ版第2回――スジ彫りはやる気の無い奴が勝つ!
初代のプラモ制覇!!電ホビ版
第2回――スジ彫りはやる気の無い奴が勝つ!
一見、世間の流行何するものぞ、我が道以外興味無し!
といった風情のモデラー渡世ですが、
じつは結構流行に敏感だったりします。
2000年頃、全ての塗装がMAX塗り一色になってしまったように、
今はディーテール追加が真っ盛り。
となると、避けて通れない主流と言える作業がスジ彫り。
しかしご用心、スジ彫りは「彫る!」という積極的すぎる言葉のせいで、
力みすぎる傾向があるようです。
実のところ「彫る」のではなく「なぞる」いやもう少し、
「撫でる」に近い力の抜けたイメージこそ大切なのです。
では、「なぞる」「撫でる」といった消極的なスタンスでどうやったらきれいなスジ彫りが入るというのか!? 当然の疑問だと思うが、まずはスジ彫りに潜む心理的問題から。
まずは「彫る」という言葉の問題
「彫る!」という積極的すぎるニュアンスは「スジ彫り」というネーミングにも責任がある(笑)。
まずはこの「彫る」という攻めの雰囲気から脱却することに全力を注いでほしいのだ。
条件反射的な「カリコリ」
「指で道具を操作する」と考えたとき、誰しもまずペンを連想してしまう。そしてこれを使って「彫る」となると、指先を使って字を書くような「カリカリ、コリコリ」という動作に繋がりやすい。
ところがスジ彫りにおいてはこれこそ最も慎むべき動作なのだということを「肝心な動画」で見ていただこう。
<ペン型の操作は絶対NG>
講師経験上、じつに多くの初心者がこういった操作感覚から脱却できずに失敗する様を目の当りにしている。
棒状の道具を持てば、まずこの持ち方になるのはわかる、そのまま動かせと言われればカリカリしてしまうのもわかる。
最適な操作方法は道具と共に後で解説するが、とにかくまずはこのペン運動イメージを捨て去ることが先決だ。
失敗してはいけないとは?
「失敗するな」と言うと精神論者に間違われそうなので予め修正を加えるならば、「失敗すると大変なことになってしまうから、何があっても失敗しない方法を考える」としておこう。
<慣れないうちは複合面忌避が鉄則>
スジ彫り作業での失敗とは、即ち何某かの材で傷を埋め、同じ箇所を再び彫ることを意味する。これはつまり、硬度や靭性の異なる材を合わせた複合面に、スジ彫りを施すことを意味し、これこそ想像通り最高難度の苦行だ。
だからこそ、万全の上にも更に用心深く、可能な限りの用意と段取りを持ってでも絶対に一発必勝を目指す方が得なのだ。
失敗しないために~その1
道具選び
前述したイメージや言葉の問題は心構えとして大変重要なのだが、具体的な道具選びもまた同じくらい重要だ。
スジ彫りに適した道具は沢山あるが、どの道具にもそれぞれ長所もあれば短所もある。「これ1つで全て解決スーパー道具!」という物は残念ながら存在しない。
練習と経験で使いこなせるのが理想だが「失敗しないこと」を第一義とするなら、1つの道具に固執せず、各道具の短所をカバーする3段構えの万全策を執るのが最善だ。
以上3つの道具を段階的に駆使することで、互いの欠点を補い、長所だけを上手く利用して失敗率を激減させようという寸法だ。
もう一つの相棒 クリアラインテープ
スジ彫り作業に無くてはならない最後の最重要アイテムがガイドテープだ。
テンプレートなどの使用も考えられるが、最も頻繁に使用するのはやはりテープ。様々な種類の物がある中で、圧倒的に推奨するのがこの「クリアーラインテープ」だ。
失敗しないために~その2
万全のテープ貼り
スジ彫りの第一手はテープを貼るところから。
直線はもちろん、曲線、ジグザグでも、テープさえ貼れれば即ちスジ彫り可能という理屈だ。
それでは実際にテープを貼るところから始めよう。
実践!けがき針
それでは3段構えの第1段、けがき針を使って実際に彫って、いや撫でてみよう。
この後キサゲ、タガネと段階を踏んでいくわけだが、道具の持ち方は全て同じ。前述の通り指先を使っての「カリカリ」は絶対にいけない。
とにかく力まず、道具を保持したら、もう手首から先は動かさないのが肝要だ。
まずはけがき針の持ち方を「肝心な動画」でご覧いただこう。
<持ち方こそがまず脱力>
想像以上に力を入れないことがご理解いただけただろうか?
