初代のプラモ制覇!!電ホビ版第5回――解放!!エアブラシ希釈の呪い!

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 

巷では、エアブラシに塗装に最適な「希釈率」なるワードが闊歩しておりますが……。
果たしてそんなものは実在するのか!?
ぶっちゃけ、しないと思います。
何故ならば、一口に「エアブラシ塗装」と言いましても、目的だけで多岐に渡り、パーツの大きさでも、機材の性能でも、腕によっても千差万別じゃありませんか。
それら全部の「最適希釈率」なんて、まあ言ってみれば「車の最適速度は?」「トンカツに掛けるソースの適量は?」みたいなもんで、他人が決めるようなことではないでしょう?

 

 

まずはこのピカピカパーツを見ていただこう。
研ぎ出されたかのように一切のザラが存在しない完全な塗面。濃度調整さえ完璧に行なえば、ハンドピースだけでこの塗面が得られるのだ。
今回、実のところ「これが最適希釈率だ!」という結論を出すことには興味を持っていない。
結局の所、一つのパーツに対する最適希釈率などと言うモノは、何のために吹くのか? 何を吹くのか? 何で吹くのか? どのように吹くのか? 誰が吹くのか? 等でいくらでも変わってしまう。
結局は自分の目で、耳で、その都度導き出すしかない漠然としたものなのだ。
そのための最大の手掛りとして、このピカピカのパーツをまず目に焼き付けてほしい。
今回は「この」最適希釈率に到達すべく、幾度となく調整する過程を疑似体験してもらおうという、一種の体験型アトラクションだ。

▲別段種も仕掛けもない、ただ吹いただけの塗面だが、希釈を含む様々なファクターがピッタリとマッチすれば、誰でも一撃でこの塗装鏡面が作れる。

 

 

●塗装に於ける7大ファクター

上の写真キャプション中のワードが少々気になる、と感じた諸君は相当色々解ってきている!
そう、「希釈を含む様々なファクターが~」の部分だ。
エアブラシ塗装は巷で言うように「最適希釈率」さえ知っていれば吹けるなどと言う話では毛頭なく、7つの重要なファクターがあるのだ。
下の図を見てもらいたい。
これを見てもわかるように「塗料濃度」つまり「希釈率」は右上の赤い部分、ほんの1/7の比重しかない。

▲極めて重要な印象のある塗料濃度も、こうやって整理すると、たかだか1/7の比重しかないことがわかる。互いに影響し合い、カバーし合える7つのファクター。どれを取っても実に説明し甲斐のある項目だ。

 

 

図からもわかるように、仮に濃度が少々マズくても、たとえばエアー圧で、たとえば移動速度でと、他の6つでカバーすることもできるのだ。
逆に言えば、目的も面積も、移動速度や塗装距離、もちろんエアー圧やボタン操作も皆同じ重要度を持っており、1つの最適ボタン操作や、1つの最適塗装面積などという物がないことはむしろわかりやすいところだろう。
今回はこれらの6つのファクターは敢えて同じ状態とし、塗料濃度だけを調整してベストを目指してみる。
興味の尽きない他のファクターについては、いずれまた折を見て紹介していくのでご安心を。

 

 

●本編に先だって濃度調整の手軽な方法

塗料の濃度調整とは、納得がいくまで何度でも、それこそ10回近く行なうのが常だ。
何故なら、最適希釈率は上掲の図でもわかる通り一定ではなく、様々な要因によって大きく変化するためだ。
何度も何度もテストすることが必須ならば、いちいち塗料皿に移すような手間はできるだけ省き、原液を直接カップに入れ、「うがい」による撹拌を基本とするのは当然の帰結。
もちろんその際、入り組んだ吸入口内に濃い塗料を直接入れない配慮や、「薄い塗料に濃い塗料を混ぜるケース(場合)は混ざりにくい」等の知識は必要になる。

▲通常はある程度希釈する前提なので、あらかじめ少量のシンナーをカップ内に入れておき、原液が吸入口内に直接入らないよう注意する。高粘度の塗料が奥まで進入するとメンテ上面倒なことになる場合がある。

 

迅速に筆などで念入りにさらいながら混ぜ、しかる後に「うがい」へと進むのだが、一般には軽視されがちな「うがい」、じつはこれ塗料を撹拌する手段であるだけでなく、濃さを知る最初の手掛りが詰まった重要な情報源であることを知っておいていただきたいのだ。

 

▲撹拌手段なのは当然として、この「泡が目に見える」=「濃さが目に見える」唯一の操作である事にお気付きだろうか? そんな事もあって、ブラシ塗装に慣れた者は塗装中も頻繁に行なうのだ。

