『キャプテン・アース』デザインの現場 okama&齋藤将嗣(その1)
『キャプテン・アース』に深く関わるデザイナーの皆さんに本作品をデザインという視点から語っていただく「デザインの現場」。第4回はブルーメとオーベロンなど地球外文明のメカをデザインしたokama氏と、エンジンシリーズのコクピットなどをデザインした齋藤将嗣氏でお贈りします。
インタビュー:電撃ホビーマガジン編集部(2014/7/18)
※インタビューで語られる画稿は電撃ホビーマガジン2014年10月号に掲載されています。
<PROFILE>
コヤマシゲト(こやましげと)
デザイナー。1975年/東京都出身。04年、OVA『トップをねらえ2!』に参加したのをきっかけに、多数のアニメ作品にかかわる。五十嵐卓哉監督作品では前作『STAR DRIVER 輝きのタクト』のサイバディデザインに引き続き、『キャプテン・アース』ではエンジンシリーズデザイン・メインデザインワークスを担当する。
okama(おかま)
デザイナー、イラストレーター、漫画家。1974年生まれ。神奈川県出身。同人誌から漫画家を経て『コゼットの肖像』でアニメ業界へデビュー。独創的なライン、美しい色づかいは唯一無二で、漫画家として活動する傍ら、多数の作品にそのデザインを提供している。代表作に『トップをねらえ2!』、倉田英之原作の『CLOTH ROAD』など。
齋藤将嗣(さいとう・まさつぐ)
デザイナー、イラストレーター、漫画家。1983年/北海道出身。公開を控えた水島精二監督の劇場用作品『楽園追放』でデザイナーを務め、本作でTVアニメに初参加となる。女の子やメカなど多方面に才能を発揮し、エッジある画風と確かな筆力を持った気鋭。
浅井真紀(あさい・まさき)
フィギュア原型師。1973年/大阪府出身。ワンダーフェスティバルのアマチュアディーラー大手の『F-Face』主宰。多くのホビーメーカーを通じて様々なフル可動フィギュアを世に送り出している。『キャプテン・アース』ではキルトガングのデザインを担当する。
『見たこともないものが見たいんですよね。最近の作品って、見たこともないものが描けなくなってきましたから……。』(okama)
―okamaさんはどのようにしてこの世界に入ったのでしょうか?
okama:同人誌を描いてたら、ワニマガジンの『快楽天』に誘われて、それがきっかけです。当時の『快楽天』は表紙を村田(蓮爾)さんが描かれてましたし、『キャプテン・アース』でキャラクターデザインをやられている三巷文さんも描いてたので、エッジの効いた人達と一緒に仕事ができて面白かったですね。
齋藤将嗣(以下、齋藤):僕はゲーム会社のセガを3年勤めた後、イラストの仕事をしていました。公開時期の関係で前後しますが、デザインとしては劇場作品『楽園追放』が初めての仕事で、『キャプテン・アース』は2番目ですね。
コヤマシゲト(以下、コヤマ):okamaさんのアニメの初仕事は何でしたっけ?
okama:『コゼットの肖像』ですね。そのあとは『トップをねらえ2!』。ロボットとしての初仕事は『創聖のアクエリオン』でした。
コヤマ:ぼくは『トップ2!』の頃からご一緒させて頂いてますけど、okamaさんはキャラからメカから舞台から、何でもやられますもんね。
okama:でも立体として描けてないのがだんだん分かってきて……。最近、遠近法の描き方の本を買おうかと迷ってますよ。
コヤマ:いやいやいや、もう十分描けてますから(笑)。確か『トップ2!』の時に「顔をコピーして貼っていくと何頭身か量れるんだよ!」って新発見みたいに驚いてましたけど、あれ、マジだったんですね……(驚)。
okama:そうです(笑)。そういう知識が本当になくて。コヤマさんが話してくれるから、色々と調べるようになったんだよね。最近では「黄金律」にハマりましたけど。
コヤマ:それももうできてますから……(笑)。
―okamaさんの担当したコンセプトデザインとは、どういう仕事なのですか?
