『キャプテン・アース』デザインの現場 荒牧伸志(その4)
「何を描いても「こんな面倒臭いものを描かせて、申し訳ない!」という気持ちでデザインやっています。」(荒牧伸志)
インタビュー:電撃ホビーマガジン編集部(2014/8/15)
※インタビューで語られる画稿は電撃ホビーマガジン2014年11月号に掲載されています。
―サマラーエンジン、ガルムエンジンのデザインはいかがでしょうか。
荒牧:これが全然つかめなかったんですよ。勢力的にGlobeでも、天海道系でも、遊星歯車装置でもない。どこの勢力でもないことを納得して描きたいんだけど、でも凄いメカであることは伝えたい。五十嵐監督からは「こういう機能が欲しい」という要望も色々あったんですが、「シャトルを追いかける使い方をしたい」と言われたので、サイズを大きくしたりして……。そういう演出上のニーズからデザインした感じですね。
―追いかけられると威圧感ありそうですね。
荒牧:そうですね。正面から出てくるなら異形のものにしたほうがいいのかなと。「歯をつけていいですか」、「口を見せてもいいですか」と相談しながらデザインしています。ガルムエンジンは、相手を取り込んでビームを撃つというシーンがあるというので、アームをたくさん用意しました。
―どちらも天海道の技術レベルを越えた辺りのデザインを感じます。
荒牧:そうですね。その辺の理解でまず間違いないでしょう。
―サマラーエンジンとガルムエンジンは他とは異なるデザインを感じますが、気持ちの面で切り替えたりしたのでしょうか?
荒牧:この2体の超兵器で、もうひとつ新しいデザインラインが作れないかと模索していたんですけど、ちょっとそこまでは自分の中で消化できてない気がしてますね。
コヤマ:サマラーエンジンやガルムエンジンは、エンジンシリーズだから僕がデザインするか、みたいな話もあったんですけど(笑)。
荒牧:なぜ、僕に話が来たのか謎ですね。
コヤマ:五十嵐監督からは「ここはぜひ荒牧さんに」というお話があったんです。でも監督的にはこのデザインではリアルに振らない、ある種クラシックなスーパーロボットの悪役的なテイストも求められていたのかな、と思います。ああいうザックリしたシルエットみたいなものは、僕とか柳瀬(敬之)さんの世代だと少し細かく描いてしまうかもな、と。
荒牧:面取りとかきちんとやっちゃってね。これも言い方が悪いけど、面取りをしないガーンとしたやり方でガツンとした感じを狙いました。変にスケール感を出そうとして緻密になっちゃうと、色々と削がれるものが出てくるので。
コヤマ:理詰めだと描けなくなっちゃうデザインってあるんです。ガルムエンジンはツルッとしたシルエットの中に補足として線が入ってくるじゃないですか。今の流行としては、これに凹凸を付けて、さらにディテールに合わせて凹凸を付けた方がメカとしてカッコ良い! となるんですよ。立体として複雑にする時代に来てるんでしょうね。
荒牧:昔は少ない線で質感まで表現したものです。当時、スタジオぬえの河森さんや宮武(一貴)さんが、端の部分に繊細な曲線を描いて「ここはエッジが立っていないんだよ」と表現できることを発明したんですが、それがもうカッコ良かったんです。セル画なんだけど質感も感じられて。でも、僕がやっているCGだと、どんなデザインだろうが質感は(テクスチャを)貼っちゃえば良くて。半透明だよ、というのもできるし、正面に描けば線がつながるし、と。質感をデザインで表現する必要がなくなって来てるんですよね。でも、『キャプテン・アース』は手描きアニメです。なので、サマラーエンジンとガルムエンジンには昔ながらの少ない線で質感を再現するテクニックが必要だったんです。つまり参加したデザイナーの中では僕が世代的にも適任だったということじゃないのかな。
コヤマ:今は、ロボットの膝でも、それ自体にさらに複雑な分割があって、それがデザインの主流になってしまっているんですよね。できれば僕は、荒牧さんの言われるような、少ない線で質感を表現したい気持ちの方が強いんで、サマラーエンジンとガルムエンジンを見た時には、けっこうグッと来ました。このアゴとか、大好きで。
―線のコントロールが手描きアニメの『キャプテン・アース』にマッチングした?
荒牧:実際にデザインをクリンナップしなきゃいけないってなると、線の選択をしなきゃいけないのがすごい疲れると思います。ラフの時は、グッと描いておいて、ディテールはもっとあるよ、的な雰囲気は残せるんですけど、一本の線で引いた瞬間に、それはもう一本の線じゃなくなるんです。これがとてつもなく重い(笑)。この一本の線で全体の密度もコントロールしなくちゃいけないんです。その線が何のための線なのか。スケール感を出すための線なのか、質感を出すための線なのか。その辺は明確に意識しないと無駄な線になっちゃうんです。線のための線、やってて辛くなる線は嫌だなと。どんな線を描いても(現場に)文句を言われるとは思うんです。何を描いても「こんな面倒臭いものを描かせて、申し訳ない!」という気持ちでデザインやっています。
コヤマ:「(デザインした)自分だって描くのがたいへんなのに……」という気持ちはあります。
荒牧:3DCGにすれば、1回作れば終わるって言うユーザビリティがあるんです。それは本当に3DCGを志した最初から、今でも続いてる気分です。でもやっぱり、素敵なメカだと描きたくなっちゃったりするから。
コヤマ:ぞんざいなものだと、みんな描く気がなくなっちゃうんです。
荒牧:逆に「ちょっと描きたいな」と思うデザインもあります。子供が、思わず描きたくなるようなデザインってあるじゃないですか。それって大事だよね、と。「カッコイイよね」と現場に思ってもらえて、描いてもらえるデザインが一番良いんです。
―最後に、荒牧さんから『キャプテン・アース』の見所をお聞かせいただけますか?
荒牧:とにかく、非常に多くのメカが登場する中で独立したパートを集中して任せていただきました。他のデザイナーと協調する必要もなかったので、自分の得意な部分で描けました。仕事としても非常に集中してやれた気がします。そういった意味では、この作品はデザイナーとしての自分を取り戻させてくれた、と言うほどではないんですが、すごく楽しい作品でした。この号が発売される頃には、いよいよ最終回でしょうか? 存分にラストを楽しんでもらえれば何よりです。
(第5回終了。 4/4)
<関連情報>
その1:『自分のやりたい映像をどうやったら作れるか、という実験という意味ではつながっていると言えますね。』
その2:『ちゃんとリアクションしてくれるので、やっていて楽しいんですよ。』
その3:『下書きしちゃダメなんですよ、コクピットは一発書き出来るようにならなきゃ(笑)。』
その4:『何を描いても「こんな面倒臭いものを描かせて、申し訳ない!」という気持ちでデザインやっています。』
(C)BONES/キャプテン・アース製作委員会・MBS