『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ではDX変形合体ロボも大暴れ!?バンダイ・寺野彰氏×プレックス・鶴巻拓也氏が「DXドンオニタイジン」企画開発を語る!
スーパー戦隊シリーズの常識を打ち破る破天荒ぶりで目が離せない『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より、ついに5体が変形合体するロボが登場。その名も「ドンオニタイジン」! ロボタロウモードへとパワーアップした5人が合体したドンオニタイジンは一見、背中に幟(のぼり)を立てた鎧武者のようなオーソドックスなデザインに見えるが、ここに至るまでの玩具デザイン~開発の段取りすらもこれまた根本から覆している。バンダイ企画担当・寺野彰氏とデザイン担当のプレックス・鶴巻拓也氏に、「DXドンオニタイジンが生まれるまで」のお祭っぷりを直撃した(文中敬称略)。
鶴巻:当初、デザイン時点では設定も世界観も決まっていなくて、5人のロボタロウモードは全員CGの想定でいました。ですから、プロポーションも従来のロボ着ぐるみでは不可能な体型で考えていたんですよ。結果として5人中3人が実写ロボ着ぐるみになりましたが、元デザインを着ぐるみへと見栄え良く落とし込めました。
――いわれてみると、肩や腕などにアニメ的な意匠が盛り込まれていますね。
鶴巻:5体のデザインにはそれぞれコンセプトを持たせていて、ドンロボタロウは足首が細い流行りのロボ体型、オニシスターロボタロウは鋲や留め金で鎧に和風的なイメージを。サルブラザーロボタロウは動物の毛並みをテクスチャで表現してみました。
寺野:サルブラザーロボタロウのように毛に起伏のあるモデリングは時間がひたすらかかります。毛の表現も最初は頭と腕だけだったのを、バンダイの設計チームが肩や拳まで頑張って入れてくれました。逆にオニシスターロボタロウは虎柄を盛り込んで、玩具の成型色もマーブル模様にしてみるアイデアもあったんですが、うまく表現できず止めたなんてこともありましたね。
――キジブラザー、イヌブラザーはCGの強みを活かしてより動物的なシルエットになりましたね。
寺野:キジブラザーロボタロウはクリア素材の美しさ、イヌブラザーロボタロウはSF映画『トロン』的な近未来感がテーマです。合体後のドンオニタイジン自体は王道武者型ロボにしましたが、構成する5体は多種多様なモチーフや世界観が混ざっている、のもコンセプトのひとつなんですよ。
鶴巻:あえてデザインは統一せず、共通しているのはサングラスぐらいです。ロボデザインは普段だとプレックス側も担当者が一人で描きあげますが、今回は作り込みと個性の強調のために一人1体で分担しています。寺野さんやバンダイ設計チームとも「実際に玩具化できるか」を普段以上に相談しながら進めました。この新しい作業方式と会社の垣根を超えたやりとりは、いろいろなモチーフが混ざり合うドンオニタイジンのイメージとうまく合致しました。特に熱心な設計チームの方があらゆる方面からアイデアを持ってきてくれて(笑)。
――バンダイ設計チームがプレックスさんの分野である「デザイン」に関わってくるのは、今までなかったのでしょうか。
鶴巻:ゼロではありませんが、今回ほど深く関わられるのは初めてじゃないでしょうか。今までは三面図を描いてバンダイ設計チームに渡して、できた段階で設計データに修正を入れていく流れでした。もちろんお渡しした図面通りに設計されていましたし、それはそれで問題ないやり方だと思っています。一方で、DXドンオニタイジンでは商品化のスタート時点から関わる全員が一丸となって並走した感じです。最終段階まで僕らもデザイン自体を考え直したり、設計チームにもギリギリまで調整をしてもらったので、発売を前にして感慨深いんですよ。
寺野:良くも悪くもストッパーが不在(笑)。また、番組放映開始の3月より遅い発売だったのもスケジュール面で助かりました。
鶴巻:3月発売だったらと思うとゾッとしますね(笑)。
――満を持して登場した「DXドンオニタイジン」は全高約36センチとかなりの大きさですが、この大きさは初めから決めていたのですか?