 

●まずは特濃! 原液をそのまま吹く

巷で言う希釈率、これはまずもって「塗料は薄めなければいけない」という前提に立った話。
では果たして塗料というものは絶対的に薄めなければマズいものなのか?
これは試してみる必要がある。
まずはこの原液をうがいしてみようではないか。音と泡のでき方に注目してほしい。

 

<原液のうがい>

▲実際に吹いてみる前に濃さを判断する手掛りは2つ。

まずは泡のでき方と、うがい音だ。この濃すぎる場合のでき方と

「うがい」音をよく覚えることが最初の命題と言える。

 

ドロドロと溶岩のような泡、ビチビチというかグチャグチャと独特な発泡音。とても吹けそうもない特濃のビン生を薄めずに吹くと、どのような状況になるか、実際に吹いてみようではないか。
吹きつけ時もビチビチと独特の音を立てる。これも是非記憶しておいてほしい。
ともあれ、7つのファクターでわかるように、あらかじめ決まった1つの項目に対し、他の項目で調整することはある程度可能。塗料が特濃なら、圧高く、距離近く、移動ゆっくり、ボタンは全開で臨めば、そこそこ吹けることは吹ける。

 

<原液のまま吹く>

▲吹けることは吹けるが、粘度が高すぎるため一体の塗膜にすること自体がまず難しい。

重なりの部分はザラを通り越して突起に近い。

しかし小さなパーツであればそこそこ吹ける。

が、もちろん扱いにくいことは間違いない。

 

大きなパーツでは塗料円、つまり塗料が吹き付けられる円形の到達範囲を大きくすることが難しいため、塗料円外周のザラザラになる部分ばかりが目立ってしまう。
しかし逆に、極めて扱いにくい原液であっても、他のファクターで万全にフォローすれば、ここまでは吹くことが可能なのだ。

▲いかに他のファクターでフォローしようとしても限界があり、さすがに塗膜には程遠い結果ではある。しかしある程度希釈して尚、このような塗面にしてしまっている方も少なからず居られるのではないか?

 

 

次に、まったく同じ濃さの塗料を吹いたにも拘わらず、小さなパーツではそこまで酷い状態には至らなかった。パーツサイズが如何に塗料濃度と深い関係にあるかがよくわかる。

▲この事からも必ずしも濃さは一つの正解ではなく、パーツの状況、サイズ、吹き方などに大きく左右されることがわかる。

 

ここで初めて、少なくともこれらのパーツをピカピカに仕上げるためには「濃すぎる塗料でも吹けることは吹けるが不便である」と結論づけられ、「しからば少々薄めてみるか?」と言う仮定が生じうるのだ。
ただし、この濃さにはこの濃さの使い道がちゃんと存在し、この濃さでなければ使えない技というものもちゃんと存在するので、一応その例も挙げておこう。

▲これとてもブラシ塗装、この時の最適希釈率は1:0ということになる。先人による「塗装にはbetterは有ってもbestは無い」とはけだし名言なり。

 

 

●では少々薄めて

原液のままでは明らかに濃すぎたので、少々シンナーを加えてみることにしよう。
一度カップに入れた塗料を瓶に戻す、表面積が広い塗料皿に移す、などはホコリの要因たり得るし、何度も続くこの調整に置いて何よりもまず面倒くさい!(笑)
カップに溶剤を直接入れて撹拌する。
撹拌にはカップ内形状に追従しやすい筆を使用し、吸入口内を集中的にさらって撹拌し、激しく何度もうがいさせ撹拌する。
この時もまた泡のでき方、うがい音に注意し、よく記憶しておくこと!
また、ハンドピース内部には濃い塗料が残っているので、吹き始める前に十分に吹き捨てること。

 

<直接シンナーを加える>

▲このイージーな手順がなければ、逐次何度もシンナーを加えることなど面倒でできないだろう。

筆できちんと底をさらって撹拌すれば、何ら問題は生じない。

 

ハンドピース内部に残った原液を吹き捨てたら、早速試してみる。
気持ち泡立ちの切れが良くなり、音もビチビチからコポコポに近づいては来た。
この状態で吹くと果たしてどうなるか!? どのくらい吹き易くなったのか!?

