初代のプラモ制覇!!電ホビ版第2回――スジ彫りはやる気の無い奴が勝つ!

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初代のプラモ制覇!!電ホビ版
第2回――スジ彫りはやる気の無い奴が勝つ!

一見、世間の流行何するものぞ、我が道以外興味無し!

といった風情のモデラー渡世ですが、

じつは結構流行に敏感だったりします。

 

2000年頃、全ての塗装がMAX塗り一色になってしまったように、

今はディーテール追加が真っ盛り。

 

となると、避けて通れない主流と言える作業がスジ彫り。

 

しかしご用心、スジ彫りは「彫る!」という積極的すぎる言葉のせいで、

力みすぎる傾向があるようです。

 

実のところ「彫る」のではなく「なぞる」いやもう少し、

「撫でる」に近い力の抜けたイメージこそ大切なのです。

 

 

 

▲さて!取りい出したるこの物体、これは初代謹製のイベント原型。形状的にはサツマイモのような物だが、凝ったスジ彫りのおかげでいっぱしの原型に見えるわけだ。しかしこれらのスジ彫りとて、「彫るぞ!」という積極姿勢ではなく、「撫でてるうちに彫れてしまった……」的消極姿勢のなせる技なのだ。

 

では、「なぞる」「撫でる」といった消極的なスタンスでどうやったらきれいなスジ彫りが入るというのか!? 当然の疑問だと思うが、まずはスジ彫りに潜む心理的問題から。

 

 

まずは「彫る」という言葉の問題

「彫る!」という積極的すぎるニュアンスは「スジ彫り」というネーミングにも責任がある(笑)。

まずはこの「彫る」という攻めの雰囲気から脱却することに全力を注いでほしいのだ。

 

▲写真のように明らかに力んでも無駄、力は不要と解る作業で力む者は少ないだろう。スジ彫りはそのネーミングから、力をいれて彫る!という誤認が生じ易いので、これ以降は「スジ彫り」という表記を頭の中で「スジ撫で」或はせいぜい「スジなぞり」程度に変換して読んでいただきたい。

 

条件反射的な「カリコリ」

「指で道具を操作する」と考えたとき、誰しもまずペンを連想してしまう。そしてこれを使って「彫る」となると、指先を使って字を書くような「カリカリ、コリコリ」という動作に繋がりやすい。

ところがスジ彫りにおいてはこれこそ最も慎むべき動作なのだということを「肝心な動画」で見ていただこう。

<ペン型の操作は絶対NG>

講師経験上、じつに多くの初心者がこういった操作感覚から脱却できずに失敗する様を目の当りにしている。

棒状の道具を持てば、まずこの持ち方になるのはわかる、そのまま動かせと言われればカリカリしてしまうのもわかる。

最適な操作方法は道具と共に後で解説するが、とにかくまずはこのペン運動イメージを捨て去ることが先決だ。

 

 

失敗してはいけないとは?

「失敗するな」と言うと精神論者に間違われそうなので予め修正を加えるならば、「失敗すると大変なことになってしまうから、何があっても失敗しない方法を考える」としておこう。

 

<慣れないうちは複合面忌避が鉄則>

スジ彫り作業での失敗とは、即ち何某かの材で傷を埋め、同じ箇所を再び彫ることを意味する。これはつまり、硬度や靭性の異なる材を合わせた複合面に、スジ彫りを施すことを意味し、これこそ想像通り最高難度の苦行だ。

だからこそ、万全の上にも更に用心深く、可能な限りの用意と段取りを持ってでも絶対に一発必勝を目指す方が得なのだ。

 

 

 

 

 

失敗しないために~その1
道具選び

前述したイメージや言葉の問題は心構えとして大変重要なのだが、具体的な道具選びもまた同じくらい重要だ。

スジ彫りに適した道具は沢山あるが、どの道具にもそれぞれ長所もあれば短所もある。「これ1つで全て解決スーパー道具!」という物は残念ながら存在しない。

練習と経験で使いこなせるのが理想だが「失敗しないこと」を第一義とするなら、1つの道具に固執せず、各道具の短所をカバーする3段構えの万全策を執るのが最善だ。

 

 

▲先ずは伝統のスジ彫り道具けがき針。これは見ての通り先端は鋭利な点にすぎず、刃は付いていない。そのため特定の方向に滑ることがなく、最もコントロールし易い道具と言える。ただ、けがいた作業面が汚く、幅を調整できないという欠点がある。

