『ワンフェスは自分の好きを見つけられる場所』ワンフェス最高責任者・海洋堂の宮脇センムに聞く“ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト”が果たす役割とは――

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千葉・幕張メッセで2018年7月29日(日)に開催となるホビーの祭典「ワンダーフェスティバル2018[夏]」。今回も海洋堂から電ホビ編集部に「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」について1本の電話が! 「いやー、今回はスゴイ大変でした。苦労話、聞きたいですか?」。苦労話と聞いては、話を伺わないわけにはいきません。そんなわけで編集部は海洋堂へ急行!! できたてホヤホヤの量産品サンプルを特写させていただくのと合わせて、センムの語る開発裏話はもちろん、ワンフェスの今後の展望についても伺ってきました!

 

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▲ワンフェス最高責任者・海洋堂宮脇センム。

 

「どうやったら水玉先生の設定を生かしたうえで、自分の世界観を表現できるのか」という試行錯誤

――今回の「ワンダちゃん NEXT DOORプロジェクト」FILE:06ですが、かなり苦労なさったと聞いています。
宮脇センム(以下、宮脇): 海洋堂側の問題ではあるのですが、開発スケジュールがかなり押してしまい、グッドスマイルカンパニーさんの開発担当の方からは、「普通に計算するとワンフェスに間に合わない」と言われてしまうほどのスケジュールでした。それこそ普段なら宅急便でやり取りするところを、秋葉原のグッドスマイルカンパニーさんから都内在住のあさのまさひこさんへバイク便で発送してもらい、かつ返事は2時間以内に……という具合で細かくチェック時間を詰めていき、なんとか間に合わせることができました。なので、本来は情報解禁日のタイミングで取材をお願いしたかったのですが、そのタイミングでも開発の最終の調整をしていて、今回はこのタイミングまでずれ込んでしまいました。

 

wndp18s_02 wndp18s_01▲こちらがインタビューで見せていただいたFILE:06のワンダちゃんとパッケージ。その完成度は息をのむばかりですが、ここに至るまでには苦労と時間とのせめぎ合いがあったそうです。

 

――今回のサンプルを見せていただいても、「苦戦」された様子がわかります。では開発の順を追ってお伺いできればと思うのですが、FILE:06のイラストレーターさんが決まるまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

宮脇:イラストを望月けいさんにお願いするというのは早い段階で決まりました。しかし、実は今まではお願いする方を決める際に設けていたボーダーラインに当てはめると、望月さんはメジャーすぎて、「この企画の本来の趣旨とは違うのではないか」という心配もありました。ただ、最近ではpixivに軸足を置いてイラストを発表しながら、商業の仕事もしている方も増えているので、本プロジェクトのディレクターでありプロデューサーでもあるあさのさん的には、「何をもってメジャーか?」という問いにあまり意味はないと感じたそうなんです。なので、今回を期に新たなボーダーラインを設定するということで、望月さんにお願いの連絡を取ったと聞いています。

 

――なるほど。連絡を受けた際のけいさんの反応はどうだったのでしょうか?

宮脇:望月さん自身もTwitterのプロフィール欄に「フィギュア大好き!」と書いていたのですが、なんとFILE:02のワンダちゃんを通販で買ってらっしゃったんですよ。ご本人も「いつか自分の絵もフィギュアにしてもらえないか」と思っていたそうなんです。なので、お願いしたところ「ぜひやらせてください!」と即答だったそうです(笑)。ただ、そこまでは早く話が進んだのですが、実際に作業を進めてもらうと、上がってきたイラストに「望月さんらしさ」がまったく出ていなかった……。望月さんはフィギュア好きということもあって、「フィギュアの設計図のようなイラストにはならないように」という言葉の意味はすぐに理解してくれたのですが、それでもこれまでの方以上に試行錯誤されています。

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▲望月けいさんが購入していた「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト FILE:02」。

 

――いつもイラストを完成させる段階で苦労されている点はクリアできたのにそれは意外ですね。なにか要因があったのでしょうか?