 

<わずかに薄めた塗料を吹く>

▲確かに薄めた方が明らかに吹き易くはなる。原液より遙かにザラが出にくく、

移動速度も上げられる。ただし、距離やボタン操作にはほとんど違いがない印象だ。

 

大きなパーツのザラは多少軽減されたとはいえ未だ完全に残り、普通の塗面としては残念ながらまだまだ通用しないだろう。
ただ吹き易さは十分向上しており、もう少し薄めればなお吹き易くなるだろうことは手応えとして感じられた。

▲塗膜や塗面の構築云々よりも、塗料円が大きくできないことが何よりの問題。塗料が濃ければ粘度が高く、粘度が高ければ塗料円は小さい。塗料円が小さければ吹き重ねが多くなり、ザラが目立つという図式だ。

 

小さなパーツに関しては、すでにかなりまともな濃さに感じるレベルと言ってもいいだろう。
決して吹きやすくはないが十分塗装に耐えうる濃さと言える。
サイズ自体ももちろんだが、アールの強い曲面、段落ちディテールなども関係している。

▲サイズ的に塗料円が小さいことが影響しないだけでなく、ディテール的にも救われている。むしろ高粘度故の強すぎる圧で塗膜が乱れることの方が問題で、「圧を下げたいが故に濃度を下げたい」と感じる。

 

●更に少々薄めて

大きなパーツの塗装結果にはもう一つ反映していないものの、塗料を薄めることで吹きやすくなる、つまり粘度が下がると塗料円が大きくなって、ザラが出にくくなることは明らかになった。
とはいえ、まだ原液時と大差はないので、さらにシンナーを加えてみることにする。
このままカップに前回と同量のシンナーを加えるので、撹拌などはさっきとまったく同じ手順だ。

 

<さらに薄めて吹く>

▲さらに吹きやすくなった。

しかしまだザラが出ないところまでは行かず、もう一息な印象だ。

塗料円は比較的拡大したが、塗料の粒一つ一つが大き過ぎる印象。

これも高すぎる粘度による問題の一つだ。

 

2段階薄めたことで漠然と吹きやすくはなっている。塗料円が大きくなったため、塗装帯、つまり塗料円が進んでいく、塗装される帯が太くなったため、一息に吹ける面積も増えたためだ。
ただ、粉砕される塗料一粒ずつがまだまだ大きく、全開でなお、圧より粘度が勝っているという印象だ。

▲濃度の低下=粘度の低下によって同じ圧であっても塗料円が次第に大きくなる。その結果重なる回数も減り、まともに吹けるレベルに近づいたという印象だ。

 

一方で小パーツの方はベストを迎えた感触。塗料円が拡がったためもあって片側一吹きづつ、二吹きで完了する手際が得られ、塗膜厚もベスト。想像より濃い塗料がふさわしいとわかる。
重要なのはパーツサイズによってここまで要求濃度が変わるという事実。たとえ同じキットであっても、各パーツサイズによって最適希釈率には違いがあることがわかる好例となった。

▲小さいパーツは早くもベストの濃さを迎えた。これ以上薄いとエッジが薄くなる、凹部に溜まる等問題が生じそうだ。

 

●更に更に薄めて

薄めることで吹きやすくなることに味を占めてどんどん薄めてみることにする。
このくらいの濃度、粘度になってくるとシンナーを加えても、うがいを行なうだけで十分混ざる。
これはもうかなり薄まり、缶スプレーより薄のではないか? というところまで来た。

 

<大幅に薄めて吹く>

▲これはしたり! 薄くすればするほどよいというものではなかった。

さすがにここまで薄くなっては、塗面を形成できず、流れてしまう。

この濃度で塗面を形成させるには工夫が必要になる薄さだ。

 

当然のことではあるが、塗料を薄めすぎると粘度がほとんどゼロに近づくため、風圧によって押され、重力の方向へながれ、端に溜まり、エッジ部分は薄くなり、塗膜としての固まりを維持できなくなってしまう。

 

 

●薄すぎもまた利用価値大

しかし、やはりこの薄すぎる濃度も高い利用価値がある。
もちろん各々独自の吹き方を行なうが、たとえばグラデーション塗装の細吹きもそのひとつ。
極端に低い塗料粘度を逆手に取り、極細の線を吹く要領で面を少しづつ塗り潰す流儀。異なる色を吹き重ねることで自在な明暗を演出できる高級技法だ。

▲「色の付いたシンナー」程度の濃度が必要な場合もあり、細吹き時の濃度は極端に低い。これもまた適材適所の好例といえる。

 

逆に広い面、パーツすべてを極薄の膜でやんわりと覆うという技法も存在する。
この場合は隠蔽、発色力が低い方が面白い効果が得られるが、面を上手に形成させること自体が難しいため、ブラシテクニックとしては高級な部類に属する。
この薄すぎる状態もまたブラシ塗装。「エアブラシの最適希釈率」という文言の無意味さがそろそろご理解いただけてきただろうか。