寺野:DXドンオニタイジンは大きさより「可動させること」がメインテーマなんです。可動と発売スピード、安全基準、工場での調整のしさすさという全てを満たすには、今までバンダイが培ってきたノウハウが不可欠です。そうなると、この位のサイズになってしまうのですが「やってみるか」と踏み込んでみました。DXロボは変形合体することをベースに、毎年「今回はこういう遊び方です」とコンセプトで変化球を投げています。世間では日本だけでなく海外の子ども向けトイもかなり可動しますから、そろそろDXロボも徹底的に動かそうと。
鶴巻:今までのDXロボがアクションフィギュア的に動かなかったことについては、「できなかった」のではなく先人たちがいろいろと考えて子どもが遊びやすいようにとあえてオミットした結果だと思います。ただ、ゼンカイジャー放送時にDXジュラガオーンで遊んでいた私の息子(当時4歳)が、本編と同じポーズが取れないことに気づいてしまって……。彼の中では本編のロボ=DXロボと繋がってはいたようですが、やはり子どもにとっても可動は魅力的なポイントなのだと改めて気付かされました。可動という点では、ドンオニタイジンに五指の可動も入れ込みたいと最後まで冗談でいっていたくらいで(笑)。トータルで見て個性の強調、合体後の統一感、そして可動、とよくぞここまで実現したと思っています。
――変形合体に関節可動も組み込むのは、一層大変だったのではないでしょうか。
鶴巻:実現したのはバンダイ設計チームのおかげです。私達は必要そうな箇所に「ここを動かしてほしい」「ここはボールジョントだといいな」と無責任にいうだけで……(笑)
寺野:新たな試みのひとつに「詳細な三面図を作るのをやめた」のもあります。先に三面図があると「図面でこうなっているからここは動きません」と引っ張られてしまいますので、最初にプレックスさんに合体ビフォーアフターの分かるパース画(※)をお願いし、立体的に分かりづらいところは断面図を描いてもらいました。そうすると設計チームからプレックスさんへ積極的にフィードバックを戻せたうえに、パース画のニュアンスが設計時に拾えるのでロボの表情がすごく良くなりました。四角四面でない、ちょっと艶めかしい雰囲気が出せたのではないでしょうか? パース画からの設計は「チェンジヒーローズ ドンモモタロウアルター」で始めていて、これで成功したので「よし、本丸のドンオニタイジンもそれで行ってみよう」と。
※パース画=遠近法から生じる角度のついた設定画。立体感が分かりやすいので玩具開発では総合的なイメージ画として使用されることが多い。
鶴巻:今思うとよく成功しましたね。実現可能な予感はしていましたが、実績自体はありませんから最後まで商品になるか不安はありました。ぶっつけ本番で始めちゃうところがバンダイらしいチャレンジング精神でもありますが、完成までは常に綱渡りの感覚で……(笑)
寺野:可動についても、設計チームから「子どもが遊びやすくするために」という観点での意見ももらいました。そういう疑問を全員が消化するために、プレックスさん、設計チーム、僕とで3D CADデータを大画面で回転させて話し合ったりもしました。可動について唯一「やろうと思えばもっと動くけどあえてリミッターをかけた」のは股関節です。今後のパワーアップ合体を見据えて、そこは可動範囲の広さ云々よりも荷重が増えても耐えて倒れたりしない構造を選んでいます。これも設計チームが考え抜いてくれたポイントです。
――「艶めかしい」という表現もされた通り、ドンオニタイジンは顔つきがロボらしくないというか、瞳に怒りが感じられます。
寺野:これはそのままドンモモタロウのデザインからです。東映様と話をする中で、ドンオニタイジンは「真ん中に居るのはドンモモタロウである」と一発で分かるようにしています。プレックスさんにはサングラスのないバージョンも考えてもらいましたが、やはりアイコンとしてサングラスは残りました。
鶴巻:最初の頃はもっと柔和な顔でしたよね。『ゼンカイジャー』でもゼンリョクゼンカイオーあたりから顔のモデリングデータをプレックスで作って設計チームにフィードバックするやり方を始めていて、ドンオニタイジンも同様に顔のデータを作っては調整を繰り返したら、だんだんと怒ったような顔つきになりました。『ゼンカイジャー』のロボの顔はどれもキリッとはしているけれど怒ってはいないので、そことの差別化もあります。
――顔といえば、5つのロボタロウモードの顔がボディの各所に配置されているのも印象的です。
寺野:ボディの方は東映の武部(直美)プロデューサーから、僕が以前担当した6人の藤子先生キャラがロボの各部に変形合体する「超合金 超合体SFロボット 藤子・F・不二雄キャラクターズ」が良かったといわれたことがあり、プレックスさんとその構成で進めていった流れがあります。
――サルブラザーロボタロウとキジブラザーロボタロウの頭が付け替えではなく、ヒンジパーツを介して移動するのもこだわりを感じた箇所です。
寺野:周りからは『天装戦隊ゴセイジャー』のゴセイヘッダー的な付け替えでいいんじゃないか、といわれたんですが、僕はパーツ分割が多くなると失くしやすくなるのが心配だったのと、ヒンジでの移動によって「顔がそこにある必然性」を持たせたかったんです。腕も左右で違うロボにすれば楽だったのですが(笑)。