宮脇:原因は、故・水玉螢之丞先生の設定したワンダちゃんの「裏表のない明るく元気なヒロイン像」と、「望月さんの持っている一癖も二癖もあるような、パンキッシュな世界観」の折り合いの悪さでした。どうやったら水玉先生の設定を生かしたうえで、自分の世界観を出せるのか、見当がつかなくて苦労されたようです。キャラクターデザインにおいて、今までとは試行錯誤のポイントが違っていました。そこで、あさのさんが途中で路線変更して「寝起きで血圧低そうなワンダちゃんでもいいですよ」とお伝えしたところ、今回のイラストが上がってきました。ほかにも、フィギュアの仕事ということで自分の中で線引きをしてしまって、手順もいつもどおりにできなかったという苦労があったそうです。

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望月さん自身が欲しいと思うようなフィギュアになるように現場を引っ張ってもらった

――では、続いて原型・彩色見本についてですが、今回は前回の彩色を担当されたChilmiruさんが原型・彩色見本の両方を担当されていましたが、そちらはいかがでしたか?

宮脇:FILE:01からFILE:05までは、キャラクターデザインとの相性から適性原型師を考えてお願いしてきました。しかし、望月さんの独特なイラストや世界観を迷わずすんなりと再現できる原型師はいないんじゃないかという結論に辿り着いたんです。なので、逆に適性原型師がいないなら、伸び盛りの人の方がより柔軟な対応ができるのではないかと思い、Chilmiruさんにお願いすることにしました。ただ、最初のラフの段階から、モデリングディレクターでもあるあさのさんと意見がまったく合わなくて、全然落としどころが見つからなかったそうで……。

 

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――「落としどころが見つからなかった」というのは、なにか明確な原因があったのでしょうか?

宮脇:原因のひとつがイラストの解釈です。イラストを見てもらえれば分かるのですが、望月さんのイラストはアングルが俯瞰で、広角レンズを通して見たように描かれています。そのため、正確なプロポーションが分からないんですね。あさのさんもChilmiruさんとだけのやり取りだけでは解決しないと感じられたそうです。

 

そこで望月さんに「モデリングスーパーバイザー」になってもらいつつ、正確な頭身を出すために正面図を描いてもらいました。特に前者は、FILE:05の時に、吟さんとかわにしけんさんに直接やり取りしてもらったことで非常にいい結果となったので、今回もそれをもっと早い段階でやり取りを始めて、もっと深いレベルで関わってもらいました。望月さん自身が欲しいと思うようなフィギュアになるように現場を引っ張ってもらう体制を構築して、ようやく作業が前に進み始めた感じでしたね。それでも試行錯誤の期間は長くて、望月さんにも大量の指示書を描いてもらいました。でも、その甲斐あって本当にいいものになったと思います。

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▲アングルはもとより、イラストレーターさんがどういった「レンズ」を通してキャラクター見ているかも、立体化の大きな鍵となります。このバランスの再現に至るまでには相当の苦労が……。

 

ペイントマスターのことを考えた原型であることが一目でわかりました

──ペイントマスターで苦労した点などがありましたら、お聞かせ願えますでしょうか。

宮脇:Chilmiruさんの色彩設計とか塗装技術は我々も120%信頼しているので、何も言うことはありませんでした。例えば、マントの内側をグロスにしているんですけど、仕上がってきたのを見て初めて、「へぇ、グロスにするんだ」って感じで……。その前段階の原型の部分で詰めていたからなおのことですね。あさのさんも一切指示を出さなかったそうです。また、目の部分も見てもらいたいのですが、望月さんのイラストはどれを見ても白目がなくて、下側に少し黒いラインを描いて「ここから上が白目です」と、記号としてわかるようになっているんですね。

 

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――白目が描かれていないというのはFILE:05の吟さんと同じですね。

宮脇:そうなんです。前回もそうだったのですが、この白目をそのままフィギュアに反映したら、かなりバランスが悪く見える。そこで、Chilmiruさんは顔を造形する段階で、色を塗らなくても目の形がわかるくらいの曲率を有する眼球を造形し、ペイントマスターで白目部分に肌色と白の中間色をうっすらと塗っています。原型を見た時点で、「これはペイントマスターまで考えて作られているな」というのが読み取れたので、あさのさんも「白目をどうするの?」とは聞かなかったそうです。当然、Chilmiruさんもそこに悩んで、彼女なりの解答を出してくるんだろうなと思っていたので、安心してお任せしていました。

wndp18s_05▲「イラストを再現する」と言う意味では毎回、苦労のあとが見られる「目」の表現。今回は、あらかじめ眼球に相当する部分に曲面を設けることで、境界を作り、さらにイラストの黒い線を付けることで、より強調されています。