 

▲次に紹介するのはキサゲ。カンナ削りの応用による、本来の刃の方向に対して垂直に使用するタイプのスジ彫り用具。本来は金属加工用のものだが、極端に太い先端部のため振動が起きにくく、邪魔になるビビリが生じない。ただ3方に刃があるため、どの方向にも逃げ易く、扱い易い部類とは言い難いのが欠点。

 

▲3つ目はBMCタガネ。超硬の刃が付いた極小、超精密の突きノミ。極めて高い切れ味と0.15、0.2、0.1等信じられない精度でスジ彫りの幅と底面を制御する超ツール。ただ、進行方向に対し直角に付いた刃はともすると横滑りし易く、ガイドテープにも容易に切り込んでしまうのが欠点だ。

 

以上3つの道具を段階的に駆使することで、互いの欠点を補い、長所だけを上手く利用して失敗率を激減させようという寸法だ。

 

 

もう一つの相棒 クリアラインテープ

スジ彫り作業に無くてはならない最後の最重要アイテムがガイドテープだ。

テンプレートなどの使用も考えられるが、最も頻繁に使用するのはやはりテープ。様々な種類の物がある中で、圧倒的に推奨するのがこの「クリアーラインテープ」だ。

 

 

▲一般のビニールテープはPVC製がほとんどだが、クリアラインテープは ポリプロピレン製。この違いがまず大きい。可塑剤を添加したPVC製と異なり、純PP製なので、同じ厚みでも硬度、透明度を高めることができ、貼付後は下地が綺麗に透けて見える。ちなみに本アイテムは製造販売元が転々と変わり、現在では完全同一アイテムが他社、他商品名でも販売されている。

 

▲PVC製一般テープに比べ非常に薄く、透明感にも優れるため、貼れば下地が透けて見える。透けないテープによる目隠し感は非常に不安な物、透けは大変重要なポイントと言える。

 

▲ポリ袋の利用でも実感するところだが、ポリプロピレンは柔軟性が高い割りに丈夫な素材。おいそれとはけがき針も食い込まない強度がある上、細かな段差にも柔軟に対応できる。

 

▲軟らかいのに硬い、としか表現できない不思議な感触を持つ。柔軟性が非常に高く小径円柱はもちろん、写真のように大きく曲げても難なく役目を果たす。

 

失敗しないために~その2
万全のテープ貼り

スジ彫りの第一手はテープを貼るところから。

直線はもちろん、曲線、ジグザグでも、テープさえ貼れれば即ちスジ彫り可能という理屈だ。
それでは実際にテープを貼るところから始めよう。

 

 

▲テープを貼る作業が、スジ彫りの成否を決めると言っても過言では無い。テープが曲がればスジ彫りも曲り、シワになろうものならスジ彫りも歪む。失敗しないスジ彫りを求めるなら、面倒に思えても、思い通りに貼れるまで何度もトライするのが大切だ。

 

実践!けがき針

それでは3段構えの第1段、けがき針を使って実際に彫って、いや撫でてみよう。

この後キサゲ、タガネと段階を踏んでいくわけだが、道具の持ち方は全て同じ。前述の通り指先を使っての「カリカリ」は絶対にいけない。

とにかく力まず、道具を保持したら、もう手首から先は動かさないのが肝要だ。

まずはけがき針の持ち方を「肝心な動画」でご覧いただこう。

 

<持ち方こそがまず脱力>

想像以上に力を入れないことがご理解いただけただろうか?

つまり、けがき針はもちろん、スジ彫りに使用する道具は全て軽くて簡素な物ほど余計な力を必要としない優れた道具と言え、ズッシリとした高価な道具はもう一つ具合が悪い。つまりは道具にさえも、やる気の無さが求められるという話なのだ。

次は動かし方を見ていただく。作業面に対し、常に平行の動きを心掛ける。肘や肩を使った比較的大きな動きが望ましく、手首から先は固定する。

始めから終わりまで同じ深さの溝を付けることが目的なので、前後左右の角度は固定、ここも手指のコントロールは必要無い。

ここは非常に重要なので連続で「肝心な動画」を用意した。

 

 

<テープに沿ってフワッと進むのみ>

手首から先が全て道具で、腕全体で手首から先を動かすイメージだ。その際、ガイドに沿わせる事だけに集中してなぞるだけ。どのくらいの深さが彫れているかなど一切気にする必要は無い、否、気にしてはいけないのだ。4~5回もなぞれば、手首から先の重みで勝手に十分な溝が生じているはずだ。

