“アインズ様”の威厳は特典フィギュアでも健在!『オーバーロード』14巻特装版付属フィギュアの制作を務めたレジェンドスカルプター・安藤賢司氏スペシャルインタビュー!
2020年3月12日(木)に発売される『オーバーロード14 滅国の魔女』特装版には、主人公であるアインズ・ウール・ゴウンのフィギュアが付属。この原型・彩色を務めたのは、玩具界のレジェンドスカルプタ―・安藤賢司氏! ホビーファンなら棚に彼の手がけたアイテムがあるのではないでしょうか。今回は原作『オーバーロード』のファンでもある安藤さんに、フィギュアの見どころから造形にあたっての苦労話、作品への思いなどあらゆる角度からお話をお聞きしました。
安藤賢司(あんどう・けんじ)
ゲーム製作を経て原型師・デザイナーに。手がけた原型は数知れないレジェンド・スカルプターである。代表作に「S.I.C.」シリーズ(BANDAI SPIRITS)など。デザイナーとして『TIGER & BUNNY』、『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』など。今回『オーバーロード14 滅国の魔女』フィギュア付き特装版の原型・彩色を務めた。
「アインズ様なら限界のサイズで作れる」
――今回のアインズ様フィギュアは、どういった経緯で安藤さんが担当されたんでしょうか?
特装版企画担当S(以下、担当):いままで特装版はドラマCD付きなどいろいろやってきていたんですが、今回はフィギュア付きで……という話になりました。それで私が「安藤さんしかいないだろう!」とお願いして。オーダーも安藤さんお得意のフィギュアシリーズに近いサイズで、と。
――安藤さんが原作のファンということはご存じだったんですか?
担当:いや、そこは知りませんでした(笑)。
安藤賢司氏(以下、安藤):『オーバーロード』はアニメから入ったんですが、ちょうど見ていたときにお話をいただきました。活字からちょっと離れてた時期だったんですけど、アニメがすごく面白かったので、そこから読書にも戻ってきて、小説も読んで、web版とコミックスにも手を出して……(笑)。読み始めると仕事しなくなっちゃうんですけどね。
――全メディア制覇とは、ガチ勢ですね! 依頼を受けての感想はいかがでしたか。
安藤:女の子じゃなくてアインズ様みたいなガイコツで大丈夫かな……って(笑)。でも、アインズ様はぜひ造形したいキャラでしたね。
担当:人気投票でもアインズ様はもう一番なので、会議でも「いくか!」となりました。
安藤:もっとも、このサイズで女の子を……というのは小さすぎて難しいんです。ディテールが潰れてしまうかもしれないし、形が出ても塗装でダメになっちゃうかもしれないんですよ。
担当:でもアインズ様なら。
安藤:そうアインズ様なら。ガイコツなので、色も基本真っ白なので、限界のサイズで作れると。
「空気、背景を含めたアインズ様の“魔王感”を作り出す」
担当:まず最初にいただいたのがこのイメージイラストです。限定版のTシャツにも使わせてもらっています。
――造形の前に、こういったイラストは必ず描かれるんですか?
安藤:そうですね。アレンジの入った造形をさせてもらうことが多いので、キャラ指定をいただいたら、こういうポーズはどうでしょう、とイラストで提案します。絵描きではないので、デザインだけですけども。今回は勢いで描いちゃったので、横幅がちょっと大きすぎました。それでフィギュアにしたら「……箱に入らねえな」ってなったり(笑)。そのうえ「Tシャツにもしちゃいます」とお話をいただいて、驚いたんですけど格好良く仕上げてもらいました。でも、「それならもっとしっかり描けば良かった……!」という気持ちもあります(笑)。
――このイラストをもとに造形を進めていくわけですね。
安藤:まずは顔を作って、顔にあわせて全体を作っていきます。実際のフィギュアは、顔がイラストより大きいんですよ。フィギュアのサイズが小さくなると、そのまま人間のバランスで縮小しちゃうとつまらないので、現物としての存在感を重視して大きめに作っています。肉眼で見る限りは違和感のないバランスです。
――脚を踏み出す動きのある姿が印象に残ります。
安藤:ポージングは担当さんから「動きのあるかたちを」というお話をいただいていました。
担当:過去の安藤さんの作品群からインスパイアされた、比較的に明確なイメージが私にあったのでそのようにお願いしました。棒立ちよりはやはり動きがあったほうが良いかなと。