 

wndp18s_06 wndp18s_07▲「目」以外にも、首を少し上げたポーズやマントの内側のグロス塗装、キュッとしまったお尻や太ももなど、造形、塗装ともに、イラストの魅力を余すところなく再現しています。

 

Chilmiruさんを選んだことはフィギュア分業化の流れに一石を投じられたと思う

――ワンダちゃんの話からは少しそれてしまいますが、最近では原型と彩色を分ける一般ディーラーさんも増えましたね。

宮脇:ガレージキットという文化で大切にしておきたいのは、原型師が塗装まで行うことだと思っています。古臭い考え方かもしれませんが、そこは大事にしたいなと……。ただ、おっしゃる通り最近はPVCでなくてもフィニッシャーが別にいるという人がすごく多いと聞いています。理由を聞いてみると、「塗装にかける時間があるならもうひとつ原型を作りたい」という意見がほとんどでした。気に入ったフィニッシャーを見つけてしまうと、自分がその人よりうまく塗れるとは思えないから、しばらくはその人とタッグを組んでいますというような話もよく耳にします。

 

もちろんPVCだったら分業もあり得ますが、ワンフェスでの販売個数が決まっているガレージキットでそれはどうかなって思うんですよ。ウチのBOME(※1)などは、「造形4に対し、塗装6ぐらいの比率でがんばれば非常に素晴らしい作品になる、むしろ塗装の技術を磨くべき」とまで言っているんですよ。でも、今は加速的に分業制に流れが進んでいて、原型から塗装までできる人が圧倒的に少なくなっています。その流れを否定するわけではないですが、正解だとも思っていません。分業にするほうが良くなることももちろんあるでしょう。実際、今回のワンダーショウケースに選定した3人のうちの2人はフィニッシャーは別ですからね。そういう点からもChilmiruさんを選んだことはその流れに一石を投じられたんじゃないかと思います。

※1 BOME……海洋堂所属の原型師。今の美少女フィギュアというジャンルを確立したパイオニアのひとりであり、フィギュア塗装のノウハウを普及させた立役者。

 

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ガレージキットの歴史になりますが、実はごく初期の海洋堂も原型と塗装は別の人が担当していましたが、当時は海洋堂のその考えが少数派でした。もっとも、1985年頃にはそのスタイルはグダグダになり始めていたのですが、その後2000年代初頭が大きなターニングポイントとなり、その時期を境に急速に分業制が広まりました。間違いなくこれはPVCのアクションフィギュアと食玩ブームが影響だと思います。分業になったのは、フィギュアを大量生産するようになったがための理由であったと。

 

ワンフェスは「自分の好き」を見つけられる場所

──では、話を「ワンフェス」に戻させていただいて、今回で「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」も6回目となりますが、この「至高のワンフェスみやげ」を通じてワンフェスをどのように盛り上げていきたいとお考えでしょうか?

宮脇:まずは広報活動に力を入れたいと思っています。『新世紀エヴァンゲリオン』の頃からディーラー数も来場者数も右肩上がりで増えていたこともあって、実はこれまで広報に関しては必要最低限の努力しかしてきませんでした。しかし、コミケが3日間で50万人を集めるなら、ワンフェスもちゃんと広報活動を行い、世の中にこういうイベントがあるということを周知していけば、もっと来場者が増えるんじゃないかと思っています。そういう考えもあり、前回からB2サイズのポスターを作って、ガイドブックを扱っている書店やホビーショップの店頭に貼ってもらうようにしました。ガイドブックが発売されたら「好評発売中!」という円状のシールを貼れるようにデザインも工夫しています。

 

wndp18s_08▲こちらが、書店やホビーショップに貼られているポスター。お店に行けば目につくこと間違いなしのデザインですね。

 

宮脇:また、これまで表紙が2種類あったガイドブックも、再びあずまきよひこさんのイラストに一本化してイメージを整理しました。そうした広報活動を行うきっかけになったのは「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」です。今まで自分でガレージキットを作ったことがない人たちが増えてきたこともあって、「だったらPVCでやったらどうか」という話が「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」の始まりでもあったんですよ。

 

wndp18s_09▲左が一般来場者用、右がプレス・ディーラー用のガイドブックの表紙。これまでは、一方が「ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト」のイラストでしたが、今回から色の変更のみで、使用するイラストは統一されています。

