『キャプテン・アース』デザインの現場 浅井真紀(その2)
『機械生命体という存在なので、生き物でもあり、機械でもなくてはならない』
インタビュー:電撃ホビーマガジン編集部(2014/5/2)
※インタビューで語られる画稿は電撃ホビーマガジン2014年7月号に掲載されています。
―そこからデザインを固めていく上で、苦労したのはどこでしょうか。
浅井:キルトガングは機械生命体という存在なので、生き物でもあり、機械でもなくてはならないので、どっちに落とし込むべきなのかという試行錯誤がありました。未来的なテクノロジーだとしても、地球の人類が考えた機械っぽくなると違う気がして。じゃあ、自分の中で構造的なメカ感とは違う魅力を感じる無機質さって何だろう、と考えて思い至ったのが“スパナ”でした。
―スパナ?
浅井:スパナってただの金属の塊ですよね。単純極まりなくて、機械としての機構があるわけじゃない。でも良いスパナって金属としての塊感が美しくて、見ているだけで気持ち良くなれるんですよ。そういう金属を削り出したような記号で構成された人間ならどうだろうか、と。どこがエンジンでどこがスラスターで、という考え方は捨てて、金属のような塊でできた生命体だと考えるようにしたんです。最初は、別の文明なんだから人間には理解できないような不思議な形、というのも考えたんですが、キルトガングもアバターの状態では人間に近いメンタルですし、そこは謎の外敵というよりはキャラクターとして捉えるようにしました。
コヤマ:極端に言うとキルトガングは“宇宙人”でもあるので、単なるロボット、人間のテクノロジーとしてのメカニックではマズい、というのもありました。その辺りの構想は浅井さんが、機械なのか女の子なのか、みたいな絶妙なバランスの造形をそもそもやられていたので、あの感じでデザインしてくれればまったく問題ないだろうな、と確信していました。
浅井:最初にアマロックとモールキンをデザインしたんですが、男女が揃うことでキルトガングをどうデザインするべきかの方向性が固まっていきました。
―その方向性は言葉にするとどのようなものでしょう?
浅井:スパナに例えたような、メカとしての機能ではなく、金属的な塊で構成された生物として基本になる“素体”を前提とすることにしました。生物として同じ“種”なら、体格や色彩、部分的な形状は違っても、身体は共通です。機械生命体であるキルトガングも、仲間同士だと認識し合ってるくらいですから“種”として共通する生物なはずですし、それを“素体”という形でルールにしました。
コヤマ:五十嵐さんからは世界観の設定にもあるエゴブロックを入れて欲しい、という注文があったので、最終的にはエゴブロックを中心にフレーム(骨格)ができて、そこに外装の部分が自我として装着されていく、というキルトガングの概念が完成した感じですね。
―外装による自我の表現?
浅井:キルトガングの外装は個々の表現として存在するという考えです。人間も裸の部分を素体として、その上に様々な服を着ることや、髪形、化粧なんかでその人のパーソナリティが形となって見えてきますよね。だとしたら生き物としてのキルトガングも素体を骨格として、外装はパーソナリティを目に見える形として表れているんだと。そう考えると、キャラクターとして設定画稿にあるアマラとかモコっていうアバターは本体の姿であるキルトガングの形が投影されたもののはずなので、アバターの衣裳はキルトガングが地球上で手に入るファッションで自分本来の外見を再現したものなんだと思えてきたんです。
―キルトガングとアバターの姿が似ているのはそのせいなんですね。
浅井:それからですね。順次送られてくる脚本を読みつつ、すでに上がっていた三港文さんのキャラクター原案を再転化してキルトガングの形にするというデザインのワークフローができたのは。
―キルトガングのサイズですが、これはどの段階で決まったのでしょう。
コヤマ:基本的にはアースエンジン・インパクター、アマロック、モールキンのデザインができてからですね。五十嵐監督からは「腕が太くてマッチョなアースエンジン・インパクターに比べて女性型のモールキンが小さいなんていうのは、どうも倫理的というか、生理的に……」という話がありまして。実際の話、デカいヤツが小さいヤツを殴り倒してもまったくカタルシスがないというのがあるので、敵のキルトガングは巨大である必要があったんです。
―それでデカくなったんですね。
コヤマ:そうですね、アースエンジンは人間の技術の限界の象徴でもあるので、それよりも巨大な姿にすることで敵の強大さが浮き彫りになって良いんではないかな、と。
浅井:デザイン的にも五十嵐監督の要望による影響は大きいです。それをどれだけヒアリングできるか、というのがデザイナーの仕事だと実感しました。コヤマくんがそれを上手く翻訳もしてくれるのは本当に助かりましたね。これはこういうことだと思うという解釈から、映像のためのデザインとして落とし込むんだったらこうしないと映えないんじゃないか、というアイデア、経験則をたくさん貸していただいたので、その分の試行錯誤は本当に多かったですね。
(6月9日につづく 2/4)
<関連情報>
その2:『機械生命体という存在なので、生き物でもあり、機械でもならなくてはならない』
その3:『異形の部分を狙い過ぎたせいもあって、なかなかOKにならなかったんですよね』
その4:『嬉しかったですね。想像していなかったものが出てきているわけですから』
(C)BONES/キャプテン・アース製作委員会・MBS