okama:立ち上げたばかりの作品はまだ設定もビジュアルも何もない状態なので、そこにきっかけを与える仕事ですね。この作品ではアメリカのキービジュアル本などを参考にして描いたりしています。
コヤマ:okamaさんはほんの少しの要素から独自の世界観を構築できる方なんです。今回の作品に出てくるライブラスターやブルーメというのは人類の文明にはない、いわゆる人智を越えたものなので、そういう意味でも予定調和ではなく、かなりぶっ飛んだ視点でビジュアル化してくれるのではないか、ということでokamaさんにコンセプトデザインをお願いしました。五十嵐監督の中にあるスゴイけど言語化しづらいイメージを、その雰囲気だけでビジュアルにできるのはokamaさんしかいないんじゃないかな、と。
―具体的には何を担当されたのですか?
okama:ブルーメとオーベロン、それとライブラスターですね。最初にデザインしたのはライブラスターです。
コヤマ:ライブラスターのデザインの発注打ち合わせの時になんとな~く嫌な予感がしたので「okamaさん、いま頼んでるのは銃ですからね!」って言ったら「ぼく、自転車を描こうと思ってた」って返されて(笑)。その上、翌週にokamaさんから上がってきた、いくつか描かれたライブラスターのラフの中には何故か御飯ジャーも混ざってたくらいですからね(笑)。何故か“ボンズジャー”とか書いてあって(笑)。ほんとに、okamaさんは我々の予想を遙かに上回ってくれます(笑)。
okama:見たこともないものが見たいんですよね。最近の作品って、見たこともないものが描けなくなってきましたから……。
齋藤:okamaさんのは、本当に全然見たことないものばかりで驚きます。
okama:何かブレイクスルーが欲しいとは思っています。曲線を直線で表現するような立体の組み方があるじゃないですか。イタリアのスーパーカーのような。そういったものから先の表現を出したいんです。最近では北京オリンピックでの鳥の巣スタジアムみたいなラインが新鮮でしたね。
―ライブラスターのラフは、デザインの幅広さも凄いですね。
okama:とりあえず、思い付いたものは全て描いておきたいんです。ライブラスターは銃として形のあるところを無にして、無のところを有として存在感を出すコンセプトでデザインしました。だからグリップや銃身は中空でその周りに形があるんです。トリガーも3本の指で引くように考えました。コヤマくんが理屈から考えるので、それに影響されています。
コヤマ:当然ですが、デザイナーって普通は制作や作画過程における問題が起こりそうなデザインはなるべく避けようとすると思うんですよ。だけどokamaさんの場合は、普通だと避けるようなことでも平然とやってのけてくれるんです。そういうデザインに会うと、僕らはもう、凡人だなぁと痛感させられます(笑)。
okama:いやいや。何にも責任がないからできるんだよ(笑)。
齋藤:すごいですよね、こんなデザインが……と。
(と、ここで同席していた浅井真紀氏も乱入)
浅井真紀(以下、浅井):okamaさんのデザインには“発見”がすごく多いので、それを見た後って、僕らはその話をずっとしてますよ(笑)。まるでファンクラブみたいに「俺ら、okamaさんの独特のデザインが大好きなんだな!」って(笑)。
―その独特なデザインはどのようにして考えられるんですか?
okama:とにかく変な理屈が好きなんですよね。ライブラスターに関しては、ミリタリーファン向けの一般的な常識は知らないから、自由に発想できたのかな、と。
齋藤:そういった発想はどのタイミングで思いつくものなんですか?
okama:TVを見たり、仕事をしている時に。いずれ何かに使えそうものを思いついたらそれを覚えておいて、描く機会を得たら一気に描き出すという感じです。
(9月8日につづく 1/4)
<関連情報>
その1:『見たこともないものが見たいんですよね。最近の作品って、見たこともないものが描けなくなってきましたから……。』
その2:『コミックも今ではデジタルで1ピクセルまで修正できるから小さな立ち絵のキャラクターの顔まで、しっかり描かなきゃいけない。』
その3:『「それを描いてください」と言われて困ったので「それを共有させてください」とお願いしました。』
(C)BONES/キャプテン・アース製作委員会・MBS