 

宮脇:海洋堂としては、オタクを名乗るからにはみんながワンフェスのことを知っていて当然だと思っていました。でも、今はオタクという存在自体の裾野が広がっていることもあって、「ワンフェス」を知らない人もたくさんいる。今回望月さんがTwitterで「ワンフェスで自分のイラストがフィギュア化されたものが発売されるから来て」って告知をしても、「ワンフェスって何ですか?」という質問が結構あったそうです。なので、まずはワンフェスがどういうイベントなのかをきちんと告知して、間違いなく「それ見てみたい!」と幕張の会場まで来てくれる人が増やすことを目標にしようと思います。規模やイベントの内容でいえば、入場料を払ってもいいと思えるものが見つかるハズですし、本当に好きなものはこれだったんだというように物の見方も変わると思います。あと、目をつけていた人がワンダーショウケースに選出された際に、「俺はずっと目をつけてたぞ!」って思うのも楽しいですよね(笑)。

 

――そういった楽しみはイベントならではですね。

宮脇:コミケは同人誌を買わないと手元に残らないので、そういう点から見るとお金を落としに行く場所なんですね。でも、ワンフェスはある意味お金を落とさなくても楽しめる場所です。ガレージキットを自分で組み立てられなくても、写真を撮るだけでも十分に楽しめます。後でその写真を見直してみると、やっぱりこれを買えばよかったなぁと思ったり、他人が撮った写真を見てあの角度で写真を撮ればよかったと思ったり。立体物なので色々な角度から見る楽しみがあります。そういういろんな楽しみ方を知ってもらって、より多くの方に来場していただきたいですね。そのためにも、いまさらながらようやく本気で広報活動に力を入れ始めたところです。いくらなんでも遅すぎですよね(苦笑)。

 

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来場者の方たちの目に見える部分でも、変えていかなければと思っています

宮脇:ワンフェスもそろそろ30年目になるのですが、今までは「わかってくれる人だけわかってくれればいい」みたいな意識があったと思います。もともとガレージキット自体が「プラモだけ作っているやつらとは違う、もっとすごいことをやっているんだ」という想いとともに歩んできたからかもしれません。

 

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でも、そういった考えはもちろん、来場者の方たちの目に見える部分でも、色々と変えていかなければと思っています。前回から作り始めたのポスターがその小さな第一歩とも言えます。また、本当であれば、ワンフェスのウェブサイト自体も作り直さなければならないと思っています。というのも、今のウェブサイトは参加者用(ディーラー用)のものなんですね。一般的にイベントのサイトであれば、イベントの内容や会場までのアクセスなどがすべて載っています。しかし、現状のワンフェスのサイトは月に何回かディーラーが自分に関係した情報が出ていないかをチェックするためのものになっています。つまりワンフェスに興味のある人が見に来るサイトではないんですよね。身内たる実行委員会の中からも、「今のままのサイトじゃダメだよね」という意見がようやく出始めました。でも、マンパワーも予算も限られているので、段階を踏んでやれることの幅を広げていけたらなと思っています。

 

――ありがとうございました。

 


 

いよいよ開催が1週間後に迫った「ワンフェス2018[夏]」。会場では今回インタビューした「ワンダちゃん NEXT DOORプロジェクト」はもちろん、多数のディーラーやメーカーが出展予定となっています。あなたの「好き」を見つけるためにも、ぜひ当日は会場に足を運んでみてくださいね!!

 

DATA

『ワンダちゃんNEXT DOOR プロジェクト』FILE:06 望月けいVer.

  • PVC製塗装済み完成品
  • 全高:約11センチ
  • 原型:Chilmiru(うろこもん)
  • ペイントマスター:Chilmiru(うろこもん)
  • 企画制作:海洋堂
  • 企画製造協力:グッドスマイルカンパニー
  • 販売元:海洋堂
  • 価格:9,800円(税込)

 

⇒ワンダーフェスティバル(ワンフェス)2018夏 まとめページ

 

イベント概要

ワンダーフェスティバル2018[夏]

  • 開催日時:2018年7月29日(日)10時~17時
  • 会場:幕張メッセ国際展示場 1~8ホール(予定)
  • 〒261-0023 千葉県千葉市美浜区中瀬2-1
  • 入場料:2,500円(税込、公式ガイドブック付/小学生以下無料)

 

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