つまり、けがき針はもちろん、スジ彫りに使用する道具は全て軽くて簡素な物ほど余計な力を必要としない優れた道具と言え、ズッシリとした高価な道具はもう一つ具合が悪い。つまりは道具にさえも、やる気の無さが求められるという話なのだ。
次は動かし方を見ていただく。作業面に対し、常に平行の動きを心掛ける。肘や肩を使った比較的大きな動きが望ましく、手首から先は固定する。
始めから終わりまで同じ深さの溝を付けることが目的なので、前後左右の角度は固定、ここも手指のコントロールは必要無い。
ここは非常に重要なので連続で「肝心な動画」を用意した。
<テープに沿ってフワッと進むのみ>
手首から先が全て道具で、腕全体で手首から先を動かすイメージだ。その際、ガイドに沿わせる事だけに集中してなぞるだけ。どのくらいの深さが彫れているかなど一切気にする必要は無い、否、気にしてはいけないのだ。4~5回もなぞれば、手首から先の重みで勝手に十分な溝が生じているはずだ。
失敗しないために~その3
段階的道具チェンジ
前述の通りスジ彫りは失敗してはいけない。
失敗しないためならどんな手間も惜しまず掛ける。そしてこれも前述の通り、道具には長所と短所が有り、けがき針はコントロールし易いのが長所、作業面が汚いのが短所だ。
そこで1回目の道具チェンジ、ここでキサゲにバトンを譲る。
テープとの決別
ここまで頼れる相棒として存在していたテープと決別する時が訪れた。
けがき針の時点で剥がすのも有りなのだが、キサゲ操作に慣れないうちは、ここまで貼ったままの方が無難だろう。
しかしさすがにこの時点ではしっかりと溝ができて居り、むしろ視認性の方が重要となるため、役割は完了と判断して剥がす。
失敗しないために~その4
満を持してBMCタガネ投入
2種類の道具を連携させることでここまで到達したが、このまま作業を続けると、今度はキサゲがV字型の刃で溝幅を拡げ過ぎてしまうという欠点が台頭しはじめた。
いよいよBMCタガネに最後のバトンを渡す時だ。
失敗しないために~その5
面倒さこそ成功率を高める秘訣
この3段階戦法ならば、如何に刃が水平であろうと、溝に沿う方が明らかに抵抗が少ないため、タガネも大人しく溝に沿って進みながら精密なスジ彫りを形成してくれる。この面倒な手間こそが失敗しない秘訣と言えるのだ。
扱い易いが作業面が荒れるけがき針、やや扱いにくいが左右面の切削が得意なキサゲ、精緻な線は引けるがコントロールに難ありのタガネ。
それぞれの道具固有の長所と短所を上手く組み合わせることによって、失敗率を最小に留め、成功率を最大に高める。
3種類の道具を使うという連携は面倒だが、この手間こそが「失敗しないこと」を約束する一発必勝法。失敗知らずの3段堀り、いや3段撫でなのだ。
もちろん慣れて自信が付いたならば各段階を省略するもよしだが、先ずは成功体験を得、「彫る」という言葉のイメージが払拭された後、各自工夫しながら取り組んでいただきたい。
著者:鋭之介・初代・日野
月刊電撃ホビーマガジン誌 初代ガンプラ王。プロモデラー原型師。各模型誌で活躍中!
(C)創通・サンライズ
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