▲発色させず、ほとんど隠蔽しない濃度でのコートは非常に難しいテクニックだが、途中で表情を僅かに変えたい場合には重宝なテク。過去にはこの極薄層を幾重にも重ねて塗面を作るといった流派も存在した。

 

●薄い塗料に濃い塗料を加えるコツ

さすがに薄ければ薄いほどいいという考え方は誤りのようなので、今度は原液を加えて少々濃く調整してみる。
この薄い塗料に原液を加える調整は少々難しく、そもそも混ざりにくいうえ、雑に垂らし込むと吸入口に直接流れ込み、面倒なことになる。
かといって一々塗料皿に出すなどはホコリの混入を招くばかりでお薦めできないし、何度となく行なう濃度調整手順はできるだけ簡素にしておかないと、こまめ、頻繁な調整をサボる結果に繋がりかねず本末転倒になりやすい。
ちょっとした注意で十分対応できるのことなので、参考にしてほしい。

 

<薄い液に濃い塗料を混ぜるコツ>

▲いきなり吸入口に流れ込んでしまうと、いかなる道具も届かないため、

取り去りようがなくなってしまうが、縁で混ぜることで回避できるし、

こういう時のためにしなやかな筆先を使用しているのだ。

 

この方法ならば何度でも簡単に濃さの調整が行なえるので、完璧と言える状態まで妥協せず何度でも納得いくまで試し吹きを行なってほしい。
試し吹きをして、段々最適に近づく工程、たまに一発で決まる喜びなど、最適な濃さに至る過程をも楽しめるモデラーになってくれることを願ってやまない。

 

 

●遂に最適濃度達成!

ここに至り、遂に最適濃度達成である。(ここでは割愛しているが実際にはかなり多くの回数失敗している 笑)。
まずはこの濃度におけるうがい音と泡の感じをとくと見て、聞いてしっかり覚えてほしい。

 

<完璧!>

▲濃さが完璧ならばザラは一切出ない。タレもせず、美しい塗面を形成できた。

やはり段階的に調整、テストを繰り返す以外に妙手はないと実感する瞬間。

 

完璧な濃度と言っても、これは例に使用した大きい方のパーツサイズ、形状であれば、という条件付き。
大きい方のパーツ塗装にはストレスも不安もなく完璧な塗膜が形成できる。

▲今回はこのパーツサイズを基準に「最適濃度」を模索した。数回の調整の後、この最適濃度に到達はしたが、これはあくまでこのサイズ、この形状、この塗膜形成であれば、という条件付きだ。

 

小さい方のパーツでは想像通りやや薄すぎ、エッジが透け気味だし、面もやや溜まり気味になっている。

▲大きなパーツをメインに据えて「最適濃度」を模索したが、小さいパーツにとっての「最適」は越えてしまった。この様に「最適濃度」は様々な条件で変わるということが物理的事実なのだ。

 

●濃度差による「うがい」感触のおさらい

「とりあえず吹いてみる」前に濃さの手掛りを掴む唯一の機会であるうがい、この時点である程度濃さを把握できることが少しでも調整回数を減らす近道だ。
これまでの「うがい」動画をまとめてみたので、各々の泡のでき方、発泡音の違いを感触としてよく認識しておいてほしい。

 

<各「うがい」のまとめ>

▲塗料が濃ければ泡のでき方がゆっくりで、色も濃い。

中程度の濃度が一番泡が多く、上まで上がってくる感じ。

発泡音は濃度が高いと低く、濃度が低いと高くなっていくイメージだ。

 

慣れてくれば、うがいをした時点でおおよその濃度はわかり、試し吹きの最初の一吹きでほとんど確実に現在濃度が把握できるようになるだろう。
しかしそれでも結局は大体の所までしか掴めず、いつも何度も何度も試し吹きを行ないながら調整すること30年……。
ちっとも上手くなっていないというご意見もあろうし、進歩のないヤツだという誹りもやむを得ない。
が、僭越ながら私の吹いたグロス面は少なくとも業界最上位という自負はある。しかしながらこれにコツや特別なレシピは存在せず、常に何度も試し吹きと調整を繰り返した結果であることを理解してほしいのだ。
結局の所、この調整作業自体を「楽しい」と思える者にしか、美しい塗面は訪れないのだろう。

 

著者:鋭之介・初代・日野

月刊電撃ホビーマガジン誌 初代ガンプラ王。プロモデラー原型師。各模型誌で活躍中!

(C)創通・サンライズ

関連情報

 

関連記事

上に戻る