――合体完成時の兜や腹筋のギミックについてはいかがでしょうか。
寺野:腹筋は確か設計チームからの提案だったかな。胴体に何かギミックを仕込もうと話している中で、先程の「各ロボをあまり分割させたくない」オーダーからいろいろと落とし所を探った名残だと思います。
鶴巻:サルブラザーロボタロウを両腕にしたい、でも分割は最小限にしたい、というのはかなりの難題で、結果的に左右で分割しましたが「腹筋は左右に割りたくない!」となったような気がします……(笑)最後に兜を被せて合体完了、のシークエンスも寺野さんのアイデアに乗っかった感じですね。
寺野:理由をつけるなら5人がそれぞれの強さを持つ部位となるので、サルブラザーロボタロウなら腕力と腹筋を担当するからこのデザイン、というわけです。
鶴巻:これもいろいろな人の意見を混ぜる今回のような作り方をしてなかったら、「別パーツになった腹筋をここに残そう」とはならなかったと思います。また、寺野さんがこれまで蓄積してきたハイターゲットトイの経験が子ども向けトイにフィードバックされたのは大きいです。もちろん対象年齢やユーザー層が異なるので単純に比較できませんが、「ここまで作り込む」の想定限界値がやはり今までの開発担当者とは違っていました。
寺野:コレクターズ事業部では本編のメカデザイナーさん、設計チーム、企画担当が全員横並びで打ち合わせしたりしていましたからね。今回もそれぞれの得意分野を活かして、意見をぶつけ合うところから始めてみました。DXドンオニタイジンについてはロボット本体だけでなく、パッケージについてもこだわりがあるんです。これについては鶴巻さんからぜひ。
鶴巻:戦隊ロボのパッケージにイラストを使うのは『ドンブラザーズ』から寺野さんが始めたことなのですが、DXドンオニタイジンは志願して私が描いています。寺野さんも実現に向けてうまく動いていただきました。私より上手に描ける方は世の中にごまんといらっしゃると思いますが、このロボだけは本当に売れて欲しくて執念と怨念を込めて描かせていただきました(笑)。
寺野:本来のプレックスさんの業務からは外れるので、僕たちからは逆に感謝しかないです。しかも単純に「仕事だから」ではなく、あんなに気持ちを込めて描いてくださって。
鶴巻:描いていたときの気構えとしては、立体的な正確さよりもイメージや構図の中での【映え】を重視しています。世代的にもプラモデルのパッケージアートがお手本ですね。最初は本当にキャンバスに油絵具で描こうかと思っていましたが時間がかかりすぎるので断念しました。でき上がってみて、社内からも「『買え!』という声が聞こえてくるようだ」といわれて本望です(笑)。
――今回のような完成までの経緯は、今後のDXロボ設計開発にも影響していくのでしょうか。
鶴巻:そうなってくれれば嬉しいですね。DXドンオニタイジンを見たプレックスの歴代戦隊担当者たちが口を揃えて言うのは「ここまで可動できるんだ!」です。いろいろな制約や事情があるのはお互いに分かっているのですが、やりたいことがあったのならどこかで実現できるチャンスもあったはずなので、DXドンオニタイジンはそのチャンスを掴みとって今回皆様の前にお届けできて喜ばしい限りです。尽力してくださった設計チームも熱意ある方ばかりで、寺野さんが彼らと僕らを、まさに“縁”で繋いでくれたからこその結果ではないかと思っています。
寺野:鶴巻さんにそんなこといわれると泣いちゃう(笑)。でも本当に、ものづくりへの新しいアプローチのやり方が生まれましたし、今の環境でできる100%のことはしたと思います。
「DXドンオニタイジン」は2022年5月28日発売予定。第一印象から特撮ファンの度肝を抜いた『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の真の祭はこれから始まる!
PROFILE
寺野彰(てらの・あきら)
2020年4月から株式会社バンダイ トイディビジョン ブランドデザイン部にてスーパー戦隊シリーズ関連玩具を商品企画担当。以前はBANDAI SPIRITS コレクターズ事業部にて15歳以上を対象としたハイターゲットトイを手掛けていた。
鶴巻拓也(つるまき・たくや)
玩具デザイン会社プレックス在籍。近年では『仮面ライダーエグゼイド』『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』『機界戦隊ゼンカイジャー』のメインデザイナーとなり、特に『ルパパト』では怪盗と警察という正反対のモチーフを巧みにまとめ上げた。
【暴太郎戦隊ドンブラザーズ】DXドンオニタイジン【2022年5月28日発売予定】
商品紹介動画
DATA
DXドンオニタイジン
- セット内容:ドンオニタイジン……1
- 発売元:バンダイ
- 価格:9,350円(税込)
- 2022年5月28日(土)発売予定
(C)テレビ朝日・東映AG・東映
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