『キャプテン・アース』デザインの現場 柳瀬敬之(その4)
『コンテや演出だけでは作れないその世界で違和感のないモノを作る。』
インタビュー:電撃ホビーマガジン編集部(2014/7/2)
※インタビューで語られる画稿は電撃ホビーマガジン2014年9月号に掲載されています。
―ビルや格納庫の美術設定についてはどうでしょう?
柳瀬:マクベス・エンタープライゼスのビルや格納庫もやらせてもらいましたが、美術設定は高倉さんも一緒にやっているので緊張感がありましたね。高倉さんは我々のようなデザイナーにとって憧れの方でしたので。
コヤマ:僕も柳瀬さんも高倉さんの設定が見たいから、上がって来たら設定制作の小池君に頼んで「ちょっと見せて!」とまず頼みます(笑)。
柳瀬:今回、高倉さんと一緒に仕事が出来たのは大きかったですね。本当に得るものが大きいです。高倉さんご自身のお名前は、世間的には『宇宙戦艦ヤマト2199』や『ヱヴァンゲリオン新劇場版』で知れ渡った感がありますが。
コヤマ:高倉さんはやっぱり仰天するような設定を描かれますし。いま、現役でバリバリ本数をこなされている中では最強クラスの方です。ジャンルを問わずに、何でも描けて、ほんとすごい。
柳瀬:いやもう、本当に……高倉さんのデザインの素晴らしさには注目して欲しいです(笑)。
コヤマ:あと、マクベス・エンタープライゼスのビルについては五十嵐監督から「オニキスみたいな黒で、全体的に悪っぽいイメージで」というオーダーだったので、これは柳瀬さんが得意そうだと依頼しました(笑)。すでに手がけていたMGFも同じマクベス・エンタープライゼス側だったのでデザインの統一性も図れるというメリットもあるだろうと。
柳瀬:当初はビルの下に空港がある設定で複雑なものを考えていたんですが、デザインは「モノリスっぽくしたい」ということだったので、実にシンプルなビルにしました。
コヤマ:MGFなどは柳瀬さんがやっているデザインとして判りやすいと思うんですが、マクベス・エンタープライゼスのビルとか、そこのエレベーターホールとか、細かいところもやっていただいてるんですよね。
柳瀬:まさかビルまでやっているとは思っていないだろうね、皆は(笑)。マクベスのビルの位置も決めました。東京から遠くない海辺となると、それは幕張じゃないか? と。駅から幕張メッセに行く途中に、駅になる予定だった土地があるんです。その場所には海浜幕張から道が続いてるので、その先にあればいいんじゃないかな、と。
―ここならば問題ないだろうと。
柳瀬:実際に写真にイラストを載せてみて、幕張メッセから道が続いていて、こういうふうに建っている……というところまで設定しました。ビルから外を見たら、幕張が見える、という雰囲気で。アニメのシーンでも、とても上手なレイアウトにしていただいていて、モノリス風のビルに仕上がっています。
―パックのデザインもされてますね。
柳瀬:パックは「ホログラフで、外の風景だけの中に変な丸いものが浮いている」という五十嵐監督のハッキリしたイメージがあったんで悩みませんでしたね。ディテールとしてスーパーコンピューターらしい意匠を加えたり、演技ができるように動くパーツを加えたりとかはありましたが、モチーフらしいモチーフもなくデザインできました。
―MGFだけではなく、作品の世界観そのものをデザインされているんですね。
柳瀬:MGF用のトレーラーもアマラやモコが座っている指揮室や運転席、それと格納庫とかまとめてデザインしていますから。その辺りも含めてデザインワークスをやっているよ、というところですよね。他のアニメ作品を見ていても、そういう美術設定は一番気になる性格なので、椅子や机の設定がきちんとしていると、やはり嬉しい。昔のアニメ作品でもそうだけど、美術が素晴らしくないと。これは作画とは少し違う話なんですけど。
コヤマ:肌触りというか。見た瞬間に「作画は崩れてないのに、しっくりこないな」と思ってると椅子がペッタンコだった、みたいなことって往々にしてあるんです。だから椅子が上手く描いてあるだけで、そのシーン全体が説得力を持って描かれることもあって。人間の目って、日常的な風景の中で歪んでいるものがあると無意識に捕らえてたりするものなんですよね。
柳瀬:「おかしいか、おかしくないか」ですよね。コンテや演出だけでは作れないその世界で違和感のないモノを作る。そうすることで作品全体のクオリティアップにつながっていく。そういうことがきちんとしていると嬉しいですね。嬉しいというか、その作品に入りやすい。
―そういうものを描くときの基準として何を意識しているのでしょうか?
柳瀬:人間のサイズですね。コクピットならシート、スティック、ペダルの大きさや距離とか。モニターなら大きさもそうですが、表示される情報量も考えないと。ひと目で読み取れる以上の情報がモニターに表示されてるとおかしいですから。
コヤマ:グリップの太さも人間のサイズを考えれば自然に決まるはずです。そういった小さなことの積み重ねでも作品全体が良いものへと仕上がると思いますよね。
柳瀬:美術設定も含めてこそのメカだと思います。『キャプテン・アース』みたいにデザイナーがこれだけ集まってひとつの作品を作るというのは、TVアニメでもそう多くはないので、参加されているスタッフにとっても経験と積む上で理想的な環境だったのではないでしょうか。
(第3回終了。 次回、第4回は9月1日よりスタート予定です 4/4)
<関連情報>
その1:『メカをデザインしたら、その格納庫までデザインしたい性分なので。』
その2:『この作品は手描きの持ち味を大事にしていますから、そこにはとても気を使いました。』
その4:『コンテや演出だけでは作れないその世界で違和感のないモノを作る。』
(C)BONES/キャプテン・アース製作委員会・MBS