美少女×戦闘機『ガーリー・エアフォース』第4巻発売&技MIX化記念、集中連載第1回!! 夏海公司先生書き下ろし短編「シアターブルー」掲載!!
「シアターブルー」
■著者:夏海公司 ■イラスト:遠坂あさぎ
第1章
八代通遥という男について何か一つ美点を挙げろと言われれば、私は迷いなく「お金を持ってこれること」と答える。
いや別に「稼ぎがいい」とか「貢いでくれる」とかそういう話をしているわけではない。私はイーグルなどとは違うのだ。パフェやクレープを奢ってもらったくらいで相手への評価を変えたりはしない。わーい、お父様大好きー! ハグー! などと頭の悪い台詞を吐いたりはしない。
では何を言いたいのか?
誤解を恐れずに告げるなら、彼は他部署・他機関の予算をぶんどってこれるのだ。ことをなすにあたり必要な原資を必要なタイミングで用意できる。飛びこみのプロジェクトに緊急の予算をつけられる。組織の長としては得がたい才覚だ。正直彼は技術者よりも政治家になるべきだと思う。ルールの間隙を突き、条文の解釈をねじ曲げ、組織の矛盾を徹底的に利用できる人材として。
もし彼以外の人間が対ザイ戦の研究に関わっていたらどうなっていただろう? おそらくアニマなんて荒唐無稽な物には一円の予算もつかなかったはずだ。制服組は馬鹿の一つ覚えのように在来機や護衛艦を製造し、いたずらに鉄くずと死者の量を増やしていただろう。
だから私、RF-4EJ-ANMファントムは八代通遥を評価する。手段を選ばぬマキャベリストとしてその生き様を肯定する。我々に与えられた使命はただ一つ、ザイから人という種を守り抜くこと。そのために必要なものが金だというのなら、どんな手管を使おうと獲得していくのが正着だ。分かっている。お父様の方針に異議を挟むつもりはない。
だが。
だが、しかしだ。
予算獲得のために「殺されたら」たまったものではない。
「お断りします」
にこやかに告げるとお父様は渋面になった。
「おまえな、なんでもかんでもきっぱり断ればいいってもんじゃないぞ」
昼下がりの小松基地、技本棟。検査施設に隣接したモニタスペースは低い機械音に満たされている。白衣の肥満男性――防衛省技術研究本部・特別技術研究室室長、八代通遥は椅子に座ったまま短い足を組み直した。太い眉を片側だけ持ち上げて、こちらを見つめてくる。
「何も戦闘に出ろと言ってるわけじゃない。ただのデモンストレーションだ。少しは協力してくれてもいいだろう。というか命令だ、協力しろ」
「横暴ですわ」
半眼で睨み返す。笑顔が剥がれふくれっ面になるのを止められない。感情的な振る舞いは趣味ではないがどうにも不機嫌になってしまう。
「お父様は私が墜落してもいいんですか」
「は? なんの話だ」
「ザイと戦う前に内輪の、それも政治的なパフォーマンスでドーターを消耗していいんですかと訊ねているんです。正直理解できません。こんなお遊びで戦力喪失のリスクを取るなんて。利敵行為と罵られても仕方ありませんよ」
「おい。おい、ちょっと待て、何か誤解してないか、おまえ」
慌てた様子で座り直す。しかつめらしい表情を作り。
「いいか、もう一度説明するぞ。来期の予算獲得に向けて俺は今関係各所にドーターの有用性を訴えている。ザイと戦うにはイージス艦やSAMなどいくら作っても無駄だ。いいから技本にありったけの金を回せとな」
「はい」
「ただドーター・アニマがいくら強力だと言っても、実戦を見ていない人間には真偽が分かりづらい。正直この期に及んでステルス機とアニマはどっちが強い、なんて頓珍漢なことを言ってくる輩もいるしな。特に霞ヶ関のジジイどもに顕著な傾向だ。連中、市ヶ谷からのレポートしか読んでいないから個々の戦闘で独飛がどれだけ勇戦奮闘したか分かっちゃいない。だから奴らの蒙を啓くためにも実際のドーターの機動を見せてやる必要がある」
「それも理解できます」