 

▲スジそのものがよく見えないため「これでちゃんと彫れているのか?」と感じるだろうが、やる気の無い1次作業はこれで充分なのだ。これ以上深追いしても、いたずらに深さと、めくればかりが生じるので、危険なやる気を生じさせないよう注意するべし。

 

▲けがき針は刃が無いため、プラを凹ませ押し拡げる。よって、めくれが目立つのも無理はない。だが、この刃が付いていないことで、不用意な方向への滑りが起こらず、テープに沿って、いかなる方向にも従順に進んでくれる有り難い道具といえるのだ。

 

失敗しないために~その3
段階的道具チェンジ

前述の通りスジ彫りは失敗してはいけない。

失敗しないためならどんな手間も惜しまず掛ける。そしてこれも前述の通り、道具には長所と短所が有り、けがき針はコントロールし易いのが長所、作業面が汚いのが短所だ。

そこで1回目の道具チェンジ、ここでキサゲにバトンを譲る。

 

▲3方に刃があるキサゲは扱いの難しい部類。しかしけがき針で作った溝のおかげで大人しくいうことを聞いてくれる。2つの道具の長所を合わせ、欠点をカバーする合理的な連携だ。

 

▲撫でるような操作で両側を美しく仕上げてくれるキサゲ。けがき針との連携で、一見美しいスジ彫りまでは楽勝で到達する。

 

テープとの決別

ここまで頼れる相棒として存在していたテープと決別する時が訪れた。

けがき針の時点で剥がすのも有りなのだが、キサゲ操作に慣れないうちは、ここまで貼ったままの方が無難だろう。

しかしさすがにこの時点ではしっかりと溝ができて居り、むしろ視認性の方が重要となるため、役割は完了と判断して剥がす。

 

 

▲テープを剥がしてみると、めくれは両側ともスムーズに処理されているのが判る。ただ、キサゲのV字型の刃先は両側を美しくシェイプする代わり、操作するほどに溝幅を拡げるという欠点も持つ。

 

失敗しないために~その4
満を持してBMCタガネ投入

2種類の道具を連携させることでここまで到達したが、このまま作業を続けると、今度はキサゲがV字型の刃で溝幅を拡げ過ぎてしまうという欠点が台頭しはじめた。

いよいよBMCタガネに最後のバトンを渡す時だ。

 

 

▲詰まるところ、タガネを安全確実に使用するため、筋道を作る役割をけがき針に、めくれを処理し幅を確保する役割をキサゲにと割り振ったのがこの3段階戦法。つまりここからが本番と言えるのだ。

 

▲頼もしい精度を持つタガネだが、真横に刃があるため、いきなり使用するとテープに食い込みやすい欠点を持つ。しかし苦心して用意したV字の溝に沿わせれば容易にコントロールでき、真価を発揮する。

 

失敗しないために~その5
面倒さこそ成功率を高める秘訣

この3段階戦法ならば、如何に刃が水平であろうと、溝に沿う方が明らかに抵抗が少ないため、タガネも大人しく溝に沿って進みながら精密なスジ彫りを形成してくれる。この面倒な手間こそが失敗しない秘訣と言えるのだ。

 

 

▲タガネの場合、非常に切れ味が良いため、益々もってただスライドさせているだけ、というやる気の無いイメージが大事になる。少しでも力むと溝があろうとも横に滑り出す危険があることを忘れてはならない。

 

扱い易いが作業面が荒れるけがき針、やや扱いにくいが左右面の切削が得意なキサゲ、精緻な線は引けるがコントロールに難ありのタガネ。

 

それぞれの道具固有の長所と短所を上手く組み合わせることによって、失敗率を最小に留め、成功率を最大に高める。

 

3種類の道具を使うという連携は面倒だが、この手間こそが「失敗しないこと」を約束する一発必勝法。失敗知らずの3段堀り、いや3段撫でなのだ。

 

もちろん慣れて自信が付いたならば各段階を省略するもよしだが、先ずは成功体験を得、「彫る」という言葉のイメージが払拭された後、各自工夫しながら取り組んでいただきたい。

 

 

著者:鋭之介・初代・日野

月刊電撃ホビーマガジン誌 初代ガンプラ王。プロモデラー原型師。各模型誌で活躍中!

(C)創通・サンライズ

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