安藤:アインズ様は「どーん!」とした立ち姿もいいんですが、これはこれでいいかたちになりました。動きを入れたことで、マントも効果としてなびいているだけじゃなく、ポーズにあわせてこそ、の自然ななびき方になりました。
――マントの裏のディテールも強烈です。
安藤:マントの裏地には模様がびっしり入っています。魔王ですから、ドロドロした感じを出したくて。造形って地面のベースは作れるけど、空気感は作れないんですよ。イラストなら空気の流れを描きこむこともできますが、立体ではそうもいかない。なので、裏地に模様を空気、背景を含めたアインズ様の“魔王感”を作り出すために彫り込んで、縁をボロボロにしたりしています。でも、イラストではちょっとボロボロにしすぎてしまって(笑)。魔王って偉いんだから、アンデッドだけどボロボロではないはず。高級なものを着ているはずだよねと。
――原作でも衣服は高級、と描写されています。
安藤:でも、空気感を出すためにはボロボロの描写もやりたい。そこで葛藤がありました。ここは本当にバランスをとって、どちらの気持ちも残しながら造形しています。余談ですが、裏地のディテールは見方によってドクロにも見えるようになっています。「ガイコツを探せ!」……みたいな(笑)。これも魔王感の演出ですね。
――肩や肋骨内部の宝珠はクリアパーツで贅沢です。
安藤:質感の差で楽しんでもらうために、クリアパーツも使いました。肋骨の宝珠は裏地を白く塗って、反射で明るく見せています。フィギュアは中空なので、腕に覚えのある方なら電池を仕込んで宝珠や目を発光させられます(笑)。自信がある方は、ぜひやってみてください!
「ミスを減らすという意味で、全部の工程が幸せになるような造形」
――本の特典としてのコスト的な部分などもあり、普段のフィギュアとはまた違った制約もあったと思います。そのなかでのこだわりはありますか。
安藤:イラストだと黒を何色も使えますけど、フィギュアでは無理なんです。コスト面でも、技術面でも。同じものをたくさん作らないといけないので……。そこで、同じ黒で塗る箇所でも造形の段階で質感を変えて、単色でも見栄えがいいように心がけました。黒のうえから流しやすい塗料で赤をスミ入れしてもらっています。そうすると凹の部分にだけ塗料が入って、抑揚がつくんです。それも全面にはやらず、ポイントを絞ってあります。
――バラつきが発生しても“味”になるように作っているんですね。試作品やサンプルも安藤さんが細かくチェックされたとか。
安藤:はい、チェックさせていただいてます。ここをこうしてください、と。
担当:形状の直しまで確認いただけて、担当としてはラッキーでした。
安藤:最初からかなりいいものができてました。でも、フードのパーツが浮いてしまったりしていて。そういうトラブルは絶対にに起きてしまうんですけど……。
担当:製品にする際に材質の違いで縮んでしまったりすることもあるんです。
安藤:原型は頭部からフードにかけてはひとつの塊なんですけど、製品では分割しないといけない。そうすると、材質の問題で縮みが目立ってしまって。
担当:そこで1回工場に調整してもらいました。あとは塗装見本でスミ入れなどの“味”の部分を見ていただいたり。
安藤:最後まで悩んだのは、アニメの設定だとローブと本体で黒のカラーが違うんですね。でも、今回はあえて同じにしています。立体だと微妙な差を出すより、黒一色のほうが悪そうに見えて格好いい。台座との境目も若干、曖昧なほうがシルエットとしてもまとまるし、イメージもアインズ様っぽいなと。
――同じ黒でもディテールによって材質の違いを出しているんですね。
安藤:材質の違いはそれぞれ出るといいな、という気持ちで彫っています。金の部分も色自体は変えずに、肩当やローブの縁でテクスチャを変えたりしていますね。ミスを減らすという意味でも、みんなが嬉しいね、全部の工程の人が幸せになるねと。
――工業的な部分まで気をつかっての造形なんですね。
安藤:最終的な仕上がりのところで苦労する人が少ないように、というのは仕事なので(笑)。今回はそれが許してもらえる題材、自由にやらせてもらえる原作だったというのも大きいですね。たいへん恵まれていました。
――安藤さんのイマジネーションで作っていけたんですね。