「じゃああとは自明だろう。素人に見栄えよくするためにドーターで曲芸飛行をする。ブルーインパルスよろしく、蒼穹のページェントを決めてやる。正直有人機で可能なマニューバ程度、おまえらなら朝飯前でこなせるはずだ」
「でしょうね」
「では何が気に入らないんだ、一体」
「編隊飛行の相手がイーグルってところです」
これ以上ないくらいシンプルな結論。他のどんな要素を無視してでも提案を断る理由。
私は固い表情でお父様に詰め寄った。
「アクロバットの機体間隔がどれほどかご存じですか? 数メートル、いえ下手すると一メートルの距離で編隊を組んだりすれ違ったりするんです。それも秒単位で様々なマニューバを織り交ぜながら。よほど息があっていなければできませんよ? あの脳天パッパラパー娘にできると本気で思ってるんですか?」
「無理か?」
「無理に決まってます! 間違いなく好き勝手に飛び回って接触事故を起こしますよ。あの子が勝手に墜落するのは構いませんが、私まで巻きこまれるのはごめんです。日本海の防空網に大穴が空きますよ。だから利敵行為だと申し上げたんです」
うーんとお父様は唸った。腕組みして天井を仰いでいる。困り果てた顔が心配になりついつい声をかけてしまうのが私の甘いところだ。
「せめてグリペンと展示飛行をするのはいかがですか? 彼女の機動ならある程度は読めますし、慧さんも神経質な操縦をする方ですから」
「鳴谷君の身体にあわせるとどうしてもGリミット(重力加速度制限)が出てくるだろう。それじゃ派手なアクロバットにならん」
「ならいっそ私一人で」
「派手さが重要と言ってるだろう」
周囲を不可視の檻で囲まれた気分。ああもう、こんなことなら最初から聞く耳持たず逃げておけばよかった。
お父様は雨乞いの人柱を求める村長のような顔で、私の手を握った。
「頼むファントム。来期の予算が通るか通らないかは独飛存続の分岐点なんだ。おまえならイーグルを御して無事展示飛行をやりとげられる。石頭どもの目を見開かせられるはずだ。俺は信じてるぞ。おまえはいざとなったら面倒見のいい奴だってな」
頼み事をする時に「信じてる」なんて言葉を付け加える依頼はロクなものではない。その教訓を私は胸に深々と刻みこんだ。
「分かりました」
諦めてつぶやく。面倒ごとに向き合う覚悟を決める。どうせ退路のない議論だ。ぐだぐだ話していても仕方ない。だが、ただで引き下がるつもりはなかった。礼を言おうとするお父様を片手で制する。
「ですが準備については私の好きなようにやらせていただきます。機材の利用も、イーグルの使い方もあわせて。よろしいですね?」
「構わんが……準備?」
「ええ」
にっこりと笑う。そう、戦いとは始まる前に全ての決着をつけておくべきなのだ。
~第2章へ続く~
美少女×戦闘機『ガーリー・エアフォース』集中連載第2回!! 夏海公司先生書き下ろし短編「シアターブルー」第2章掲載!! 電撃ホビーウェブ
<DATA>
ガーリー・エアフォース
■電撃文庫
■著者:夏海公司
■イラスト:遠坂あさぎ
■既刊4巻、以下続刊
■発刊:株式会社KADOKAWA
イーグル
▲商品には機体に該当するアニマの同スケールフィギュアが付属。(画像は試作品イメージです。)
イーグル
■技MIX ガーリー・エアフォースシリーズ
■1/144スケール
■ メカニックデザイン:KuWa(FRAMEOUT MODELS)
■発売日:2016年3月発売予定
■価格:4,800円(税抜)
■発売元:トミーテック
ファントム
▲商品には機体に該当するアニマの同スケールフィギュアが付属。(画像は試作品イメージです。)
ファントム
■技MIX ガーリー・エアフォースシリーズ
■1/144スケール
■ メカニックデザイン:KuWa(FRAMEOUT MODELS)
■発売日:2016年3月発売予定
■価格:4,800円(税抜)
■発売元:トミーテック
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