安藤:でも、そこで苦労した部分もあって。「so-binさんのこのイラストを立体化してください」ではなくて、「自由にやって大丈夫ですよ」という仕事だったので、いろいろなイラストや挿画、イメージから、「どれのなにを選んで立体化しよう?」というのはかなり悩みました。小説やアニメはもちろんですが、読者の“アインズ様”のイメージはどこにあるのかな、と。自分の中のイメージもあったはずなんですけど、イラストに描いてみると意外に違っていたりしました。
――ご自身のなかでも葛藤があったと。
安藤:アインズ様自身に記号はいっぱいあるんですけど、それとイメージ通りになるのとは別なんです。イラストの段階で悩んで、いざ作りながらも「違うかな」と一度止まったり。顔もガイコツとはいえ、表情もあって赤い目も動くじゃないですか。今回はサイズも小さいので、ほんの少しの微妙な差で変わっちゃうときもある。友人と話をして「アインズ様に見える?」「見える見える」みたいな反応をもらって、大丈夫かな、と手を進めていきました。
「登場人物をしっかり描写し、盛り上げたところでスカッと退場させる! ……このカタルシスはクセになる」
――『オーバーロード』のファンとお聞きしましたが、どこに惹かれたんでしょう。
安藤:むかしゲーム製作に携わっていたんですが、原作者の丸山くがねさんもゲームに造詣が深いみたいで、ゲームの製作者のことがわかってるなあ……というところにまず親近感がありました。僕がゲームを作っていたころ、「悪い奴を主役にしたゲームを作ろうよ!」と企画を出しては怒られていたんです。怪獣を育てて地球を全部壊したり、悪者を主役に世界征服をするシミュレーションゲームを考えていて。それで『オーバーロード』を読んだら「そうか、悪い奴を主役にするにはこういうやり方があったんだな!」という納得感。それでいて、素晴らしく頭がいいストーリーの展開に引きずり込まれていきました。登場人物をしっかり描写して、物語をがっつり盛り上げたところで、スカッと退場させる! ……このカタルシスはクセになりましたね。
――作品の構造的な部分にも、かなり惹かれてらっしゃるんですね。
安藤:文章はもちろん、全体のつくりが本当にすごい。最初からアインズ様というとんでもないラスボスがいて、周りにはとんでもない守護者も控えていて、一見もう完結しているようなキャラクター配置なんです。でも、世界征服を目的にどんどんストーリーが転がっていく。お話も、もどかしく行ったり来たりせず、ぶれない主人公を中心に登場人物や状況が矢継ぎ早に繰り出されていく。本当に読んでいて楽しいですね。
「キャラ的に大好きなデミウルゴスかコキュートスは作ってみたい」
――今後機会があったら造形したい『オーバーロード』のキャラクターは誰でしょう?
安藤:やはりアインズ様の周りには個人的に横に並べたい奴らがいます。階層守護者ですね。まずはキャラ的に大好きなデミウルゴスかな、と思っていたりして。あと個人的にはコキュートスですね、サイズ的に大変なことになるでしょうけど(笑) 。
――鎮座しているメンバーのなかでもコキュートスはインパクト抜群ですね。
安藤:コキュートスはまた、誰もやってくれなさそうで……。身長2.5メートルのサイズ感からくるお値段の問題もありますし(笑)。虫っぽい艶感とかどうなるのだろう、と好奇心もそそられます。いざ作ったら、尻尾でバランスをとって支持するような、大サイズのフィギュアになりそうですね。今回は仕事でいただいたんですけど、アマチュアイベントとかもあるので、機会を作って最終的にはぜひ全員造形したいです。
――それは楽しみです。では、最後に手に取った方にメッセージをお願いします。
安藤:まずは手に取っていただいた読者の方と、フィギュアのイメージが重なるといいかなと思っています。僕もまだ14巻を読んでいないので、読後のイメージとあっていれば何よりラッキーかな、と。本を読んだあとに見ていただいて、イメージを膨らませてもらったり、あとは魔王らしくちょっと高いところに飾っていただいたりして(笑)、遊んでもらえたら嬉しいです。
――本日はどうもありがとうございました!
DATA
オーバーロード14 滅国の魔女 フィギュア付特装版
- 著:丸山くがね
- イラスト:so-bin
- フィギュア全高:約120mm
- 原型:安藤賢司
- 発行:KADOKAWA
- 価格:4,500円(税別)
- 2020年3月12日(木)発売予定
※一部写真には加工処理を行っています。
(C)丸山くがね・KADOKAWA刊/オーバーロード3製作委員会
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